
インド哲学は本当にやばい?わかりやすいおすすめ入門書、解説本をご紹介!
はじめに
「インド哲学 やばい」
驚きました。いや、予想通りの結果か・・・。インド哲学についてのネット検索で多数を占めているのがなんと上の「インド哲学 やばい」というキーワードだったのです。
こうした検索が多い以上、インド哲学に対するイメージというのはやはり「やばい」というのが実際のところなのかもしれません。(調べてみると東大のインド哲学について「やばい」と言われているものがありました)
たしかにインドは摩訶不思議なカオスです。私も2023年から24年にかけてインドに滞在しましたので「やばい」と言われるのもよくわかります。
ただ、それがどのように「やばい」のかと言われますと、これはもう人それぞれの感覚と言う他ありません。これが「やばい」という言葉の欠点でもあります。言葉の適用範囲が広すぎるので一概に「やばい」と言われてもそれが何を指すかは人それぞれの感覚次第。これではこの言葉の指す意味がわかりません。
一般的にはインド哲学はあまりに神秘的すぎて「これにハマると帰って来れなくなる、大変なことになってしまう、変人になってしまう」、そのような意味で「やばい」というイメージでしょうか。神秘の国インドのイメージをそのままなぞった形と言えるかもしれません。
ですが私の実感としては、そういうあまりに神秘化されすぎたイメージというのはインド哲学に本当に当てはまるのか疑問があります。私はこれまで様々なインド思想の本を読みましたが、そこまで「やばい」と言われるような要素は見出せませんでした。神秘的な面はもちろんありますが、それと同時に知性的で明晰な論理がそこに同居しています。つまり「インド哲学=やばい」というのはずいぶんと誇張されたイメージなのではないかと私は感じています。
というわけで、インド哲学、インド思想といってもそれほど怖がる必要もありません。そこには私達の仏教の母体となった思想も含まれています。実際にこれから紹介する本を読めば、きっと皆さんもその面白さを感じて頂けると思います。そしてそうしたインド思想が実は私達日本人の身近にも意外と大きな影響を与えていることにも気づくことでしょう。私自身も驚くことがいっぱいでした。
いい意味でステレオタイプなインド観を覆すことになると思います。
これから紹介する本はインド哲学、思想を学ぶのにおすすめの解説書です。それぞれのリンク先ではより詳しくその本について紹介していますのでぜひご参照ください。
では早速始めていきましょう。
インド哲学のおすすめ入門書5選
1 森本達雄『ヒンドゥー教―インドの聖と俗』


インド、ヒンドゥー教といえば上の写真のような礼拝の儀式を連想してしまう私でしたが、この本ではこうしたヒンドゥー教の成り立ちや思想だけでなく、一般信者の日常レベルでの信仰についても知ることができます。
謎の国インド。同じアジアでありながら異世界のようにすら思えてしまうインドについてこの本では楽しく学ぶことができます。著者の語りもとてもわかりやすく、複雑怪奇なインド世界の面白さを発見できます。「なぜインドはこんなにも独特なのか」ということを時代背景と共に知ることができますのでこれは興味深いです。
私たちからすると複雑怪奇な魔境にも見えてしまうインド。そのバックグラウンドには独特な宗教的事情があります。これは非常に興味深かったです。
他にもこの本ではインドの興味深い宗教事情をたくさん知ることができます。そしてそれらはインドの宗教にとどまらず、「そもそも宗教とは何なのか」ということまで考えさせられることになります。
2 保坂俊司『インド宗教興亡史』

この本はインドの宗教を学ぶ上で非常にありがたい参考書です。
と言いますのも、この本ではインドに多数ある宗教をそれぞれ別個に見ていくのではなく、その相互関係に着目して語っていく点にその特徴があるからです。
インド古代のバラモン教と仏教、ジャイナ教の関係。そこから時を経てヒンドゥー教とイスラム教が力を増す背景とは何だったのか。なぜ仏教は衰退したのか、そしてその姉妹宗教と言われるジャイナ教はなぜ今も生き残ることができたのか。これらを時代背景や宗教間の相互関係から見ていけるこの本は非常に貴重です。宗教は宗教だけにあらず。歴史や文化、政治経済すべてが関わります。この本ではそんな歴史のダイナミズムを感じることができる非常に刺激的な作品です。
3 マーティン・J・ドハティ『インド神話物語百科』

