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恋せぬふたり制作日誌⑪第7回のこんなところに注目!

毎週月曜よる10時45分から放送中のよるドラ「恋せぬふたり」。
第7回ご覧いただけましたでしょうか?
演出を担当しました、押田です。

今回は、3/14に放送した7回で注目してほしいところについて、お話していきたいと思います。

7回のテーマは、咲子、羽、そして、新しい登場人物、遥の「それぞれの思いとすれ違い」です。それぞれが決して悪いわけではないけれど、なぜか思いが通じない。相手のためを思っているけれど、なぜかその思いがぶつかる…。そんな繊細な心情を静かに丁寧に抑えていくことを重視しました。

その中でこだわったのが、下記の3つです。

① 野菜をめぐる高橋と遥の居場所

② キッチンでの会話

③ 手

まずは、①「野菜をめぐる高橋と遥の居場所」についてです。

第6回でも話していましたが、羽の小さい頃の夢は野菜王国。野菜に囲まれて過ごすことを夢見ていたはずですが、今の仕事はスーパーまるまるの青果担当です。野菜には囲まれていますが、スーパーで働くことは、野菜以外にも多くの人と関わらないといけません。羽にとっては、あまり得意ではない仕事です。
その息苦しさを表現するために、今回は、同じスーパーでも表現の違いを出しています。第1回から見ていただいている方はわかると思いますが、この7回では、バックヤード以外出てきません。カラフルな野菜を活き活きと並べていた野菜売り場とは別の少しバタバタした狭い場所を選んでいます。

さらに映像でも、カーゴや棚を通して羽を撮影することをめざして、羽が何かに囲われている、とらわれている様を、まるで檻の中に入ったように見せる工夫をしました。

劇中写真
手前のカーゴ越しの羽:囲いに収まっているよう
劇中写真
棚越しの羽:檻にとらわれたように見える

また、マキタスポーツさん演じる店長・原。第4回では、咲子が電話する相手として、名前だけ登場していましたが、今回初登場です。マキタさんには、なるべく羽に無意識に圧をかけているようにしてくださいとお願いしています。

劇中写真
圧をかける店長・原(マキタスポーツさん)

一方、羽と同じ野菜に関わる仕事をしているのが、菊池亜希子さん演じるはるかです。彼女が働いている場所は、羽が勤務する息苦しい場所とは違って解放感のある「野菜そのものに囲まれた場所」です。高橋が夢見たであろう理想の場所。
なので、ロケ地もなるべく「土」を感じさせるものを中心に制作部のスタッフとともに探し、予想を超える野菜の色が映えるようなすばらしい場所を見つけてくれました。本当に感謝です。

劇中写真
劇中写真
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劇中写真

この二つの場所の対比がこの後、大きな物語のうねりになっていきます。

続いて2つ目です。2つ目は「キッチンでの会話」です。
このドラマでは、咲子と羽の会話が珠のれんを介してキッチンで行われることが多いのですが、第7回の重要なことはすべてこのキッチンでのやりとりをしています。①うどんを踏む羽とのやりとり ②鍋と卵を割った羽とのやりとり ③後片づけをする羽とのやりとり ④遥が帰ってからのやりとりと4回、同じシチュエーションで行われています。

もちろん、これはふたりの距離感をどうみせていくかということをねらって行っています。例えば、冒頭の「①うどんを踏む羽とのやりとり」のときは、咲子の気持ちを推しはかるように羽は、珠のれんを越えて、咲子の方へ歩み寄ってきます。

劇中写真
劇中写真
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しかし、「②鍋と卵を割った羽とのやりとり」から、ふたりは徐々に距離感をつかめなくなっていきます。咲子は、羽を心配して、珠のれんを越えていこうとしますが、拒否されます。

劇中写真
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さらに、「③後片づけをする羽とのやりとり」に至っては、咲子が羽のことを深く知るために、あまり乗り越えることのない珠のれんの先まで踏み込んでいます。そこまで踏み込んでいる咲子ですが、羽は真意を語ろうとしません。咲子と羽は、ふたりのなかにある心地よい距離感が分からなくなっているとも取れると思います。

