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コロナ禍の被災地で生まれた2つの課題

2020年夏の新型コロナウイルスの流行下で発生した、令和2年7月豪雨。
特に九州各地で大きな被害が生まれました。
浸水した温泉街や、濁流に押し流された赤い鉄橋などがみなさんの記憶にあるかもしれません。

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福岡、大分、熊本の被災現地で感じたことは、やっぱりもっといろいろとできたのでは、ということ。現地を見て、地域の方の話を聞いてみて、苦く感じるところもあります。
新型コロナウイルス感染拡大防止のためには、さまざまな自主規制をかける必要がありました。
支援関係者への入り口が狭くなった結果、かゆいところに手が届かなかった部分があると思っています。

必要な時に必要な支援が届きにくかったことで、大きく2つの課題が発生しました。
フェーズと見立てです。


フェーズのずれ込み

被災地はナマモノです。災害発生からすぐは特に、刻一刻と状況が変わります。
おおまかな従来の被災地のフェーズ(時期)の移り変わりがこちら。
ボランティア人数とニーズの波、フェーズを図にしています。

支援体制移行期 2 2

世間からの注目は、災害発生直後が一番高い。
だいたいこの災害発生から1週間ぐらいで、ボランティアセンターが立ち上げられます。全国放送でもボランティアセンター開設が報道されたりもします。そうして、たくさんのボランティアが集まってくれる。
災害の時期や規模にも左右されますが、開設後1ヵ月以内に一日の最大参加人数を記録して、その後はゆるやかに参加人数が減っていきます。

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コロナ前は、ボランティアセンター開設後、たくさんの人の動きをコントロールして受け入れキャパを広げることに苦心していました。そのためのサポートで外部からの支援チームや支援者も入ります。
2018年の西日本豪雨の倉敷市災害ボランティアセンターでは、一日最大3,000人を受け入れ目標として、センターの運営がされました。

しかし、今回はコロナ禍の影響で、全国からのボランティア募集にはいろいろな意見があり、県内募集など窓口を狭くする傾向にありました。
この状況だからこそボランティアしに行こう、と行動した近隣の人もたくさんいたことでしょうが、例年の人の動きと比べると、やはり動きは小さかった。

実際にとあるボランティアセンターでは、被災者からのニーズに対してボランティアの数が少なく対応が難しい時期があったそうです。
できるだけたくさんのニーズに対応するために、1軒のニーズへのボランティア派遣は3回までルールを一時的に運用していたところもあったようです。

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家財を出して、泥を撤去して、清掃して、お庭や敷地も…となると、(家のサイズにもよりますが)1日に10人が活動しても3回では終わりません。
依頼されたことが全部終わっていなくても完了として、次のニーズに派遣をしていたのです。それだけ、ボランティア派遣のマネジメントに苦労していた。


コロナ禍でもコロナでなくても、被災した地域の復旧に必要な活動の量は変わりません。
ニーズの量に対してボランティアの数が少ないと、ニーズに対応するのがどんどん遅くなっていきます。

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庭の土砂を後回しにした結果、土砂に雑草が生い茂ってしまったところも。土砂の撤去前に除草しなくてはならず、作業前の準備が増えます。
他にも、土砂が乾燥して固くなってしまって人力では対応が難しくなってしまったりもします。
ニーズの対応が遅くなると、別の問題も発生する。

しかし時間の流れはもちろん一定。
家屋まわりの片付けが途中でも、避難所から仮設住宅への引っ越しなどは進みます。新しい場所での生活が始まるけれど、自宅の片付けが終わっていない状況にも。

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そして今回、フェーズの重なりが発生しました。
家屋まわりの片付けが終わっていないのに、新しい生活が始まる、これがとても厄介。

ニーズ対応が遅れることで緊急期が長引く。
つまり、緊急期のニーズと移行期・中長期のニーズが同時に発生してしまうのです。

緊急期のニーズは、家屋からの家財搬出や土砂撤去、炊き出しなど。
たぶん一般的に想像する、ザ・災害ボランティア活動です。
災害直後は特に、困りごとが似ています。どこの家も、家財を出して泥を出す必要があって、つまりやることが明確です。

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乱暴な言い方をすると、緊急期のニーズは、手数を必要とする単純な作業。どんどん人を送り込んで活動していけば解決につながりやすい。



対して、移行期・中長期になって発生するニーズは、個別の抱える課題に合わせたピンポイントな支援。
例えば、
お金がなくて家の修繕ができない世帯をどうするか、
一人暮らしのおばあちゃんが仮設住宅に引っ越したけれど、仮設の近くには買い物できる場所がないからどうするか、
など、こうした困りごとは、たくさんの人を派遣したからといって解決するものではなかったりします。

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個々に合わせた支援をする必要があって、
具体的な困りごとが何かをつかむことが必要だったり、その人との関係性を築いていかないと活動できなかったりもします。

緊急期の面の対応と、その後の点の対応を同時に進めなくてはいけない。
この2つは、やることも必要な手順も違います。これを同時に進めていくのはけっこう大変そうです。

しかも、関心の低下と共にボランティアに参加する人はどんどん少なくなるし、対応するボラセンスタッフも増えるわけではありません。


見立てができなかった

今回の被災地で改めて大きな課題だと感じたこと。被災地にどんな支援が必要なのかの見立てです。
コロナ禍で人が集まりにくくなる。だからこそ、できるだけ効率よく課題に対応していく。効率よく課題を解決していくには、先の見通しがたっていることが重要。
人海戦術が使えないからこそ、経験のあるアドバイザーを一定期間据え置き、さまざまな課題を見立てて先手を打てればよかった。

