映画「ボルテスV レガシー」マーク A. レイエス V監督インタビュー 「これはフィリピンから日本へのギフトです」
フィリピンでは、「超電磁マシーン ボルテスV」が大人気らしい。本邦のアニメファンであれば、誰もが一度は耳にしたことのある話だが、噂は真実だった。なんと彼らは、「ボルテスV」を全90話の実写ドラマシリーズとしてリメイクしてみせたのだ。
来る2024年10月18日(金)、ついに日本でも劇場公開されることになった「ボルテスV レガシー」は、序盤のエピソードを97分にまとめ上げた作品で、フィリピン公開版にはなかったシーンの追加とリマスターが施された〝超電磁編集版〟である。そのメガホンを握るは、「ボルテスV」のフィリピン初放送を9歳のときに楽しんだというマーク A. レイエス V。
そこで今回、われわれはマーク監督に加え、かつて「ボルテスV」の放送権を得てフィリピンに紹介したというプロデューサーのラリー・チャンにも同席していただき、フィリピンにおける「ボルテスV」人気と新作のこだわりポイントについて語っていただいた。ぜひ、その愛と情熱を受け止めてほしい!
プロフィール
マーク A. レイエス V
1990年代からフィリピンのテレビ界を中心に、監督、脚本家、プロデューサーとして活躍。これまで数多くのドラマとミュージカルの演出を手掛けているほか、バラエティ番組やクイズ番組といった幅広いジャンルのテレビ番組制作にも携わってきた。その活躍はテレビだけに留まらず、公開前の作品を含めて、16 本もの映画の監督を務めている。
フィリピン国民の心に強く訴えかけるものがあった「ボルテスV」
――1970年代のフィリピンでは、日本のロボットアニメが大人気だったそうですね。
マーク ええ。月曜は「合身戦隊メカンダーロボ」、火曜は「闘将ダイモス」、水曜は「マジンガーZ」、木曜は「UFOロボ グレンダイザー」、そして金曜に「超電磁マシーン ボルテスV」といった具合で、平日の午後には必ず放送されてたんです。親御さんからすると、子供たちが急いで帰ってきてくれるので一安心だけど、一方で僕らが次々とオモチャを欲しがるものだから大変だったとも思います。「学校の成績がよかったら、ボルテスVを買ってあげる!」なんて約束が、あちこちでされてたんじゃないかな(笑)。ちなみに、これは当時の裏話になりますが、「ボルテスV」と「超電磁ロボ コン・バトラーV」、どっちを放送するか?という話もあったそうですよ。
――もし「コン・バトラーV」のほうが選ばれていたら……まさに運命の分かれ道ですね!
マーク でも「ボルテスV」の物語は、兄弟愛だったり、子供たちのために自分を犠牲にする母親だったり、“家族”を描いてるじゃないですか。圧政に対する戦いのお話でもあるし、当時のフィリピン国民の心に強く訴えかけるものがあったのは確かです。僕自身、「ダイモス」の悲劇的なロマンチックさや「マジンガーZ」で時折見られるキュートなわざとらしさ以上に「ボルテスV」の物語に強く惹かれていましたから。たぶん、主人公のアームスロング兄弟と同様、幼いころに父を失っていることが強く影響してるんじゃないかと思います。
――フィリピンにおける「ボルテスV」の認知度って、世代によってバラつきはあるんですか?
