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9月33日 罪悪感不可避

9月23日(金)

最近、夫との間で「ありがてぇ話。」が流行っている。発端は二人で出掛けるときに、私が荷物のあれこれを「ほら、それはそっちに入れてさ、で、私がこの袋を持って行くからさ、あとでそれを入れ替えればいいでしょ?」みたいなことを早口で捲し立てたあと、夫がすっとぼけた顔で一言「ありがてぇ話。」と言ったのがめちゃくちゃツボで、それ以来、夫は私が何かしてあげるたびに「ありがてぇ話。」と言うようになった。一体何がそんなに面白いのか言葉では説明できないのだが、とにかく「ありがてぇ話。」が面白くてたまらねぇ話。


9月24日(土)

商品の入荷処理を頼まれたので、大量に届いた段ボールを開け、商品を検品し、段ボールをひとつひとつ畳んで大きい段ボールにまとめて捨てようとしたところで店長が来て、どうやらこのあと荷物を送るのにこれらの段ボールを使う予定だったらしく、私に指示をした社員さんが店長に「このあと段ボール使うのに長瀬さんに無駄な作業させてるじゃん!やってもらうならそこまでちゃんと指示して!」と注意されていた。自分のせいで誰かが注意されるというのは大変に気まずいものである。どんな顔をしていればいいのかわからず、眼球が反復横飛びしてしまった。極力このような状況を引き起こさないためにも、畳む前に「畳んじゃっていいですか?」と私から一言聞けばよかった、という反省は、今後も頭の片隅に置いておかねばならぬと思った。


9月25日(日)

札幌ドームでの最後の野球観戦。最後だから勝ってもらいたかったのだが、やはり負けた。しかも一安打である。いや、でもこれが今年の日ハムなのだ。我々は今年の日ハムを見届けた、それだけなのだ。と思うことにする。それにしても、こんなに弱いのにBIG BOSSときつねダンスで札幌ドームラストイヤーをこれだけ盛り上げた球団の手腕はすごい。BIG BOSSときつねダンスがなかったら、本当に暗い一年になっていたに違いない。


9月26日(月)

札幌で買い物中、夫と何気なく古着屋に入った。昔は服が好きだったという夫だが、就職してからは田舎住まいだし私服を着る機会もないしで興味が薄れ、今ではすっかりユニクロ人間。しかし久々に古着屋に来て血が騒いだらしく、気付けば雑然とした古着の山の中、宝探しに興じていた。安かったこともあり数点購入。帰るころには「ユニクロもすごく安いってわけじゃないし、こういうところで買う方が変わったのあるしいいね」と、ユニクロ教から目覚めていた。いや、ユニクロは悪ではないのだが、ユニクロを多用しはじめると次第にユニクロでしか買えない体になっていくようなところがあって、私もたまに陥りそうになるので意識的に踏みとどまるようにしている。無難で便利であるがゆえの中毒性とでも言おうか。私は服が割と好きな方なので、できればいろんな服を着る人生をやりたい。



9月27日(火)

夫があすけんにハマった。あすけんとは、体重や食事、運動などを記録するアプリで、記録した内容に応じて摂取カロリーや、栄養バランスを教えてくれるものである。私は昔から使っていて(とはいえ記録したりしなかったりそのときのやる気によってまちまち)、今までも夫がダイエットしたいと言うたびに何度か勧めてきたのだが、そのときは全く興味を示さなかった。が、今回のダイエットは本気らしく、あすけんアプリを教えたらすぐに登録し、しかもハマると凝る性格なので、食事のたびに一品一品きちんと記録して数値を確認、「今日はビタミンAが足りなかった」などと言い、明日から昼食に野菜のおかずを一品増やしたいなどと自ら提案してくるのである。好きな食べ物はラーメン、焼肉、ハンバーガーで、野菜は薬と思って丸飲みしていた男の発言とは思えぬ成長ぶりに私は感動すら覚えた。カロリーや栄養バランスの良し悪しがグラフで明確に表示されるのが理系の心をくすぐるのだろうか。


9月28日(水)

朝に米を一合だけ炊き、朝ごはんを食べた残りを私が仕事に持って行くおにぎりにする、という配分が定着しつつある。これだと全体的に控えめな量になって食べ過ぎ防止にもいいし、朝ごはんを食べたあと炊飯釜でそのまま混ぜ込みわかめなどを混ぜ込めるので、わざわざご飯をボウルに移す手間が省ける。以前はボウルに移すのが面倒で具材一点投入型のおにぎりを作ることが多かったが、この一合炊くスタイルになってからは混ぜ込むタイプのおにぎりにすることが多くなった。揚げ玉とめんつゆでつくる「たぬきおにぎり」が特にうまい。毎日これでいいくらい。こだわりポイントは塩昆布を混ぜることと、思ってる二倍くらい揚げ玉を入れることである。揚げ玉に入れすぎということはない。入れれば入れるほどうまい。