①作業の見立て

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こうした景色を見て、どんな活動がどれだけ必要かを考えられる人が必要です。

被災地を見て、この規模の災害でこういう特徴があるから、○月までに○○人のボランティアが必要と評価するということ。
被害の種類と被害の範囲、地域の傾向などを加味する必要があり、いくつかの被災地での支援経験やその地域や全国の支援者情報がないと難しいことが多い。

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ボランティアセンターの主力は人手です。
一般の人を受け入れる窓口であるため、どうしてもボランティア=人手の固定概念がある。
手元の道具はスコップと一輪車。


土砂災害だから重機とダンプが使えるプロボノを呼ぶ
壁と床をはがせるNPOに声をかける
という発想はアドバイスなしには難しい。
全国的に災害支援をしているNPOは少なく人脈もない可能性が高いし、壁を剥がす必要があるという知識もない、かもしれない。



そもそも、災害ボランティアセンターを運営することが多い社会福祉協議会は、普段は福祉の専門職です。大量の土砂や廃棄物を撤去するのはどうしたらよいのか、一日1,000人を調整するにはどうするか、なんて話は本来業務から遠く離れたものです。

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同じ2トン車でも、ダンプとトラックとユニックではできることが違いますが、それを知っている人は意外と少ない。
こんな知識があるかないかで、現場の調整や活動の効率は変わってきます。

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こうしたボランティアセンターの特性を理解しながら、センターの苦手な面を補完できるか、そんな指揮をとる人がいるかいないかで大きな差が生まれると考えています。

②時間軸の見立て

人吉3月レポートにも書いたように、年度末に家財搬出依頼の駆け込み需要がおきました。
これは、11月ぐらいに解体予定の家屋からも家財を全部出さないといけないと判明したことと、
3月末で行政の回収サービスが終わってしまう(持ち込みはできる)こと
この2つが関係しています。

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自宅は解体してしまうと決めて、被災した1階だけを片付けておいたケースなどが多くあったようです。
そうだった、2階にもタンスとかいろいろあるから片付けなきゃ・・・となったのです。

実は、公費解体家屋の被災していない部分の家財をどうするのか、は被災地あるある。
どこの被災地でも同じ課題が発生しています。
公費解体という災害地でしか使われない制度への理解が、現場の動きに追いつかないからです。
実際に制度の運用をする行政の担当者も、勉強しながら初めての運用だったりするのです。
初めてだから目の前の荷物を片付けることに精一杯。被害が及んでない2階に目を向ける余裕はありません。
みんな初めてだから、後から2階の荷物も片付けておいてね、となって、えー聞いてない!となっちゃう。

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誰かが早い段階で行政に確認を取れば、対策が打てたかもしれない。
公費解体とはこういう制度で、過去の被災地ではこうだったよ、今回はどうなの?と。
8月とか9月とか、まだボランティアさんがたくさんいる段階なら、対応も早い。
住民にも、情報が伝わりやすい。
(時間がたてば、引っ越しなどで被災地から遠ざかり、こうした情報に疎くなってしまうので依頼にもつながりにくい)

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アドバイザーがいても、いろいろな人がいれかわりたちかわりでは、こうした先の課題に気づくことが遅れます。
被災地では課題が多く、どうしても目の前の課題解決を優先してしまう。

課題を課題としてとらえるのが難しいからこそ、見立てることが重要なのです。
過去の被災地での復旧経験が豊富な人材を現場に据え置くことができればベストでした。
しかしこうした被災地の見立てができる人はとても少ない。大体は外部から呼ぶ他ありません。
例えボランティアセンターの募集範囲が狭くても、こうした人材は外から招いたほうがよかったのかもしれない。そうした体制を全国的に作れていなかったことが大きな反省点です。

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少ない力で、どれだけ今までと同じクオリティにもっていくのか。
支援者の限界が被災者が受ける支援の限界であってはならないと考えています。
力が少ないなら、技を使うのか。力を増やす仕組みを考えるのか。

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これまで書いてきたのは、現在の被災地から考えたことです。
結果から考えたたらればでもあります。

2020年の被災地でクラスターは発生しなかった(はず)。
これは、今回の被災地が苦渋の決断で募集範囲を狭めたから、3密を回避できたからでもあるはずです。
クラスターが起きたり陽性者が出てしまったら復旧活動は完全にストップしてしまう。それで一番困るのは被災した方。

復旧活動を完全に停めてしまう、という最悪の事態は回避できました。

ただこれで正解だったかと聞かれれば、意見が分かれる部分もあるはずです。

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残念ながら、大なり小なり、水害は毎年発生しています。
今年も、どこかで被害が出るのかもしれない。
そして今の状況を見ていたら、今年もコロナ禍の災害支援が続くような気がしています。

果たして、2年目のコロナ禍の災害支援はどうあるべきなのか
アップデートするべきではないのか
もっとできることがあるはずで、2020年の夏をちゃんと振り返らなくてはいけない。
何ができて、何ができなくて、何が課題だったのか
何を準備しておけばよいのか

たくさんの関係者の方と一緒に、備えをすすめたいと思っています。


最後まで読んでいただいて、ありがとうございます。 少しでも、災害現場の課題が伝わっていたら嬉しいです。 いただいたサポートは、被災地の現在を伝えるための活動資金にさせていただきます!