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天穂のサクナヒメ|ゲームの遺伝子解析記録vol.8

第8回「ふるさとの作り方~天穂のサクナヒメ~」を担当したディレクターの坂上祐一と申します。突然ですが、皆さん、この『ゲームゲノム』という番組、何歳くらいの人たちが作っていると思いますか?実は、多くは20代のディレクターです。(もしかしたら想像通りかもしれませんが…)そんな中、わたくしはというと、、、40代、いわゆる昭和世代でございます。それに正直申し上げると幅広いゲームソフトを知るわけでもありません。そんな私ですが、“新たな番組を作ることには興味津々、その気持ちは他のディレクターたちと同じ…いや負けていない!”という思いから始まりました。

さて!ここでは、番組ではお伝え出来なかった制作の裏話などをお届けし、「そうだったのか!」「ならばもう一度見てみよう!」と、皆さんを(ぶっちゃけ)「NHKプラス」の見逃し配信へ誘導すべく、私のゲームゲノムライフを振り返ってまいります。もちろん既に番組をご覧いただいた方にも楽しんでもらえるお話ができればと思いますので、しばしお付き合いくださいませ。

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“異色の〇〇ゲーム”サクナヒメとの出会い

他のディレクター陣と比べて「若さ」と「ゲームへの知識」という点で大きく劣る私は、まず、雑誌資料を保管する、とある老舗施設へ足を運び、どんなゲームがあるのか、そしてどんなゲームクリエイターが世の中にいるのかを探ることにしました。番組作りはたいていこうした地道なリサーチから始まります。すると、パソコンの検索履歴には、わたしでも聞いたことのある、何年も続く名作シリーズから新作ゲームまで、様々なタイトルが。その後、コピーした雑誌記事を読みながら、『さて、どんな作品を取り上げようか』と、考えたのですが、わたしには正直ピンときませんでした。言葉にはしづらい運命的な…いわば「縁」のようなものを感じなかったのかもしれません。

そこで、再びパソコンに向き直り、わたしはキーワードに「異色」というワードを打ち込みます。すると「異色の米作りゲームがブームに!」との記事がヒット!「何か面白そう」「これなら番組に出来るのでは?」という思いが沸き上がりました。長年、番組作りをしてきたカンです。会社に帰ってさらに調べると、敵を倒して強くなるのではなく、「米を作って強くなる」という斬新なコンセプトを持つアクションRPGのようで、特徴である“米作りパート”がかなり本格的とのこと。JAが「うちの冊子を参考にしてほしい」とツイートしたり、農水省のHPへのアクセスが急激に伸びていたり、さらに発売当初は、売り切れ続出で「令和の米騒動」と呼ばれるなど、話題は満載というではありませんか。まさに“異色の米作りゲーム”…俄然がぜん興味がわきました。企画会議でも「面白い!」となり、すぐに取り上げることが決定!これが私と「天穂のサクナヒメ」との出会いでした。

画像 農業関係者が攻略のヒントを教える
画像 令和の米騒動

“フトコロは寒い”が、魂はアツい!!

番組作りは、決してひとりでは出来ません。様々な方の協力があってこそ。それは、どの番組でも変わりません。ただ、この番組において、本作を手掛けたクリエイターの「なる」さん、「こいち」さんには、とても感謝しています。改めてこの場を借りてお礼を申し上げます。

画像 ゲームクリエイター なる こいち

そんな二人の第一印象が今でも忘れられません。某月、作品をご紹介することにノッていただくこと、そして可能ならばスタジオ収録に参加してもらうべく、お二人にアポイントを取りました。さらに、事前に番組(『デス・ストランディング』2021年に放送したパイロット版)をご覧になっていただいた上で、最初のオンライン打合せでのやり取り―。

私  「番組にご出演いただきたいのですが!」
こいち「小島秀夫監督が出てる番組ですよね、、、それと同じ席に座るんで すか、、、?」
なる 「いや~、俺らで良いんか?って感じですね」


※小島秀夫…「メタルギアシリーズ」「DEATH STRANDING」などを手掛けたゲームクリエイター。

この番組に出演するのは、彼らいわく「ゲーム界のレジェンド」と言われるクリエイターばかり、というイメージがあったらしいのです。(この時はわたしも正直、分からなかったのですが、、、)とにかく謙虚で、何とも味のある二人のキャラが印象的で、『こういう方たちなら「ゲームゲノム」の中でも独自の雰囲気を持つ面白い回になるはず』とまたまた、長年のカンを感じてしまったのです。

