見出し画像

『異境備忘録』の研究(24) -勲功を立てる- ●

#00339 2015.2.14

「先年、土佐国種崎町と云ふ所へ年頃二十歳ばかりの男、老母一人を連れ来りて商家に滞泊して、価を取らず薬を病者に与へて忽(たちま)ち功験を発し、或(あるい)は禁厭(まじない)を行ひて病者を癒しけるに、その事市中に名高くなりて、堅磐が耳にも入りてければ、日々我が家に出入りする男子・万屋楠馬(よろずやくすま)と云ふを使として、水位寿真、現名・宮地堅磐、高山白石平馬・目今(もっこん)の幽名・玄達殿に久し振りに対面致し度く、又、父・常磐よりも尋ねたき仔細(しさい)もあれば、御苦労ながら今宵は弊家へ来り給ふべしと申し遣(つかわ)しければ、その声を聞きて大に驚き、我が名を知られては一大事なりとて、俄(にわ)かに老母を伴ひてどこへか行方知れずなりたりと使の者の帰りて述べたり。かの界を竊(ひそか)に出て来りたるを、堅磐が杉山僧正に告げん事を恐れて逃げたるか、将(は)た何故なるか知られず。

ここから先は

2,645字
この記事のみ ¥ 300

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?