
どちらか、ではなくて両方使ってみてもいいのでは
遺言の話です。セミナーや講演で遺言のことを聞くことがありますが、のっけから遺言の種類とそれぞれの形式やメリット・デメリットを比較しながら、形式的な話を延々とやる人がいますが、つまらないなと思うものです。
受講者に対して、遺言をつくる大切さを自覚してもらったり、気になる心配ごとをうまく遺言で解決できる実益を感じてもらったりするような展開が望ましいと考えています。必要性を理解していただいて、行動に移してもらうために伝えるべきでしょう。知識ばかりを増やしても、行動がなければ単なるお勉強です。
遺言書は、全部自分で書く自筆証書遺言と、公証人につくってもらう公正証書遺言が主な種類ですが、これは二者択一のものでもないと考えています。使い勝手や保存性はさておき、この二つには効力に差はありません。つくった日時の先後で優先順位が決まり、方式によって優劣がつくものではありません。
ご要望によっては、まず自筆証書遺言をつくっておいて、その後にじっくりと細かいところまで作り込んで公正証書遺言に書き換えるとする二段階方式を提案することもあります。自筆であれば、いつでも、すぐに書けますし、費用もかけずにつくれます。後から書こうと思っていたのに、急病や事故で書けなくなってはどうしようもありません。
財産の整理や税金対策をする中で、どうしても準備に時間がかかることがあり、その間のリスクを小さくするために、暫定の内容で遺言をつくることはありえることです。
もっとも、私の考えでは、遺言といえば公正証書遺言です。法律の専門家の目を通してつくられ、間違いなく保管されて探すことができ、すぐに使えるという点で、当然におすすめします。それでも、どのような遺言をつくるのかは考えるわけであって、下書きを考えたところで自筆証書遺言にまとめておき、公正証書遺言で清書をするという段階に分けてつくることも一案です。
一方で、自筆証書遺言は、法務局で遺言を保管してもらうことができます。法務局での保管制度を利用することで、紛失の防止になり、死後に検認手続を経ずにすぐに使うことができるほか、亡くなった人が遺言を預けていたことを相続人に対して通知をしてくれるサービスも備えています。法務局では形式的な点検のみで、内容について助言は受けられませんので注意が必要ですが、使い勝手はあるものです。
遺言をつくるときに、形式的なことや費用にとらわれて、二者択一にするのではなく、やはり大切なことは中身です。何のためにつくろうと思い至ったのか、その目的に合わせて、最適なつくり方を選んでいくことが望ましいと考えます。
とりあえず、でも遺言は書いていいのです。もっと気軽に使っていただきたいですね。