ドハティは単に物語の内容を語るだけでなく、その時代背景や文化の奥深さまで語ってくれます。
「どのような宗教であれ、その宗教を理解するには、その背景となる社会や文化、その文化が形成された歴史を知ることが不可欠である(P13)」とドハティが述べるように、ヒンドゥー教が成立していく時代背景も知れる非常にありがたい構成となっています。
人間には世界の真理を知り尽くすことができない。神話そのものも答えを与えてくれない。だが、「そこには自己認識が存在する」。
この解説に私はぐっと来ました。これまで私は「親鸞とドストエフスキー」をテーマに4年ほど学んできましたが、キリスト教的な世界観では「絶対的な真理などない」という発想はほとんど出てきません。絶対者・創造主である神の存在は自明のものとしてそこに存在しています。しかしインドではそうではなかった。こうした西洋東洋の違いを感じられるのも興味深い点です。
そしてこの本を読んでいると、ヒンドゥー教の死生観や来世観についても知ることになります。当時の時代背景と絡めながらそれらのことを考えていくと、仏教というものがまさに「インドの文脈」から生まれてきたのだということを強く感じることになりました。
仏教の思想やそこで使われる用語、概念がまさにヒンドゥー教の世界から生まれてきたのだということを改めて実感したのです。仏教から遡りインドの歴史や文化を知ることで見えてくるものがある。それを確信した読書になりました。これは面白いです。仏教に対する新たな視点をくれる素晴らしい作品です。
4 上村勝彦『バガヴァッド・ギーターの世界 ヒンドゥー教の救済』

この作品はインドの大叙事詩『マハーバーラタ』の中で書かれるインド最高峰の思想書『バガヴァッド・ギーター』の解説書になります。
この『マハーバーラタ』は『ラーマーヤナ』と並んでインドを代表する二大叙事詩のひとつで、この大叙事詩は現代インドでも親しまれてます
マハーバーラタ?バガヴァッド・ギーター?ラーマーヤナ?
このような固有名詞を聞いてもポカンかもしれませんが、実は現代日本人にとってもこれらは身近な存在でもあります。
皆さんは『RRR』というインド映画を知っていますでしょうか。数年前に日本でも大ヒットした映画です。実はこの映画こそ『マハーバーラタ』と『バガヴァット・ギーター』、『ラーマーヤナ』を下敷きにした作品でもあったのです。
この映画の主人公のひとり、ビームは『マハーバーラタ』に出てくる英雄ビーマから来ています。さらに言えば、もうひとりの主人公ラーマも『ラーマーヤナ』の主人公ラーマから来ています。つまり『RRR』はインド二大叙事詩の合体というインド人の精神表現の極みたる豪華な作品なのです。これには私も胸が熱くなりました!
この「ナートゥ」のダンスシーンは世界中を席巻しました。まさにTHE・インド!インドの大爆発です!最高に熱い映像となっていますのでぜひご覧ください!
さて、話は少し反れてしまいましたが、著者はこの本の中で次のように述べています。
「日本人はいわば「隠れヒンドゥー教徒」であるといっても過言ではありません。そのことを示すことが、本書の目的の一つでもあります。」
衝撃的な言葉ですよね。
ですがこの本を読んでいると、この言葉があまりにリアルなものとして感じられてきます。日本の文化や大乗仏教とのつながりが非常にわかりやすく説かれます。
この本自体は『バガヴァッド・ギーター』という古代インドの思想の解説書ということでなかなか手が伸びにくい作品であるかもしれません。ですがそこは少し見方を切り替えてこの本を仏教書として見てみてはいかがでしょうか。
この本は古代インドやインド思想を知らなくても読めるような作りになっています。また同時に、仏教の入門書としても十分通用するほどわかりやすい作品になっています。これはものすごい名著です。
日本仏教を知る上でも新たな視点を得られる非常におすすめな作品です。ぜひ手に取ってみてはいかがでしょうか。
5 渡瀬信之『マヌ法典 ヒンドゥー教世界の原型』

この本はインド・ヒンドゥー教世界の世界観、生活規範の礎となった『マヌ法典』の参考書です。
この作品は『マヌ法典』の概要をわかりやすく解説してくれる素晴らしい作品です。
インドにおける宗教は生活そのものと一体化したものとなっています。ただ精神的に信仰するのではなく、生活実践そのものとして存在しています。こうしたインドの宗教間、世界観の中で仏教も生まれています。
また、この作品の中でも説かれているのですがこの『マヌ法典』も、仏教やジャイナ教、様々な出家修行者の存在に大きな影響を受けています。いや、より正確に言うならば、互いに影響を与え合いながら思想や制度が生み出されてきました。
私達日本人がインドの仏教を学ぼうとすると、どうしても仏教の側のみからインド世界を見てしまいがちです。ですがインドにおいて仏教はどちらかといえばアウトサイダー側の存在でした。その主流はやはりヒンドゥー教世界になります。
しかも仏教は在俗信者の日常生活にはあまり介入しないという方針を取りました。つまり、仏教徒の日常生活や通過儀礼は相変わらずヒンドゥー教世界の枠組みの中にあったとされています。
そんなインド仏教徒とも共存してきたヒンドゥー教世界の生活規範や世界観を知れる本書は非常に貴重です。インド仏教について考える上でもとても大きな意味がある作品だと私は思います。
さらにインド哲学、インド思想を学ぶのにおすすめの参考書
1 川村悠人『ことばと呪力 ヴェーダ神話を解く』

