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[レポート]福祉と伝統のものづくりから考える、人・もの・地域の新しい関係 Day1


『 福祉と伝統のものづくりから考える、人・もの・地域の新しい関係Day1:概要 』
テーマ:ものづくりにおける循環、再生
日時:2022.3.20(日)14:00-16:30
開催:① FabCafe Kyoto(MTRL KYOTO)
   ② YouTubeライブ配信
スピーカー:新工芸舎、松本恵里佳、矢津吉隆(美術家、kumagusuku代表)、神尾涼太(Re:publicディレクター)、小林大祐(Goodjob!Center 香芝)、藤井克英(Goodjob!Center 香芝) 
進行:岡部太郎(一般財団法人たんぽぽの家)

このトークイベントでは、これからのものづくりを考える上で欠かすことのできない環境負荷削減や 廃材利用、素材へのアプローチ方法といったテーマにについて考えました。共生/再生の視点を取り入れることで、福祉現場でものづくりや表現活動はどのように変わることができるのでしょうか。各分野のスペシャリストをお招きして話を伺いました。

イベントの前半は4名のゲストスピーカーにご自身の活動についてご紹介いただきました。

最初に三田地 博史さんより、自身の主催する新工芸舎の活動を紹介していただきました。

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新工芸舎はデジタルファブリケーションなどを活用した研究活動や商品開発に取り組むグループです。
現代の量産するものづくりにおいて、出来上がるまでの工程がどんどん分業化されていることに対し、新しい技術によるデジタルファブリケーションを用いることで、工芸のような工程の個人化ができるという気づきからこの活動が生まれたのだそうです。
新工芸舎では、3Dプリンターによってその「工芸的」な樹脂製品の在り方を具現化されています。
通常3Dプリンターを使うと現れる積層痕は、一般的には邪魔ものなイメージがあるのですが、これをわざと厚く作ることでデザインに取り込み、とても美しいものを造形されています。
他にも、石など自然物をスキャンし、それにあわせて作ったパーツを組み合わせた「のせ物」を作ったり、「Candy Cap」と名付けたタンの吸引器につけるパーツをユ-ザーと一緒に考えながら作ったりと、テクノロジーを量産品とは別の作り方に用いる活動をされています。
また、3Dプリンターを使うと出てくる樹脂の端材を、再びフィラメントに戻しいて製品を作るなど、素材の循環や再利用する取り組みも始めているそうです。


続いては、松本恵里佳さんに「環境教育」についてご紹介いただきました。松本さんは、学習者が自身の気付きや発見から、楽しく興味の幅を広げながら問題を知り、行動を促すことができるような体験型の環境教育に取り組まれています。

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その体験プログラムとして「プレシャス プラスチック」も活用されています。 この「プレシャス プラスチック」は、世界中に広がるオランダ発のオープンソースプロジェクトで、プラスチックゴミ問題の解決をコミュニティ単位で可能にするものです。プレシャスプラスチックをベースにしたプログラムでは、小型のインジェクション(射出成形機)を使うことで自分たちが出したゴミ(プラスチック)からリサイクルする過程を体験できるものがあります。こういった体験を通じ、「ゴミ」を「素材」と捉え直しより良いモノに生まれ変わらせる「アップサイクリング」への参加を身近な選択肢にしてもらい環境問題について考えるきっかけになれば良いとお話されていました。
Goodjob!Center 香芝でも、3Dプリンターを使って張り子を作成する時に出る樹脂の端材を使って色んな物を作るワークショップが開催されました。
その中で、「環境教育 ✕ ものづくり ✕ アート」の親和性を実感できたそうです。


続いてkumagusuku代表の矢津吉隆さんと只本屋代表の山田毅さんのアートユニットよる資材循環プロジェクト「副産物産店」について矢津さんにうかがいました。

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副産物産店は、「芸大で作品を作る時に沢山出るゴミをなんとかしよう。」から始まったプロジェクトです。このプロジェクトでは、アトリエから出る廃材を「副産物」と呼び回収、「副産加工品」と称して副産物を素材にものを作ったり、そのまま詰め合わせた「BUY BYPRODUCTS」などを作成、販売されています。
その他にも、街中の素人によるDIYを写真に撮ってマッピングするなどの活動もされています。
現在は、京都に北山ホールセンターを整備し、資源循環やサーキュラーエコノミーに取り組む新たな拠点を作られています。


Re:publicディレクターの神尾涼太さんには鹿児島で実施されている都市実験「薩摩フューチャーコモンズ」についてうかがいました。

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鹿児島県の薩摩川内市は豊かな自然環境に恵まれ、また、川内原子力発電所もある都市です。
その土地で、循環する未来の衣食住、それらを支えるテクノロジー、基礎インフラに関わる研究開発を、市民みんなが楽しめるアプローチで模索する拠点として薩摩フューチャーコモンズは活動されています。
そこでは、不要になった家具をバラすところから始めて新しいものを作る「クリエイティブリペア」、鹿児島県の無形民俗文化財に指定されている川内大綱引から、稲わらで物をつくる取り組みをして地域の資源と技術を掘り起こすことにつなげたり、身の回りのものから酵母を採取して培養する「食とバイオ」の取り組みなど、地域から生まれる沢山の取り組みを軸とした新しい都市デザイン・産業創出の形を探索されています。


