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高級オーディオメーカー アキュフェーズ株式会社。「メイドインジャパン」ブランドの挑戦。

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ブランディング・マーケティングのお手伝いをしているネックスコミュニケーションズ。独自の戦略で確固たる地位を築くブランドを幅広くご紹介します。

「メイドインジャパン」ブランドの挑戦


第1回目のブランド研究はアキュフェーズ株式会社。厳しいオーディオ業界の中で、創業から守り続けてきた経営理念「規模を拡大しない」という、いわば一般の企業とは真逆の経営で高級オーディオ市場で異彩を放ちます。

経営トップである伊藤会長・鈴木社長・和田副社長から貴重なお話をお伺いしました。(インタビューアー:ネックスコミュニケーションズ 代表露木)ボリュームたっぷりにお届けします。

アキュフェーズが確固たる地位を築く、その理由。

①量より質の追求。拡大戦略をとらない

「量より質の追求。拡大戦略をとらない」という創業時の教訓を50年間も守り続けてきたことが、確固たる地位を築いてきた最大の要因ではないでしょうか。企業も人なのでブームやトレンドを追っかけます。チャンスがあれば拡大路線に走ります。しかし、アキュフェーズはかたくなに「量より質」を50年間も守り続けてきました。すごいとしてか言いようがありません。

②限定されたユーザー様と数少ない販売店様の満足感を維持する三位一体の仕組み。

 販売は販売店様にお任せしているにもかかわらず、直接ユーザー様と密にコンタクトをされファンになってもらい一生涯の愛好者になってもらう。そのための一生涯修理をする「ライフタイムアフターサービス」の仕組み。

③他社では絶対まねのできない開発戦略と販売戦略。

 競合との血みどろの戦いを避け、独自のマーケットを開拓してきたこと。
新製品開発にあたり、自社製品よりもっと良くなったかだけが判断基準。競合とは比較しない。競合のやり方を真似もしないし、参考にしない。独自路線を貫き通すこと。
 

インタビュー詳細


― 御社は「規模を拡大しない」というユニークな経営戦略をとられていますが、創業した時から堅持されているのでしょうか。
 
伊藤会長
はい。創業時からずっとこの戦略を全うしています。弊社は50年前1972年に創業しその翌年この本社を建築したのですが、創業者の春日仲一・二郎 兄弟が私財を投入して建てたものです。

創業時はつくるモノも売るモノも無く、全く無の状態からのスタートですから、銀行からの融資が受けられる状況ではありません。当時はオーディオ全盛の時代、多くのオーディオ・メーカーが乱立し、1円でも安いモノを……と激しい価格競争を繰り広げていました。春日兄弟は当時オーディオ御三家と言われた中の一社、トリオを創業しました。しかし売上と共にどんどん会社規模が大きくなって、社員も増え、大量生産・大量販売を余儀なくされ、二郎の目指す「オーディオの理想像」からはますます離れて行ってしまった。このため、ついに兄弟でトリオ退職を決意。「いつかは世界で一流と呼ばれる高級オーディオ製品を創りたい……」という夢の実現のために新たにアキュフェーズを創立しました。

二郎は、当時のトリオの拡大戦略を「反面教師」として、「規模を拡大しない。少数精鋭主義に徹する。」という企業の基本ポリシーが生まれました。今でもその創業の精神を貫き通す経営をした結果、オーディオ業界でも異彩を放つ存在になっていると思います。
 
 
—「規模を拡大しない」は言葉でいうのは簡単ですが、一般の企業にとっては真逆の考えなので実行していくことは難しいことだと思います。創業時にはどのようなご苦労があったのでしょうか。
 
鈴木社長 
高級オーディオで確固たる地位を誇るマッキントッシュを「お手本」として、創業から1年かけて第1号機を開発しました。当時はプリメインアンプの一体型が主流で国産メーカーではありえなかったプリアンプとパワーアンプをセパレートした第1号機を開発しました。周りのみんなは「こんなの売れるのか?」と疑問視。しかも理想を追求しすぎて価格はプリアンプが16万円。パワーアンプが20万円。チューナーが14万円ですから。創業者の春日でさえさすがに震えたそうです。

第1号機の3機種 右上がプリアンプ、右下がメインアンプ。左奥がチューナー。当時、国産では、プリとメインのセパレートアンプは大変少なかった。(鈴木社長)


伊藤会長 
しかし発売した結果、意外な反応を示しました。パワーアンプP-300が、ラジオ技術誌のステレオ・コンポグランプリで金賞を受賞し、評論家や雑誌社の皆様から高い評価を頂き、ハイエンド高級オーディオ市場でアキュフェーズが認知されるきっかけとなりました。
当時、国内他社では絶対にまねのできない高価な値段、その音と品質を生み出す開発姿勢、数は売れなくても質で勝負する「量より質」という基本方針が創業時に出来上がりました。
壊れにくい設計、正しく設計・製造したモノを正しく販売する、規模を追求しない「量より質を追求」する……という春日二郎の教えを今でも全うしています。
 
— 50年前にすでに基本ポリシーが考え出されたのはすごいと思います。
その質の高い製品を使っていただくユーザーさんはどんな方ですか?
 