この本は古代インドの神話を題材に「ことば」の持つ力について考えていく作品になります。古代インドの『ヴェーダ』と言われると何やら難しそうな気がして一歩引いてしまうかもしれませんがご安心ください。インドについて何も知らない方でも気軽に楽しく読めるよう著者は心を砕いておられます。
ことばはその人自身を表します。もちろん、「言葉、言葉、言葉」と言われるように、時には言葉そのものも信用できない時もあります。ですが普段何気なく使っていることばはやはりその人を表すものです。その人の内から現れ出るものがことばだと思います。
ことばというものを改めて考えてみるきっかけとしてこの本は非常に素晴らしいものがあると思います。そして普段接することのない古代インドの歴史や文化も楽しく学べるありがたい作品です。
2 辛島昇・奈良康明『生活の世界歴史5 インドの顔』

この本ではインドの生活レベルの文化や精神性について学ぶことができます。著者が述べるように実際の生活には「本音と建て前」があります。これを無視してどちらかだけを取り上げてしまうと全く別のものが出来上がってしまうというのはたしかに「なるほど」と頷けるものでありました。
本書ではこうした宗教面だけでなく、カーストや芸術、カレーをはじめとした食事、政治、言語、都市と農村、性愛などなどとにかく多岐にわたって「インドの生活」が説かれます。仏教が生まれ、そしてヒンドゥー教世界に吸収されていったその流れを考える上でもこの本は非常に興味深い作品でした。これはぜひぜひおすすめしたい作品です。ぜひ手に取ってみてはいかがでしょうか。
3 服部正明『古代インドの神秘思想 初期ウパニシャッドの世界』

この本は古代インド思想の奥義とも言えるウパニシャッド哲学について説かれた作品です。
そしてこの記事のタイトルにも書きましたように、この本の序盤では古代インド思想とショーペンハウアーのつながりについても説かれます。

これまで当ブログでもショーペンハウアーについて見てきましたが、彼と古代インドのつながりやそれがヨーロッパ社会に与えた影響も詳しく知れたのはとても興味深かったです。
4 立川武蔵『ヒンドゥー教巡礼』

この本はヒンドゥー教の聖地を著者と一緒に旅をしている気分になれる作品です。
この本ではインドだけでなくネパールやバリなどの地も紹介されます。ヒンドゥー教といえばインドのイメージがありますが、実はその周辺国にもヒンドゥー教は信仰されていたのでありました。特にネパールの首都カトマンズでの章は私にとっても目が開かれるような思いになりました。これまでの伝統的な社会の中に急激に現代資本が入るとどうなってしまうのか、著者はそのことについて自身の目で見た世界を私たちの前に開いてくれます。
古くから生き続けている宗教の姿、人々の生活。この本では抽象的な哲学概念ではなく、生身の人間の暮らしそのものを見ることができます。現地の人々と宗教はどのような関係なのか。日本に生きる私達と何が違うのか。そうしたことを考えさせられます。
5 辻直四郎『インド文明の曙―ヴェーダとウパニシャッド―』

「本書はヴェーダの概要を、専門家以外の人に紹介するのを目的とする。従ってこれはヴェーダの研究書ではなく、常識としてのヴェーダの入門書である。」
「ヴェーダとウパニシャッド」といいますと何かとてつもなく難しそうなイメージが湧いてきますがこの本自体はここで述べられますように専門家以外の人にもわかるように書かれた入門書になります。
古代インドの宗教において何が信仰されていたのか、どのように信仰されていたのかということを知ることができるのがこの本です。
特にインド最古の文献である『リグ・ヴェーダ』には現在のヒンドゥー教の源流になったバラモン教の神々がたくさん登場します。ヒンドゥー教になる前のインド宗教との違いを感じる上でもこの本は非常にありがたい作品でした。
6 辻直四郎訳『リグ・ヴェーダ讃歌』

この本は古代インドの根本聖典『リグ・ヴェーダ』の主要な箇所を抜粋した作品になります。
上ではこの聖典のおすすめの参考書、辻直四郎著『インド文明の曙―ヴェーダとウパニシャッド―』をご紹介しましたが、いよいよその本丸の登場です。
『リグ・ヴェーダ讃歌』というタイトル通り、この聖典ではとにかく神々への讃嘆が繰り返されます。
そして上の解説にありましたように、その神々のバリエーションがとにかく豊富です。また、そこに神々のランク付け、秩序があいまいというのが非常に興味深いです。まさに多神教的な世界がそこに繰り広げられます。
その中でも特に興味深かったのが後のヒンドゥー教で主神となるヴィシュヌとシヴァがこの『リグ・ヴェーダ讃歌』では影が薄いという点です。シヴァ神においてはその前身のルドラという名前で登場しますが、古代インドの時点ではそこまで人気のある神ではなかったというのは非常に興味深かったです。

このヴェーダで影の薄かったヴィシュヌとシヴァがやがてインドの宗教で絶大な人気を得るようになっていく。この変化がインド宗教を知る上で非常に重要なポイントとなりそうです。
7 沖田瑞穂『マハーバーラタ入門 インド神話入門』

この本はインドの大叙事詩『マハーバーラタ』の概要を知れるおすすめの入門書です。
あまりに長大なこの叙事詩の全体像を掴むのに本書は非常に役に立ちました。初学者でも安心してその流れを学んでいけるおすすめの入門書です。インドに興味のある方にぜひおすすめしたい作品です。
8 『インド神話物語 マハーバーラタ』

