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ハッカソンの開き方とノウハウまとめました「NHKハッカソン2022防災編」

参加者の皆さんがネットでアイデアの具現化に向けて一緒に走っていく「NHKハッカソン2022~防災編~」を去年10月に開催しました。

住む場所も年齢も立場も異なる約60人の参加者がネットでアイデアを出し合って具現化する、とても濃密で楽しい2日間。ハッカソンを実現するためにしたこと、課題感などをまとめました。

今年の「ハッカソン」のテーマは「防災」

2021年のハッカソンは「教育」×「ニュース」がテーマでした。詳しくはこちらの記事をご覧ください。

去年の夏まで札幌局で勤務をしていた私、加藤成暁は「北海道スタジアム」という、全道179市町村の人たちがリモートで参加する番組に携わりました。

番組に参加していただいたみなさんがつながって、地域同士のコラボが生まれていく様子を目の当たりにしたとき、地域ごとの課題意識や、「やりたい気持ち」が融合すると、勝手にどんどん話が進んでいくんだな~!と気づきました。

ハッカソンも、「NHKを使って」想いやアイデアをカタチにしてもらおうと開いたわけですが、今回もNHK側で忘れないようにしたのは「どうぞ、NHKのデータを使ってください」と、「まな板の上の鯉」に徹することでした。
そして使っていただく今年のデータは、「防災」としました。

イベント開催に向けた準備や運営については前回と同様、一般社団法人コード・フォー・ジャパンの皆さんにご協力をいただきました。運営は前回メンバーだけでなく入局10年以下の私たち若手のデジタル担当の職員が主体となって準備を進めました。

社会のため、周りの人たちのため、家族のためといった、防災をジブンゴトとして捉えた先に少しでも、「命を守る」ことにつながるアイデアが生まれるといいなと、議論を交わしました。当日のイメージを膨らませながらの作業は、いままでの放送局の業務とは異なり、わくわくが止まりませんでした。

でもほんとに応募があるのか不安でした…

NHKでハッカソン、そしてテーマが「防災」。PR手段はNHKのサイトと公式SNS、そして昨年9月に開催されたイベント Code for Japan Summit 2022で、参加者を募集しました。

こちらはPeatixに出した参加募集です。

NHKのツイッターアカウントでも呼びかけました。

こちらはCode for Japan Summit 2022 の特設サイトと、紹介動画です。

はたして参加してくれる方がいるのだろうかと、不安な気持ちでしたが…

なんと50を超える申し込みが!

チーム一同ガッツポーズ。貴重な休日にも関わらず、ありがとうございました!

「エンジニアではないけれど防災に関心があります。参加してもいいですか?」と勇気を出して参加してくださった方もいました。

エンジニア、デザイナー、中・高・大学生、防災に関心のある方、多様な専門性をもった参加者が大集結。

開催までにしたこと

▽メンバー集め
・運営のコアメンバーは8人(NHK6人+コード・フォー・ジャパン2名)
・エンジニアチーム5名
▽開催までのToDo
・日程確定
・募集要項決定→募集→締め切り→参加者確定
・テーマ決め
・データ提供のための社内調整
・当日のタイムスケジュールの決定
・インプットトークの調整・収録・編集
▽心がけたこと
・参加者にとってのハードルをどれだけなくすか
・いかに使いやすいデータを準備するか

DAY1:オンライン会場で集合!