9月29日(木)

セブンイレブンに売っているカプリチョーザ監修のトマトとニンニクのスパゲティを食す。レンジでチンして蓋を剥がした瞬間の匂いが、完全にお店の匂いで感動した。買いだめしたい。


9月30日(金)

エッセイに「屋根に抜けた乳歯を投げる」という件を書いたら、それを読んだ母親から「屋根じゃなくて屋根裏だよ~ん」というLINEが来たので、そうだっけ?と試しにGoogleで「乳歯 屋根」と「乳歯 屋根裏」の両方を検索してみたが、屋根裏という検索結果はほとんど出てこず、母親に「屋根裏で検索しても全然出てこなかったよ」と言ったら、「あったけど」という返事と共に「屋根裏」という言葉の意味についての検索結果がスクショで送られてきた。いや、屋根裏という存在は知っとるわ。

地域によって違ったりするのかもしれないと思い、初めてTwitterの投票機能というものを使って、歯を投げるのは屋根か屋根裏かというアンケートをとってみた。結果、264票が集まり圧倒的多数で屋根だった。母親が無残にも敗北した形となり、わざわざこんなアンケートまでやって意地悪だったかなと少し反省したのだが、当の母親に結果を教えたところ全く折れる様子はなく、わざわざ祖母に電話までして、「おばあちゃんも天井裏に投げ入れていたと言ってまーす!」、「年寄りにアンケートを取ったら結果は逆転するはず!」と更に主張を強めたのだった。確かに年代の違いというのはあるかもしれない。Twitterでも昔ながらの日本家屋と現代の家の違いによって変化したのではという意見もあった。屋根裏の謎は解けぬままだが、圧倒的マイノリティとなっても屈しない母親のメンタルの強さは見習いたいと思った。


10月1日(土)

短パンを履いたお客さんが来店した。今年の北海道はおかしい。10月なのに、大人が短パンを履いて出歩けるくらい暖かいのだ。寒いのが苦手なので嬉しいは嬉しいのだが、反動でこの冬が爆裂寒くなるのではないかという恐れも同時に感じている。この暖かさが壮大な前振りにならないことを祈る。


10月2日(日)

文学フリマ札幌に行く。去年より会場が広くて驚いた。

以前通っていた歌人・山田航先生の短歌教室のメンバーでつくっている短歌同人誌に私もいまだに参加させてもらっているのだが、遠方に住んでいるせいで掲載させてもらうだけさせてもらって準備も当日の店番も何も手伝っていないのが非常に申し訳ない限りである。せめてもの気持ちでお菓子を差し入れる。

山田航先生の弟子的存在であり、今年の春に短歌とエッセイの本を出版したお笑い芸人のスキンヘッドカメラ岡本さんがいらっしゃって、初対面だったが「長瀬さん!?山田先生に○○(私の住む市)に面白い女がいるって聞いてますよ!」とまさかの知ってくださっていたという嬉しい驚き。しかも「天皇陛下とラーメンのエッセイ読みました」と言ってくれて、さらにそのブースにいた他の女性の方も「え、私もそれ読んだことあります」とのことで、私が酒を飲み過ぎて小汚い格好でラーメンを食べに行った話は思いのほか多方面に知られているのだと知る。ありがてぇ話。

俳人のせきしろさんにも初めてお会いできた。BSよしもとで放送している『又吉・せきしろのなにもしない散歩』を毎週録画して見ているので、せきしろさんのブースを調べるまでもなく、背後から立ち姿のシルエットを見ただけで「せきしろさんだ!」と見つけることができてしまい、我ながらちょっとキモイなと思った。本を購入し、サインをもらった。


10月3日(月)

外国人が日本食を食べて感動しているYouTubeを観ていたら、あっという間に数時間が過ぎていた。やるべきことは進まないわ、寿司だのすき焼きだの見せられて腹は空くわで、どうしようもない。

お腹が空いてしまったので何か夜に食べても罪悪感のなさそうなものはないかと台所を漁ると、ミックスナッツが出てきた。パッケージに「素材本来の味を大切に、食塩を加えずローストしました」と書いてあったが、しょっぱいものが食べたかったので塩を豪快に振りかけて食べた。素材本来の味を台無しにしたことで罪悪感を覚える結果となった。

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