『マハーバーラタ』はインドを代表する二大叙事詩のひとつです(もうひとつは『ラーマーヤナ』)。
この大叙事詩は現代インドでも親しまれていて、ここに出てくる英雄や神をモチーフに多くの映画も作られています。上でも紹介しましたが。最近爆発的なヒットを叩き出したインド映画『RRR』もまさにその一つです。
物語そのものとしても『マハーバーラタ』は非常に面白いです。この物語自体が王位継承争いから発しているということで非常に多彩な人間ドラマが展開されます。そこに呪いや前世からの因縁が絡んだりと、さらにドラマチックで読み応え抜群の物語となっています。
さらに、『バガヴァッド・ギーター』をはじめ、戦争という悲惨な地獄や苦しみ多き人生の中でいかに生きるか、何を求めて生きるべきかを問うてくるのがこの神話です。ドラマチックな神話物語の中に「いかに生きるべきか」という深い思索が込められています。こうした深い思索、「いかに生きるべきか」の知恵があるからこそインドにおいてここまで根付いたのではないでしょうか。
ギリシャ神話『イリアス』もそうでしたが、そもそも物語として抜群に面白い!現代でも多くの人に親しまれているのにはやはり理由があります。インド思想の源流を知る上でも非常に興味深い作品でした。
9 『バガヴァッド・ギーター』

『バガヴァッド・ギーター』はインドの大叙事詩『マハーバーラタ』の中で説かれた、インド思想の奥義と言ってもよい対話篇です。
この作品は『マハーバーラタ』の主人公の一人、アルジュナとその御者クリシュナ(実はヴィシュヌ神の化身)との対話によって成り立っています。
その対話はもちろん『マハーバーラタ』の物語の筋を背景に始められます。『バガヴァッド・ギーター』単独で読んでもわからないことはないのですが、やはりより深く味わうためには『マハーバーラタ』の大筋を知っておくことが必須であると思います。
『バガヴァッド・ギーター』は文庫本で140ページほどとかなりコンパクトです。そして上村勝彦さんの訳も非常に読みやすく、巻末には50頁以上も解説が付されていますのでこれはありがたいです。
上で紹介した『バガヴァッド・ギーターの世界 ヒンドゥー教の救済』と沖田瑞穂著『マハーバーラタ入門 インド神話入門』、そして『マハーバーラタ』そのものと合わせて読めばさらに理解は深まります。
仏教を学ぶ上でもこれは大きな意味がありました。いや、仏教だけに収まらず、宗教、人間そのものにも目を開かせてくれる珠玉の聖典でした。
10 『インド神話物語 ラーマーヤナ』

『マハーバーラタ』と並んでインド二大叙事詩と称えられる『ラーマーヤナ』は主人公ラーマが羅刹王ラークシャに囚われた妻シータを救いに行く冒険物語となっています。
『マハーバーラタ』、『ラーマーヤナ』と二つ続けてインド二大叙事詩を読んできましたがこれは素晴らしい体験となりました。インドの奥深さ、面白さに私はすっかり撃ち抜かれてしまいました。ぜひぜひおすすめしたい作品です。
11 長谷川明『インド神話入門』

この本ではインドの神々をたくさんの図像とともに学ぶことができます。神々の特徴と見分け方を実際にその姿を見ながら学べるのは非常にわかりやすくてありがたいです。
異国人である私たちにはなかなか一見するだけでは区別がつきにくいインドの神々ではありますが、見分け方にはちゃんとポイントがあります。その神ごとに特有の姿であったり持ち物などが必ずあります。見分け方がわかればよりインドの神々への親近感が湧いてきます。
これまで本の文章を中心にインドを学んできましたが、こうして実際に神々の姿をじっくり見ていくというのはとても新鮮で楽しかったです。最初は不気味で本を開くことすらできなかった私でしたが今やこの本は私の愛読書です。ことあるごとに本書を手に取り、「あぁ、これがシヴァの特徴だったな」とそれぞれの神々の特徴を復習しています。これは便利な一冊です。
12 『マヌ法典』

『マヌ法典』は紀元前2世紀から紀元2世紀に編纂されたとされるインドの聖典です。この聖典は今日のインド社会にも大きな影響を与え続けています。
『マヌ法典』は単なる法律書のようなものではありません。『マヌ法典』を読み始めてまず驚くのは、いきなりこの聖典が天地創造の話から始まるということです。ブラフマンという創造主を中心にした壮大な宇宙論、世界観がまず語られ、そこから人はいかに生きるべきか、何を規範とし生活の掟としていくのかが語られていきます。
また、上の『マヌ法典 ヒンドゥー教世界の原型』でも説かれていたのですが、単に生活規範やシステムを羅列していくのではなく、そこにブラフマンという創造主による宗教的権威付けがなされているところにポイントがあります。
『マヌ法典』は仏教やジャイナ教、無数の出家修行者への反論という側面を持った聖典です。仏教が厭世的で欲望を滅する形を理想としたのに対してヒンドゥー教の聖典は現世肯定で願望成就も否定しません。こうしたところにも後にインドで仏教が滅亡し、ヒンドゥー教が繁栄を極める理由があったのかもしれません。
13 カウティリヤ『実利論』

