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#30 「手話がうまくなる方法は2つあるのよ」

NPO法人にいまーるの理事・臼井です。
にいまーるは、障害福祉サービス事業を中心に手話普及活動も行なっている団体であり、ろう者と聴者が一緒に働く職場です。
障害福祉サービスの利用者は全員耳が聴こえません。
しかし、スタッフの比率は、ろう者2割:聴者8割と、聴者が多いので、双方の文化の違いが垣間見え、時には食い違うことも多々あります。
そんな職場から生まれ出る、聴者とろう者が共に仕事をする中での気づきを連載していきます。
今回は、「手話上達のコツ」について書いていこうと思います。

学生時代、手話を流暢に使えている人がいました。
「あなた、聴者なのにどうして手話が上手なんですか。どうやったら手話ができるようになるんですか」と聞いたことがありました。

返ってきた答えは

「手話がうまくなる方法は2つあるのよ」

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手話を学んでいる人たちから時々寄せられる相談で、最も多いのは「ろう者によって手話が違うので、どうしたらよいか」というものです。

テキストや講習会で学んだ手話と、実際に会話で使われている手話が異なるとのことです。
英語や韓国語等の長文を読むとき、単語一つ調べれば解説された意味を考えて文脈を把握しようと思えるものの、手話の場合は「文字がない」ため調べようがない、という話がありました。

ろう者に、学習者の話を持ち出してみると大抵、以下のような回答が出てきます。

・一緒に飲みに行って交流すれば自然に覚えられるよ。
・ろう者との交流が足りないから読み取れないだけなのでは。
・毎日、手話を使えば慣れてくるんじゃない?

実際に、交流で手話が上達したという声はあります。
ろう者が自然体になれるという意味でも、手話サークルや講習会のような堅苦しさから解放される貴重な機会なので「学生生活に稼いだバイト代を全部、ろう者との飲み会につぎ込んだ」という強者がいるくらい、上達の近道でもあります。

ただ、全員が「交流だけで手話が上達したのか」というと残念ながら現実的にはそうではないようです。
手話を学びたい人の中には経済的な事情や物理的に気軽にそういった交流ができなかったり、そういう雰囲気が苦手だったりする人もいます。

そういった人たちも、実際には私から見て「流暢に話せているなぁ、すごいなぁ」と思う時があります。
ろう者と一緒にお茶したり、旅行に出かけたりする中で、手話で会話することを楽しむだけでなく「聞こえないってこういうことなんだな」と新たな気づきを人生の叡智として昇華していく人もいます。
私はそういう方との語らいはとても面白いと感じています。

手話を学んでいる人たちと多く関わっている中で、手話が如何に上達したのかを私なりに分析してみると、

・母語を含めて言語運用能力が高い
・言語への好奇心が強い
・ろう者との関わりを心の底から楽しめる
・良き道案内人と出会えている
・日中、手話を使って会話をしている(例:恋人や家族がろう者だったり、手話を使う職場だったり)

といった特徴があるように思いましたが、どうでしょうか。

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冒頭の「2つの方法」というのは、
①ろう者の友達を100人以上作る。
②ろう者の恋人を作る。

おそらく私に対して分かりやすく表しただけなので、極端な例になってしまっているだけだと思いますが、手話教室に通うのは「手話の基礎を学ぶ」場であり、生の手話を肌で感じる経験も大事だよ、というのが言いたかったのかもしれません。

ろう者の私にとって手話が上手だなぁと感じるポイントは、

・ろう者と一緒にいることに慣れている
・ろう者と対等に話ができている
・ろう者の耳に届いていない情報を伝えることができている

などがあります。

とはいえ、様々なろう者がいるのと同じように、学習者も十人十色。
にいまーるとしては、ろう者と手話に関わる人たちが楽しく学び続けられるような環境を、今後も考えていけたらと思います。

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文:臼井千恵
Twitter:@chie_fukurou
Facebook:@chie.usui.58

編集:横田大輔
Twitter:@chan____dai

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