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未曾有の災害から3年を迎える朝倉の話

こんな光景を、いつぞやテレビなどで見られたでしょうか。
西日本豪雨のちょうど一年前、2017年7月の頭の福岡県朝倉市の写真です。当時は「戦後最大級」の水害とも言われました。東京ドーム8.5杯分の大量の土砂と流木が町に流れ込みました。
また専門家が「10年は土砂が出続ける」と言うように、いまだ露出した山肌が多く、雨が降るたびに川が茶色く増水します。

▲まだ仮工事を進めている状態のところも多く

▲貼り直されたブルーシート。家の再建に迷う人も少なくない

大量の土砂は大方取り除かれ、被害拡大防止のための工事が終わった箇所もありますが、肝心の河川はまだ工事中だったり、再び地域が戻るにはまだ時間がかかりそうな地域もあったりします。
また、氾濫した河川について、今後の被害を防ぐための改修計画が、まだはっきりと決まっていない地区もあります。河川の幅を広げるかどうか、どれくらい広げるのか等を決めるのに必要な予算が、一つの市町村では賄うには厳しい状況だという点が大きく影響しているようです。

被害が大きかった地区の一つに住まれていたAさんは、災害後、家族で隣の市のみなし仮設で避難生活を送っています。川そばにあった自宅は大きな被害を受けたため、公費解体の制度を使って更地にしました。この8月でみなし仮設の退去期限になりますが、自宅の再建はまだ未定です。
原因は、自宅が川そばにあるという立地。
2年前に氾濫した川は、今後の災害に対応するため川幅の拡張を計画されていますが、まだその計画がまとまっていません。また、川の上流の土砂の流れ出す原因となった山の整備も進んでいるとは言い難い状況です。
もし川が増幅となれば、自宅の一部も河川になってしまう可能性もある、それなら畑として使っている別の土地を転用するべきか・・・そもそもこの状況で安心して住めるだろうか、でも今までの生活スタイルを一番変えずに住めるのは元の土地・・・
他にも、土砂災害警戒区域のため戻れない地域など、未だにそんな葛藤の中にいらっしゃる方が大勢います。

そして、そんな朝倉市では、災害後に仮設住宅が建設され、みなし仮設を合わせると376世帯が避難生活を送ることになりました。それから時間を経て、仮設・みなし仮設で避難生活を送る方の数がどう変化したかというと
319世帯(2019年3月末時点、現在はもっと少ないですがゼロではありません)になりました。
先に述べたような、復旧工事やそれに纏わる計画の遅々として進まない状況が原因です。

ではなぜ、戻りたくても戻れない人がいるのに、応急仮設住宅の退去期限が迫っているのでしょうか。

これは、応急仮設住宅/みなし仮設が設置されている法律と関係してきます。
災害後の応急期における応急救助に対応する主要な法律である「災害救助法」の条件に該当すれば、仮設住宅が設けられることになるのです。
そしてこの応急仮設住宅にも、色々と決まりがあります。(一戸あたりの平均的な広さや価格など)
そのうちの一つに設置期間があり、最長2年と決められています。ちなみにこの2年という期間は、建築基準法によるものです。

あれ、じゃぁ東日本大震災や熊本地震の被災地でまだ仮設住宅に住んでいる人がいるのはなぜ?、と思われた方いらっしゃるでしょうか。

これは、「特定非常災害」という別のルールが関係しています。激甚災害という単語は比較的よく聞くかもしれませんが、それとは別です。
「特定非常災害」と制定されれば、応急仮設住宅の存続期間が延長できるなど、色々な特例措置を適応できるようになるようです。
阪神淡路大震災、新潟県中越地震、東日本大震災、熊本地震と、大きな地震災害に制定されてきました。
昨年大きな被害をもたらした西日本豪雨で、水害としては初めて制定され、2017年の九州北部豪雨には適応されていませんでした。


実は今回のケースでは、災害公営住宅という選択肢もあります。仮設住宅やみなし仮設から移る方も多く居ます。
しかし、この災害公営住宅に入居するにも「該当災害により住宅を失った者」という条件があります。
このため、「自宅を再建する意思はあるが、災害から十分に復旧しているとは言い難い地域に自宅が残っている」場合は、この要件に当てはまりません。

そんな様々な制度により、朝倉市の仮設住宅には2年以上の延長が認められず、更に災害公営住宅の入居基準を満たせないというケースが存在します。
そのため、朝倉市では市の独自支援制度を導入するなど、限られた財源から避難生活のサポートを実施しています。この市の独自制度に頼らざるを得ない人も少なくありません。

▲梨の花。朝倉市は柿と梨の名産地。

阪神淡路大震災、新潟県中越地震、東日本大震災など、大きな災害の度に、内容が更新されていく被災者支援関連の法律ですが、今回の件は、まだまだ改善の余地があるなと感じる問題です。
もちろん、他にもいろいろな法律や制度の壁があります。解釈で乗り越えられそうな問題、新たに何か制度を作らないと超えられそうにない問題、様々です。

これからも、残念ながら大小様々な災害が発生すると思います。一つとして同じ災害はなく、災害毎に現れる問題は違います。
各地で色々な災害支援に関わる身としては、他の地域の経験や事例を元に、解決策を一緒に探ることが一つ大きな役割だと思っています。

制度や法律は、政治が作るものです。
未曾有の災害の度に、対策が議論され、特別措置や新たな制度が作られる。結局被災地での問題も政治につながっていく面もあると感じています。
そしてその政治は、一人ひとりの一票が作ります。次に起こる災害で、被災者になるのはあなたかもしれません。ぜひそんな事も考えて、一票という権利を使ってもらいたいと思っています。
災害という切り口から見ても政治は別の問題ではないのです。

最後まで読んでいただいて、ありがとうございます。 少しでも、災害現場の課題が伝わっていたら嬉しいです。 いただいたサポートは、被災地の現在を伝えるための活動資金にさせていただきます!