
つなぐにほんごシリーズ『人と社会をつなぐ日本語』著者インタビュー
アスクの総合テキスト「つなぐにほんご」シリーズの上級「人と社会をつなぐ日本語」が今年11月に発売されました🌟
発売を記念して、著者にたっぷりインタビューをしてきました。ぜひ最後までご覧ください。

著者プロフィール

辻和子:ヒューマンアカデミー日本語学校 日本語教育顧問
小座間亜依:ヒューマンアカデミー日本語学校 専任講師
著者インタビュー
〈以下、著者 辻和子:辻、著者 小座間亜依:小〉
Q1:中級・上級テキストを作ることになった経緯を教えてください。
辻
端的に言うと、「つなぐにほんご初級1」と「つなぐにほんご初級2」を制作したからです。
「つなぐにほんご初級」の制作段階から、テキスト中級や上級のテキストは必要であると考えていました。私共は「社会で活動できる人を育てる」ことを教育理念としています。「社会で活動できる人を育てる」ためには、初級だけでは終わらないのはもちろん、何ができるかを目標にして学習を進め、できるようになったことで学習を評価していくことが大事だと考えました。それまで使用してきた、文型を中心にした授業だとこのことにはフォーカスできません。そのため、「つなぐにほんご」を初級、中級、上級までシリーズを制作することになりました。
また、せっかく作るなら、初級から上級まで揃っていて、学習者だけではなく、先生にも、海外の日本語教育にも使いやすいテキストを作ろう、ということになりました。
「つなぐにほんご」のシリーズはいろいろな使い方がありますが、まずはテキストの提出順序で授業をしていただければ、授業の質の担保が可能になります。
Q2:タイトルに込めた思いを教えてください。
辻
このテキストで学んだ学習者の皆さんが、自分とクラスメイトを、自分と日本の人を、そして自分の国と日本を、さらに世界の国々をつないでほしい、という願いを込めています。元々「つなぐ」というワードは、2014年の卒業生の皆さんに「世界をつないでいってほしい」という言葉を贈りました。
その時に校内版の書名を「つなぐにほんご」と決めました。
日本語教育をする中で、私たち教師が学習者に期待するのは、日本語力を磨いた上で社会で活躍し、人々を「つないでいく」ことです。
また、初級を終えた学生が次に何を目指せばよいかが分かりやすいよう、「人と社会をつなぐ」という文言を入れました。
日本語は、「そうですね」とまず相手の言っていることを受け止めるという特徴があります。「つなぐにほんご」シリーズはその日本語の特徴を生かして、コミュニケーションをすることを課題にしています。
「人と社会をつなぐ日本語」というタイトルは、初めは長いかもしれない、と思っていましたが今では気に入っています。
Q3:このテキストのゴールとCEFRの関係性を教えてください。
辻
CEFRのCan-doリストとJFスタンダードを参照し、目指すレベルを設定しました。
また、これまでの教育の経験から、どのような能力が必要になるのか、能力記述文を作成しました。
初級1ではA1、初級2ではA2、中級でB1、上級でB2を目指すものとなっています。
具体的には、こちらを目指しています。
初級1
最低限(サバイバル)のやりとり
自分の必要なことを何とか相手に伝えられる
初級2
日常生活の複雑ではないやりとりができる
中級
・社会人としてどんなことができればよいのか、
日本語を学ぶ中で身に着ける
・社会人(日本に限らず、母国において社会人になる人)として
地域の一員という意識を持つ
上級
・社会の一員としてどう行動していけばよいのか、
何を考えればよいのかという意識を持つ
・他者とともに生きるために対話を通して、
コミュニケーションをする力を身に着ける
Q4:社会人基礎力とは何ですか?
