見出し画像

老猫ケアラーの生活(1)

吾輩は猫のケアラーである。名前は渚。
昔は弾力があってまん丸のお顔だったうちの猫も、10歳を過ぎたあたりから頬骨が目立ち般若顔になってしまった。背骨は猫背の節ぶしまでがわかるくらい、見事に肉が削がれて皮だけに。ここ1~2年で急激に起きたことだ。

原因は胃腸炎。腫瘍の初期段階なのか、単なる胃腸の炎症なのかは現在は不明。近隣の動物病院2軒に行って、それぞれアドバイスと薬をもらって、餌を変えてみたが、一向に体重減は止まらない。

時に下痢や嘔吐。ひどい時は夜中の3時に両方が一度にやってくる。もちろん布団やカーペットの上に吐いたりもするわけで、その後の後始末で1時間くらいかかり、連日の寝不足だ。ゲージに入れていない瞬間に限って吐く!涙!

私には両親もいる。老齢の親たちは田舎で姉夫婦と暮らしているが、彼らの老後の介護もこんなものなのかもしれない。いや、言葉が通じるだけに、これ以上に精神的に過酷な介護が姉たちを待ち受けているのかもしれない。

老猫ケアラーになって半年、倒れそうになりながらそんなことがふと頭をよぎる。しかし田舎の親のことまで手が回らない。そんな元気はない。せいぜいメールで元気か?と送るだけ。まずは目の前の老猫をどうするかだ。

基本は赤ちゃんの乳児期のケアと似ている。毎日ノートに食べたもの、トイレの回数や状態、様子などを記して、1週間分を先生に報告。最初は私は猫親として戸惑っているだけだったが、今では獣医師並みに餌と薬と症状の因果関係を自己分析するようになった。病院ではそれを受けて総合的に判断し、薬を変えたり、餌を変えるよう指示してくる。

近所の動物病院とはいえ、往復のタクシー代で2000円、診察・薬代に3000円弱がかかるので、毎週5,000円がかかっている。血液検査や内視鏡検査、点滴など初期診察と検査では10万円ほどかかった。そのうち保険負担を差し引いて、自己負担は7万円ほど。老猫ケアラー、自分よりも金がかかるのである。

さて、そんな人生の老齢期をどう過ごすのがベストなのか。猫だけでなく、人間もまたそうなるわけで、明日は我が身とばかりに、そのことを毎日考えざるを得ない。周囲には面倒をかけたくないが、孤独に死んでいくのも嫌なのである。

老猫ケアラーになって心身ともに疲労を感じることが多くなったが、1つだけ幸せが増えた。今日はあらゆるケアラーのためにそのことを伝えたい。一筋の希望が見えると、人間は形成逆転、急に強くなれるからだ。

ツンデレとは一般的な猫の形容詞だが、うちの子はツンとはしているが、デレが極めて少ない子だった。ご飯が欲しい瞬間と、真冬の極寒の瞬間だけ、猫らしく甘えてくる。1年で合計5分間くらいだろうか、そんな奇跡的な瞬間は。

甘えてくるから撫でてやると、次の瞬間にはガブリと噛み付いてくるのだ。去勢手術をしていても本能はギラギラと輝いていて、嬉しさや喜びさえも噛みつくことで表現してくる。甘噛みができる器用な猫ではなく、いつもガブリ(涙)。飼い主としては猫DVに恐怖を覚えながら長年生活してきた。

老猫ケアラーになって、食欲増進剤を与えるようになると、その傾向は一層激しくなった。薬の作用で興奮してしまい、足首に否応なしに飛びかかってくるのである。手首のリストカットならぬ、足首のリストカットのような傷だらけの様相で、めちゃくちゃ恥ずかしい。だから夏場もロングスカートしかはけないのである。

しかしながらそれは2日でストップした。薬を16分割にしてもらい、ごく少量にしてもらうことで、何とか老猫DVの被害からは脱することができた。

そんな時、夜寝ていると、お腹に猫が乗ってくるようになったのである!朝起きると、真横に寝ているようになったのである!

そしてトイレに行くと後をついてくるようになり、トイレの扉を開けると思わず踏みつけてしまう場所にお腹を見せてんころんでいるのである!

これは!幼少期にうちの猫がやっていたこと!懐かしい〜!

赤ちゃん猫の時の魂が、老猫の中に再び戻ってきたのか。老猫の中に昔の赤ちゃん猫を再発見できて、老猫ケアラーとしては感涙の連続なのである。

「お前、またこの子の中に戻ってきたのか。そう、そうだったね。生まれた時はいつもママのお腹の上に乗っていたよね」。

「トイレから出た時、何度も踏んづけそうになったよね」

そんな昔の猫の仕草が、なぜか老猫に舞い戻ってきて、過去の幸せな思い出も一緒に頭の中で再生されて、何だかとても嬉しいのである。もちろん老猫はそんなことは知らぬ存ぜぬと、相変わらず般若顔で睨みつけてくるのだが・・・。

私も年老いたら、子供達にこの作戦をやろう。昔の若かりし日々のママを再現して子供達を懐かしくさせる作戦。小さい時のお弁当つくりか、それとも手遊びや歌か、お絵描きか。幼少期の子供達の記憶を、老齢親から再現してみせよう。そして自分の介護の疲れを少しでも癒せるように努力してみよう。そんなことを発見したのだった。続く。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?