伊藤会長
高級オーディオはある程度お金に余裕がないと買えない。子育ても終わり、余裕が出てきた方が音楽を楽しむという……趣味のために買っていただいていると思います。ですから、最も買っていただいているのは60歳代の方です。弊社のユーザーさんは音楽が好き、オーディオ好きのごくごく普通の人です。60代の次に50代、70代と続き、40代、30代とだんだん少なくなります。
 
— 団塊世代がメインのユーザーさんと思いきや、団塊世代の下の層が多いとは、予想に反して面白いです。定年間近で、第二の人生を楽しむことを真剣に考える世代だからでしょうか。
 
伊藤会長 
50、60代の方が多いのは、スピーカーを通して聴く音楽の魅力を再認識する年代なのではないかと思います。若い頃にスマホやイヤホンで聴くのとスピーカーから出る音はスケール感が全く異なるので、新鮮に感じるようになるのではないでしょうか。お客様カードにも昔は買えなかったが余裕ができてきて「ようやくアキュフェーズ製品を買えました」との記述がよくあります。
 
— ハイエンドオーディオ業界は別のマーケットでしょうか。
 
伊藤会長
テレビなどの映像は見ればすぐに、色の良い悪いがわかりますが、音の世界には「良い音」を判断する基準がない。ある一定レベル以上のオーディオではその音の判断基準はユーザーさんの好みにゆだねられる。実際に耳で聴いてみて、ユーザーさんの好みで音の良し悪しが選ばれる。そのように感性的な高度な趣味の世界ですので、個性豊かな製品づくりをしていかないと生き残れない。ハイエンドオーディオは他の電気製品とはまったく別のマーケットだと考えています。
 
— そのほか、製品づくりに心がけていることは何でしょうか。
 
和田副社長
オーディオは趣味の世界ですので、長く使っていただいている間に愛着が湧き固定ファンになっていただけます。そのために「製品はできる限りロングランする。デザインをあまり変えない。」という考えも創業時からの戦略です。他社は2年以内のサイクルで新製品を出していきますが、アキュフェーズでは5年サイクルでほとんどデザインを変えずに新製品を出すようにしています。その結果、約70%は固定ファンで、だいたい10年ぐらいの周期で買い替えていただいているようです。また、技術面では、長く使っていただくために、ボリュームに「がり」が出ないよう特許を持っています。そんなところもアキュフェーズに愛着を持ってもらえるのだと思います。ですから、弊社では5年間の長期保証ができる。業界初で他社ではまねができないことだと思います。
 
鈴木社長
技術革新をたゆまなく行う。その時の理想を社員全員が追い求める。ユーザーさんにとって理想的な一生涯保証を守っています。いわゆる「ライフタイムアフターサービス」を実現しています。通常、一般的には部品保持期間は5-7年ですが、弊社では40年前の製品でも修理できるように部品を保存しています。部品の倉庫をご覧いただくとわかりますがすごい量です。入手できない部品を置き換えるために一部を再設計することが有ります。普通そこまでできないと思います。中には古いCDプレーヤーなど例外もありますが、ほとんどの弊社製品は、どんなに古くても修理を受け付けます。愛着を持って末永く使っていただけるサービスを守りつづけています。
 
— 古いオーディオは中古市場が活発ですが、御社にとって中古市場はどのように見ていますか。
 
和田副社長
中古市場は弊社にとってすごくありがたいと思っています。エレクトロニクス製品ですから普通10年で価値がなくなりタダになりますが、弊社は「ロングラン戦略」「古くても修理するライフタイムアフターサービス」を徹底していますから弊社製品は中古市場でも人気があり、下取り価格も高く、その結果10年周期ぐらいで買い替えが起こり、また弊社製品をリピートしていただける。自然と中古市場が活発化されます。中古の弊社製品を買っていただいた方のために、セカンドユーザー登録を5年ぐらい前から始めました。こんなこともできるのも弊社だけではないでしょうか。
 
— セカンドユーザーさんも大切にされているのですね。驚きです。ところで、販売店さんはどのように選ばれているのでしょうか。販売戦略も大変ユニークとお聞きしていますが。
 
和田副社長
高級オーディオは実際目で見て、音を聴いて、良いと思ったら買っていただけるものですから、販売店様の視聴コーナーを通して販売をしています。今風の通販で売れる商品ではありません。車の新車販売に似ていると思います。試乗して、体感して買っていただける。ですから、販売店様と一緒にお客様との接点を大切にしています。買っていただいたユーザーさんのお宅に販売店様が設置のために訪問、すべてを点検チェックしていただいています。とことん販売店様もお客様に寄り添う。だからユーザーさんもご満足いただける。いわば三位一体戦略をとっています。
 