マーク 最初の放送は1978年でしたが、マルコス政権の下で戒厳令が敷かれて、最終回の間際に放送がいったん中止になってしまったんですよ。だから、ものすごい飢餓感があった。で、マルコス政権が倒れた80年代、いよいよ再放送されることになったんですが、そのときにストップがかけられた最後の4エピソードを劇場版としてまとめて公開したくらいなんです。それ以降、吹替の役者たちの入れ替えなどはありつつ、ずっと再放送が続いています。だから全世代が知っていて、フィリピンのポップカルチャーのなかでも特に大きな存在ですね。オープニングやエンディングの曲は、フィリピン人ならみんな日本語で歌えますよ。必ずしも歌詞の意味を理解してるとは限らないけど(笑)、フィリピンのカラオケでは定番の曲なんです。
――今回の映画でも「ボルテスVの歌」のカバーが流れますね。
マーク ボルトマシンが合体して、ボルテスVが完成するシーンですね。ボルテスVをボルテスVたらしめているのは、オリジナルでも実写版でも変わらず「合体」です。フィリピンで劇場版を公開したとき、あそこで多くの観客が息を飲み、拍手をし、感動の涙を流していたことを覚えていますよ。あの瞬間、みんな童心に帰ったんです。
――ローカライズとしてキャラクター名が変更されていますが、ハイネルやジャンギャルといった名前は、フィリピンの方が聞くとおかしな響きだったりするんですか?
マーク その点に関しては、当時のテレビ放映にかかわっていたラリー・チャンさんに聞くのがいいでしょう。今回の実写版は、かつてのネーミングを踏襲しているだけですから。
チャン 当時、テレビ放送は英語だったので、英語でかつフィリピン人にとって耳なじみのいい名前ということで、ハイネルではなくザルドス、ジャンギャルではなくドラコにしたんです。アームストロングについては、とにかく強そうな感じにしたかったというのが大きいですね。
――日本名も「剛」ですからね。
マーク 今回、マリアンヌ[原作でのキャラ名:剛光代]がフロスガー[原作でのキャラ名:ラ・ゴール]の地球での名前を考えてあげるとき、「あなたの強さをあらわせる名前がいい」と語りかけるシーンがあるんですが、まさに放映当時のチャンさんの考え方と重なるところがあっておもしろいなと思います。
――ところでボルテスVの武器といえば、やはり超電磁ゴマです。日本と同様、フィリピンでもコマはポピュラーなオモチャなんでしょうか?
マーク そうですね。フィリピンでは「トロンポ」といいます。僕も当時、「超電磁ゴマ!」って叫びながら遊んでましたよ(笑)。
暴力的なところがいいんじゃないか!
――天空剣 Vの字斬りでとどめを刺すとき、グリッと腕を返すタイミングで、ちゃんとカメラがアップになるじゃないですか。さすが、天空剣の肝をわかってらっしゃるなと(笑)。
マーク 天空剣をねじって斬り上げるところは、ストーリーボードを手がけているアーティストがこだわって描いてくれたところです。みんな僕と同じぐらいオタクだから、ちゃんとポイントを押さえてくれてるんです。まあ、プロデューサーから「監督、いくらなんでも暴力的すぎませんか?」と言われたりもしたんですが、「いや、そこがいいんじゃないか!」と押し通しました(笑)。
――しかも斬り抜く際、背中のスラスターを思いっきり噴かす。オリジナルにはない、すばらしいアレンジでした。
マーク 僕はSFファンでもあるので、やっぱりここは物理的に考えてスラスターを起動させるべきだよなと。ボルテスVにしろ、ビースト・ファイター[原作では獣士]にしろ、何十トンもの塊が動いてるわけですから、その重厚感や質量が感じられるよう意識しながらつくっていきました。拳をかざすときのスイングも、あんまり早いと軽く見えてしまうので、あえてゆっくりに。「パシフィック・リム」の格闘シーンもそうでしたよね。SF的なこだわりでいうと、必殺技のかけ声もそうです。オリジナルでは「ボルテス・バズーカ!」なんてシャウトしながら攻撃するわけですけど、そこにも理屈が欲しいと思ったので、今回はスミス博士[原作でのキャラ名:浜口博士]に「ボイスアクティベーション機能が備わっているので、武器の名前を叫べば作動してくれる」というようなことを言わせてみました。また、ボルテス・チームの役割も明確化させていて、スティーヴ[原作でのキャラ名:剛健一]がリーダーで、マーク[原作でのキャラ名:峰一平]がリーダーの補佐、ビッグ・バート[原作でのキャラ名:剛大次郎]が武器担当で、リトル・ジョン[原作でのキャラ名:剛日吉]がエンジニア、ジェイミー[原作でのキャラ名:岡めぐみ]は医療とコミュニケーション担当ということになってます。
――今回の映画は、オリジナルの第1・2話をそのまま再現したような構成になっていますが、ドラマのほうは全90話なんですよね。どんなふうにお話を膨らませたんですか?
