企業間情報連携が鍵となるサステナビリティ報告義務への対策
NEXCHAIN理事長の市川芳明です。
今回は、企業間情報連携が鍵となるサステナビリティ報告義務への対策をお話しします。欧州で制定された新法CSRD(企業サステナビリティ報告指令)と関連するESRS委任規則が日本企業にも大きな影響を与えています。
これらの法律が企業活動にどう影響し、どのように対応すべきかを見ていきましょう。
欧州発で日本にも影響を与える企業報告
欧州(EU)で2022年12月に公布されたサステナビリティ企業報告に関する法律CSRD(Corporate Sustainability Reporting Directive)は 「EU会計指令」の一部を成す比較的新しい法律です。また、このCSRDの交付以前には、「非財務報告指令(NFRD:Non-financial Reporting Directive)」と呼ばれる修正指令2014/95/EUが2014年11月に公布され、会計報告にCSRに関する内容を盛り込むことが義務化されていたという経緯があります。すでにNFRDでの報告には多くの欧州企業は慣れているはずですが、新たに交付された修正指令CSRDによって、より細かい内容まで踏み込んだ情報開示要求が多数追加され、対象企業の範囲が大幅に拡大し、欧州域外の大手企業の本社(例えば日本企業)にまで及ぶことになりました。しかも欧州でNFRDの対象となっていた企業は今年(2024年)の会計年度からCSRDの適用が始まっていますので、いま日本を含んで欧州事業を展開する業界は大騒ぎの状態です。
このCSRDを補足する法律としてESRS委任規則が公布されており,具体的な報告の内容はそこに定めてあります(図1参照)。
この報告内容と義務について日本企業にとって影響の大きなものを抜き出しましょう。
(1)環境(気候変動、汚染、自然資本含む)、サーキュラーエコノミー、自社及びバリューチェーンの労働問題について、企業として事業リスク、事業機会、事業戦略およびKPIを報告しなければなりません。これらの社会課題が将来の事業に具体的にどのような影響を与えるかをアセスメントし、その結果どのように手を打っていくのかを事業戦略として決定し、そのKPIを定めて毎年報告することになるのです。
(2)報告は義務です。法定監査人または監査法人が提出する意見書および声明書とともに、年次財務諸表および経営報告書のなかで報告することになっています。
(3)日本企業が親会社の場合には、そのグループ企業が欧州域内にある場合、当該親会社がグループレベルにおいて報告書を発行し、欧州からアクセス可能にすることを義務付けています。
(4)特に重要な点ですが、「企業自身の事業、および製品・サービス、取引関係、サプライチェーンを含むバリューチェーンに関する情報を含まなければならない」としているのです。この点で、上記に該当する日本企業は下請け企業の情報も収集して報告する、いわゆる「デューデリジェンス・プロセス」が必要となってくるのです。カーボンフットプリント、資源循環、労働問題に深くかかわってきます。
世界の金融ルール
欧州を除き、各国の証券取引所や管轄政府組織が採用するルールは別のところで作られており、欧州政府もこのルールに整合を図っています。図2にその概要を示します。左側は実は民間組織ですが、世界中の大手金融機関が入っているので、各国政府もこれを採用することになります。一方、右側は政府系ではありますが、最も著名な組織であるTCFDは今年、左側のISSBに移管されました。日本の金融庁もISSBを義務化しています。
最近の傾向
さて、このような世界各国で導入されつつある企業からのサステナビリティ情報開示に関する要求は、年を追うごとに緻密化、細分化、多項目化しています。これらの項目は、環境(気候変動と自然資本)および人権(デューデリジェンス)と大きく二つのジャンルに分かれていますが、いずれにも共通の傾向が見て取れます。それが「バリューチェーンでの情報トレーサビリティ」です。例えば環境項目でよく知られているものには、製品のカーボンフットプリントやScope 3と呼ばれる温室効果化ガスの排出量があります。いずれも自社内の活動のみならず、バリューチェーンの川上や顧客以降の川下の企業に関する数値を調査して報告する必要があります。最近では温室効果ガスのみではなく、資源循環やネイチャーポジティブとよばれる自然資本の消費や再生に関しても同様に川上と川下のデータが要求されています。また人権では原材料採取場所での人道的な取り扱いに関するデータや、川上のサプライヤーにおける労働環境、ダイバーシティ、ワークライフバランスなどのデータが問われています。これらはいずれも一企業の努力だけで報告ができるものではありません。
日本企業に求められる対策とNEXCHAINの活用
欧州では、広く多数の企業が参加する団体(「スキーム」と呼ばれ欧州政府によって認定される)によってこのような情報を収集し、検証する仕組みが準備されていますが、日本にはいまだこのような団体は存在しません。そこで、企業間で機微な情報も安心して安価に伝達できるNEXCHAINの仕組みが効果的に活用できるはずです。サステナビリティ報告義務に対応するための最大の課題である川上企業、川下企業との機微な情報を連携するために、手軽な仕組みとしてぜひNEXCHAINの活用を検討してみてください。NEXCHAINでは同じ課題を抱えた異業種の企業の仲間とこのような検討を行い、試行する場を用意しています。