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いのちの前の ものがたり

ある日少女は
ゆめをみました

あおく とうめいな世界で
おおきな おおきな ジンベエザメと 
およぐゆめ

ただふかく ただひろく
 ふたりぼっちを包む優しいあお  

ほのかにあたたかく
おだやかなそこは

まるでうまれる前の
きおくのうみのようでした


ゆらり とろり のろり
少女をのせたジンベエザメは
迷わずまっすぐ すすみます 

ふわり さらり くるり
少女の ながくきれいな くろかみは
たのしげに宙を たゆたいます

「ねぇ、あなたは
どこへ向かって 泳いでいるの?」
少女は声をはずませながら
たずねました

「きみがとても
あんしん出来る ばしょさ」
ジンベエザメは
まあるく やわらかな声で
こたえます

 あんしん出来る ばしょ

それが どんなばしょだか
少女には よくわかりません

ゆらり とろり のろり
ジンベエザメは
あおを見つめて すすみます


その おおきなからだは
まるで うちゅうせんのよう

おびれが なだらかにゆれるたび
少女のちいさなからだも
ふわふわり ゆらゆらり 

「ああ、このかんじ、知ってるわ
おかあさんの とんとん みたい」

  なつかしそうにそう言うと
少女はあくびをひとつ つきました

ねむるとき
おかあさんはいつも
背中をとん とん とん と、
やさしく さわってくれていたことを
思い出したのです

ふふ、とほほえみ
しあわせな きぶんに なりながら
少女はジンベエザメの
おおきな背中に ねころがります

 ながいまつげを はためかせ
何度めかの まばたきをしたあと
少女はひとみを とじました

その ひとみの うらがわで
まっくらやみが 少女にかたりかけます

「生きてみよ
死んでも いのちは廻るのだ」

「愛を知れ
祈ることこそ 愛なのだ」

ひくくて つよくて
少しこわい こえでした

「だれ?
あなたは だれ?」

おずおずと かぼそくひびいた
少女の声は
さびしくきえて とどきません

いくぶんかの しずけさのあと
とおくで なにかが
きこえてきました

こぽ こぽぽ こぽ

こぽ こぽぽ

ああ、たぶんこれは しんぞうの音だ


わたしのいのちが
ちいさな音で鳴いている

そう思い

ひとみを ひらいた しゅんかん

目の前で むすうの水のあわ達が
まるで星空のような
きらめきをはなち
ゆらゆらと踊っていました

こぽ こぽぽっ ぶくぶくぶわっ
たくさんの音を かなでながら
少女のからだを つつみこみます

「ふふっ わたし知ってるよ
ジンベエザメさんでしょう?」

そのことばに こたえるかのように
少女をつつみこんでいた あわ達は
白いはだの おくの おくへと
すいこまれて ゆきました

「きみはもう、大丈夫」

あの まあるく やわらかな声が
きこえた きがしたのです


 

きがつくと少女は
ちいさな足で うみの底をふみしめて
みしらぬ あおを ながめていました

まわりを みわたします

そこには 
さんご や かめ や
いろとりどりのさかな達、
たくさんの命が
ひろがっていました

天をあおぐと たいようが海にとけて
いっぽんの ひかりのはしらが
のぞいてます

「なんて きれい なんだろう」

思わず ひかりのほうへ 
手をのばして いいました

そして彼女は 
すべてを りかいしたのです

「あんしんのばしょって
きれいなのね」

○水子として死んだ姉の、魂のはなし

○己のアダルトチルドレンの統合の話し

重たい2つのテーマを交差させたかった。

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