今作の著者(とされている)カウティリヤは実は私達仏教徒にも大きな関わりがある人物です。と言いますのもカウティリヤは紀元前317年に建国されたマウリヤ王朝の祖チャンドラグプタの名宰相として知られた人物で、この王朝の最も有名な人物がこの少し後の時代に登場するアショーカ王です。

アショーカ王はインド全土に仏教を広めたことで有名な王ですが、その王朝はこのカウティリヤの政治力があったからこそインド全土に広がる勢力を持つことができたとも言えるでしょう。
というわけで私達仏教徒にとっても実は繋がりがあるのがカウティリヤなのでありました。
さて、マキャヴェリの『君主論』ではかなりえげつない権謀術数が説かれますが、この『実利論』もかなりのどぎつさです。
本書解説でも「本書の作者は、自国の治安を守り、国力を増強して、他者の領土を獲得するために、君主の採用すべきありとあらゆる権謀術数を説く。なかんずく、本書の随所で展開される諜報活動の実例は、最も注目すべきものの一つであろう。インドの古典において諜報活動は非常に重視され、後代の文学作品においても、スパイを適切に活用できぬ王は非難されている。」と述べられるように、スパイの活用法については特に念入りに説かれます。
この本を読んでいると王族で生まれることが全く羨ましくありません。どんなに贅沢ができたとしても私は謹んでその権利をお返ししたいと思います。ブッダももしかしたらそういう気持ちだったのかもしれません。
『実利論』よりも数百年前ではありますがブッダ在世時にもインド全土は戦国時代であり、弱肉強食の様相を呈しておりました。さらに言えば、ブッダは釈迦族の王子であり、本来は『実利論』で説かれるような権謀術数を用いて国を統治しなければなりませんでした。結果的にブッダはその道を捨て出家者となってしまいましたが、釈迦族はその後大国コーサラ国に滅ぼされることになります。ブッダは生まれた国の消滅を目の当たりにしたのでありました。
また、釈迦族を滅ぼしたコーサラ国ですらその後すぐにマガダ国に滅ぼされてしまいます。ちなみにこの時のマガダ国の王はアジャセという有名な人物です。きっと皆さんも聞いたことがあるのではないでしょうか。
ブッダはこうした弱肉強食、権謀術数の実態を肌身で感じた上で仏教を説いていました。そう考えると、ブッダの平和的な教えがいかに当時の常識から距離があるかを思い知らされます。
「ブッダの説く平和は単なる理想ではないか。現実の前にはそんなものは無力だ。国を治めるというのは綺麗事ではいかないのだ。」
私の中でそんな苦しい思いが何度もよぎりましたが、それでもなお信念を持って教えを説き最後まで生きたのがブッダなのだとしたらやはりそれは偉大なことだと私は思います。
当時の厳しいインド情勢を知る上でも本書は非常に役立つ作品です。
14 『カーマ・スートラ』

私が『カーマ・スートラ』を読もうと思ったのはインドのカジュラーホーがきっかけでした。ここにはヒンドゥー教の寺院でありながら性的な彫刻がこれでもかと残されています。


ですが単に「性的ないかがわしいもの」と侮るなかれ、宗教における性の問題は非常に重要なものを秘めていたのでありました。しかもこれは単にヒンドゥー教の中の話ではなく、仏教もヒンドゥー教の思想を吸収し、タントリズムや密教へと繋がっていくため、こうした性にまつわる思想や実践が現れてくることになります。
『カーマ・スートラ』は単なる好色文献というわけではありません。どぎつい性的表現ばかりと誤解されていますが、それもあくまで男女間の生活の一部分です。男女の出会い、そして共に歩む人生、その全体を含んでの『カーマ・スートラ』です。この法典を読んで男女間における生活規範がびっしり説かれていることに私も驚きました。
上で紹介した『マヌ法典』もまさに生活のあらゆる場面における生活規範を説いていました。そう考えると、ヒンドゥー教世界は日常生活すべてにおいてかなり厳密に規範、やるべきこと、信じるべきことが定められていたのだということになります。もちろん、本音と建て前があるように、そのすべてが厳密に守られていたわけではないでしょう。ですが、生活のまさに隅々までヒンドゥー教の教えが染みついていたのではないでしょうか。
15 渡辺研二『ジャイナ教 非所有・非暴力・非殺生―その教義と実生活』

ジャイナ教は仏教と姉妹宗教と言われるほど共通点の多い宗教です。
この本ではジャイナ教の基本的な教義や成立の背景などをわかりやすく知ることができます。
時代背景と一緒にジャイナ教とは何かを知れるこの本はとてもおすすめです。
ジャイナ教の入門書としてとても読みやすく、仏教の参考書としてもありがたい作品でした。
16 小尾淳『近現代南インドのバラモンと賛歌』

