新型コロナウイルス感染症と債務不履行責任

1 新型コロナウイルス感染症の拡大に伴い、例えば、機器の配送・設置等の業務に関して、配送先に新型コロナウイルス感染症の蔓延が疑われるなど、受注した業務を行うことが困難であると考えられる場面が想定される。

2 配送等を行う業者は、顧客との間の配送等の業務に関する契約において、不可抗力の場合の免責条項を規定している場合があり、この免責条項において、新型コロナウイルス感染症の影響によることが明記されていれば、当該規定に従うこととなる可能性が高いと考えられる。その一方、この免責条項において、新型コロナウイルス感染症の影響によることが明記されていない場合や、そもそも免責条項が規定されていない場合もあると想定される。

3 これらの場合において、配送等を行う業者は、受注した業務を行うことができず、又は、遅延したときには、債務不履行責任を負うことになるのだろうか。
  いずれの場合も、履行遅滞又は履行不能として、債務不履行責任(民法415条)を負わないかが問題となり、具体的には、業者側に「帰責事由」が存在しないと言えるかが争点になると考えられる。
  この「帰責事由」とは、債務者の故意・過失又は信義則上これと同視すべき事由と解されている(我妻栄「新訂債権総論」105頁)。
  そして、この「帰責事由」の有無は、裁判実務において、個々の取引関係に即して、契約の性質、契約の目的、契約の締結に至る経緯等の債務の発生原因となった契約に関する諸事情を考慮し、併せて取引に関して形成された社会通念をも勘案して判断されていたと考えられている(筒井建夫・村松秀樹編著「一問一答民法(債権関係)改正」74頁)。
  また、より具体的に判断の枠組みを検討するに、債務者の過失について、「取引社会生活上一般に要求される程度の注意(善良なる管理者の注意)を欠いたために違法な結果の発生を認識しえず、したがって、違法な結果の発生を妨げるための適切な措置(結果回避措置)をとらなかった場合をいう。債務不履行についていえば、債務者が右のような注意を欠いたために債務不履行を生ずべきことを認識しないこと、したがってまた、債務不履行を回避すべき適切な措置をとらなかったことである」(奥田昌道「債権総論(増補版)」125頁)とされていることも参考になると考えられる。

4 以上を踏まえて検討するに、例えば、配送等を行う業者が、配送先に物品を届けるだけではなく、設置等の作業を要する場合において、①受注を受けたときには認識していない事情により、配送先の施設に新型コロナウイルス感染症に感染する危険があり、また、②配送先の顧客に対して、新型コロナウイルス感染症に適切な感染防止措置を取ることを要請したにもかかわらず、協力を受けることができなかった場合などにおいては、配送・設置等の業務を履行しないことに関して、業者側に帰責事由はないとして、債務不履行責任を負わない場合もあるのではないかと考えられる。

【執筆者:小室太一】

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?