私(益永)は当日のタイムスケジュールの決定やインプットトークの調整を中心に担当しました。
Code for Japanの方々とも入念に打合せ、リハーサルなども行い当日を迎えました。これが初日と2日目のタイムテーブルです。


ハッカソンはことしもオンラインで開催で、会場はGather.townを利用しました。Gather.townはバーチャルオフィスツールの一つで、アバターを使って気軽なコミュニケーションを実現でき、少人数であれば無料でも利用可能です。

午前11時、全員がログインしたことを確認。
まず会場に集まってインプットトークを聞きます。

スピーカーは3人。
● 「にゃんこそば」さん
オープンデータを使った都市の姿の可視化や、防災、住まいなどについてのTwitterで人気です。

●木村玲欧 教授(兵庫県立大学)
災害時の人の心理や行動、復旧や復興の過程、災害の歴史的な教訓、被災者への効果的な支援、防災教育や地域防災力の向上手法など幅広く研究されています。

●金森大輔 デスク(NHK報道局 災害担当)
金森デスクのnoteはこちら

3人の方からは、防災・減災を考えるうえでの課題やポイントとして、
防災では「わがこと意識」が大事。
角度を変えてデータをみてみよう。
どうやって行動に移してもらうかが課題。
などなど、アイデアを考えるヒントを、参加者にインプットしてもらいました。

「yes, and」で話を広げよう

これが参加者にアイデアを書いてもらう「アイデアシート」です。
まずは現状の課題。
それを解決するために使いたい情報やデータ。
それらをかけ合わせてできるアイデア

みなさん、黙々と記入していきます。

時間は15分。足りなかったかもしれませんが、この段階で30以上のアイデアが生まれました。

このあと、みなさんに並んだアイデアシートを眺めて、参加したいアイデアに自分の名前を書いていき、感想やいいねスタンプも貼ってもらいます。

取り組みたいテーマごとにチーム分けをした結果、11のチームがうまれ、ディスカッションがはじまりました。

そこで大事にしてもらったのが、「no,but」ではなく
「yes, and」
肯定から話を広げていくこと。初対面のメンバーで自己紹介をして、エンジニアもエンジニアではない方もみんな「yes, and」でお互いのアイデアを尊重しながら膨らませていきます。

バーチャルで付箋をペタペタ・・・

自分の経験をシェアしたり、どんなデータがあるのか調べたり、APIをどうやって使うのかなどを考えていきます。メンバー同士で得意なことや苦手なことを確認しながら、役割分担をして作業を進めます。

地震の情報をどう伝えるかあれこれ・・・

ハッカソンには息抜きが大事

ずっと画面を見ていると身体も頭も堅くなってしまいますよね。

ちょっと疲れてきたところで運動場に集合して、NHKハッカソン恒例の体操タイムです。

1日目は「超ラジオ体操」、2日目は「ストレッチマン体操」で体を動かしリフレッシュしました。この記事のトップ画像は2日目で私がストレッチしている様子です。

運動してスッキリしたらチームに戻ってDAY1最後の進捗報告、LT(ライトニングトーク)の準備にとりかかってもらいます。

ここで私たち運営チームは、各チームで困り事がないか巡回して、NHKのAPIの使い方のサポートや、悩み相談にのります。

1日目の進捗報告

1日目の最後に各チーム2分程度の短いLT(ライトニングトーク)を行い、アイデアの方向性や進捗を共有します。

「災害が迫ってきてもどこか遠い感覚で、身近に迫ってきているか分からない」「津波が来たときに車でどうやって逃げるのか」「ペットと一緒に避難できる場所を検索しても出てこない」などの課題が発表されました。

各チームの発表後、Code for Japanの専門家とNHKから、アイデアをよりよくするためのアドバイスや解決の糸口を共有したり、NHKのニュースAPIや災害動画API、ハザードマップなどのデータを用いたプロトタイプの方向性を共有しました。いよいよ明日はプロトタイプの開発と、最終成果報告です。

DAY2:プロトタイプ作りは「助け合い」で

プロトタイプ開発がスタートし、各チーム黙々と作業を進めます。

事務局が様子を見ていると…「デザインができる人がチームにいない。助けて!」の声が。

どこかにデザインスキルのあるエンジニアはいないか?どうする?

