外国につながる中学・高校生と若者のための「教育フェア」に参加しました!
(※この記事は2024年2月7日公開の過去記事です)
日本では、外国につながる子どもたちの数が年々増えており、2021年には58,000人を超えています(文部科学省「日本語指導が必要な児童生徒の受入状況等に関する調査」より。この数字は公立学校に通う子どものうち日本語指導が必要な児童生徒の数。日本語指導が必要でないと判断された子や私立学校等に通う子も含めるともっと多い)。
そういった外国につながる子どもたちのための「外国につながる中学・高校生と若者のための『教育フェア』」が、2023年9月23日に横浜市で行われました。子どもたちが日本の中学校や高校を卒業した後にどのような進路に進もうかと考えられるよう、高校・大学への進学や将来のキャリアに必要な情報を提供するイベントです。私たちアスクも、ブース出展者として参加させていただきました。この記事では、「教育フェア」当日の様子をレポートします!
「教育フェア」の基本情報
当日の会場の様子
「教育フェア」は、神奈川県立かながわ労働プラザの3階多目的ホールで行われました。会場には約90脚の椅子が置いてあり、午前の部も午後の部も、ほとんど満員でした。中学生や高校生はもちろん、保護者の方や学校の先生方も多くいらっしゃいました。
当日の流れ
高校進学ガイダンス
午前の部は高校進学ガイダンスです。来ている子どもたちは主に中学生です。
①多言語版進学ガイドブックを使ったオリエンテーション
あらかじめ配られていた「進学ガイドブック(多言語版)」を使った、神奈川県の高校についての説明でした。高校には公立と私立があることや、いろいろな学科が存在すること、そして外国につながる中学生が利用できる特別な入試制度についてなど、高校受験に必要な情報がくまなく話されました。
②キャリアプラン
中学生にとっては少し先の話かもしれませんが、高校卒業後、大学卒業後、どのような職に就くか?就職先をどうやって見つけるか?についての話がありました。個人的には、外国につながる子どもたちの「母語+日本語」という大きな強みを活かしてほしいという話が、とても印象的でした。
③先輩の体験談紹介
中学生にとっての「先輩」、つまり高校生に対する、いまの高校に受験を決めた理由や、学校生活などについてのインタビューです。「どの高校に行っても楽しんでください」「頑張れば必ず自分に返ってきます」との力強いメッセージは、中学生の心に残ったと思います。
④先輩との交流&ブース見学
先ほど登壇した高校生の先輩たちと話ができるほか、弊社も含めた出展ブースを見て回ることができます。
大学進学ガイダンス
午後の部は大学進学ガイダンスです。来ている子どもたちは主に高校生です。
①オリエンテーション
大学の種類や学部、受験方法などについての説明がありました。「共通テスト」「二次試験」などに加え、AO入試や一般受験の特別枠についても話されます。志望校の決め方や大学の探し方についても具体的な話がありました。
②キャリアプラン
高校進学ガイダンスと同様、将来の仕事の決め方や探し方についての説明がありました。高校生にもまだ早い話…?と思うかもしれませんが、高校卒業後すぐに働く子や、短大や専門学校を出て働く子にとっては目の前の話!みんな一生懸命に聞いていました。
③学費について
進学をするときに避けて通れないのが学費を始めとするお金の話。学校などではなかなか聞く機会はないのではないでしょうか。お金がなくて進学を諦めることのないよう、各種奨学金の制度が紹介されました。
④先輩の体験談紹介
大学生や社会人の先輩が登壇して、受験対策や学校生活、大学や仕事についての話を聞きました。将来就きたい仕事や今後の展望について話す先輩たちは、とても楽しそうで輝いて見えました。高校生に対して「いろんな人に頼ろう、相談しよう」「たくさんの人やものと触れ合おう」「今を乗り越えれば将来何でも乗り越えられます」と、心のこもったアドバイスもありました。
⑤先輩との交流&ブース見学
大学進学ガイダンスでも、先輩方と交流したり、出展ブースを見て回ったりすることができます。
弊社のブースでは、弊社から刊行している日本語学習用の教材を紹介しました。午前の部、午後の部ともに「先輩との交流&ブース見学」の時間に多くの方がブースに来てくださいました。次のJLPTを受けると話してくれた子どもたちも多くいて、特にN1からN3までの教材を見てくださる方が多かったです。また、子どもたちだけでなく、学校の先生方もいらっしゃったので、日本語教材や大学受験に役立つ教材をご紹介させていただきました。
ABCジャパンさまにインタビュー!
