少子化対策 ── Singapore 14
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少子化対策 ── Singapore 14

一般社団法人次世代基盤政策研究所(NFI)

 私は、2011年1月から3月までシンガポールに滞在して、アジア、とくに東南アジアの社会と行政について観察し情報収集を行った。その作業はまだ途上であったが、3月11日の東日本大震災のために、その後の観察は断念せざるを得なかった。今、当時書き綴ったコラムを読み返して、今でも、多くの方に伝える価値があると思い、このNOTEに掲載することにした。その第14弾。

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シンガポールは日本とともに、合計特殊出生率が1.27(2008年国際連合推計)と低く、わが国同様、少子化が指摘されている。

日本では、確かに小さな子供を見る機会は著しく減ったように感じるが、シンガポールは、出生率という数字の上では日本と変わらないものの、街には小さな子供が結構多く、若いカップルやおなかの大きな女性をよく見かける。観察した限りでは、少子化が進行しているようには思われない。

こうした印象と数字が異なる理由としては、まず高齢化が進んでいないので、見かけの上で子供が多いように感じられるのではないかという解釈がある。そうかもしれないし、以前はもっと子供の数が多かったということかもしれない。

また、この国は多民族社会ではあるものの、結婚は同じ人種間で行われることが多いそうであり、多数を占める中国系国民の出生率が低いということなのかもしれない。以前にも書いたように、この国の人種、民族は実に多様である。ときに中国系の金髪の男性と茶髪の女性のカップルが、黒髪の子供を連れている情景も目にするが、外見はともかく、やはり中国系同士、マレー系同士、インド系同士の結婚が圧倒的に多いそうである。

もう少し説得力ある説明としては、この国の国籍をもっている国民の間では出生率が下がっているが、それ以外に永住権を持っている人や多数の外国人が住んでおり、彼らの出生率が高いので、見かけ上少子化が進んでいないように見えるというものである。

理由はともかく、人口が400万人弱の国であり、マレーシア、インドネシアという大国と隣接しており、さらに中国系の人たちが8割を占める。この国の指導者が、日本の少子化への対応策として、若い世代を移民として受け入れるべきであると助言した話を耳にしたことがあるが、この国の規模で、そしてそもそも多民族社会で多数の外国人が常に国内にいる国ならば、移民による人口バランスの調整はそれほどむずかしくはないのかもしれない。

ある国の国力が、人口、とくに労働力人口に依存することはいうまでもない。しかし、人口を政府の政策によってコントロールすることは容易なことではない。とくに長期的にみてバランスのとれた人口構成を形成することは難しい。さらに外国からの移民政策をとることなく、それを行うことは至難の業である。

かといって移民を積極的に認めればうまくいくかというと決してそういうこともない。このことは、戦後のドイツをはじめとするヨーロッパ諸国の移民政策がもたらした問題を想起すれば、容易に理解できよう。

移民政策を効果的に行うには、しっかりとした人間の管理が必要である。「人間の管理」というと人権論者から批判を浴びそうであるが、率直にいって、流入してくる外国人に対しても、すべて国民と同等の人権を認めていたのでは、質の高い社会の維持はできない。要するに、その国にとって、いてもらうことが望ましい人には積極的に移り住んでもらうが、恒久的に居続けては困る人には、必要性がなくなったときに出て行ってもらうことが必要なのである。

その国にとって不要になったときに出て行ってもらうためには、ときには非情な措置も必要であり、その者の人権を制限することもやむを得ないと考える国民の意識が前提となる。こうした問題がもっとも顕著に表れるのは、外国人が長期にわたって住み、彼らの間でカップルが生まれ、子供ができたときである。祖国を知らない外国人である子供たちが多数生まれたとき、彼らをどのように扱うべきか。予めそうした事態を想定して、ときには非情と思われる措置を断行する制度とそれを実行する決意がなくてはならない。

シンガポールでは、外国から労働者としてきている女性が妊娠したときは強制送還されるとか。他方、この国の発展にとって必要な高度の専門能力をもった人材については、積極的に永住権(permanent resident)を取得するように勧誘している。また、社会保障が充分とはいえないため、この国の国民であっても、老後の高い生活費を負担するのが困難と思う人は、物価の安いマレーシアなどに、逆に移り住んでいくとか。

この国の人間の管理政策は、非常に合理的ではあるものの冷たい政策である。だが、それくらいしないと、この国の社会の水準は維持できないということなのであろう。

では、日本の場合はどうか。これから不足する介護をはじめとする労働力として外国人を受け入れるべきか否か。受け入れざるを得ないにしても、それらの人たちを、日本社会の質を維持していくために、しっかりと管理する制度を作り、その運用を行うことができるのであろうか。

日本での労働者受入れや移民政策についての議論を聞いていると、こうした課題についての認識が充分とはいえず、安易な移民受入れ論や文化的な拒絶論等が目立つ。もっとクールに現実をみて、他国の経験を踏まえた政策を検討すべきである。それがたとえ非情なものであったとしても、わが国の将来にとって最善の策を採用すべきであろう。 (2011年02月28日)

一般社団法人次世代基盤政策研究所(NFI)
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