「…僕がやってみましょうか」。NHKの若手エンジニアが手を挙げて、チームの一員となって開発を進めていきました。

プロのデザイナーがつくったロゴに「すご~い」と歓声があがる場面もあったりして、1日目のスタートから29時間後、ついに最終報告です。

2日間の成果を一挙紹介!

参加者全員が防災・減災について真剣に考え、NHKのデータを自由な発想で使ってもらい、2日間という短い時間で生まれた11チームのプロトタイプを、すべてご紹介します。

「わがこと防災マニュアル」

課題:防災への意識に地域差がある。災害が少ない地域に住んでいる人にも「わがこと意識」を高めてほしい。
つくったもの:
地域や居住者の属性に合せて、防災情報を調べられる検索サービス

住んでいる地域や家族構成に応じた情報を表示し防災を「わがこと化」します

「ねこにげ」

課題:ペットと一緒に避難できる場所が検索してもでてこない
つくったもの:マップ上でペット避難可能な避難所を検索でき、ペット避難に関するニュースや避難の準備とポイントの記事が読めるWEBサイト

ペットと一緒に避難したい想いに応える情報がまとまっています

「わたしのまちの防災ウォーク」

課題:子供にも危ない場所や避難所を意識してほしい
つくったもの:スタンプラリーやゲーム感覚で「近所の危ない場所」「避難場所」などを確認できるマップ

子どもがマップ「巡り」を楽しみながら、防災について考え、知ることができます

「みんなのためのオレオレ速報ニュース」

課題:テレビニュースはマクロな情報が多いが、実際に行動を起こすにはミクロで身近な情報が必要
つくったもの:それぞれが自分の避難情報・安全情報を登録し共有できる

自分のための情報を整理することが広がることで、他の人のための情報になっていきます

「災害いまどこ?いまどんな?」

課題:自分の身に災害が迫っている実感がわかない
つくったもの:災害に関するニュース数と台風の軌道をマップ上で可視化し災害が迫っていることを体感できる

NHKのニュース記事数と災害の発生度合いを関連付けて可視化し、より実感を持ちやすくします

「MAMORU」

課題:津波が来たときに車に乗っている人の避難を助けたい
つくったもの:現在地の海抜と近くの避難所(想定浸水深)が表示されるカーナビでの実装を想定したマップ

避難所情報と道路混雑情報を提示することで避難の集中を避ける狙いもあります

「アメココン(雨古今)」

課題:ハザードマップで何となくリスクがあることは分かっていても、本当に何が起こるかはイメージできないため避難行動につながらない
つくったもの:気象予報などで知った予想雨量を入力すると、各地域の過去最大の降雨について、降雨量や水位変化、実際の災害発生のタイムラインが分かる

この後自分のいるところがどうなりそうか、を過去のデータから知ることで避難行動につなげます

「ハザログ」

課題:過去に起こった災害を知らない
つくったもの:過去に起こった災害に関する動画を地図上でみられるマップ

MAP上に災害記事に関するもの→黄色、避難所などの情報→緑といったアイコンでどんな対策をすればよいか分かりやすく表示されます

「みんなの避難訓練」

課題:実際に体験しないとわがこと意識がめばえない
つくったもの:LINEで通知が来て、返信すると避難所までのルートが送られて避難訓練ができる避難訓練シミュレーション

学校の避難訓練では取り扱わない「避難所」に実際に足を運ぶことで“じぶんごと”を実感しやすいアプリです

「災害だよ、全員集合!」

課題:どこに避難していいかわからない、避難所には友達もいないし行きたくないという避難へのマイナスイメージ
つくったもの:避難所に友達がいるかわかり、ビンゴゲームもできるサービス

避難所に行くマイナスな感情をプラスに変え、前向きに行動することができます

「ニゲネバ」

課題:災害をわがことと感じるためのトリガーが必要
つくったもの:ニュース速報が入るとスマートスピーカーで避難を呼びかけるサービス

行動を起こすための“音声”はNHK提供のアナウンス音声と事前に吹き込んで置ける家族の声を活用します

オープンデータを進めてほしい

今回初めてハッカソンに参加したという方が参加者の半数以上、そして参加者のうちエンジニアスキルがある人は半数以下、というハッカソン界隈でも珍しいタイプの開催でした。

人生初のハッカソンがNHKハッカソンで満足していただけただろうかと不安な気持ちで感想をお聞きしたところ…

「楽しかった」、「防災の意識が高まった」、「また参加したい」という感想をいただきました。

涙が出るほど嬉しい!