今作『近現代南インドのバラモンと賛歌』は南インドの文化を知るのにおすすめです。インド文化や宗教、歴史についてはデリーなどの北インドやガンジス川流域を中心に語られることが多いです。そんな中南インドのドラヴィダ族、タミル人に着目して文化や社会を論じた本はなかなかに貴重です。
そして本書は宗教賛歌という切り口で南インドの独特な文化を見ていくことになります。
インドの宗教や文化について数多くの本はあれど、南インドの音楽に特化して書かれた本は貴重です。私もこの視点からインド文化を考えたのは初めてのことでとても新鮮な気持ちでこの本を読むことができました。
17 間永次郎『ガンディーの真実―非暴力思想とは何か』

マハトマ・ガンディーといえば誰もが知るインド独立に大きな役割を果たした偉人中の偉人です。
本作『ガンディーの真実―非暴力思想とは何か』はそんなガンディーの思想や人柄、そして社会に与えた影響についてわかりやすく見ていけるおすすめの参考書になります。
ガンディーの有名な「非暴力」は私達もよく知る言葉です。しかしこの「非暴力」がはたしてどういうものなのかというのが実はあまり知られていない、いや誤解すらされている。そんな問題提起が本書ではなされていきます。
特にガンジーの宗教観、そして家庭問題について説かれる第5章、6章は衝撃的です。私も「え?そうだったの!?」と驚いてしまいました。
ただ、この本は単なるゴシップのようなものではありません。ガンディーの思想や人柄を様々な資料によって明らかにしていきます。
18 中村元『古代インド』

この本は仏教学者中村元先生による古代インドの参考書になります。
中村元先生はインド思想研究の古典とも言うべき『インド思想史』を残しておられますが、本作『古代インド』の素晴らしい点は何と言っても、仏教が生まれてきた古代インドの時代背景や気候風土を知れる点にあります。
この本はまずインドの先史時代から始まり、インダス文明、アーリア人の侵入、バラモン教の発展など、仏教が生まれ、衰退するまでの過程を詳しく知ることができます。なぜ仏教は生まれたのか、どのような人にブッダの教えが響いたのか、どのようにして仏教教団がインドに広がっていき、最後には衰退することになってしまったのか、それらの大きな流れをわかりやすく学ぶことになります。
仏教を思想面だけでなく、歴史や文化、民族、気候風土の側面から見ていくことの大切さをこの本では強く感じさせられることになります。
中村元先生は実際に現地でインドを体感した上でこの本を書いています。本を読むだけではわからない現地の雰囲気、感覚を中村元先生は大切にしておられます。インド人が「インドという特定の環境」の中でどのように生きていたのか、その中にこそ宗教や思想を理解する鍵がある。遠く離れた地で文献だけを見ていてはわからないことがあるということを痛感します。
また、仏教がバラモン教やヒンドゥー教の枠組みの中で生まれ、相互に作用しながら生き続けていたことも実感することになります。
仏教の教えや思想を解説する本はそれこそ無数にありますが、それらの思想が生まれてきた時代背景や気候風土をわかりやすくまとめた本は意外と少ないです。この本は私達日本人にとって意外な発見が山ほどある貴重な作品です。これを読めばきっと驚くと思います。
19 F・C・アーモンド『英国の仏教発見』

記念碑的著作、待望の本邦初訳!
「仏教」は西洋の机上で誕生した?
〝異形の教え〟をいかに理解し受容したか、その言説空間に迫る。
今日用いられる「仏教」という概念。それは東洋発祥ではなく、植民地由来の文献を介した西洋による想像と願望の産物からはじまった?
一九世紀ヴィトクリア朝の英国人らによる仏教表象を分析し、称賛と蔑視・偏見・畏怖を交えながら、キリスト教などとは異なる「一つの宗教としての仏教」が構築される過程を、〈オリエンタリズムと宗教〉をめぐる問題系を踏まえつつ解明。
西洋近代の〝仏教創造〟を描いた記念碑的著作、待望の本邦初訳。
私達がインド的なものと思い込んでいたものが実はイギリス支配の産物だった・・・。
こちらの本紹介にありますように、この作品では衝撃的な事実が語られます。以前当ブログでも紹介した『新アジア仏教史02インドⅡ 仏教の形成と展開』でも西洋由来の仏教学の問題について語られていますが、本書はまさにその本丸と言ってもよい作品になります。
インド思想を考える上でもこの本は非常に大きな示唆を与えてくれる作品です。
これは最高に刺激的な一冊です。とてつもない作品です。もうぜひ読んで下さい!きっと皆さんも衝撃を受けると思います!
20 吉村正和『心霊の文化史 スピリチュアルな英国時代』

