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どんな環境でも、もう無理だと思っても、きっと活躍する道はあるはず。“ロケカメラマンを諦めない”わたしからあなたへ

これまでドキュメンタリーのカメラマンとして番組制作に関わってきた私は、4年前に出産し、1年の産休育休を経て復帰しました。
「どんな環境でも、もう無理だと思っても、きっと活躍する道はあるはず」
そんなエールを込めて作った番組についてお話させてください。

“カメラマン”の道を諦めない

はじめまして。ハートネットTVや“家族”がテーマの特集番組などの撮影を担当してきた駒形です。
2020年に職場復帰してからもうすぐ丸3年。
現職場に子育てをしながらカメラマンとして現場に戻っている女性の先輩はおらず、まさに暗中模索の日々でした。

ディレクターや職場の理解、そして何より家族の協力を得ながら、今では3泊4日の出張が2か月間で5回実現するなど、仕事面でチャレンジをしつつ、家庭とのバランスが取れるようになってきました。

カメラマンという仕事は、スケジュールのコントロールが難しい面があります。取材先の都合に合わせて撮影させていただくため、時間は流動的です。
長期で密着させてもらう現場では、事態が変化したときに急きょ撮影に向かうということもあります。

また、撮影現場は日本中、さらには世界中であるため出張が多いという面もあります。

番組のテーマにもよりますが、ロケが始まると2週間から数か月の間スケジュールが読みづらくなります。出産前は、1か月のうち自宅に帰ったのが数日だけというときもありました。

子育てを担いながらカメラマンとしての仕事を両立することは簡単ではなく、復帰直後は今までのように仕事を最優先にできないことや、メキメキと経験を積み実力をつけていく同期や後輩を横目に悶々もんもんとする日々もありました。

一方で、カメラマンはとてもやりがいのある仕事です。

家庭を大切にしながら“カメラマン”という道を諦めないでいたい。

そう考え続けた3年でもありました。
番組の撮影をするということは、各地を移動し、多くの人に出会い、学ばせてもらい、価値観に刺激をいただく機会に恵まれるということ。
人に会って初めて感じることや心動かされることがたくさんあります。

悔しい思いも、達成感も、取材相手の一番近くでともに共有させてもらいながら、相手の人生を考え一緒に笑ったり悲しんだり怒ったりする、人生に少しだけ伴走することができる仕事です。

カメラマンは、「伝えたい」という“思い”を映像化する仕事であり、そのために全力を尽くす存在です。

その道を諦めないでいたい、という気持ちと共に、出産・子育てを経て新たな視点を得た今だからこそ、撮れるものがあるかもしれないとも感じています。

エールを込めたい

出産前から考えると、担当できる番組の数はぐっと減りました。
それでもまわりの協力を得ながら自分のできるペースで撮影を続けています。

「低空飛行でも良いから続けることが大切」

復職後折にふれて耳に入ってきた言葉に励まされてきました。
私と同じように、理想と現実の狭間はざまで働き方などについて悩んでいる人はいるのではないか。
「どんな環境でも、もう無理だと思っても、きっと活躍する道はあるはず。」
そんな思いを伝えたいと企画を提案したのが「にっぽんカメラアイ」でした。

日本全国のNHKカメラマンが企画、制作する5分の番組で、不定期に放送しているシリーズです。

この番組を、子育てや介護、その他の環境変化によって同じように葛藤を抱える人へのエールを込めてつくりたいと思いました。

白戸さんとの出会い

「人もモノも、カタチ・役割をかえながら活躍し続けることはできる」というテーマを設定し、そのことを表現する方法を探りました。
その中で、新聞紙からとても美しいバッグを作り出す白戸啓子さんに出会いました。

画像 新聞エコバッグ
画像 白戸さん

情報を届けることが役割であり白と黒のイメージしかない新聞が、こんなにも美しくアート性のあるものに変身していることに驚きました。
まさに、新聞はその役割をかえ、さらなる輝きを与えられているのです。

