見出し画像

ハムスターでも人口調整するんだから俺らもそうすべきなんだよ

 人類は、俺達の世代から長く生きることを辞めた。


「おいサガラ! 今日も行くか!」
「良いけど、お前そろそろ残高ヤバイんじゃないのか?」
 俺がヨシオカに聞くと彼は「まだあと二年は残ってる」と笑い声と共に返した。
 あと二年。ヨシオカの余命はあと二年だ。俺はあと八年。八年後に俺は死ぬ。

 この国の平均寿命が140歳を超えてから百年が過ぎた頃、人々はこれ以上長生きする必要が無いことに気付いた。人口は十分過ぎる程に増えて、技術はこれ以上進歩する意味が無くなった。
 繁殖も進化も必要が無くなった人間は長過ぎる寿命を持て余すようになった。それから一世代掛けて法整備と開発を進めて「余命を消費して若返る社会」を作った。俺達は子供を設ける義務や、老いてから襲い掛かる病魔や怪我、長過ぎる老後への不安から解放してくれた社会を有難いものとして受け止めていた。

 会社帰り。俺とヨシオカはいつもの児童公園に行く。道すがら、よく顔を合わす面子と一緒になる。手を挙げて挨拶を交わして、公園の入り口にある改札に、掌紋と組み重なった余命変換統合回路、通称「カロン」を通して入場する。
 途端に俺達は四十過ぎの肉を脱ぎ捨てて、十一歳の心身へと戻る。
「ヨシオカ! トビタ達が西部劇ごっこやってるから混ぜてもらおうよ!」
 声変わりする前と同じ声で俺は呼ぶ。細い腕を振って友達は応える。公園内にある売店でエアガンとBB弾を買って、俺達はお粗末な上にルール無用の西部劇へと飛び込んでいく。少し離れた砂場では俺達と同じような女の子達がおままごとに興じている。どれだけ大声で騒いでも笑っても幸福が途切れない時間を、俺達は此処で過ごしている。
 「長寿が無くなったせいで文化を熟成することが出来なくなった」とか、「世代サイクルが早まった」とか、ずっと前から学者達が喚いている。でも俺達には関係無いことだった。
 死ぬだけの俺達をどうか赦してほしかった。



つづく(798字)

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?