心霊主義と一口に言っても、降霊会、骨相学、神智学など、その裾野は広い。当初は死者との交信から始まった心霊主義だが、やがて科学者や思想家たちの賛同を得ながら、時代の精神へと変容を遂げ、やがて社会改革運動にまで発展していく。本書では心霊主義の軌跡を追いながら、真のスピリチュアルとは何かを検証する。
19世紀後半のイギリスを席巻した心霊主義。現在では懐疑的な目で見られるこの現象が、科学者や思想家たちの賛同を得ながら、ダイナミックな精神運動として存在していた時代を多面的に読み解く。
心霊主義といいますとオカルトチックで怪しいイメージもありましたが、実は産業革命や世界的な合理主義の流れから生まれてきたという興味深い背景をがありました。
そしてこの本がインド思想において重要なのは、インドの神秘的な教えが当時の西欧人の好みにドンピシャだったことを明らかにしている点です。しかもそうした西欧人に自身の宗教を積極的に売り込んだ東洋人という構図もあったことが明かされます。
私達がイメージする「神秘的なインド」の根っこがここにあったのです。
ここではこれ以上はお話しできませんが、リンク先でより詳しくお話ししていますので興味のある方はぜひご参照頂けたらと思います。
インドの歴史とカースト制度についてのおすすめ参考書
ここからは直接的にはインド哲学の本ではありませんが、インドの歴史やカースト制度などインド思想とも直結する問題についての参考書をいくつか紹介します。
1 山崎元一『古代インドの文明と社会〈世界の歴史3〉』

この本は古代インドの歴史や文化を詳しく知ることができるおすすめの解説書です。
「詳しく知ることできる」というと、難しくて読みにくい本というイメージが湧いてくるかもしれませんがこの本は全く違います。ものすごく読みやすく、わかりやすいです。
そして私がこの本を手にったのは仏教が生まれてくる時代背景を知りたかったからでした。なぜ仏教が人々に受け入れられたのかを知るには、思想面だけではなくそれが受け入れられた土壌も知らねばなりません。当時の人々がどんな社会に生き、どんな生活をしていたのか、それを私は知りたかったのです。
この本はそんな私の疑問に答えてくれた素晴らしい作品でした。
2 藤井毅『歴史の中のカースト 近代インドの〈自画像〉』

この作品ではインドにおけるカースト制度がイギリスによる植民地政策によってより複雑化、固定化されたことを知ることができます。
私がこの本を手に取ったのは当ブログでも紹介した池亀彩著『インド残酷物語 世界一たくましい民』がきっかけでした。
この本では現在でも続くカースト差別の悲惨な実態を知ることになりました。そしてこの本の中で紹介されていたのが本書『世界歴史選書 歴史の中のカースト 近代インドの〈自画像〉』だったのです。
インドにおけるカースト差別は古代インドからありました。しかし現代のカースト差別は必ずしも古代インドからそのまま続いてきたものではありません。
そこにはインド独自の複雑な文化や民族性もさることながら、イギリスにおける植民地支配の影響があったのです。
インドにおけるカースト制はとにかく複雑です。
たしかに古代インドにもカースト制はありました。そしてそのカースト制度を批判していたのが仏教やジャイナ教だったというのはこれまで当ブログでも見てきた通りです。
ですが、そのインド土着のカースト制を一変させ、より強固なものに変えてしまったのがイギリス植民地政策だったのでした。そしてさらに難しいことに、イギリス植民地統治を生き抜くために自分たちのカーストを利用したという、インド人側からの働きかけもあったことをこの本では知ることになります。
イギリスをはじめとした西欧諸国と現地のインド人、その双方向の作用があって現在のカーストに繋がっていることを詳しく見ていけるこの本はとても貴重です。
著者はインドのカースト制度は単純化されて語られがちであるということを本書で指摘していました。この本ではなぜそうした単純化したカースト制が語られてしまうのかを歴史的な背景から解き明かしてくれます。
インドの複雑さを学ぶ上でもこの本は非常にありがたい作品となっています。ぜひおすすめしたい一冊です。
3 W・ダルリンプル『略奪の帝国 東インド会社の興亡』

この本では巨像インドがイギリスの東インド会社に支配されていく流れを詳しく見ていく作品です。
はじめに言わせて言わせて頂きますが、この本はあまりに衝撃的です。読んでいて恐怖すら感じました。圧倒的な繁栄を誇っていたムガル帝国がなぜこうもあっさりとイギリスの貿易会社に屈することになってしまったのか。この本で語られることは現代日本に生きる私たちにも全く無関係ではありません。この本はまさに私達現代人への警告の書とも言えるでしょう。
私はこの本を読んで心底恐くなりました。繁栄を誇っていた国もあっという間に崩れ落ちるのです。日本もかつては繁栄していたかもしれませんが今や完全に右肩下がりの状況です。そして今の混乱。
現代の警告書としてこの本は非常に大きな意味があると思います。
もちろん、インドの歴史やイギリス史に興味のある方にもとてもおすすめです。私もこれまで学んできたこととこの本が繋がり、非常に刺激的でした。まさかアメリカの独立戦争やあのナポレオンまでこの出来事と繋がってくるのかと仰天しました。
世界は繋がっているんだということも知れる名著です。これはぜひおすすめしたい一冊です。
4 森本達雄『インド独立史』

この本はあまりに重いです・・・。この本で説かれるインド苦難の歴史は想像を絶します。
インドのイギリス植民地からの独立といえばマハトマ・ガンディー(1869-1948)を思い浮かべることでしょう。
インド独立のリーダー、ガンディー。私達はガンディーの非暴力や非協力、塩の行進など有名な抵抗運動を単語レベルでは知っています。そして彼の活躍によりインドは最終的にイギリスから独立を勝ち取ったということも私たちは知ってはいます。
ですがその背景で何が起こっていたのか。この本では想像を絶するほど複雑な事態があったことを目の当たりにすることになります。
5 池亀彩『インド残酷物語 世界一たくましい民』