教育フェアを主催しているNPO法人ABCジャパンさまにインタビューを行いました。教育フェアの数日後に文書で質問し、回答をいただきました。
Q:ABCジャパンさまの、普段の活動内容を教えてください。また、普段の活動の運営の中で、大切にされていることを教えてください。
A:2000年から横浜市鶴見区で外国人コミュニティの支援を行っている団体です。区役所や地域のコミュニティ、学校、領事館などと連携しながら、さまざまな活動を行っています。外国ルーツの子どもためのフリースクールや放課後自習室、多言語での進学ガイダンス、日本語教室、心理カウンセリング、キャリアアップ支援、ボクシング教室などなどです。こうした活動を通して、日本人も外国人も、同じ町に暮らすもの同士として互いを理解しあい助けあって暮らせる社会づくりを目指しています。
詳細については、ABCジャパンのホームページをご覧ください。大切にしていることは下記の3つです。
・「子どもだけ」「大人だけ」の支援ではなく「家族単位」で考える
・外国人だけでなく、日本人も含めたコミュニティ全体への取り組み
・サポートされる側も、誰かを支えられる役割が持てる場づくり
Q:教育フェアというイベントの発足のきっかけを教えてください。
A:2010年から実施してきた外国につながる子どもと保護者のための「大学進学ガイダンス」「高校進学ガイダンス」、さらに2020年からスタートした「キャリアガイダンス」をドッキングさせて「教育フェア」という終日開催のイベントとしました。
外国につながる中学・高校生と若者、保護者、そして大学、専門学校、職業訓練校、企業、関係団体等が一堂に会し、情報提供や情報交換、相談を通して、家族で子どもたちのキャリア形成を考える機会としています。また、外国につながる子どもたちが直面する共通の悩みや課題を乗り越え、様々な場で活躍する先輩たちの体験談を聞き、交流することで課題解決への糸口や将来への道を見つけられるような場でもあります。
Q:イベントの準備~当日まで、大変だったことなどあれば教えてください。
A:昨年度は初開催ということで、大学や専門学校等へのブース出展依頼や資料提供依頼等で企画趣旨を説明し、取り組みを理解してもらうために少し大変な面もありましたが、今年は2年目ということで、昨年の実績を示すことでスムーズに準備が進みました。
Q:今回、午前の部も午後の部も、席のほとんどが埋まって大盛況でした。イベントの告知はどのようにされていたのでしょうか。
A:後援という形で協力を得た神奈川県教育委員会から全県の小中学校、高校へ周知宣伝をしてもらったほか、メーリングリスト、行政、国際交流ラウンジ、他の支援団体、ブラジル総領事館等への周知、これまでつながりのあった学校や企業、団体等の方々への個別の呼びかけ、Facebook、Twitter、instagramなどSNSを活用した宣伝等、できることは全部やりました。
Q:ブースの出展者や、「先輩の体験談」で登壇する先輩方は、どのように募集していますか。
A:ブース出展は昨年度出展して下さった方たちにまず声をかけ、さらに外国ルーツの若者を積極的に受け入れている大学や専門学校、企業等を探したり、紹介してもらったりして声をかけました。
先輩の体験談は、ABCフリースクールの卒業生を中心に、放課後教室や補習塾等、ABCジャパンで学んだことのある若者たちを中心に願いしています。
Q:外国につながる子どもたちへのメッセージをお願いいたします!
A:外国にルーツがあるというのは、複数の文化や言葉を知っていて大きな可能性があるということです。子どもたちにはたくさんの先輩たちの話を聞き、できるだけいろんな情報を集め、自信を持って自分の将来を切り開いていってほしいと思います。
ABCジャパンさま、お忙しい中本当にありがとうございました!
まとめ
インタビューの通り、「教育フェア」は今年が第2回目の開催でした。弊社は昨年もブース出展者として呼んでいただいており、筆者も昨年、今年と続けて参加しました。
今回登壇された「先輩」の中に、昨年の教育フェアに参加して大学に行きたいという気持ちがはっきりした、と話す方がいらっしゃいました。早速教育フェアの成果があらわれていたのです。そして、「先輩との交流&ブース見学」の時間に、子どもたちが大勢集まっていたのは、弊社のブース……ではなく、やっぱり登壇された先輩のまわりでした。年の近い先輩、自分と同じような経験をした先輩から楽しい高校生活・大学生活の話を聞いて、自分の将来を描くきっかけになったことでしょう。子どもたちにはロールモデルとなる先輩や大人が必要だと言われて久しいですが、笑顔で先輩と話している子どもたちの様子を見ていると、その重要性を目の当たりにした気持ちでした。今年の教育フェアは、子どもたちにも保護者の方にもとても有意義なものになったに違いありません。
そして、同時に思ったのが、こういった取り組みが、神奈川県だけにとどまらず全国で行われるといいな、ということです。神奈川県は、日本の中でも外国につながる子どもが多くいる地域で、制度やイベントがしっかりしています。しかし、そういった子どもが少ない地域ではどうしても支援が手薄になってしまいます。あまり支援がない地域の子にも、この教育フェアと同様の経験を届けられる方法を探していかなければならないと感じました。弊社も語学書の出版社として、こういった取り組みにどのように関わっていけるか、改めて考えていきたいと思います。
アスクはnote以外のSNSでも情報を発信中💡
アスク出版 日本語編集部
X(旧Twitter):
日本語編集部 @japan_askbooks
日本語教育いどばた @nihongo_idobata
Instagram:@japan_askbooks
LINE:@ask_nihongo 👉LINEスタンプ販売中🐑