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和歌が「わか」るための百人一首攻略4(大学受験生応援コラム7月)

序詞の3類型


’** 0 はじめに ***

当コラムに目を留めてくださり、ありがとうございます。

本コラムは、高校生や大学受験生の役に立てればとの思いから書かれています。主に大学入学共通テストの国語を素材として、問題の解き方や勉強法のヒントになりそうなことを書いていきます。

先月から、「古文」の「和歌」を取り上げています。百人一首を題材に、和歌を口語訳する練習をしてみよう、という主旨です。


’** 1 百人一首No.51 ***

今回取り上げるのは、熱量高めの愛の告白の歌です。

かくとだに えやはいぶきの さしも草 さしも知らじな 燃ゆる思ひを
藤原実方朝臣

下の句(第四句と結句)は先に訳を完成させておきます。

「さ」は副詞で指示語「そう」「そのように」くらいの意味。「しも」は副助詞+係助詞の組み合わせで強意の用法、訳出しない。「じ」は助動詞で、今回は打消推量の意味。「~まい」くらいが定訳。「な」は詠嘆の終助詞、「~なあ」くらいの訳。

結句は作者の相手に対する「燃えるような恋心」で、末尾に格助詞「を」がついているので、第四句の「知らじな」の目的語と考えましょう。以上合わせると、どうなりますか? ご自分で訳を作ってから、答えをご覧ください。

(答え)そのようであると、あなたは知らないでしょうねえ。私の燃えるような恋心を。


’** 2 序詞の確認 ***

今回のテーマは、和歌の修辞法の一つ、「序詞」です。序詞とは何か? 辞書の説明を抜粋引用します。

「ある語句を引き出すために置く形式的な修飾の言葉。歌の本意には関わらない。5音以上の長い形で、具体的な意味内容を持つ」(小学館『全文全訳古語辞典』より)

まず、「歌の本意には関わらない」ことがポイントです。和歌は詠み手の心情をうたうものですが、序詞は基本的に景色や自然を詠みます。したがって、歌の中の自然景色描写を切り出すことで序詞を確定することができます。

そして、「具体的な意味内容を持つ」ことが二つ目のポイントです。これは、原則として口語訳をしなくてはならないということです。


’** 3 序詞の「おしり」の特徴を知っておこう ***

序詞を切り出すときには、末尾の形式的特徴を知っていると便利です。例とともに3つの形を以下に挙げます。(参考:桐原書店『古文単語315』)

① 比喩(「~のように」と訳す)の格助詞「の」まで

例:【 あしひきの 山鳥の尾の 枝垂(しだ)り尾の 】 長々し夜を ひとりかも寝む(百人一首No.3、柿本人麻呂)

歌の本意は下の句、長い夜を一人で過ごす寂しさを詠んだ歌です。寂しさに山鳥のしっぽなんて関係ありません。【  】部分が序詞で、「長々し」を導いています。「山鳥の、枝のように垂れたしっぽのように長い」と訳します。

② 掛詞の手前まで

例:【 風吹けば 沖つ白波 】たつた山 夜半にや君が 一人越ゆらむ
(『伊勢物語』より)

太字の「たつ」が「(波が)立つ」と「龍田山」との掛詞になっています。この「たつ」の直前までを序詞と認定します。「風が服と沖の白波が立つ、その「立つ」ではないが龍田山を・・・」という感じでここは訳すことになるでしょう。ちなみに、龍田山とは、今の奈良県と大阪府との間にある山で、昔の大和の国と河内の国とを結ぶ交通路でした。

③ 同音反復の手前まで

今回の和歌がこのパターンに該当します。

かくとだに えやはいぶきの さしも草 さしも知らじな 燃ゆる思ひを

二つ目の「さしも」の手前までを序詞と認定します。

ただし、これで序詞のおしりは確定しますが、同時にあたまも確定しなくてはなりません。

これは何となく分かりそうなので、答えを書いてしまいましょう。「いぶきの さしも草」が序詞です。「いぶき」=伊吹山、滋賀~岐阜のあたりにある伊吹山地の主要な山です。「さしも草」はお灸に使うモグサのこと。

かくとだに えやは【 いぶきの さしも草 】 さしも知らじな 燃ゆる思ひを

さて、こうして見ると、「えやは」はどこに着地するのか? という疑問がわいてきませんか?

「え」は後ろに打消表現を要求し、「~できない」と訳す不可能表現を作ります。打消表現って? 四句の「知らな」か? 

いえいえ、違います。これについては、また次回解説を試みることにしましょう。まあ、調べていただいたらすぐにわかる話ではありますが、正解に至るプロセスは若干複雑です。カギは、「やは」という反語表現が握っています。

今回も最後までお読みいただき、ありがとうございました。また次回です。


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