1日パン

山に暮らして学び、アレルギーフリーのパンを全国に届けたい

NCL奥大和の舞台である奈良県宇陀市は、奈良県北東部に広がる大和高原の玄関口に位置します。奥大和と呼ばれるこのエリア一帯は、標高およそ300m~600mの冷涼な気候と寒暖差を活かした米や野菜づくりが行われ、有機農業も盛んな地域です。

NCL奥大和のミッションは、「生命を支え暮らしをつくる食、その根源的な可能性を追求し未来の食のスタンダードをつくる」こと。奥大和が持つ自然の豊かさを活かし、そこに暮らす人たちとともに“食”にまつわるプロジェクトが始まっています。今回ご紹介するのは、アレルギーフリーのパンをつくって販売する “やさしいパン”というプロジェクト。そこで、NCL奥大和事務局のメンバーであり、このプロジェクトのアドバイザーの中友宏さんにお話を聞きました。

●プロフィール
奈良県(山添村)出身。2006年ロート製薬入社。11年間工場の製造部で勤務する中で、資本主義の大量生産、大量消費の流れの限界を肌で感じ、そのような仕組みだけではない新しい生き方・働き方を模索したいとNext Commons Lab奥大和の事務局メンバーとして社内公募でジョイン。主に人事総務・施設管理業務を担当。2児の父で食の在り方の大切さ、里山での暮らしを子供にも伝えながら活動中。

アレルギーを持つ人も日常的に口にできる食を

食事をした際に皮膚がかゆくなったり咳が出るなど、食物に含まれるタンパク質をからだが異物として認識してしまい、自分のからだを守るために防御して過敏な反応を起こすのが、食物アレルギーです。厚生省が発表している情報によると、正確な数は把握できていないものの日本の人口の1~2%はなんらかの食物アレルギーを持っていると考えられています。

未来の新しい食づくりにおいて、食物アレルギーで悩む人たちに寄り添う食とは何なのか。NCL奥大和のメンバーが考え導き出した答えが、”パン”でした。給食でも食べられるなど日常的に口にしていて身近な食であること、年代を選ばないものであることから、どんな人も食べられるアレルギーフリーの“パン”をつくってみようというプロジェクトです。

「パンは手軽に口にしやすい食事なのに、アレルギーがあって食べられない人がいる。からだのことを気にせずにおいしく食べられるパンができれば、そういう人たちの悩みを少しでも解消できるのではないかと思ったんです。」

知識も必要だけれど、アイデア次第で可能性が広がるパンづくり

また、奈良はパン食が盛んな地域であるとのデータもあり(2014年-2016年の食パン購入量1位、小麦2位=総務省統計局・家計調査)、パンをつくって売る市場としては今後広がりが期待できそうな場所です。けれど、アレルギー物質の入っていないパンをつくるにあたって、これから向き合うべき課題もあります。

「小麦の代わりに多く使用されているのは米粉ですが、アレルギーの原因となるタンパク質は米粉にも含まれていますから、100%米粉のパンならいいのかいうと、そうではなくて。また、アレルギーの原因となる特定原材料が他の食品と混じらないよう注意して設備を整えていくノウハウも身につけていかねばなりません。」

“やさしいパン”をつくるためには、アレルギーに関する深い見識や、知識を身につけようとする高い意欲が必要とされそうです。でも、それはきっとどんな立地でも同じ。それでも、宇陀という場所でパンづくりをすることにはどんな意味があるのでしょうか。

「奈良には、アレルギーフリーのパンをつくるお店はまだ少ないので、競合が少なくその分野での先駆けとして注目される可能性も高いと言えます。」

通信販売を視野に入れれば、応援してくれるお客様の幅がぐっと広がります。また、有機野菜がたくさんつくられている地域だからこそできる野菜を生かしたパンづくりなど、アイデアをふくらませる余地は存分にありそうです。

大和高原の豊かな自然の中で食の在り方を学ぶ

そして、この奥大和で食に携わることのおもしろさは、自然環境の豊かさにあると中さんは語ります。

「僕は幼い頃から山の中で野草や木の実を見つけて食べたり、毎日手を泥んこにして遊びまわったりしていました。パンづくりと直接関係するわけではないかもしれないけれど、特に子どもにとっては自然と触れあう体験や、そこで身につける知識、環境に順応する力は都会ではなかなか身につけることができないと思うんです。」

また、宇陀には三世代同居で暮らす家族がまだたくさんいて、近隣のおじいちゃんやおばあちゃんに田んぼや畑に連れて行ってもらって野菜の名前を教えてもらったり、土の中から引っこ抜くような体験が日常的にできるのだそう。

「子どもの頃から自然を相手にすることで、食べ物の成り立ちを学ぶこともできる。きれいな環境を整えてあげることも大事だけれど、僕自身は泥んこになりながら山の中で遊ぶという体験を通して強いからだをつくることができた。だから、子どもたちにも同じような経験をさせてあげられたらいいなって。」

お子さんがいるファミリーにも挑戦してみてほしい

“やさしいパン”プロジェクトを進めるにあたって、もちろんパンづくりや調理の経験は欠かせませんが、中さんは、どのような人物像を描いているのでしょうか。

「自然の豊かさを子どもに経験させるという意味では、子どもを遊ばせながらパンをつくりたいという人にはとてもいい環境だと思います。技術力が必要な仕事ですから、パンづくりやアレルギーの知識はもちろんのこと、日々研究と製造を続けていく覚悟があれば実現できるのではないかなと思います。」

また、宇陀から大阪は電車で1時間と通勤圏内。だから、夫婦のどちらかが都会の会社で働き、もう一方がパンをつくりたいというご家族にとっても、可能性があると言えそうです。

「もちろん、経験や技術力をのぞけば、条件にしばりはありません。だから、普通のパンではなくて一味違うことに挑戦したい人や、ひとりでは一歩踏み出せないという方におすすめしたいプロジェクトです。」

そう言う中さんも、企業に勤める中で自分の仕事の幅を広げたいという思いから、自らプロジェクトに参加。そして今、NCL奥大和のプロジェクトを手づくりで推進しています。NCLが考えるプロジェクトに、“正解”はない。だからこそ、自分なりの生き方や食に対する思いをカタチにする余地があると言えるのではないでしょうか。パンをつくることで、食の新たな未来をともに築いていける仲間を待っています。


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