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空行の使い方〜小説のちょっとしたコツ

小説のちょっとしたコツや小技をご紹介するシリーズ。

今回は「空行の使い方」です。


空行とは

空行とは文字通り何も書いていない行のことです。

1行アキと言った方がいいかもしれませんね。

この記事もそうなのですが、ネット小説などでも1行アキはよく見られます。


「みんながやっているから自分もやっておこう」でもいいのですが、この際、基本の使い方を知っておくのもいいと思います。

従来的な使い方はこうでしょう。

  1. 場面を変えるとき

  2. 視点を変えるとき


またネット小説では

  1. セリフの前後に入れる

  2. フィーリングで入れる

などを見かけますね。

まずは従来の使い方を見ていきましょう。


1.場面を変えるとき

1つめは場面を変えるときです。

これまでのシーンとまったく別のシーンになるときは、空行を挟むのが一般的でしょう。

空行は時間の経過を表す場合もありますし、場所の違いをはっきりさせる意味もあります。


わかると思いますが、例を出すとこんな感じですね。

「よし、準備は整った。決行は明日だ」
 ヤマダは書き上げた計画書と用意した道具を見回し、一人うなずくと、心安らかに眠りについた。

 翌日、誰よりも早く学校に着いたヤマダは、さっそく準備を開始した。
 タイムリミットは一人目の生徒が登校するまでである。

このくらいの分量だとつなげても問題ないように見えますが、最初の場面が長ければ、おそらく1行空けた方が自然です。

空行は、読者に一息つかせる意味があります。

次のシーンへの心の準備をする時間を与える感じでしょう。


2.視点を変えるとき

2つめは視点を変えるときです。

一人称でも三人称でも、視点を変えるときは空行を挟むべきです。

そうしないと読者が混乱しますし、内面を書いていいのは視点人物一人ですから(そうしない書き方もありますが)、そういう意味でも区切りは必要です。

たとえばこんな感じでしょう。

「こんなものか……証拠は残してないよな……」
 ヤマダはもう一度教室を隅々まで見回すと、満足げにうなずいた。
「完璧だ。痕跡はない」
 彼は教室を出ると、静かに扉を閉める。
 ふと、ヤマダの顔にこらえきれない笑みが浮かんだ。
「さあ、復讐のはじまりだ」

 その日の朝、タナカは珍しく早く起きた。
 昨晩、早めに寝たのが原因だろう。

空行とは関係ありませんが、視点人物が変わったら、できるだけ早く主語(上の場合ならタナカ)を書いて誰の視点か読者に知らせましょう。


物語が大きく変化する場面では、さらに空行を工夫することもあります。

たとえば、

〜にとって、それは始まりにしか過ぎなかった。

   * * *

 王都郊外の屋敷、夜――
 折しもこの日は公爵家ゆかりの者が集まり、祝賀会が催されていた。

などですね。

□□□ や ◇◇◇ を使う場合もあると思います。

「ここから大きく変わりますよ」という合図です。

私も、たとえば長い場面が終わった後などは、この手の装飾付き空行を挟む場合があります。


3.セリフの前後に入れる(ネット小説など)

ネット小説ではよくセリフの前後に空行が入っていますね。

あれは慣習のようになっていますが、基本的には読みやすくした結果でしょう。

セリフだけを飛ばし読みする人に向けての工夫なのかもしれませんし、横書きによる視線の動きと関係するのかもしれません。


読みやすくなるのは確かですが、地の文を挟まずにセリフの応酬をするので、誰の発話かわからなくなることがあります。

それを回避する意味もあって、キャラの喋り方に特徴をつけておく手もよく使われるようです。

たとえば語尾に「〜だぜ」「〜にゃん!」とつけるとかですね。


新人賞に応募する原稿なら、セリフの前後に空行をつけない方が無難だとは思います。

それが原因で落とされることはないかもしれませんが、新人賞には新人賞の慣習がありますから、合わせておくのがいいでしょうね。


4.フィーリングでつける(ネット小説など)

また、なんとなくのフィーリングで空行を重ねた文章もたまに見かけます。

おそらく余韻や間をつくるために何行も空けるのだと思います。

ちょっとポエムな印象になるかもしれません。


それはそれでいいとは思いますが、余韻も間も、文章で醸し出すのが小説の基本的な考え方でしょう。

読者が望むならそれでいいとも言えますから、一概には言えませんが。


文章で間や余韻をつくるのに使える方法として、「捨て描写」と勝手に名付けているものがあります。

間や余韻を感じさせるには、何かが終わったあと、読者の心に染み込む時間を与えなければなりません。

読者にとっての時間とは何かというと、単純に言って、文字数のことです。

文字数が多ければ、読むのに時間が掛かるからです。


それを逆手に取って、余韻を感じさせるために意味のない描写をするのが「捨て描写」です。

文章には「描写」「説明」「セリフ」の3種類がありますが、説明もセリフも新しい情報が入ってしまうので、意味があまりない文章には「描写」が適しています。

余韻を感じさせたいなら、何かが起こったあと、ぼんやりと何かを描写してみてください。

遠くの景色とか、寒くなってきた空気とか、辺りの匂いとか、そんな感じでしょうか。

そういった描写を挟むことで、読者に時間を掛けさせ、余韻を感じさせることができます。


今回のまとめ

小説のちょっとしたコツ「空行の使い方」でした。

  1. 空行=1行アケ

  2. 場面を変えるときや視点を変えるときは1行空ける

  3. ネット小説では、セリフの前後に1行空けるのが慣習になっている

  4. フィーリングで改行を重ねてもいいが、基本的には余韻も間も文章で感じさせるのが小説

  5. 読者の時間は文字数

  6. 文字数を多くすると、間や余韻を作れる

  7. 意味のない描写をするのもオススメ

1行アケなら常識的ですが、2行、3行アケをすると、そこに作者の意図がにじみ出ます。

それが本当に意図通りかどうか、確認してみるといいですね。

それではまたくまー。

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