辻
「人と社会をつなぐ日本語」では、人と人のかかわりを持つ際に自分がどのように行動していくかという意識と行動する力のことだと思っています。
「社会人基礎力」は経済産業省が2006年に提唱したもので、「前に踏み出す力」「考え抜く力」「チームで働く力」の3つの能力のことです。この「人と社会をつなぐ日本語」の中級・上級では、「社会人基礎力」と「社会人技術力」そして、学び続ける力を育てることを目標の一つにしています。
「社会人技術力」とは、「情報を手に入れる力」「情報を整理する力」「情報を分析する力」「デジタル技術を使う力」「ツールを使って自分の考えを発表する力」の5つの能力のことです。
Q5:このテキストを使う際に教師のファシリテーターとしての役割は何ですか。また、教師側の心がけを教えてください。
小
初級から上級まで、テキストの通りに進めていけば授業が成立するようになっています。ですが、ただテキストのページを追うように進めるのではなく、先生方にはぜひいろいろな工夫をしていただきたいです。
テキストに書いてあることだけを進めるのと、教師が学習者の頭の動きを想像しながら活動しやすいように考えて授業を進めるのとでは、その成果や結果が変わってくると思います。
学習者が活動しやすいように考えるというのは、初級ではレアリアを使って会話練習をするなどが分かりやすい例です。中級・上級では、学習者同士が協働学習しやすいように、例えばミニホワイトボードや共同で編集できるソフトを使ったりして、学習者の考えていることや相談していることを可視化します。グループ活動がスムーズに進むように、することや時間配分などを事前にしっかり伝えた上でモニターにも提示しておき、それをもとに学習者が自分たちで活動を進めていけるようにする、といったことも、小さいことですが工夫のひとつです。
「学習者目線で、学習者が考えたり活動がしやすいように授業を工夫する」のがファシリテーターとしての教師の役割だと考えています。「私(教師)が教えなければならない!」ではなく、学習者と一緒に考えながら同じゴールを目指して授業活動を進めていくという気持ちでこのテキストをお使いいただけるとよいと思います。
辻
学生と教師が目標を共有することが大切です。「ファシリテーター」という言葉は、元々会議をうまく進める進め方で生まれた言葉です。
ファシリテーターの要件は、
・みんなが安心・安全に話す場の設定
・どの人も分け隔てなく機会均等に話せるようにする
・時間の管理をする
・皆が納得できる最後の形・結論に持っていく
以上の4点です。
Can-doを共有して学習を進めるという点は初級~上級は共通しています。
初級では教師の誘導が多くなりますが、中級・上級にしたがって学生の主体性が上がってきます。クラスやレベルに合わせて学習者が自分の意志と考えで活動し学ぶ場を作るためにはどうしたらいいか、進め方の工夫が必要になります。
教科書はあくまで材料なので、「このページを終わらせないといけない」というようなノルマを達成するという考え方ではなく、クラスの学生に合わせてどう使っていくか、学習者が自分事として考えられるよう、環境設定をしていくという意識で使っていただければと思います。
Q6:中級・上級のUnit0の3課にどちらも著作権が出てきますが、内容に違いはありますか?
辻
著作権は守らなければいけないルールです。
中級では「著作権」について知ることが課題ですが、上級では実際に自分たちが活動するにあたって、ケーススタディを通して、どう判断したらいいかを学びます。
Q7:このテキストに文型が入っていない理由を教えてください。また、文型をどのように考えればよいですか。
辻
このテキストは文型・語彙を学ぶためにあるテキストではありません。そのため、文型と語彙を学習する項目を入れていません。
このテキストは、行動中心アプローチの考え方を元に作られています。
これは、社会的な活動を授業で実際にすることです。社会に出たら、わからないことはその場、その時に調べますよね?それを授業でも行うというイメージです。
実際に活動するにあたって必要なものを必要な時に使うので、そこで文型を学んでほしいのではなく、必要であれば文型を調べて理解することになります。そのため、結果として文型も語彙も使うことになります。そのために、語彙・文型を整理する時間が必要です。ただし、このテキストに
付随する文型や語彙という意味ではありません。様々な活動を通して、学習者がもっている文型や語彙を整理する時間が別途必要になります。
言語活動と言語知識は分けて学習時間を作ることが必要です。
Q8:このテキストのダウンロードできる教材を教えてください。
小
中級と上級はこちらの教材がダウンロードできます。
①音声(「読んで考えましょう」の課題文・「聞いて考えましょう」)
読んで考えましょう:最後に音読の活動があります。音読練習をする際のモデルとして音声をお使いください。音読の進め方やポイントはテキストに記載しています。
聞いて考えましょう:聴解問題なので、音声が必要です。
②ワークシート(授業で使っていただければ役に立つもの)
テキスト内の空白部分を用意していますので、必要に応じてご活用ください。
③作文用紙
考えたことを書くという活動が多くあります。罫線が引いてあるシンプルなものですが、必要に応じてお使いください。
④評価表&振り返り表
評価表:発表や作文などをクラスメイトに評価してもらうためのものです。
振り返り表:学習者が自分の発表や書いたものを自己評価するためのものです。
⑤Can do記録表
テキストの前の部分についている表と同様のものです。先生方が学習者の自己評価を回収できるよう作成しました。
⑥教師用マニュアル
教師用資料として作成しました。全てのUnitに共通する活動のすすめ方や評価の仕方、それぞれのUnitの内容に合わせた授業の進め方やアイディアなどについて書いてあります。
⑦語彙リスト
テキストにどんな言葉が出てくるかの一覧で、教師が授業準備の際にまとめてみられるものとして作成しました。
Q9:協働学習・活動で進めるテキストのようですが、その理由は何ですか?