劇中写真
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そして、決定的なのは、ラストシーン④遥が帰ってからのやりとりです。

ふたりの前には大きな見えない壁ができてしまいます。それ以上、踏み越えられない空気。二人が目指していた「お互いの心地よい距離感」ではなく、「近づけない居心地の悪い距離感」。ふたりのこのヒリヒリするすれ違いを、キッチンという場所を通して表現しました。遠いわけでもないけど、近いわけでもない絶妙な距離感をつくってくれるキッチンという場所が、咲子と羽の心情を表せるように考えました。

劇中写真
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そして、最後のポイントは「手」です。

手は人間の顔以上に色んなことを語ると思っていて、今回は主に後半でたくさん出てきます。

例えば、トマト農園で咲子が遥と羽のことについて話をするシーン。遥からの話をきいて、咲子が、羽にきちんと話をしようと決意します。その決意を表現する顔の表情はもちろん大事ですが、咲子役の岸井さんが「手」にその思いを込めてきてくれたので、逃さず撮らせていただきました。
ささいなことではありますが、顔の表情には出せない強い気持ちが「手」に現れた部分だと思います。

劇中写真
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咲子が決意する手

続いてはこちら。これは、直接「手」ではないのですが、羽が他人を家に入れるときの逡巡を表す表現です。門を開けるまでにある一瞬の間を通して、羽の気持ちを表すことにしています。本人の意思とは裏腹に、祖母の気持ちに答えるという意味も含んでいます。

劇中写真
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門を開けるまでに少し間がある

そして、羽と遥の指輪のシーン。ふたりの気持ちが「手」にあらわれたとても大事な場面です。

劇中写真

遥が、好意で出した左手から徐々に不穏な空気が流れ始めます。

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手が小刻みに震える羽ですが、接触が嫌だからということだけではなく、指輪を相手につけることで、今後、想像されるすべてのことに対して思う「怖さ」、「葛藤」、「罪悪感」など色んな意味を含んでいる表現を高橋一生さんはしてくださっています。
その表現に答えるために、このシーンの撮影中、カメラ1台は、ずっと「手」に向いています。

ふだんの撮影では、役者さんの顔や身体全体を狙うことが多く、手のカットは短く切って撮影することが多いのですが、今回はあえて「手」を中心にシーン全体を撮影することで伝わることを信じました。

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そして、遥が自ら出した左手を下すことで、ふたりの関係がどうにもならなかったことが見えると思います。高橋一生さん、菊池亜希子さんという素晴らしい演技力を持つお二人の力を得たからこそ挑戦できるシーンだと思いました。

以上、第7回の注目ポイントを3つのテーマからお伝えしました。ただ、以前もお伝えしたように、これは作者の意図でしかなく、見てくださった方が思った伝わり方がすべて正解です。
「そうは思わなかったなあ」とか、「もしかしたらこうかも?」という部分を想像しながらご覧いただけたら、さらにドラマを楽しんでいただけると思います。

最後に、このような表現ができたのは、すばらしいお芝居の力以外のなにものでもありません。演じてくださった方へ改めて感謝の思いです。

そして、その俳優部の力をさらに高めていただけたのが、このドラマに関わってくれたすべてのスタッフ、考証チーム、そして、事前に取材を通してつらい思いなどを打ち明けてくれた当事者の方すべてだと思います。この場を借りて感謝申し上げます。本当にありがとうございました。

そんな中で、いよいよ来週、最終回です。 果たして、「恋せぬふたり」はどのような結末を迎えるのでしょうか?
受け入れられるかは分かりませんが、我々制作陣として考えたひとつの答えだと思います。ご期待ください。

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よるドラ「恋せぬふたり」
[総合] (月)よる10時45分〈全8回〉
NHKプラス&NHKオンデマンドでも配信中
最終回 3月21日(月)  よる10時45分

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