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9月11日 リゾート万歳

9月3日(土)

明日、夫と一緒にジョインアライブに行く。はじめて音楽フェスに行く夫が、「フェスに行くならアレを買わなければならない!」と言うので、アレを買いに我々はスポーツショップへと向かった。

アレとはすなわち、フェスに行く人たちがよく被っている帽子のことである。つばが一周している、ちょっとくたっとした布製の、あご紐がついているやつ。正式名称は不明だが、確かにフェスに行くと被っている人をよく見かける。夫にとってあの帽子こそがフェスの象徴、フェスに参加する者のドレスコードらしい。

スポーツショップに行くと、アレ系の帽子がたくさん置いてあったので、夫はさっそく試着。しかし、なんだかしっくり来ない。「もしかして仕事用のワイシャツ着てるからじゃない?」ということで、ワイシャツを脱ぎ、中にインナーとして着ていたグレーのTシャツ姿になった夫。下半身もグレーのスラックスだったので、上下グレーの無課金アバターみたいになってしまったが、とにかく試着を続ける。

しかし、どれを試すもしっくり来ない。夫は顔が小さくて顎もないので、なんか帽子に頭部を乗っ取られてる感じになってしまう。特に深く被ると良くない。深く被った途端、やたらと面白くなる。

「これはどう?面白い?」

「面白い、めっちゃ面白い」

「これは?」

「それも面白いから駄目」

どれもこれも面白い。困った。「帽子がなくてもフェス行っていいのかな……」と夫が半ば諦めモードに突入したころ、「これは?」と私が選んだニューエラの帽子を被せてみると、なんと、面白くない。高さといい、つばの大きさといい、ちょうどいい具合。

「これいいわ!面白くない!全然面白くない!」

誉めているのか貶しているのかわからない歓声をあげる私。さらに、近くにあったコロンビアのマウンテンパーカーを着てみれば、まさにこれからフェスに行きますという装い。これも買おう!となる。もう無課金アバターとは言わせない。

なんだかテンションが上がってきたので、本来買う予定のなかった私まで色違いのマウンテンパーカーと夫の帽子と同じロゴのニューエラのキャップを購入。お揃いフェスカップル爆誕である。


9月4日(日)

ジョインアライブ当日。開催は昨日からだが、我々は二日目のみ参加。天候にも恵まれ、絶好のフェス日和。日差しが強く、帽子を買ったのは正解だった。

特に印象に残っているのは、オープニングアクトだったChevon(シェボン)という札幌のバンド。ボーカルの圧倒的な存在感に思わず見入ってしまった。特別に奇抜な見た目や動きをしているわけではないのに、歌っている姿をずっと見ていたいという気持ちにさせる。これがカリスマ性というやつか……と感動すら覚えた。YouTubeのMVはアニメーションを用いたものがほとんどのようで、本人たちの姿が見えないのは勿体ないのではと思ったが、画面越しではあの存在感が伝わらないような気もするので、逆にそれでいいのかもしれないとも思った。

あと、リーサルウェポンズもよかった。KANA-BOONと被っていたので少ししか見れなかったのが残念。
それと宮沢和史の島唄を生で聴けたのもよかった。なんか島唄って好き。教科書に載っていたからだろうか。

夫も大好きなDragon Ashが見られたので大満足の様子であった。フェス飯も食べまくってビールも飲んで楽しい一日だった。


9月5日(月)

今日も休み。例の如くベランダで肉を焼きながらビールを飲もうということになり、夫がスーパーに肉を買いに行ったのだが、ついこの間まで焼肉用のカルビやらなにやらが並んでいた場所が、鍋コーナーに変貌を遂げており、あまりいい肉をゲットできなかったとのこと。9月とはいえまだ暑い。それでも世の中は暦に合わせてガンガン進む。いやだ。まだそっちに行きたくない。夏をやっていたい。しかし、我々がどんなに夏にしがみつこうとも、肉を手に入れられないのが現実。どうにか残っていたホルモンとやげん軟骨を焼いて、もう最後になるかもしれないベランダ焼肉を噛み締めた。


9月6日(火)

