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ARMHEAD:EGGS 第六話

ARMHEAD:EGGS 第六話「激突」

「......やろう、自己紹介!」

由利が声高に言った。

今、第一小隊と第二小隊が一同に会している。

先の戦いで混乱に陥れられた町の人々を元気づけるため、現地の基地とエッグス部隊で炊き出しを行うことになったのだ。

今はその説明の前の、待ち時間である。

「私が班長の芒 由利で、」

「朔間 英一、っす」

「狩矢 疾都だ」

「一ノ宮、宝...です」

「綾瀬 帆霞でっす!」

「...わかった、じゃあ次はオレたちだな」

第二小隊の少女が続こうとする。

....ん?女子なのに"オレ"?

しかし、英一にはその疑問よりも、この出来事に乗り気になれない訳があった。

以前操縦テストの際にこちらに突進してきたヤツが、目の前にいるのだ。

彼はこの会議室に集合してから、ずっと英一を睨みつけていた。

「じゃ....オレは海原 陽。

一応、第二小隊の班長をやらせてもらってる。

昔は島に住んでたんだけど、震災のとき島ごと沈んじまってな...

んで、色々あってここに来た。まあよろしくな」

「僕は柱田 頑汰。

もしかしたらこの中で一番年上かな?事情があって高校を中退してここに来ました。

あと自慢じゃないけど、弟と妹が合わせて7人いるんだ、今もちょくちょく電話してる。

他にこれといって言うことないけど...お手柔らかによろしく」

「私の名前は移井 ナナです!

家の事情で、少し前まで海外に住んでました!

好きな食べ物はフルーツで、嫌いなのはキノコかな?

これから仲良くしてほしいです!よろしく!」

ここまで自己紹介を終えて、例の"ヤツ"が机を叩きながら立ち上がった。

「!?」

「おい...サクマっつったか?俺だよ俺...覚えてるよな?

ようやく会えたぜ...ぶっ飛ばしたらあああ」

拳を振り上げる少年、すると隣のもう一人が制止するように立ち上がった。

「おい変なことするなっつったろ?」

「んでもよぉ~~~~~!」

「座る!!!!」

「....んだよったく..........」

(何なんだ今の....?)

「....ごめん皆、今のバカは襟立 鎧。

バカなだけで悪い奴じゃあないんだ...仲良くしてやってよ」

隣の鎧はまだ不服そうな顔をしていた。

周りの複雑そうな視線で、もう一人の少年はハッとした。

「あっ!俺の自己紹介がまだだった....

俺は泉 亜季。鎧とは小学校の時から一緒だったんだ。

俺は別に何もない人間だけど....よろしく」

それぞれの自己紹介が終わった時、ちょうど会議室に兵士が入ってきた。

「お待たせしました。陸軍A1防衛基地の予湖山です」

その青年は、先日英一たちが出会った兵士だった。


それからエッグス部隊は、明朝から昼まで炊き出し、それから夕方まで作戦会議という忙しい1週間を過ごすことになった。

しかし、往復が面倒とはいえ、普段の厳しい訓練に行かなくていい、という意味ではややラッキーとも思えた。


-初日の朝-

まだ目覚めきっていない英一たちが連れ出されたのは軍の基地、日は昇り始めで、空はまだ藍色に染まっていた。

「今回皆さんに作って頂くのは、カレーです!」

「「「カレー!!??」」」

「カレーといえば、我が"帝国"軍の定番炊き出しメニューですからね」

「ウチ、夕飯のカレー大好きなんだよねっ!」

(そういえば、寮でも週末はカレーが出てくるな...)

「ですが皆さんが食べているのとは一味違いますよ~、隠し味があるんです、後で教えますが」

「それで、段取りは?」

「あ!それなんですけど...全部皆さんにやってもらいます!勿論レシピなどは教えますよ」

「「「「「えーーーーーっ!!!!????」」」」」

「では、私は日報用の写真を撮らねばなりませんので!健闘を祈ります」

「...........」

(無茶な..........)


「...とりあえず、分担しよう」

カレー作りの役割は、調理・薪拾い及び火起こし・水汲み・設営及び清掃・具材や機材の運搬及び配膳 というように分かれた。

係が決まっていく中、最後の水汲み係を決める。

「じゃあ、水汲み行ってくれる人...」

「はい!」

英一は食い気味に手を挙げた。楽そうで静かそうという理由だ。

周りのやや冷たい視線を感じつつ、手を挙げなかった疾都と共に水汲み係に決まった。


-水汲み-

英一と疾都は、自分の体ほどもあるタンクを背負って山道を登っていた。

「お前、アームヘッドに復讐する、とか言ってたけど...

