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”楽しい給食”ってなんだろう?小学生とラジオ番組作ってみた

「黙食」
…つまり、黙って食べること。コロナ禍での生活様式の変化の一つですが、学校給食においても、例外ではありません。
私の住む富山県の小学校では、今も基本的にどの市町村でも黙食が続けられているそうです。

こんにちは、NHK富山放送局アナウンサーの大木です。
私たち富山局では、コロナ禍の中、味気ない給食時間を楽しく過ごしてもらえるよう、4月から県内の小学生に向けた新たな県域ラジオ番組をスタートさせました。その名も…

画像 きときと!スクールライフ 放送案内

原則、毎月第4金曜日に、富山県内の小学校と給食中に中継を結んで生放送。子どもたち自らが“きときと”(=富山弁で“新鮮”)な学校生活を紹介するコーナーや地元の朗読家が富山弁で名作文学の冒頭部分を朗読するコーナー、子どもの質問に専門家が答えるNHKラジオの人気番組『子ども科学電話相談』とのコラボ企画など、「子どもが主役」がコンセプトです。

パイロット版も含めると、子どもたちと一緒に作る生放送は今月ではや8回目。回を重ねるにつれ、黙食が終わったとしても続けていきたいと思うようになりました。
そんな、“みんなで作る”このラジオ番組ができるまでのお話です。

コロナ禍、“楽しい給食”に貢献するために

番組の開発が始まったのは、昨年の夏。
富山局では、2022年度の局舎移転をきっかけに、「10年後のNHK富山をデザインすること」を目指して、昨夏からさまざまな取り組みを進めています。そのうちのひとつが、私の提案をベースにした県域ラジオ番組の改定でした。

提案のきっかけになったのは、ふと目にした富山市教育委員会の調査結果。これは、コロナ禍での子どもの生活環境や体調を把握するために行われたもので、小中学校の給食の食べ残しが増えていることが記されていました。

具体的には、2020年11月に調べたところ、小学校では、2019年の同じ時期と比べて、主食が1.5倍、おかずが2.3倍、食べ残しが増えていました。

グラフ 小学校11月 残食調査結果

また、この調査を受けて行ったアンケートでは、食べ残しが増えたと答えた小学校が挙げた理由のうち、「感染症対策の影響」が6割にのぼっていて、「コロナ禍における『楽しい給食の在り方』を考えていく必要がある」と結ばれていました。

『楽しい給食』…本来、多くの子どもたちにとって、給食は楽しい時間のはずです。私も、小学校のときは、クラスメートと机を向かい合わせにし、おしゃべりしながら、楽しい時間を過ごしました。大好きなカレーライスの時には、クラスメートと競い合うようにおかわりをしたこともよく覚えています。
しかし、この調査結果を見て、コロナ禍の今、給食時間の過ごし方が様変わりし、『楽しい給食の在り方』が求められている現実にがく然としました。

そこで、「放送で『楽しい給食』に貢献できないか」、また、「10年後、20歳前後になる今の子どもたちの力になることは、10年後のNHK富山をデザインすることにつながるのではないか」と考え、これが給食時間の番組提案の第一歩になりました。

どうしてラジオ?

ちなみに、ラジオ番組を提案したことにも理由があります。コロナ対策上、テレビよりスタッフの人数の少ないラジオの方が、小学校側も受け入れやすいのではないかと考えたからです。
また、子どもたちがラジオに触れる機会を作りたいと思ったことも理由のひとつです。ラジオは災害時頼りになるメディアの一つですが、日常的にラジオに触れている子どもたちはかなり少ないのが現状です。

実際、NHK放送文化研究所が行った「2021・2022年全国放送サービス接触動向調査」の結果によると、今の子どもたちの90%以上はラジオに接触していません。これでは、いざという時に、ラジオを活用してもらうことができないかもしれないため、ラジオに触れる機会を作ることも大事だと考えたのです。

こうした考えをもとに新たなラジオ番組を提案した結果、実現に向けて動き出すことになったというわけです。

まずは教育委員会!