量販店様では一部の店舗だけで扱っていただいています。ノジマ様は4店舗、上新様は3店舗のみです。昔は一県一販売店を守っていましたが、現在は100店舗に販売をお願いしています。そのうちアクティブに販売していただいているのは50店舗ほどなので販売店様の数も「量より質」を守っています。このように数の少ない販売店様を創業のときから大切にして、ネット販売はしない方針を貫いています。昨今大手通販業者様から扱いたいとのご要望を多数いただいていますが、「量より質。拡大戦略をとらない」理由から、お断りをしています。また、量販店は自然と値崩れする構造になっていますため、値崩れをしないように適正な利益をとっていただくことを方針としています。それが長続きする秘訣だと思います。
 
— 「量より質」という考えで、年間どのくらいの量を販売されているのでしょうか。
 
鈴木社長
毎年5000台ぐらいを生産販売しています。少ないときは4000台になります。
30機種あり、多品種小ロットで1機種100台しか作りません。お客様や販売店様からのニーズにお応えするために常に在庫を用意しています。
 
— この2、3年の間我々はコロナで苦しめられましたが、御社ではコロナの影響はなかったのでしょうか。
 
伊藤会長
売り上げは長い間国内7、海外3位の割合で推移していましたが、4-5年前から海外の割合が徐々に増えてきてコロナ発生後からは海外の売上が国内を逆転して好調に推移しています。国内の売上はコロナ禍でかなりの影響を受けましたが、海外の場合オーディオ製品は『巣ごもり』需要の対象として海外ディーラーからのオーダーが急増。相対的に海外比率が伸びています。
この海外の売上躍進は、長年の地道な営業活動と故障の少ない徹底した品質管理などにより、海外の代理店がアキュフェーズ製品を最重要に取り扱っていることも大きいと思います。コロナの影響を受けた国内の市場も、高度な趣味の世界ですからユーザーさんもまた販売店様に足を運んでいただけると考えています。
 
鈴木社長
海外はドイツ、香港・中国、フランスでよく売れています。国ごとに代理店と契約をしています。海外からのオーダーは増えていますが、自然増をめざしています。決して海外がいいからと言って無理をしない、拡大戦略をとりません。
 
— そのほかお客様にご満足いただくためにどんなことをされていますか。
 
伊藤会長
ユーザーさんとのコンタクトを大切にしています。いつも「熱く密着する」ことだと思います。アフターサービスの場合はもちろんですが、お客様が自宅で試聴ができるように、全機種とも貸出機を用意しています。また、ユーザーさんには買っていただいてすぐにお客様登録をしていただいていますが、その数はすでに5万人を超え全員に毎年年賀状をお出ししています。かなりの出費になりますが、やめるわけにはいきません。毎年2―300人ぐらい新規ユーザーさんが増えているため、これからも続けてまいります。
 
— 音に関してですが、他の競合との違いはどんなところですか。
 
鈴木社長
音質に関しては、自社製品を良くしていくという考え方を貫いています。実際、新製品開発するときに他社の音を参考にしません。あくまで既存の自社製品と比べて改良しているかどうかが開発するときの基準になります。私たちは他社と比べることをしないので競合はないと考えていますが、国内メーカーではラックスマンさん、エソテリックさんがライバルと考えています。でも横のつながりは密で、メーカー同士は仲が良いです。ハイエンドオーディオ業界では競争する原理は働きません。自分たちだけが売れれば良いとは考えていません。みんなで盛り上げていけばなくならない市場だと思います。
 
伊藤会長
どんな業界でも、「趣味の世界」があります。ハイエンドオーディオの市場は小さいですが、音楽は人間が生きている限りなくなりません。音楽を聴くためにオーディオ機器が必要になります。しっかりと計画的に生産供給して成長を求めない、そのため拡大路線をとらないことだと思います。企業体質を良くして永遠に継続して行く、これがブランドを守り、会社を守る。50年間最も大切にしてきた教訓です。

インタビュー後記

インタビューの後で、隣接している2年前に新築された本社ビル別館にある視聴室にて、高級オーディオの世界を体感してまいりました。

 筆者が1950年代、60年代のジャズが好きなことから、アナログレコードを持参。とても60年前に録音されたものとは思えないクリアな音。原音に近い音を体感してあまりのいい音に感動。筆者自身もオーディオを持ってはいるが、ここまで違うとはただただ感激するばかり。
 
アナログレコードにしてもCDにしても、これほどいい音がこの薄い盤に詰まっていることに驚き、アキュフェーズのアンプが欲しくなってしまいました。セカンドユーザーさんも大切にされているとのこと。古いものが大好きですから中古品で我慢して、壊れたら修理して使ってみたいなと思いました(笑)
 
アキュフェーズの経営トップの伊藤会長・鈴木社長・和田副社長。そして、感動の音を視聴室でお聞かせいただきました猪熊様、本当にありがとうございました。
 
すっかりアキュフェーズファンになりました。筆者の人生にもう一つの楽しみができました。ありがとうございました。