それってどうやってやんの?それをした後どうするとか、考えてるわけ?」

「答える必要はない」

「だよなー...悪い」

気まずさに耐えかねた英一が何度か質問するも、毎度空振りに終わる。

「...カレー、どう思う?」

「......」

「いや、好きか嫌いかでいったら....」

「.....」

「俺は...やっぱ母さんのカレーが1番かもな...しばらく食ってないけど」

「......」

「あっ!悪い.....また変なこと言っちまった、ハハ」

「ふん...」

水の湧く地点に着いた二人は、背負っていたタンクを川に沈めた。


-運搬-

宝と亜季は基地から、具材や調理器具の詰まったリアカーを運び出していた。

「えー、一ノ宮くん、だっけ?」

「そうですけど...」

「悪いんだけど...さっきバスの中でキミの携帯見ちゃったんだ。

アームヘッド、好きなの?」

「はい...まあ」

「やっぱり!実は俺もなんだ。

もしかして...それでここに?」

「まあ......」

「やっぱり!!!俺と同じだ!仲良くやろう、同志」

「えっ、はい」

二人は動きを止めた。

亜季の握手を受け入れた宝の口が、少しほころんだ。


-薪拾い-

頑汰と陽は薪を運び終わっていた。

「いや疲れたね~、着火剤とライターはどこだろう?流石に出し終わってると思うけど...」

「ん?んなもんいらねーよ」

陽は懐から石と金属片を取り出した。

「それは?」

「見とけって」

陽はその2つを打ち鳴らすと、火花が飛んで枯れ葉が発火!

それを薪に移すと、軽く息を吹いたり仰いだりして火を大きくしていった。

「すごい!火打石?」

「まあな。思い出の品なんだ。まさかちゃんと使うとは思ってなかったけどな」

「にしてもこんな手際よくできるなんて...」

「島にいたころ、釣った魚をその場で焼いて食ったりしてたんだ」

「へえ~......」


-設営-

帆霞とナナは、椅子やテーブルなど食事スペースの準備をしていた。

2人とも、軽い掃除とかそれくらいだと思っていたようだが、椅子などは全部倉庫から出してこなければならないのでなかなかの重労働だった。

「あ~キツ、もうやめた~いっ!」

「ほらほのちゃん、さっさと終わらせちゃお!」

「いきなりあだ名で呼ぶの~っ?」

「ダメ...だった?」

「いや全然!ウチら何か仲良くなれそうな気がするっ!」

「え~それ私も思ってた!」

「本当!?ナナちゃん!」

「ほのちゃん!ふふふ」

少女たちの立ち話はしばらく続いた。


-調理-

(お前、料理なんかしたことないだろ?大丈夫か~?)

鎧は脳内で先の亜季の言葉を反芻していた。

朔間に屈辱を与えよう、と思い切って調理係に立候補したわけだが、どうやら料理の難しさを甘く見ていたらしい、と反省した。

横目で由利の手さばきを見る。

(すげ~、俺もあんな風に...)

「あっ!」

ジャガイモが床に滑り落ちた!

「あ、大丈夫?」

「お、おう...」

落としたジャガイモを捨て、新しいのを切り始めていると、その危なっかしい手つきを気にかけて由利がまな板ごと身を寄せてきた。

「包丁を持ってない方は指を丸めて、猫さんの指にするの。

そして切るときはこうやって動かしながら...」

鎧はいつしか、由利のすらりとした指先に夢中になっていた。

「...あの、襟立くん?」

「あっ!は、はい.....何でしたっけ?」

「あー........」



-ある日の夕方-

第一・第二小隊は、呼び出しを受けて会議室に集まっていた。

「調査班の観測によれば、二足歩行獣型ビーストの群れが移動しているらしい。このままでは市街地エリアに侵入する可能性もある」

するとプロジェクターに移されたのは、前に戦ったのとは異なる、極彩色でより凶暴な顔つきをしたビーストだった。

「この種のビーストにも、霊長類生物のような社会性があるのかもしれない。そして、こいつが恐らく今の群れのボスだろう」

特にこいつには警戒しなくてはならない。

とは頭の片隅で思いつつ、ビーストとの戦いを幾度か潜り抜けてきた彼らに、どこか慢心のような気持ちが生まれ始めていたのも事実だった。


-別の日-

森の中で歩を進めるエッグス部隊の面々。

10機ものアームヘッドが鬱蒼とした林を闊歩するのは圧巻の様相であった。

(全くあいつ.....)


着替えを終えて格納庫に向かう英一の前から、同じくパイロットスーツに身を包んだ鎧が現れた。

鎧は通りざまに英一の肩を強く叩くと、

「足、引っ張んじゃねーぞ」

と言い残し歩いて行った。


(あんなこと言ってくれちゃってよ.....)

などと考えていた英一だったが、短いブザー音でそれがかき消される。

熱源反応。ビーストが近くにいる。

...いや、気付けば囲まれていた。

「第一小隊、行くよ!」

「了解!」

ヤイバとサクラフブキが、それぞれ火縄銃と弓を構える!

それを飛び越えるハイド・シークとワイルドスタイル!

火炎弾と弓矢の一閃で抉られた地面を駆け抜ける2機。

両機の爪がビーストの肌を裂く!