この番組を実現させるためには学校現場の理解と協力が不可欠。そこで、まず県内15市町村の教育委員会すべてに連絡を取り、番組企画を説明しました。そして、小学校長会の場で周知してもらったり、特別に参加させてもらい直接協力を呼び掛けたりした結果、趣旨そのものには理解してもらうことができました。

ただ、学校によって状況が異なり、思い描く番組の姿もバラバラ。
「どんな番組なのか?」という番組内容についての質問のほか、「生放送だと、やりとりが心配。子どもたちが答えに窮してしまうようなことはないのか?」、「リハーサルなど放送前に、どのくらい時間がとられるのか?授業に影響はないのか?」、「教員の働き方改革もある。どの程度の負担になるのか?」、「個人情報やプライバシーに配慮してもらえるのか?」などなど、さまざまな声が寄せられました。まだ1度も放送していない番組ですから、戸惑われてしまうのも当然です。

そこで、具体的なイメージを共有できるよう、新年度前のことし1月に、まずは「パイロット版」を放送することにしました。

『子ども科学電話相談』とのコラボ企画が実現

番組への理解と協力を求めながら、具体的な内容についても検討を進めました。その結果、黙食中の子どもたちに耳を傾けてもらおうと、3つのコーナーを設けることにしました。

1つ目は、子どもの代表がプレゼンターとなって学校のことを紹介する「教えて!スクールライフ」。2つ目は、地元の朗読家が富山弁で語る名作文学の冒頭部分を通して身近な方言を味わう「富山弁ものがたり」。そして、3つ目は、ふと気になった子どもの疑問に専門家が答える「解決!科学のギモン」。これは、R1の人気番組『子ども科学電話相談』とコラボするものです。

超一流の専門家が「宇宙人は悪者なの?」「恐竜をペットにするには?」という子どもならではの素朴な疑問に次々と回答するこの番組。実は、私が富山局に来る前に、アナウンサーとしてではなく、プロデューサーとして担当していた番組でもあります。
印象に残っているのは、忖度そんたくなしに、分からないものは「分からない」と答える、子どもの素直すぎる反応と、それを受けて、悩みながらも、さらに熱を帯びて分かりやすく回答する先生の真摯さ。そして、回答に納得したときの、子どもたちの「分かりました!」の元気な声。
これを今回のラジオ番組でも再現できたら、給食時間に聴いている子どもたちはもちろん、保護者など大人のみなさんにも、十分楽しんでもらえるんじゃないかと考えたのです。

しかも、コロナ禍の中で当たり前になったリモート出演ならば、著名で忙しい研究者であっても協力していただけるのではないかとも考えました。

小学校と二人三脚で進めた準備

さて、もっとも大事な中継先として協力してもらうことになったのは、上市かみいち中央小学校の6年生2クラスでした。
上市中央小学校では、コロナ禍で、保護者など地域のみなさんを学校に迎え入れることができない状況が続いていたということで、子どもたちの様子を地域のみなさんに届けられるという意味においても、今回のラジオ放送は本当に貴重な機会だとして、積極的に協力してくださいました。

①約1か月半前:最初の打ち合わせ
私とデスクが小学校に足を運び、校長先生と教頭先生に構成案やスケジュール案などを示しつつ、「教えて!スクールライフ」で紹介する内容や出演する子どもたちをどうするか相談。「解決!科学のギモン」で答えてもらいたい質問集めもお願い。

②1週間前:2度目の打ち合わせ
6年生の担任教諭2人が加わりました。「教えて!スクールライフ」で紹介する話題や出演する 子どもたち、中継場所など、クリアすべき点すべてを確認しました。

③前々日:「教えて!スクールライフ」の原稿締切
2度目の打ち合わせで選んだ話題について、それぞれ1分程度の原稿を学校側で作成していただきました。

④前日:リハーサル
出演する6年生6人とともに、中継を担当するリポーター、音声スタッフ、そして私が、中継現場となる小学校の集会室から参加。「教えて!スクールライフ」で発表する順番や原稿の修正点を相談し、富山局のスタジオと結んで、本番さながらに行いました。

このように、今回の特番は上市中央小学校が大変協力的だったことから、準備万端整えて、本番を迎えることができました。
授業や行事などを終えた放課後に何度も時間を作っていただいた上に、子どもたちも、先生方も、小学校のことを自ら発信することに前向きに取り組んでくれて、本当にありがたかったですし、また、そのおかげで、「絶対に楽しい給食時間になる!」と自信を持って、放送にのぞむことができました。

さて、本番は…

この日は、登校した6年生全員で放送を楽しみながら給食を食べようと、2クラスあわせて60人ほどが集会室に集まりました。

画像 給食中の6年生

集会室のスクリーンに映し出されているのは、富山局のスタジオなどにいる出演者です。
リモート会議システムを活用することで、小学校とオンラインで映像を結び、お互い顔を合わせてやりとりできるようにしました。