辻
「協働学習」とは、学習者同士の働きかけによって学習を進めるというものです。
学習者同士の働きかけを起こすためには、学習者同士がかかわる活動をしてもらう必要があります。
なぜ学習者同士の働きかけによる学習が効果があるかというと、自分自身の気づきをもとに考えることができるようになるからです。皆が皆全く同じことに疑問を持つわけではないですし、学習者は一人ひとり考え方や疑問に思うことはそれぞれ違います。そのそれぞれの学習者の多様な考えや意識が生かされる学習スタイルが、「協働学習」です。
先生がクラスの学生に一斉に一度に教えるという定食型の授業だと、一人一人の多様性に合わせるという点から見ると学習効率が悪いです。
また、学習は「人に教える・伝える」というときが一番学習効果が高いので、学習者がその機会を持てるようにすることが大切です。その活動を通して、学習者が主体的に学ぶことができるよう、このテキストは協働学習で進めていきます。
どうやって協働学習の場を作るかは、それこそファシリテーターの役割だと思います。
Q10:学ぶUnitの順番を変えても問題はないでしょうか。
辻
Unit1~5の順番は前後してもかまいませんが、漢字のルビを調整しています。また、Unit3から5は前後せずに扱っていただいた方が良いかと思います。ルビの付け方は、中級と上級で異なります。ざっくりいうと、以下の
通りです。
中級:
ルビのコントロールをUnit0から1で総ルビ
そのあとA2レベルで習得されているとおもわれるものには、ルビなし
上級:
日常生活でよく見る漢字の語彙にはルビなし
あまり見ないと思われるものはルビあり
次に、Unit3から5についてですが、中級Unit3では、コミュニティの一員であるという認識を持つことが課題になっています。上級Unit3では、自分が他者とともに生きていく、市民としての在り方を考えることが課題になっています。自分の存在について考えるという、テキストの根幹と言える部分なので、例えばUnit5を3よりも先にしてしまうと、Unit5の地球市民として考えるという点が浅くなってしまうかもしれません。教師も学生にとっても初めにUnit3からやってしまうと負担が大きいかもしれません。
それぞれのUnitの位置づけについては次の通りです。
Unit0 テキストを通して学ぶ目標設定・注意事項としての著作権
Unit1 イントロのとしての役割、学習者にとって考えやすいトピック
Unit2 1からのさらなる展開
Unit3 社会人として生きるための根幹となる概念について考える
Unit4 1・2からの展開、Unit3で学んだ内容を
自分の中に浸透させ、醸成させる時間
(ちょっと息抜き)
Unit5 1~4の集大成として考える
Q11:初級のテキストが終わった後、「人と社会をつなぐ日本語中級」を使うことになると、学習者にとって難しくないでしょうか。
小
『つなぐにほんご初級2』を使って学習している場合、27課以降は「社会や文化について話す」のように中級レベルにつながるテーマが扱われており、社会的な話題に触れ、考えたことや意見を伝える機会があります。初級の段階からそのような活動をしていれば、手も足も出ない、ということはないと思います。
ただ、はじめのうちは、学習者が課題文を読むのに時間がかかったり、グループ活動がうまく進まなかったりなど、スムーズには授業が進まない場面が出てくるかもしれませんが、それは想定内です。
学内で使用していても、Unit1は1カ月以上時間がかかるクラスが多くあります。
はじめのUnitはゆっくり、先生が活動をひとつひとつサポートしながら進めていってほしいと思います。
中級レベルの内容が難しいというのは当たり前です。難しくて分からないから教師が全部「教える」のではなく、まずは学習者が自分で解決できるように導くことを意識していただきたいです。「仲間と教え合ったり話し合いながら読み解いていく、解決していく」ということが大事です。
社会で生活する中では「難しくて無理」とあきらめるのではなく、何とかして解決していく力が必要です。教師は学習者が「できない」ことに目を向けがちですが、「何ができたか」「どんなことがわかったか」に目を向けていただきたいと思います。難しくて読めなかった、で終わらずに、ではどうすれば学習者が読み解けるのかのサポートを考えるのが教師の役割です。
辻
初級はオーラルでのコミュニケーションにフォーカスしています。
中級以降では、文字を介した情報のやり取りに変わっていきます。ですから、当然今まで自分が見たことが無いものが出てきますよね。そのため、学生一人ではなく、協働で学んでいくことが大事です。テキストの内容を一言一句理解していなければいけない!という意識でこのテキストは作成していません。
全員が平等に、同じことが分かるようにという考え方のテキストではなく、このテキストは多様な学習者がそれぞれの学びを得て互いに働きかけ合って高めていく、ということを目指しています。ですから、教師が学習者一人ひとりの学びを見守り、支えることに焦点を当てることが大事です。
Q12:このテキストではどうやって評価をするべきでしょうか。筆記テストは必要ですか?
辻
この教科書には学習項目に語彙・文法が入っていないので、筆記テストはしません。
成果物で評価します。また、発表でも評価します。
各課に評価表もついているので参照してください。
この教科書では「課題遂行力」を問うため、筆記で評価をするのは難しいです。
課題遂行の結果が成果物(ポートフォリオ)とパフォーマンス(発表・グループ活動の様子)
これで評価をつけることができます。
ここでも教師のファシリテーターとしての役割が非常に大切です。ファシリテーターの役割は、見守るだけではなく、普段の学生のグループでの様子もよく観察して、学習者のできることを評価し、学習者のできる力をさらに伸ばすためには何をしたらいいか考えてその環境をつくることがも非常に大切です。
辻先生、小座間先生ありがとうございました。
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