後半には、前半に登壇されたみなさんとGoodjob!Center 香芝の小林大祐さん・藤井克英さんでディスカッションを行いました。

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その中で、福祉の現場であるGoodjob!Center 香芝(以下 GJ!センター)のお二人からは、福祉施設の現状や今後への希望、疑問などが話されました。

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近年、福祉の中で公的事業や制度・サービスが整ってきていて、障害をもった人の活動の幅が広がっている。一方で、整ってきていることによって却って物事を生み出すことが発生しにくくなっているようにも感じている。

「循環」や「再生」に取り組む中で、素材から材料に(役割や捉え方が)変化させる手順や工程・方法にもメンバー(利用者)に参加してもらい、ものや作品を作る前の環境も自分達で整えてもらう。それにより、自然と生まれてくるものや作品も変化し、可能性が広がるかもしれない。
実際にプレシャスプラスチックの取り組みをGJ!センターで行った時、「ものづくり」だけでなく、それ以前の素材や工程の可能性を探る事ができ、新たな関わりしろを感じた。

また、施設の数において全国にコンビニの3倍ほどもある障害福祉サービス事業所が「循環」や「再生」に関わるというところでは、回収や環境教育に係わるなど、その方法も含め色んなアプローチができるし、可能性がある。
また、福祉施設での ものづくり においては既に、地域の中で産業の下請けや素材、端材を使うなど地域に根ざしている文化が元々在る。

そのうえで新しい技術やデザインに挑戦したい、と思った時にどうきっかけを作ったり、誰と、どこと、どう繋がったらいいのだろうか??

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前半の登壇者の方々からはその疑問に対する回答も含め、今後に向けてのアイデアなど沢山の意見をうかがうことができました。以下、登壇者のみなさんのご意見をまとめます。

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三田地さん:
プロダクト「のせ物」を作ることにおいて、あらゆる物(素材)が材料に見える。デジタル技術があるからこそそういった視点がえられているところがあり、その視点は大事だと思う。
樹脂製品はそもそも量産の中で大量に使いすぎていた。それを工芸的な量で小さな範囲で作って循環させるような事をもっと実現していきたい。循環というところでは、シンプルに、回収に協力してくれたら新品が安くなる とか、交換・貸出しをするという方法を考える事もできる。今、古い樹脂を回収できる仕組みをこれから作っていこうとしているところだ。

矢津さん:
作品になった物の価値は語られるが、素材やそこから生まれてこぼれ落ちていくものの価値は作品と何が違うのか?そこを考えて視点をずらしていくことが重要。
副産物の詰め合わせでは、購入者はアクセサリーなどを制作する事例もあるが、そのまま飾って鑑賞する人が多い。素材をご当地物で集めたり、福祉施設の視点で集めたりなどいろんな詰め合わせ方ができるし、詰め合わせる事で見えるものもある。

神尾さん:
循環について考える時、「生産と消費」をどうやって組み替えるかについて考えることになる。循環経済は消費だけでなく、生産側の話も必ずセットじゃないといけないし、そこに対してどうアプローチするかがデザイナーの仕事になってくる。
また、今は福祉・ビジネス・まちづくりなど色んなところで環境への配慮が求められる社会。それについて「みんな我慢して頑張ってやろう」という取り組みが多い。大切なのはそれをすることで自分たちの生活や教育がどう変化するかを考えること。
市民参画においてはその関わり方も、軽いもの、重いものと、様々なレイヤーを作っておくと良く、モチベーションが然程高くない人には、展示にかかわる・記録や写真を撮るなどのドキュメンテーション・コミュニケーションによって関わるなどの軽いものから始めてもらう事も考えられる。
廃棄物を廃棄物として見ている間は何も変わらない。視点をどう変えていくかにまだ探求の可能性があると感じている。

松本さん:
環境教育においての自発的な行動というのは、環境問題について興味を持ち、知識を求めることも含めて何らかのアクションを起こすことだと思う。
そのきっかけとしてプレシャスプラスチックでの体験が気づきや知識への探求に繋がることもある。

この「プレシャスプラスチック」については登壇者の関心も高く、コストや取り組みやすさなどについてもトークが盛り上がりました。

また、会場の参加者からの質問や意見もあり、その中には、「素材の循環などへの取り組みは、個人としてはいいとしても、仕事の中では、いいとは分かっていてもなかなかそうもいかないところがあり、それに対してどうしたらいいか」という質問も。
神尾さんからは、取り組みを考える側が、仕事として生産側で活動している人の様子を、現場に足を運び把握しながら一緒に考える事が大切。頭の中で思考しても解決しない。
という回答がありました。

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このリポートでは大筋をまとめてお伝えしましたが、詳しくは是非以下からアーカイブ配信をご覧ください。

== アーカイブ配信のご案内 ==

「福祉と伝統のものづくりから考える、人・もの・地域の新しい関係」のアーカイブ配信を、こちらからご視聴いただけます。▼▼

https://www.youtube.com/watch?v=pc-aC1aVhFI

ご興味をお持ちいただけましたら是非御覧ください!



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