画像 スクリーン

「教えて!スクールライフ」。まず、地元・上市町出身のアニメーション映画監督、細田守さんの作品『竜とそばかすの姫』に登場する食事などをモチーフにした、特別な給食メニューを紹介。

画像 発表する子どもと給食
右下の汁物は、主人公の女子高校生・内藤鈴が友達のヒロちゃんとふれあいの里で食べた定食の一品である「筒井のおばあちゃんのそうめん汁」。また、ごはんのすぐ上にある料理が、鈴の亡くなったお母さんが作った「かつおのたたき」をアレンジした「揚げがつおのたたき風」。そして、デザートは、鈴が友達のヒロちゃんと飲んだアイスピーチティーにちなんだ「ももゼリー」です

続いては、6年生3人が、学校の自慢や取り組みなどについて紹介。

画像 6年生の3人

最後は「上市中央小学校ニュース」として、スキー教室などの予定を紹介。

画像 発表する子ども

後半は、「解決!科学のギモン」。この日、質問に答えてくれたのは『子ども科学電話相談』でおなじみ、天文・宇宙分野の国司真先生。
取り上げたのは、「宇宙服にはどんな効果があるのか?」という質問です。

質問してくれた6年生の児童はちょっと緊張気味で、国司先生の問いかけになかなか言葉が出てこない時もありましたが、そんな時、リモート会議システムの映像が大きな助けになりました。
音声のみの場合、子どもの返答がないと、回答する専門家のみなさんは、どこまで理解してくれているのか不安になってしまいますが、リモート会議システムを活用したことで、子どもの反応を映像で確かめながら質問に答えられるようになったためです。国司先生も、質問してくれた児童のうなずく様子などを確認しながら、わかりやすく丁寧に答えてくださり、“本家”のラジオ放送とはまた違った、楽しいやりとりを生み出すことができました。

画像 国司先生と話を聞く子ども


また、中継現場の集会室で給食を黙食する6年生だけでなく、全児童が楽しめるように、校内放送を活用させていただきました。ラジカセで受信したR1の音声を放送室の機材を通して、すべての教室のスピーカーから流していただく…というちょっとアナログな仕組みで、放送前日のリハーサルの際にテストをし、本番は給食中の子ども全員に放送を聴いてもらうことができました。

さらに、上市中央小学校のほかの学校にもこのラジオ特番を校内放送で聴いていただくよう、事前に各市町村の教育委員会を通じて文書でお願いし、県内の多くの子どもたちに放送を楽しんでもらうための働きかけも行いました。

学校現場に丁寧に周知したこともあってか、今回のラジオ特番の後には、小学校側から番組に参加したいという連絡を何件もいただき、その反響を受けて、ことし4月から月1回の新たな県域ラジオ番組として正式にスタートさせることになりました。
小学校側から予想以上に参加希望の連絡をいただいたことから、3月末の段階で、中継先としてお邪魔する小学校が12月まで決定。とても大きな手ごたえを感じて、新年度を迎えることができました。

黙食が終わっても続けたい!

その後、富山局では、このパイロット版をさらにブラッシュアップして、新年度の新たな県域ラジオ番組『きときと!スクールライフ』を立ち上げました。

もともと黙食がきっかけで立ち上がった企画ではありましたが、黙食が終わったとしても続けていきたいと思っています。コロナ禍で子どもたちは、みんなそろって行うイベントなどの機会が失われてしまいました。だから、みんなで一緒に楽しむ機会をこの放送で1回でも増やしたい。子どもたちの笑顔が少しでも増えるといいなと思います。

そのためにも、これからも、子どもたちや保護者の方々、先生たちに喜んでもらうことを第一に制作にあたっていきたいです。そして、NHKを身近に感じる人が増えて、地域から愛される放送局を象徴するような番組に育っていくことを願って、試行錯誤を繰り返しながら放送を積み重ねていきたいと思っています。

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大木浩司

画像 筆者

富山県高岡市出身。30年ぶりに富山に「帰」り、ラジオ番組のプロデューサーから3年ぶりにアナウンサーに復「帰」もしました。原点回「帰」、初心を忘れず、故郷の皆さんに役立つ情報をお届けします。

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