東京ドキュメンタリー映画祭2024「共和国」「北鵜島」
季節は映画祭のため、TIFFに引き続いてはTDFFで見てきた話である。今回もまた二本見ることができた。いつものことながら連日通ってもっと色々見ることができればと思うが、そうも言っていられないのが悲しいところである。とはいえ今回鑑賞できた二作はどちらもとても良かった。
共和国(ジン・ジャン、2023)
北京に暮らす青年ヤンとその友人たちの生活を撮る。「共和国」と名付けられたヤンの部屋は、現実社会の煩わしさから解放されているかのような自由な空間である。「共和国」は小さな理想郷なのだが、それを維持するためにヤンは多額の借金を抱えているという現実もある。彼と交流のある若者たちも一見何にも縛られず自由に暮らしているように見えるのだが、やはりヤンと同じように借金の負債に頭を悩ませたりしている。みんな身なりが綺麗で立派なスマホを持ち、どうあれこの世で自分の暮らしを維持している。
映画が始まってまず思ったのは「60年代っぽいな……」ということだった。それは「こういう大学生いただろうな」とか、あとは安直に「映像や文献などで見たことのある、昔のヒッピーっぽい」という感想になってしまうのだけれども、ある意味こうしたスタイルというのは時代で変わるものでもないのだろう。「このような人々は常に一定数存在するのだ」と思うこと、それはつまらない見方でもあるのだけれども、自分の知らない生活様式を垣間見るのは非常に面白い体験だった。
ヤンは理想を高く掲げる。共産主義を賛美しながら、疑問を抱く。自由を求めながら現実世界から足を離すことはできない。現在のヤンを形成する過去の出来事、両親や教師が彼にもたらしたもの、そういうバックグラウンドがまだ生々しく未消化の状態で途上にある人生。ドラッグや性、衝動や滞留などさまざまなものが渦巻く「共和国」の若者たちは、たぶんとても「普通」だ。
上映後のトークセッションで監督が「若者という存在は永遠」(と通訳の方が訳していたように覚えているのだが)と言っていたのが、本当にその通りなのだろうと思った。この作品は2020年から二年間かけて撮ったと言い、コロナ禍ではあったのだけれども「それが若者の本質を変えたり影響を及ぼすものではない」というようにも語っていた(これも言葉として正しくは覚えていないのだが……)。ただ映像中に出てくる人々はマスクをしたり何か感染対策を取っているようには見受けられなかったので、影響云々というよりこの人たち自身が時勢をあまり気にせず普通に生きている様子であったかな……とは感じた。
監督はまた「素材を多く用意することが大事だ」と言っており、相当な時間を撮影したのちにそこから107分まで編集したという。若者の普遍さというものに注目した監督が選び抜いた映像群であるということを考える時、またそこに一つの思想を見出すようで面白い。
北鵜島(ジョン・ウィリアムズ/岩崎祐、2024)
佐渡島のほぼ北端に位置する集落を撮影した作品。冒頭、中央に大きな岩を構えて海が映るのだけれども、それが最初はぼんやりとしているのがだんだんはっきりしてきて、最後にはくっきりと佐渡の海を映し出すのが本当に美しくて素晴らしかった。この作品のカメラマンは映像作家である岩崎監督を含めて三人(三人だったはず……)ということだが、選び出された画はどれも光の入りが美しく、きっちり決まっていていい。写真集か何かで欲しいまである。
北鵜島の風景や人々との交流を通じて、ウィリアムズ監督は故郷ウェールズの景色やそこへ残してきた父親に想いを馳せる。山を登っていく人の背中に父の面影を見、家族や親子の姿を通じて自分の半生を思い返す。健さんと凌さんという漁師親子が出てくるのだが、凌さん(息子さん)は佐渡から出たことがなく、高校卒業時の進路相談ではすでに家業を継いで漁師になることを決めていたという。故郷を遠く離れた自分、また立派な学者だった父親のようにはなれなかったと感じている監督の心を映し出すかのように彼らは描かれる。
映像の中には増家さん、北村さん、山岸さんなど北鵜島の住民の方がたくさん登場する。牛のコンテストで何度も入賞したこと、結婚した時の様子、家族が描いた絵、飼っている猫、さまざまのことが語られる。普段誰かと話しているときにも思うのだが、ひとひとりの人生だけでもうどんな小説よりも面白い。その人の人生はその人だけのもので、他人が同じ体験をしても同じ語りは出てこない。人が自分の話をしているのを聞くのは本当に面白くて、この作品からもそうしたことをしみじみと感じさせられた。
上映後のウィリアムズ監督によるトークセッションは全体的に面白トークに終始していたのも良かった。監督が佐渡を訪れた最初は1990年であったそうなのだが、同行していたパートナーの方が体調不良になったところ、住民が自宅に泊めてくれて監督には日本酒をガバガバ飲ませてきたとかいうエピソード。また別の機会には朱鷺をテーマに撮ってくれるよう頼まれたが、初めて朱鷺を見て「こんなに醜い鳥を……!?」と思ったというのがだいぶ面白かった。しかしのちに朱鷺が飛んでいる姿を見て考えが変わったとも話されていた。
前回の上映時は岩崎監督のトークセッションだったらしく、その日は都合がつかずに行けなかったのだが、こちらもぜひ話を聞いてみたかった。北鵜島、またぜひどこかで上映になってくれたら嬉しい。