ほかには「もっと早くデータがオープンになっていれば卒論に使いたかった」、「NHKの豊富な防災情報・記事情報がすぐ無くなってしまうのはもったいない。もっとオープンデータ化を進めてほしい」という感想もいただき、NHKの保有するデータの社会的価値の高さを感じました。

住む場所も年齢も立場も異なる参加者同士が、ネットでアイデアを出し合い、具現化する、とても濃密で楽しい時間は、あっという間に終わりました。

「APIが使いやすく、マニュアルも分かりやすかった」と言っていただいた時は運営チームのエンジニア一同、目に涙が浮かびました。
データを誰にでも使いやすい形で提供すること、とっても大切です。

事務局のメンバーです

最後に・提供したデータについて

エンジニア視点でデータについて補足をさせていただきます。

今回参加者の皆さんに「使ってもらうデータ」として9種類のデータを用意しました。

・ニュースAPI
https://www3.nhk.or.jp/news/
・速報ニュースJSON
・全国ハザードマップ(現在はメンテナンス中です)
https://w-hazardmap.nhk.or.jp/w-hazardmap/
・全国の河川カメラ画像
・災害列島特集記事API
https://www3.nhk.or.jp/news/special/saigai/select-news/
・全国の河川水位情報
・災害アーカイブスAPI
https://www2.nhk.or.jp/archives/shinsai/
・NHKアナの「呼びかけ」
https://www3.nhk.or.jp/news/special/suigai/yobikake/
・NHK for School API
https://school-api-portal.nhk.or.jp/

参加者の皆さんの想い・アイデアを実現するために9のデータと国、地方、自治体などが提供しているオープンデータが組み合わさり、素晴らしいアイデアがたくさん形になりました。

その様子を見ているだけでもとても楽しく、そして「データを使ってもらう」ことには価値があることを確かめられた2日間でした。

データを使い、考え、作る、という経験をした参加者の方からは、参加する前よりも防災がジブンゴトになった、という声もいただきました。

私たちの取り組みが、ちょっとでも「社会の命を守る」ことにつながっているとうれしいです。

ハッカソンが誰かの想いをカタチにする一つの方法であること、これを確かめられたことが大きな収穫です。

ただ、誰かの想いをカタチにすることができましたが、そのカタチをまた違う他の誰かに活用していただくカタチには、まだなっていません。

今後もテーマを変えたり、地域や学生のみなさんと一緒に小規模で形式を変えたりしてイベントを進めていき、社会でデータが使われてカタチになり、そしてさらに誰かの想いをカタチにする手助けをする…こんな流れができないか、答え合わせを続けたいです。

「公共性に富む社会的価値の高いコンテンツやデータ」を「社会に利用されやすい形で公開すること」

目標はここです。NHKの経営計画にもある「社会への貢献」を達成するためにも、ちょっとずつですが、私たちも努力を積み重ねて行きたいと思います。


加藤 成暁(かとうなるあき)

 2016年入局。放技局クロスメディア部→札幌局技術部→メディア開発企画センター。2022年4月に技術職からデジタル職へ。趣味はサッカー観戦、カタールW杯の時期は寝不足でした。

益永 恵里花(ますながえりか)

2018年入局。山形放送局→青森放送局→人事局。2022年4月に放送事業のマネジメント職からデジタル職へ。趣味はサウナ、今年の目標は手作りでサウナ小屋をつくることです!

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