一方、フルスキャナーから分離した小型ロボも、その小さい足でビーストの攻撃を掻い潜りながら走り抜ける。

フルスキャナーがライフル弾を撃つと、ビーストに電撃が流れ出した!

「痺れ弾、ってね!」


「行くぜ第二小隊!!」

先陣を切って自動車が現れる!

否、それはアームヘッドだ!

人型に変形した亜季の自動車アームヘッド・4WDヘッドがビーストに強力な一撃!

いびつな頭部をした、ナナのアームヘッド・コンタクターが杖を振り回す!

頑汰のアームヘッド・RQ(レスキュー)ハウンドの肩から放射された水圧カッターがビーストを切断する!

消化活動のための水は凶器にもなり得るのだ!

陽の機体、ストーミィ・シーが錨をビーストへ投げる!

鎖がビーストの喉を締め上げていく!


「群れったって...こんなに多いのか」

周囲にはビーストの亡骸があちこちに点在している。

エッグス部隊も流石に疲弊しきっていた。

しかし、彼らに追い打ちをかけるように現れた、数体のビースト。

そしてその後ろから現れたのは、極彩色の毛皮に身を包んだ一回り巨大なビーストだった。

「嘘だろ...あれが」

「ボス......」

「UGAAAAAAAHHHHHHHHHHHH!!!!!!!!!!」

ボスは耳をつんざくうなり声をあげると、その両手を地面に打ち付けた!

「うわっ!」

「きゃっ!?」

その一撃だけで大きく地面が揺れ出し、噴火めいて地面が土埃を上げて爆発した!

「なんて威力!?」

周りの子分ビーストが一斉にこちらに向かってくる!

他のメンバーがその迎撃に追われる中、鎧はボスに向かって歩みだした。

「へへ、俺の出番だぜ」

鎧の機体・レックイットの手のひらから金属粒子が放出され、それは大きなハンマーの形を作った。

(あいつ...無茶だ!)

ヤイバもボスに向かう。

「喰らえーっ!」

レックイットがハンマーを振り下ろす!

だが、何と防がれる!

「うっそ~ん....」

「GRRRRRAAAAA....!!」

ビーストの力が強くなる!

腕力・脚力に優れたレックイットといえど、ハンマーそしてビーストの重さがのしかかればひとたまりもない!

すると、いきなり爆発!

「GAAAAAAA!!!!!」

「おわ!誰だ!?」

ヤイバが火縄銃を構える!

「邪魔してんじゃねえ!」

「死ぬとこだったぞ!」

刀に武装を切り替えたヤイバが、ブースターで一気に距離を詰める!

その刃はブーストの皮膚に突き刺さるものの、それを曲げんばかりの勢いで掴まれる!

(尋常じゃねえ強さ...)

しかし、ここで鎧がいないことに気付く。

「よーし!俺様のスゴ技、見せるときがきたぜ!」

「鎧のやつ..."アレ"をやるつもりか!?」

「第一小隊の皆、よけろ!」

「え!?」

すると、レックイットが付きだした右腕からテトラダイ・バルカンを連射!地面を抉る!

「ぜんぜん当たってないじゃんっ!」

一通り撃ち終えると、ボスとヤイバの方へ!

巨体に押されたヤイバが倒れるのを尻目に、左腕のパイルバンカーを作動させる!

そしてそれをボスにあてがい、ミシンのように上に向かってスライド!

「GYAAAAAAAAAAASSSSSSS!!!!!!!!!」

片目をつぶされたビーストが悲鳴!よろけた隙にハンマーを地面に突き刺す!

「何を.....」

「うおおおおおお........!!!!!」

レックイットの額と肩に付いたランプが眩い光を放つ。


すると、地面から光の柱が飛び出てビーストたちを貫く!

「なになに、これ~!?」

それが終わると、ボスの傷口からも同じように光!

「UGAAAAAAAAAAAHHHHHHHHHH!!!!?」

「とどめだーっ!!!!!」


「きゃーっ!!??」

「おわ!???」

鎧の叫びとともに、大爆発がエッグス部隊を包む!

四散するボスビースト!!!


「....これが俺の"ラースボルケーノ"だぜ」

「なんじゃそりゃ?」



「どうだね足手まといくん、俺様の活躍は?」

「はあ...

「お前だってやられかけてたろ...」

「うるせ!...あ、芒さん!」

「襟立くん...どうかした?」

「お怪我ないですか!?見てくれました、僕のアレ!」


「...何あれ?」

「さあ...」

「もしかして惚れたとか?まああいつはいっつもダメなんだけどな...」

「由利ちゃん、一緒にナナちゃんのところ行こっ!」

「あ、うん...じゃあ」

「え?待ってよ芒さ~ん!」


「ほらね?」

「ああ...」

「あ、泉くん」

「おお一ノ宮、あのちっこいの何?」

「ああ、それは.......」


(俺、もしかして置いてけぼり......?)

英一は心の中でぽつりと呟いた。