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「眠っていたい。」/ショートストーリー

朝から暑い。
起きたときにすでにぐったりしているのは暑さのせいだけじゃないけど。

ああ。
もっと眠っていたい。
ベットの中は天国のようだ。
ずっとずっと。
ベットでまどろみたい。

みんな。
よく平気で毎日毎日、同じことを繰り返せるんだろう。
私は歯磨きしながら、ぼんやりと考える。

朝起きて。
洗顔して。
歯磨きして。
朝食食べて。
メイクして。
電車に揺られて。
仕事して。
昼食食べて。
歯みがきして。
仕事して。
電車に揺られて。
夕食食べて。
テレビを見て。
お風呂に入って。
歯磨きして。

眠る。

そんな繰り返し。
友達や恋人もいないし。
家族がいる故郷は遠い。

わたしの生活はいつもルーティン。
わたし以外のひとは違うの?
他のひとにはドラマや映画のようなことが起きるの?

生きるってこういうことなの。
意味がわからないのはわたしだけなの?
毎日同じ繰り返しで。
わたしはとっくに疲れ切っている。

明日もいつもと同じよね。
それなら。
わたしは

もっともっと

眠っていたい。

唯一無二のわたしの天国で。
誰もわたしを蹂躙することができない場所で。

それでも。
死ぬまでルーティンのように生きていくのね、わたしは。


「博士。この方、ずっと目覚めないんですね。」
「君は新しくはいったばかりか。」
「はい。この方の担当になりました。」
「肉体的にはどこも異常がないのだがね。ただ。眠っている。目覚めないだけだ。」
「あら。瞼が。」
「ああ。なぜか、ずっと夢をみているみたいなんだ。」
「ずっとですか。」
「アパートで発見された時、ベットで普通に眠っているような状態だった。どんな処置をしても目覚めない。それに。」
「それに。なんなんでしょう。」
「君は彼女が病院じゃなくて何故、この研究センターの一室にいると思う。もう、五年も経っている。彼女はこの研究センターに来て以来、対応しなくてもずっとこのままで生存している。身体の機能は維持されたまま。老化していないからだよ。患者というよりは研究対象だな。」

ああ。朝だ。もっと眠っていたいのに。
今日も毎日の繰り返しが始まるのね。
歯磨きをしながらぼんやりと考える。



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眠れない夜に

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