毎週聴いているラジオ「マヂカルラブリーのオールナイトニッポン0」、ワンピース考察YouTuberのもっちー先生という方がゲストに来て一緒にワンピースの今後について考察する回。ワンピースに関しては予想も考察も何もないフラットな状態で読んで純粋な気持ちで展開に驚き楽しみたいというスタンスだったので、YouTubeや考察サイトなどはできるだけ見ないように遠ざけながら今まで生きてきた私だが、毎週聴いているラジオでやると言われると我慢できず、ついに聴いてしまった。結果、ワンピースの正体がわかってしまった。いや、あくまで考察なのだが、そうとしか思えないような説を知ってしまった。めちゃくちゃ興奮した。その反面、違う展開であってくれ!考察を越えてくれ!とも思う。なんにせよ、今後のワンピースから目が離せない。


9月7日(水)

お客さんが全然来ない。これはきっとショップ店員あるあるに違いないのだが、お客さんが全然来なかった日の方が疲れる。賑わって常に接客していた日の方が不思議と退勤後も元気。退屈は人を疲れさせるのか。


9月8日(木)

夫が弁当を忘れて出勤した。夫の職場は私たちの住む田舎町の中でも更に外れた山の方にあり、周囲にコンビニがない。可哀想なので出勤前に届けに行くことにした。

忘れたお弁当を届けに行くって、すごく漫画っぽい。お母ちゃんが学校まで弁当を届けに来て、大声で名前を呼ばれて「恥ずかしいからやめろよ!」的なシーンをどこかしらで見たことがある気がする。何で見たのかは思い出せない。そのあとクラスメイトに「おまえの母ちゃん、相変わらずおもしれえな!」などとからかわれたりする。何で見たのかは思い出せない。家に帰って「ほんとやめろよな!」と文句を言いながら弁当箱を差し出す息子と、空っぽの弁当箱を見て微笑むお母ちゃん。何で見たのかは思い出せないが、愛。

駐車場に着いたよ、と連絡すると、夫が急いでやってきた。忘れて行った弁当を手渡す。本日の弁当は、昨日のおかずの残りをタッパーに入れたやつと、パックの豆腐。そう、夫は絶賛ダイエット中。なんて愛と趣に欠ける弁当だろう。全然漫画っぽくない。


9月9日(金)

夫の両親、姉夫婦と共に長崎へ。伊王島にあるi+Land nagasaki(アイランドナガサキ)というリゾートに二泊三日の宿泊。空港からレンタカーで伊王島へと向かいながら、福山雅治が昔ラジオで長崎は坂が多いので全国で最も自転車屋さんが少ないというような話をしていたのを思い出す。確かに坂が多い。

伊王島は島全体がリゾートになっており、宿泊客は島内にいくつもある温泉やプール、カフェなどいろいろなものが無料で使える。また、10分置きに各主要施設を回るシャトルバスがあるのに加え、電動自転車もあちこちに置いてあるので好きに乗って移動できるのだと言う。旅行好きな夫の両親が春に滞在してものすごく良かったからと、今回誘ってくれた。いつも私が旅行するとなると、ご当地グルメを食らい尽くすことに命をかけ、ガチガチにスケジュールを組んで臨む、食い意地ストロングスタイルになってしまうので、ひとつの島でのんびり二泊するなんていうのは初めてに近い体験である。

島に到着すると、レンタカーであちこち移動しながら義両親が島内の施設などを案内してくれた。家族旅行だし、なんとなく三日間みんなで一緒に行動するのだろうなと思っていたので、どうせあとで一緒に行くのになんで最初にこんなにたくさん案内してくれるんだろ~とぼんやりしていたら、ホテルにチェックインしたあと、「じゃ、夕飯は7時半集合ね!」と言われて解散。夕食以外それぞれ夫婦で自由に過ごすスタンスだと判明。さすが旅慣れしている義両親、発想が違う。そんなわけで我々夫婦はリゾートに解き放たれた。

電動自転車で近くを散策したあと、温泉で汗を流し、岩盤浴もした。九州の日差しは9月でもまだまだ厳しかったが、自転車で移動すると風が気持ち良かった。ホテルや施設は、完全に新しい建物もあれば、昔からある建物をリノベーションした感じのところもあり、清潔感があって洗練されつつ、古き良き雰囲気も残っていて、とにかく居心地がいい。夕食のコース料理もめちゃくちゃおいしくて、特に九州の甘い醤油で食べる刺身は格別。すっかり、リゾート最高!という気持ちに。


9月10日(土)