白戸さんは、3年前に埼玉県ときがわ町に移住されました。
現在は、野菜をつかった料理レシピの考案・伝授、そして新聞エコバッグのワークショップの主宰として活躍されています。

20年以上勤められた大手小売り会社を退職され、40代後半で起業されたのです。その後、ご自身の出身である青森県鰺ヶ沢町の環境に近いときがわ町に出会い、移住を決断されました。

ご自身のキャリアを大転換し、自分の理想の生活を求めて、楽しく自分らしく生きていらっしゃる白戸さんに衝撃を受けるとともに、飾らず自然体で生きることを楽しんでいる白戸さんがとても魅力的でした。

「新聞エコバッグも料理も自分がやりたいからやっているだけ」と言う白戸さんの手は厚みがあり、多くのシワも刻まれた、まさに職人の手。
ご自身が楽しいからと続けていることの先には、よろこんでくれる人の顔があり、人を想って手を動かされ続けているのだと思います。

自分に素直に、楽しく生きることが、素敵すてきな作品と人とのつながりを生む。そのことを体現されているような方だと感じています。

画像 白戸さん

今回はあえて“人”ではなく、“モノ”にフォーカス

白戸さんの魅力や、起業・移住などによってご自身がまさに輝きを増している、白戸さんの生き方を番組の軸とすることも考えました。
しかし、人が主役になると、「この人すごい」「この人だからできたのではないか」という白戸さん自身の物語になってしまいます。

視聴者が自身の状況に置き換えて、自分自身の可能性をもっともっと感じられるような番組にしたい。
そのために、今回はあくまでも“変わっていく新聞紙”にフォーカスすることにしました。

新聞紙という“モノ”が新たな姿に生まれ変わり、新たな役割をもち輝く姿を届ける…番組のタイトルは「姿あらたに」に決めました。

画像 新聞エコバッグ

とはいえ、新聞紙自身の力で美しいバッグに変身するわけではありません。そこには、白戸さんという”人”が関わり、その人の発想とスキルをもって生まれ変わります。

新聞バッグが製作される過程で垣間かいま見える白戸さんのお人柄や思想を大切にしつつ、新聞がもっている潜在的なポテンシャルを感じてもらうことで、どんな人にも、どんな環境にあろうとも、考え方と創意工夫によって、より活躍する道はある!というメッセージを込めたいと思いました。

画像 新聞エコバッグと少年

こだわったカット

「にっぽんカメラアイ」はカメラマンが制作する番組であり、どんな映像で表現するのかも腕の見せ所です。
そこで、今回私がこだわったカットについて紹介します。

その①

平面の新聞紙が立体的なバッグに生まれ変わるということを印象的に撮影したいと、撮影前から考えていました。
その変化を効果的に表すことができる撮影手法としてタイムラプスを選択しました。

一定の間隔で撮影した静止画をつなぎ合わせて動画にする撮影方法です。
白戸さんが1つの新聞バッグを作り上げるのにだいたい40~60分ほどかかります。
その時間のなかで起こった新聞紙の変化を数十秒という短時間の映像で表現することが可能になります。

静止画を撮影していく間隔や、ミリ単位でポジションを変化させていく特殊機材なども用いて、最適な映像を撮影するためのテストを重ねました。
そして白戸さんのご自宅で、さらに、白戸さんにNHKのスタジオにお越しいただきタイムラプス撮影を実施したのですが…結果的に編集のなかでふるいにかけられ、完成した5分の番組内にタイムラプス映像は1カットも登場しませんでした。(泣)

編集マンの佐々木さんからは、「タイムラプス映像だと、つくっているときの感情が読み取れない」というご感想。

タイムラプス映像で折り上げられていくバッグは、とても作業的であり、無機質であり、白戸さんの手のぬくもりや人をおもってつくっているその感情が希薄になってしまったのです。

