7つの海の向こうで 第3回 ロシア・エカテリンブルク-街の魅力を日本語で配信
(※この記事は2020年4月7日公開の過去記事です)
みなさん、ロシアの「エカテリンブルク」という町を聞いたことありますか?「ワールドカップ2018ロシア大会」で、日本対セネガル戦が行われた地として少し話題になりましたが、おそらくほとんどの方が知らないと思いますので、簡単に紹介します。
《今回の筆者》
鵜澤威夫 日本語教師。青年海外協力隊でバングラデシュ、スーダンへ赴任。その他、中国、ロシア、国後島などの日本語教育にも従事。現在JICA専門家としてバングラデシュで活動中。「教室から世界へ」をテーマに各地で「日本語チャンネル」を設置し、現地発信型の日本語教育活動に挑戦中。
ロシア第4の街・エカテリンブルク
エカテリンブルクは人口約145万人のロシア第4の都市で、モスクワから東へ飛行機で約2時間、ウラル山脈の東側に位置したヨーロッパとアジアの境界の町と言われています。ですからアジア系の方も多く暮らし、公用語のロシア語以外の言語も耳にします。気候は夏は短く、長い冬はマイナス30度以下にもなりますが、室内は暖房が行き届くため、日本 への留学経験者は「冬は日本のほうが寒い」と言うほど室内は快適です。
町は中心にある南北に延びる人工池を境に、西がビジネスエリア、東が文化・芸術エリアとされ、町を歩けば新設のビジネスタワーから、築100年以上の歴史的な建造物まで混在していて目を奪われます。その中でも興味深いのは、市内には日本食レストランや日本のアニメマンガ販売店、さらにはロシアで唯一の「メイド喫茶」まであることです。また日本企業も少なく、現地邦人も10名ほどしかいないのに日本語学校がいくつもあり、日々日本語を学んでいる姿を見ると、この町の「日本熱」に興味を持たざるを得ません。
エカテリンブルクの日本語教育
現在、エカテリンブルクには日本語教育機関が5校あります。日本の地方都市にロシア語学校が5校もあるかと考えると、その数の多さに驚きますよね。内訳は大学が1校、民間日本語学校が4校あります。前者は国立大学の東洋学科にて専門的に学び、後者では子どもから社会人までと幅広く、語学だけでなく文化体験講座などバラエティに富んだコースを開講しています。また、それ以外でも剣道、弓道、茶道、華道、囲碁、将棋、マンガ制作などなど、実に多様なクラブやコミュニティがありそれぞれ活発に活動をしています。
このようにエカテリンブルクの日本熱が高いのは、市民にとって年齢や職業を問わず、日本語や日本文化を学ぶ幅広い学習機会があることと、そのファン同士が交流し合うコミュニティがいくつも存在することで、モチベーション維持されているからではないでしょうか。
ではここで、エカテリンブルクの日本語教育の歴史に触れてみましょう。まず1992年に初めて民間の日本語学校(情報文化センター日本)が創設され、1994年には国立大学(現ウラル連邦大学)の東洋学科に日本語専攻が設置されました。そして、この二校の卒業生たちが日本語学校や団体を新たに設立することで、日本語教育が発展し現在に至っています。また、1999年からは日露青年交流センターによる日本語教師派遣が始まり、今まで12名の日本人教師が派遣され、それ以外にも同センターの青年交流事業により、日本とエカテリンブルクの青年交流を支援しています。
そして「ウラル地方日本語教師会」が定期的な勉強会やセミナーを開き、機関を越えた教師間の交流や連携をはかり、エカテリンブルクの日本語教育の発展を支えています。
↑アンナ・ブラコワ先生(ウラル連邦大学)からメッセージをいただきました
ウラル地方日本語スピーチコンテスト
そんなエカテリンブルクの日本語教育関係者が連携した一例として、2018年3月に開催されたスピーチコンテストについて紹介します。
実行委員のメンバーは、エカテリンブルクの大学、民間日本語学校、クラブの代表者で構成され「ウラル地方(東京都でいう関東地方)の魅力を日本語で世界へ発信」をテーマに実施しました。各機関のそれぞれの強みを生かしたおかげで、在ロシア日本国大使館からは「ロシアにおける日本年」の正式事業として認定を受け、大学からも多額の資金を得ることができ、それ以外にも国内外のスポンサー約30社を得ることができました。特に工夫を感じたのは地域との連携です。賞品に複数の日本語学校の無料レッスンクーポンが含まれていて、市内の日本語学校やクラブの広報になっていました。また、現地のレストランからはメニューの日本語訳やSNSでの拡散を条件に、食事の提供も。地域の日本語教育の在り方としても参考になりました。
コンテスト自体も、初級・中級・上級レベルをビデオ制作・プレゼンテーション・スピーチと発表内容に分けることでバラエティーに富んだものとなり、また休憩時間には市内の日本文化クラブのデモンストレーションや、現地邦人のロシア語スピーチなど取り入れたことで、多くの方がコンテストを通して「ウラルの魅力」を再確認し一つになる日となりました。なお、コンテストの初級レベルのビデオ制作は、事前にインターネットでの公開審査を実施したところ、世界52か国、140の回答を得ることができ、一地方都市の日本語教育イベントでも、世界とつながることができるのではないかと実感できました。
まとめ
以上のように、エカテリンブルクの日本語教育は、教師だけでなく様々な日本文化クラブや団体がそれぞれ関わり合いながら成長し、また町の一部として存在しているところが魅力だと思います。今後はインターネットを使って、市内だけでなく世界中の日本語教育機関と交流しながら、現地の視点で世界をつないでいくグローカル(Glocal)な日本語教育として発展していくことを願っています。
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