6時に起きて、昨日とは違う温泉へ朝風呂に行った。温泉というものにそこまで強い興味を持たない私だが、朝の露天風呂は好きだ。早起きする価値がある。ここの露天風呂には、斜面になっている上の方からちょろちょろお湯が出ていて、その斜面に寝そべる(背中にだけお湯が当たっている状態)というタイプの、温泉に疎い私はあまり見たことがない形状の風呂があった。そこに全裸で寝そべっていると、陽射しが全裸を照らし、見える景色は海、近くにはヤシの木っぽい木もあって、ほとんどヌーディストビーチであった。

本当は島内にもう一カ所、露天風呂付の温泉があるのだが、先週の台風で露天風呂が破壊されてしまったそうで、ちょうど使えなくなっていた。台風のタイミングと被らなかったのは良かったが、やってくれたな台風。

朝食は洋食バイキングだったのだが、超おしゃれで、超おいしかった。並んでいるものすべてが魅力的。無駄なものがない。夫はそれを「麦わらの一味のようだ。数だけ大量のモブ海賊団とは違う」と表現していた。

朝食後、砂浜のエリアに向かい、予約していたマリンアクティビティへと臨んだ。これだけは全員分予約していたのでみんなで行った。マリンアクティビティ的なことははじめてだったし、注意事項に「一般的な泳力のある方」と書かれていたのが気になった。私は水に浮いて進むことはできるが息継ぎをすると沈むという一般的かどうか微妙なラインの泳力の持ち主である。ライフジャケットを着るとはいえ不安は不安だった。しかしながら、SUP(大きいサーフボードみたいなやつの上に立ってオールで漕ぎながら進むやつ)に挑戦してみると、最初はグラグラして怖かったが、落ちたくない、落ちたら死ぬ的な気持ちが人一倍強かったせいか、必死にバランスをとっているうちに上手く立てるようになった。オールで漕ぐと風が感じられて気持ち良い。しかし、やはり長時間やっていると疲れてくる。船酔いのような感じで少しフラフラした。砂浜に戻ると、やっぱ陸っていいなと思った。陸の安定感ハンパない。

そのあとは夫と二人でプールに行った。一緒にプールに行ったことがなかったので、思いのほか楽しかった。夫に見せた結果、私は一般的な泳力があるということになった。

夕方、電動自転車で島を海岸に沿って半周した。一周するのも一時間くらいでまわれてしまう小さな島だ。内陸育ちなので、島とか海とか、そういうものが基本的に全部物珍しい。地図上の、あの海と陸の境目の線を自分が移動しているのだと想像すると、妙に面白い。自転車だと尚更そういう実感が得られて面白かった。

昨日と別の会場での夕食。昨日は繊細な和食コースだったが、今日はお肉たっぷりのコース。夫の両親、姉は割と少食な方であるため、牛肉のあとに豚肉の鍋が畳み掛けてきて最後にはちゃんぽん麺という怒涛の構成に度肝を抜かれ、軽く青ざめていた。私はみんなを安心させようと、「私が食べますよ」と宣言。場を和ますための軽いジョークのつもりだったが、私にとって麺は別腹なので、余裕で一人前以上のちゃんぽん麺を食べ切ってしまった。周りからの「なぜ食べられるんだ…」という視線。ギャル曽根ってこんな気持ちなのかなと思った。満腹、即就寝。


9月11日(日)

早朝、釣りをしている義父のところに行って、ちょっとだけ釣りの真似事をさせてもらった。夫は釣れたが、私は釣れなかった。でも、覗くと魚がうようよいて、それを見ているだけで面白かった。

朝食をたらふく食べたあと、私と夫はレンタカーに乗り込んだ。夫がせっかく長崎に来たから長崎市恐竜博物館を見るだけ見たいというので、それに付き合うことにしたのである。最近できた博物館で、リアルな動きをする恐竜のロボなんかもいた。あまりの迫力に子どもがギャン泣きしていた。一方、私は、足の長さの割にやたらと手が短い恐竜の骨格の前で全力でその恐竜を擬態、夫に写真を撮らせていたら、係りの女性に爆笑された。ひと笑いとって、また伊王島へと戻る。

みんなと落ち合い、空港へと向かった。帰ると思うと、寂しい気持ちになってくる。長い橋を渡って島を去る。この橋がなかったころには船がないと行き来できなかったのだと思うと、今更ながら島って大変だなと思った。

飛行機で爆睡しながら、北海道へと帰還。今回わかったのは、リゾート旅行も楽しいということ。腹にご当地グルメを要領よく詰め込むことだけが旅行ではないのである。

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