撮影者としてこだわって撮影した映像。しかし編集室に入り5分という尺の番組を組み立てていくときにはハマりませんでした。
映像の面白さだけではなく、そこにどれだけの意味を埋め込めるのか。
撮影するうえで重要なことを改めて学び直しました。

画像 撮影の様子

その②

番組が始まってから1分30秒あたりの、カラフルな紙面がパラパラとめくれていくカットです。
白戸さんがカラフルな新聞紙を色ごとにファイリングして保存している部屋、通称"新聞ストック部屋“で太陽光が入り込む良い時間帯に撮影させていただきました。

ふだん撮影を担当しているドキュメンタリー番組のロケは、ディレクターが取材しテーマを設定して構成を考えたところに、カメラマンとしてあとから仲間入りします。

基本的には事前の下見などはなく、取材させていただく方に初めて会う日が撮影初日になることがほとんどです。初見でありすべてが新鮮。

ディレクターと事前に確認しているテーマや方向性に沿って、現場に入ってからはテーマを深堀できるような出来事はないか、もしくは、本当にそのテーマを描くことができる現場なのかなど五感を研ぎ澄ませて観察・撮影をしています。

しかし今回は私が取材から撮影までを一人で行います。
事前の想定から大きく飛躍するのは難しい面もありました。
しかしその中でも通常のロケと同様に現場で発見して撮影したカットもあり、そのひとつが先ほど挙げたカラフルな新聞広告面のカットでした。

新聞ストック部屋で新聞紙を広げながらバッグに使用する面を説明してくれている際に、白戸さんが思いがけずパラパラと新聞紙をめくって見せてくれたのです。

次々に色鮮やかな紙面が現れる様子を見るのはこの撮影時が初めてであり、新聞紙のあまりの鮮やかさとその綺麗きれいさに感動しました。

白戸さんが何年もかけてストックした美しい新聞紙たちを印象的に撮影することで、白戸さんのこだわりの象徴となるうえに、視聴者にもこの美しさに共感してもらえるのではないかと思い、後から“抜き”(撮影の流れの中で撮るのではなく、後からサイズやアングルを変えて詳細に撮影すること)として撮影したカットでした。

撮影現場で自分自身の心が動かされた瞬間を記録し、それが一人でも多くの人に番組を通して伝わったとしたらとてもうれしいことです。

画像 色鮮やかな紙面

すべては最善につながる

白戸さんを取材させていただく中で私が一番共感した言葉は、
「すべては最善につながる」という考え方です。
新聞エコバッグを作る際、一度付けた新聞紙の折り目をほどく時があります。

一見すると後退に見えるこの工程。実はバッグを完成させるための下準備であり、すべての工程に意味があることを教えてくれます。

白戸さんのこれまでの人生もまさにそうだったと教えてくださいました。
失敗や苦難、すべては無駄にはならないと。

私自身振り返れば、仕事と育児のバランスで悩み葛藤した過程があったからこそ、今回の番組のテーマを考え白戸さんに出会い番組制作をすることができました。

その時には悩みの渦中にいて、その意味を見いだすことができなかったとしても、いつかきっと最善につながる。
そう思えると踏ん張れることもたくさんありそうな気がします。

自分が「好き」だと思うものを貫き、自分に素直に楽しく生きることが、どんな環境にあっても活躍し続けられる秘訣なのかもしれない、と白戸さんとの出会いを通して感じています。

番組の放送は、BSプレミアム3月6日(月)午前11時10分~です。

駒形明子
2011年入局。
近年担当した番組は「カノン家族のしらべ」、「カラフルファミリー」、Zの選択「#ありのままは好きですか」、「ハロー!生理」、ハートネットTV「命が大丈夫であるように」、ドキュメント20min.「この素晴らしきぬいぐるみとの日々」、あさイチ「特集・性暴力」、カラフル「さなのハッピー美容室」、ハートネットTV「私は何者~AIDで生まれたこどもたち~」など

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