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母語は基本的人権

加藤 麻子

ロシアのウクライナ侵攻が始まって早や3ヶ月。1日も早く戦争が終わることを心から願うが、一番気掛かりなのは、ウクライナ東部の人たちがウクライナ文化を抹殺され、明日から公用語としてロシア語を強要されることだ。

端的に言って、紀元前より人類の歴史は侵略と戦争の繰り返しである。しかし、平和を願う私たちは、21世紀に入って、よもや大国が一方的にある日突然、軍事的侵略行為を始めるとは予測していなかった。翻弄されるのは市井の人々で、民族(宗教)と母語と国境線が、侵略者の身勝手な都合で書き替えられるところに悲劇がある。家を買うときは家ではなく隣人を選べと言うが、国家レベルではそれができない。

世界を見渡すと、複数の公用語を持っている国は数多く存在する。カナダ、アイルランド、フィンランド、ベルギー、スイス等、それは覇権主義と移民の歴史を物語っている。カナダの公用語は英語とフランス語だが、カナダは「言語権」を憲法で保障している。

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大国ロシアと1,300キロ(福島から福岡までの距離)に渡る国境を接するフィンランドの公用語は、フィンランド語とスウェーデン語である。地図を見れば一目瞭然だが、ロシアから地続きの国土の大半が平坦な地形であることから、簡単に侵攻されてしまう恐れがある。悲惨な過去の歴史から学び、国民の90%近くがフィンランド語を話すが、スウェーデン語も同等の権利を持つことが憲法で保障されている。https://oikeusministerio.fi/en/linguistic-rights街中の標識は二か国語表記で、テレビ番組にはスウェーデン語の字幕がついている。日本でも人気のムーミンは、スウェーデン系フィンランド人のトーベ・ヤンソンがスウェーデン語で描いた物語である。

ヨーロッパでは、欧州評議会が「言語は人々の生活や社会の民主的機能の根幹をなすものである」として言語権を明文化してる。

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他方、アメリカ合衆国を見てみると、多民族国家であり多言語を話す人々で成り立っている移民の国であるが、その公用語は英語のみである。そして、合衆国憲法には「言語政策」が明記されていない。翻って、日本はどうだろうか?日本語とその方言は、日本国憲法で守られているのだろうか?

先日、沖縄は本土復帰50周年を迎えた。450年続いた琉球王国が沖縄県となったのは明治時代で、明治政府は沖縄の言語であるウチナーグチを禁止した。戦後はアメリカの統治が27年続き、復帰後は標準語励行運動のために、学校では休み時間でもウチナーグチを禁止されたという。また、日本統治時代の朝鮮、台湾、満洲の公用語も現地語との2ヶ国語政策をとったとされるが、実際には日本語優先の言語政策をとっていたという。

日本の公用語は母語である日本語であると考えられるが、日本国憲法が保障する「基本的人権」の中に「母語を話す権利」も含まれるのであろうか?日本の憲法にも「言語政策」についての記載はない。大変不安に思う。是非、法務省に追記してほしいものだ。


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