私はこの本に強い衝撃を受けました。僧侶としてショックを受けずにはいられない問題がこの本で説かれていたのです。詳しくはこの記事の後半で改めてお話ししていますが、私にとってこの本はインドという存在を考える上で大きな問題を提起してくれることになりました。
この本は現代インドにおけるカースト制について語られる作品です。上の本紹介にありますように、この本は著者の現地での調査に基づいた貴重な記録です。机の上で文献を読むだけでは知りえない、リアルな生活がそこにはあります。
6 鈴木真弥『現代インドのカーストと不可触民』

本書ではデリーにおける清掃カーストの悲惨な状況を見ていくことになります。
また、この本ではガンジーによる改革の内容や問題点についても考えていくことになります。ガンジーが理想としたインド社会はどのようなものだったのか。ガンジーがカースト制、不可触民についてどのように考えていたのかがよくわかります。ガンジーといえばインド独立に大きな指導力を発揮した聖人のようなイメージが根強いですが、そのガンジーがカーストをどのように考えていたのかというのは非常に重要なポイントだと思います。
データやフィールドワークを中心にした貴重なインド情報を知れるのが本書です。カースト差別を知る上で非常にありがたい作品でした。次で紹介する佐藤大介著『13億人のトイレ 下から見た経済大国インド』と合わせてぜひおすすめしたい作品です。
7 佐藤大介『13億人のトイレ』

この本も衝撃的でした。上の記事で紹介した鈴木真弥著『現代インドのカーストと不可触民』ではデリーの清掃カーストに特化して語られましたが、今作『13億人のトイレ 下から見た経済大国インド』ではより具体的にその悲惨な実態を知ることになります。
『現代インドのカーストと不可触民』ではデータやフィールドワーク、歴史的経緯の解説が中心で全体像を掴むのに最適な参考書となっているのに対し、今作ではそのとにかく強烈な実例が次から次へと語られます。ですのでこの二作をセットで読むことで相乗効果間違いなしです。
この本は新書ながらものすごく濃厚で情報量の多い作品です。現代インドの実態を知る上で最高におすすめの本のひとつです。「トイレ」というなかなかない切り口から現代インドを語るこの本はとても刺激的です。読みやすさも抜群ですいすい読んでいけます。驚くような内容がどんどん出てくる作品なのであっという間に引き込まれてしまうことでしょう。
8 ジェイムズ・クラブツリー『ビリオネア・インド』

2023年に中国の人口を追い越し、経済成長著しい大国インド。モディ首相率いるインドはこれからどこへ向かうのか。今や世界に巨大な影響を与える存在となった現代インドについて知るのにこの本はうってつけです。
『ビリオネア・インド 大富豪が支配する社会の光と影』という書名にあるように、この本ではインドにおける超富裕層をメインテーマに据えてインドを見ていきます。
この本を読んでまず驚くのはインドの大富豪のあまりの富豪っぷりです。世界の富豪ランキングの上位に食い込むような超富裕層がインドで次々と生まれています。

こちらはこの本の冒頭で登場する大富豪ムケーシュ・アンバニの自宅アンティリアです。本書の表紙にもなっていますが、この建物は世界で最も高級な個人宅とも言われています。もしかすると「これくらいのビルなら世界にたくさんあるのでは?」と思うかもしれません。ですが違うのです。このビルの一部が彼の家というのではなく、このビルそのものが個人宅なのです。そう考えるとアンバニの驚くべき富豪ぶりが見えてきますよね。
今インドではこうした超富裕層がどんどん出てきています。彼らは圧倒的な富を手にしていますが、その一方で圧倒的な格差の問題がインドを揺るがしています。
インドでは元々格差が大きいことは知られていましたがここに来てその格差がさらに極端なものになっています。これが現代インドの悩みの種となっています。
ではそんな超富裕層はどのようにして生まれてきたのか、それを見ていけるのが本書になります。そして本紹介にありましたように、その主な理由が政財界との癒着、縁故主義、汚職、賄賂などの不正という、目を背けたくなるような現実でありました。
この本で語られるインドの腐敗は凄まじいです。「これからの世界はインドが牽引する」とメディアなど様々な場所で語られていますがそんな単純にことが進むだろうかと疑問になるほどです。インドの発展がどうなるかというのは全くわかりません。一寸先は闇とはまさにこのこと。このカオスな国の行く末がどうなるか全く想像がつきません。
おわりに
以上、インド哲学、インド思想のおすすめ本を紹介しました。
知れば知るほど面白いインドです。そして実際にこれらを学んだ上で行ったインドは実に興味深いものがありました。
ぜひ読書の参考にして頂けましたら幸いでございます。
以上、「インド哲学は本当にやばい?わかりやすいおすすめ入門書、解説本をご紹介!」でした。
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