日本語教師の勉強会を見学 vol.4 日本語教員LT会
※この記事は2018年に公開された過去記事です
「もっと学びたい」「教師として成長したい」という向上心が旺盛な日本語教師たちが集まる勉強会・研究会に参加し、その様子をレポートします。
第4回は、日本語学校の教員たちが自分たちの取り組みを持ち寄る「日本語教員LT会」にお邪魔しました。
日本語教員LT会とは
日本語教員LT会は、日本語学校で留学生指導・サポートをしている日本語教師たちの発表型勉強会です。
年1、2回開催されていて、取材した回が9回目でした。
「LT」とは
「 Lightning Talk 」(ライトニングトーク) のことで、Light は光、稲妻、閃光。つまり5分という短い時間でキラリと光るプレゼンを行うことです。(日本語教員LT会サイトより)
「LT会」で検索してみると、IT業界でよく行われているようです。テンポよく次々と発表される様子は、確かにIT業界との親和性が高そうです。もちろん日本語教師にとっても、1日でたくさんの発表が聞けるこのスタイルはありがたいですね。
日本語教員LT会では、少しアレンジを加えていて、発表者は5分(1枠)のほか、10分(2枠)を選ぶこともできます。また、テーマ選定の背景説明を行うイントロ(5分)と、質疑応答とコメントシートを記入するアウトロ(5分)の時間も設けて、短時間でも内容は濃いものになっています。
発表のラインナップ
第9回の発表ラインナップは下記のとおりです。
1.初級から始める「母語使用ピア・ワーク」から「ピア・ラーニング」へ
2.教師養成のための実践セミナー
3.卒業制作の取り組み 山崎パン「ランチパック」とのコラボ商品の企画・制作
4.水戸LT会の報告~伸びる日本語教師であるために~
5.昨日どうして休みましたか?
6.「よし!通じた!」を積み重ねて~「発話」に特化した授業と校内検定の取り組み
7.評価を考える
8.学生主体のアウトプットの授業の試み
9.課題解決型授業~小中学校の授業を参考に~
10.学生との面談から見えてくるもの
11.できる?つなぐ?やってみる!
ちなみに、発表の順番は当日、会が始まってから壇上でくじ引きをして決めます。つまり、いきなり「じゃ、発表してください」ということもあり得るのです。そうなったらさぞ緊張するだろうなと想像しますが、そのほうが緊張する時間が短くていいかもしれません。
日本語学校の教員たちが現場の取り組みを持ち寄る貴重な機会とあって、会は毎回大盛況。今回は94名もの参加者が集まりました。主催である東京三立学院の及川先生のご挨拶と会についての説明、順番決めのくじ引きののち、発表スタートです。
今回はライターの勝手な思い入れにしたがい、3つの発表をレポートします。
1.初級でピア・ラーニング
発表に先立ち、どうしてその発表をするに至ったかという「イントロ」という時間が各発表者に与えられています。
初級から始める「母語使用ピア・ワーク」から「ピア・ラーニング」へでは、そのイントロで、初級クラスでピア・ラーニングを行おうとしたときに起こりがちな問題点について語っていたのですが、そこからしてもう共感する人も多いのではないでしょうか。
いわく、(1) 協働学習の狙いが学生に理解されないと、学習者に「やらされてる感」が生じてしまい、先生のための授業になってしまう、(2) 学習者間の関係性が悪いと授業にも悪影響が生じる、(3) 評価が難しい。
それらを一気に解決というのは難しいながらも、この発表者の学校では、母語を使ったピア・ワークを行うことで、ピア・ラーニングを実施する下地をつくっているそうです。たとえば、間違いのあるテスト例を配り、それが何点かグループごとに考えます。このとき母語が同じ学習者同士で組ませて母語で相談させます。
このようにグループごとにクイズ番組のように競い合うことで盛り上がるそうです。「初級のうちは正誤があるほうがいい。話し合って『良い学びがあった』というのは上級」という発表者の言葉が印象的でした。
2.企業とコラボした風プロジェクトワーク
大学などで企業や自治体とコラボレーションするプロジェクトワークがありますが、教員のなかには「大学や大手の学校はいいよね、うちにはムリ」と思う人もいるかもしれません。
卒業制作の取り組み 山崎パン「ランチパック」とのコラボ商品の企画・制作の発表者は、実際に企業とコラボするのではなく、そういう演出のプロジェクトワークを実施しました。
卒業を控えた1~3月のクラス活動としてN2相当の学生を対象に16コマ程度。調理やデザインが得意な学生がばらけるように、教師がグループ分けしたそうです。
まったく外部とかかわらないというのではなく、コンビニに調査に行くというワークもあり(先方には教師が事前に根回しする)、依頼の仕方やマナーも学びます。最後は自分たちでパッケージをデザインし、さらに100円ショップで売られている型を使って実際にランチパックのようなパンをつくって、とても盛り上がったそうです。
3.学生が休む理由あるある
真面目な話が続いたところでちょっと一息。昨日どうして休みましたか?は、発表者がこれまでに学習者に言われてびっくりした欠席の理由を披露し、たくさんの笑いをとりました。
「怠けました」「ちょっと元気がありませんでした」といった言葉選びの問題から、「友達と一緒にお酒を飲んでいました」「恋人と旅行に行っていました」という、授業を休む理由としては不真面目なもの、「妊娠しました」「警察にいます」という衝撃的な理由などなど。
旧正月になると親戚が死にそうになる、電話をして休んだ理由を聞いたら急にせきこむなどの「欠席連絡あるある」も。
ただ、この発表はこれで終わりではありませんでした。体調不良と言っていたけど精神的な不調だった、本当の問題点はクラスのレベルが合っていないことだったなど、学生の欠席にはその学生が抱えている問題点が表れていることがあります。欠席した学生とよくコミュニケーションをとることが大切だ、というお話でした。
そのほかの発表
今回は3つの発表にしぼりましたが、ほかにも地方でLT会を開催したレポート、日本語教師養成や面談といった授業以外のことなど、テーマはバラエティに富んでいてどれも面白かったです。
この勉強会の大きな特徴のひとつがコメントシートです。
参加者には、発表者1組につき1枚、今回なら11枚のコメントシートがあらかじめ配られていて、参加者はそこに無記名で感想を書きます。
感想はポジティブなものだけ!
「もっとこうしたらいいのに」という意見は、発表者に伝えるのではなく、自分の学校で生かしましょう、ということになっています。これにより発表者は、今回なら100枚近くのポジティブなコメントといううれしいおみやげを受けとることができるのです。
ちなみに、発表に質疑応答の時間はほとんどありません。これは個人的な質疑応答に時間をさかないためで、もし聞きたいことがあれば、休憩時間などに発表者をつかまえて直接聞くか、主催者につないでもらってあとからメールなどでやりとりします。
最後に主催の及川先生が、発表者が固定してきたことについて残念だとおっしゃっていました。
日本語学校の先生方、ぜひここで発表してみてはいかがでしょうか。※
《取材・文》平井美里(ひらいみさと) ライターとして9年働いた後、青年海外協力隊の日本語教師隊員として、2年間、某国の大学で日本語を教えた経験をもつ。
※「LT会」は開催を休止しているとのことです。
ご興味のある方は、LT会にぜひご連絡ください。
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発表でも登場した『つなぐにほんご』。
学習者が日本語を使って「社会活動に必要なコミュニケーションができる」ようになることを目標としたテキストです。
今後、「日本語教育いどばた」でも詳しくご紹介したいと思います😺
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