レジェンドクリエイターに恐縮していた二人ですが、ゲームづくりへの執念は、誰にも負けないという自負も感じました。勤めていたゲーム会社を辞め、個人事業主として活動していた二人は、いわば、「家でゲームを作っている」ようなものだったそうです。当然、制作費は決して潤沢ではなかったはず…。それでも彼らを突き動かしたのは、ゲームクリエイターとしてのアツい思いだったのです。米作りパートの細部を丁寧に描くために、全国各地(京都、岐阜県白川郷、日光、千葉、茨城、山形など)の田んぼや農民具資料館を取材して回り、“米作りとは何か”を徹底的に分析したそうです。ちなみになるさんは、奥さんと旅行に行ったときも取材の写真を撮りまくっていたら、叱られたこともあったんだとか。制作期間も5年半もかけたそうで、ホントにすごい執念だと感じました。

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そんなお二人のお話…番組をご覧になっていかがだったでしょうか?スタジオではシナリオを担当したこいちさんのトークが多くなっていますが、実は、グラフィックやプログラムを担当したなるさんもかなりこだわりが強い方でした。例えば、サクナヒメの世界観―田んぼの風景やプレイヤーの拠点となる「住」の縁側の様子(キャラクターたちが生き生きと暮らしている雰囲気が実に味わい深いのです)などは、なるさんが子供のころに訪れたお父さんの実家の景色・徳島とも重ねた部分が多いそうです。今では、誰も住んでいないそうですが、サクナヒメの企画を考えるためにわざわざ訪れたそうです。私は、テレビディレクターとして冒頭書いたようにリサーチから始め、お二人へのインタビューなど取材を重ねたわけですが、ゲームクリエイターもこうしたいわば“地道な取材”によって表現したい世界を創り上げている…お話を聞けば聞くほどお二人への親近感もわいてきました。

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ゲームが下手でも上手く見える!

番組では、本作の唯一無二の要素である「米作りパート」やそのプレイ体験があるからこそのジーンとくるストーリーをご紹介し、“ふるさとの作り方”に思いをせました。ただ、本作はダンジョンを攻略し、鬼退治をするアクションパートもすごく面白いのです。高低差のあるフィールドは探索していているだけでワクワクしますし、“羽衣アクション”というサクナヒメの神様の力を生かした軽快なテンポの移動が気持ち良いんです(ちょっと前まで神様の世界でぐうたら過ごしていたとは思えないほど俊敏に動くサクナヒメ…何者?と思いましたが 笑)。さらに、鬼退治も意外と(?)歯ごたえがある作りになっています。雑魚敵たちは動物の姿をしていたりと、ちょっとかわいらしくもあるんですが、結構容赦ないです。

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でも、「米作りパート」で手塩にかけて作った米の力と仲間たちの協力で何とか強いボスを倒せたときは、これまた気持ち良い!(仲間たちの存在が、いかに大事か―は是非番組をご覧ください)そんなアクションパートで、なるさんがこだわっていたのが、まさにキャラクターを気持ちよく動かせるレスポンスの良さ・操作のテンポ感、など、いわゆる「手触りの良さ」です。このアクションゲームとしての面白さ(そして、開発者たちのこだわり)が粒だっていなければ、本作はここまで話題にならなかったかもしれない…そう思うくらい、「米作りパート」も「アクションパート」ものめり込んでプレイしました。おかげで(?)実際にゲームがまぁまぁ下手な私がプレイしても、敵を倒すシーンはそこそこ上手に見え、番組でもサクナヒメをかっこよく描くことが出来ました。

ゲーム画像 作った米で強くなる

モノづくりは面白い!

最後に、収録が終わった後に印象的だったことについて。あまりテレビに出られることもないクリエイターのなるさん、こいちさんでしたが、MCの三浦さん、ゲストの山里さんのトーク力にも引っ張られてか、掛け合いもばっちりだったと個人的には思っています。

スタジオ画像 なるさん こいちさん

なるさん、こいちさんに、収録の感想を聞くと…

なる 「モノづくりって本当にすごいなぁと感じました。米作り、番組作り、音楽作り、、、ホント尊敬です。僕もまた、ゲーム作りたくなりました。」
こいち「僕らは基本的に裏方の人間なので、制作現場の人たちの動きが気になりましたね。照明さんの明かりの当て方とか、背景の色とか、勉強になりました」

自分たちの作品の特集なのに、最後まで謙虚なお二人でした。ちなみに、お二人が注目してくれたスタジオの照明…「ゲームゲノム」では作品のイメージカラーを各ディレクターが考え抜いて、毎回背景の色味を変えています。私が今回照明さんに表現してもらったのは、“収穫期を迎えた稲穂の黄金色”。

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温かい雰囲気に包まれたスタジオで、まさに実りある収録になりました。そして、私も今回の番組作りを通して改めて、「モノづくりは面白い!」と実感できました。ご協力いただいた皆さん、そして番組を見てくださった視聴者の皆さん、本当にありがとうございました。ゲームゲノム、第8回、天穂のサクナヒメは2022年12月14日23時28分まで「NHKプラス」で見逃し配信をしています。

画像リンク NHKプラス 見逃し配信のご案内

ディレクター 坂上祐一

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