マーク まず原作を忠実に実写化しようという意図が根底にありましたが、たとえばボアザン星の歴史や文化については、けっこう詳細に肉付けしながら描き込んでます。あと、基地であるビッグファルコンには、どんな人間が働いているのか?というところから新しいキャラクターをつくったり、スティーヴとマークとジェイミーで三角関係的なくだりを入れてみたりもしました。子供のころ、マークとジェイミーの間に、もうちょっと何かあってもおもしろいのになと夢想してたんですよ。逆に泣く泣く削った要素もあって、マークの愛馬アルファのくだり(第6話「いななけ!愛馬アイフル」)は、馬を使った撮影の困難さから断念しました。あと、ボアザンが細菌攻撃を仕掛けてくるエピソード(第33話「魔の細菌攻撃」)があったと思いますが、新型コロナウイルスのパンデミックから、まだそんなに日が経っていないので割愛したほうがいいだろうと。
――なるほど。妙にマークの描写に力が入ってるように思えたんですが、もしかして子供のころからお好きだったんですか?
マーク イエス! 彼は一匹狼というか、バッドボーイだからね(笑)。さっきも言ったように武器の管理はビッグ・バートの担当なんですが、超電磁ストリングに関しては、ムチの使い手であるマークに一任されてるんです。ここはフィリピンのファンのウケもよかったし、劇場版の見どころのひとつかもしれない。
――最後に、これから「ボルテスV」を知ることになる日本の新規ファンに向けてひと言いただけますか。
マーク これはわれわれから日本へのギフトです。たくさんの敬意と愛情、そして大金を注ぎ込んでつくりました(笑)。オリジナルのもつ魅力をそのまま盛り込み、さらにアップデートした作品になっているので、どうして僕らが「ボルテスV」を大好きなのか、きっと伝わるはず。それにね、意外と子供だけじゃなく、親世代にも訴求するものがあるストーリーだから、実はファミリー層もウェルカムな作品なんですよ! フィリピンのファンと同様、日本の方々にも受け入れていただき、エンジョイしてもらえたらうれしいですね。
【取材・文:ガイガン山崎】
■ボルテスV レガシー
●2024年10月18日(金)公開
スタッフ:監督…マーク A.レイエス V/脚本…スゼッテ・ドクトレーロ/シニア・エグゼクティブ・プロデューサー…ヘレン・ローズ・セセ、ラーソン・チャン/エグゼクティブ・プロデューサー…ダーリング・プリドトレス、ティージェイ・デル・ロザリオ、白倉伸一郎/配給…東映
キャスト:スティーヴ・アームストロング…ミゲル・タンフェリックス(日本語吹替版…小林千晃)/マーク・ゴードン…ラドソン・フローレス(金城大和)/ロバート〝ビッグ・バート〟・アームストロング…マット・ロザノ(花倉桔道)/〝リトル・ジョン〟・アームストロング…ラファエル・ランディコ(小市眞琴)/ジェイミー・ロビンソン…イザベル・オルテガ(中島愛)/プリンス・ザルドス…マーティン・デル・ロザリオ(諏訪部順一)/ザンドラ…リーゼル・ロペス(飯田里穂)/ドラコ…カルロ・ゴンザレス(樋山雄作)/ズール…エピ・クウィゾン(越後屋コースケ)
リンク:「ボルテスV レガシー」公式ポータルサイト
公式X(Twitter)・@ voltesv_legacy