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熊使いのマーリィ

マーリィはサーカス団の熊の飼育担当だ。
サーカスの中で、熊のローリィは、マーリィの指示の通りに、手をあげたり、ボールを掴んだり、片足で立ったりする。時には小さな三輪車のような熊用に改造された乗り物にも乗ることができる。
熊のローリィは、マーリィが生まれた時には、もう一緒にいた。ローリィがまだ小熊で、ハンターに撃たれて一人森の中を彷徨っているところを、サーカス団に引き取られたのだ。マーリィの母親がちょうどマーリィにおっぱいをやっていたところだったから、マーリィとローリィはおんなじ母乳を飲んで育ったのだ。

サーカスの舞台の上では、ローリィはマーリィの言うことをよく聞いているふりをしていた。そうしないと、見ている人々がびっくりしちゃうからだ。だけど実際は、マーリィとローリィは対等だった。会話もできる。というか、実際には、ローリィの方がお姉さんだ。よくわかっていて、マーリィがギャンブル好きのボーイフレンドのところに夢中になりそうになったら、首を横に振って、もう一度よく考えるように嗜めるのはローリィだ。マーリィは、ローリィに諭されると、少しムッとするんだけど、基本的には、話を聞いて、考え直すようにしている。

ローリィは本当によくできた熊だった。ある時、妙なウィルスが広まって、サーカス団の公演が開けずに、サーカス団の存続の危機がやってきた時のこと。マーリィは、「ねえ、ローリィ。これから先どうなっちゃうんだろう?」と熊に話しかけた。
ローリィは、マーリィの目をじっと見ていたが、しばらくすると、三輪車を持ち出して、乗り始めた。新しい技の訓練を始めたのだ。
「そうよね、心配してもしょうがないから、サーカスが再開されたときのために、新しい技を練習しておくのがいいわね。」マーリィも一生懸命新しい技の案を考え抜いた。そして、とうとう完成したのだ!

”ミラクルスプレッドスリーサイクルズ!!”

地元のテレビ局が、熊が自粛中に面白いことをやっているらしいと、マーリィとローリィが自主練を重ねる様子を取材にきた。そこで、新しい大技は、披露された。人々は、サーカス団の公演が再開されるのを心待ちにした。

熊のローリィは、淡々と素晴らしい技を披露する。それを見守る観客は、ローリィの姿にいつの間にか見入ってしまい、波立っていた心は和らぎ、悲しみに溺れていた人を地上に上げ、内なる怒りに翻弄されていた人を丸く包むのだ。


〜inspired by〜〜
アンチバーテクス…集団性から押しつけられる個人の使命
水瓶座24度1ハウス終わり2ハウス 情熱に背を向けて自分の経験により教えている男

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