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[レポート] 《ニュートラ談義》 Vol.02 「わたしのニュートラ」から、ものづくりを考える

3月6日(日)のVol.01に続き、オンラインでのトークイベントを11日(金)に開催しました。2019年より山形、常滑、鳥取と、3地域で実施したとりくみ「わたしのニュートラ」。各地域のデザイナーが福祉施設、伝統工芸の職人や工房と連携し、ものづくりをディレクションしたうえで、その成果や工程を展示したり、語り合う場を設けたりしました。そこからうまれたもの・ことをもとに、地域で必要とされるものづくりについてデザイナー4名・福祉施設の職員3名が話し合いました。展覧会のその後のとりくみの展開や、気持ちよい素材に触れるものづくりのよろこびなどが話題にのぼりました。

登壇:𠮷田勝信(𠮷勝制作所)、高橋孝治(デザイナー)、桜庭幸恵(ワークセンターかじま)、川﨑富美(デザイナー)、伊奈真弓(アートスペースからふる)、原田祐馬(UMA/design farm)
進行:岡部太郎(一般財団法人たんぽぽの家)
*登壇者プロフィールはこちらよりご覧ください

Vol.01 福祉の現場をいかす、価値のあるものづくり
こちらよりぜひあわせてご覧ください
レポートnote  https:◯◯◯
アーカイブ動画 https://youtu.be/chBfVxMoU10

1. 「ものと人をめぐるフィールドワーク」(2020年3月 山形市)

NEW TRADITIONAL がまだ始まったばかり、なにもかも手探りの1年目に、一緒にものづくりに挑戦したり展覧会で発表してくれた、𠮷田さん。山形を拠点にするデザイナーです。3つの福祉施設とのワークショップをへてNEW DANTSUが生まれ、2年目にさらに手法が進化しました。当時の「つくり方」をふりかえりました。エラーを愛でるという態度や、発売して時間が経ったからこそ見えてくる課題についても言及がありました。

▽𠮷田勝信(𠮷勝制作所
終始、ものの作り方、枠組みの話をしていたように思う。障害のあるなし、男女、力のあるなし、など関係なく、とあるフレームの中にその人なりの力を代入すれば「誰でも作れる」ことを重視していた。なんでもかんでも代入するとエラーも増えてくるけど、エラーを前向きに捉える方法をさぐっていたように思う。
その模索の一環として、図柄を引き出すために行ったワークショップにおいては、福祉施設の利用者がふだんから使っている道具で実施した。陶土、絵の具など、いつもの道具を導入に使うことで、構えずに作品にしてもらえたと思う。
「うえこみのじゅうたん」は、障害のある人たちの手仕事が商品の完成作業に直結する点で、NEW DANTSUの中でも一歩すすんでいる。大量生産とアートピースの中間のようであり、とてもニュートラらしいと自負できる。

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2. 「滑らかな粘土の床が、丘陵に広がる舞台の上で NEW TRADITIONAL展 in常滑」(2021年1月)

産地・素材と地域のエコシステムに着目した事業のデザインをふりかえるとともに、「ニュートラ展」の後の展開について、紹介してくれました。

高橋孝治(デザイナー)
窯業地の資源をテーマに福祉施設「ワークセンターかじま」での新しい仕事づくりを目指しはじめていたところ、NEW TRADITIONALの企画をもちかけられた。
土を触ることは、触覚がよろこび、原初のものづくりの楽しみがある。また、生産地だからこそ、地元の人に素材や技術を甘えたり協働することができるので、持続的な関係が結べる。土を素材として見直すことを、逆に産地に提案もできる。
ニュートラ展後の、かじまとの取組みが広がっている。

・土染め
愛知県内の文化施設などでこの1年間に5回実施。教材づくりをワークショップかじまに分担してもらい、障害のある人のお仕事にしている。
講座内では、原料から材料という過程や、土を布に揉みこんで「気持ちいい」という感覚をえてもらうことを大切にしている。

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・タイルづくり
建築陶器が売れない→原料生産が打撃を受ける→産地の規模が落ちる という寂しい循環がおきる。
かじまにて、水野製陶園ラボ、日本モザイクタイルの2社と協力し、タイル製造をしている。利用者さんのなかでも、絵心がある人、反復作業で心が落ち着く人がいるので、その人に向いた作業をお願いする。タイルを並べて貼る作業も、利用者さんと地元の大学生とのワークショップにするなど、人がつながる工夫をしている

▽桜庭幸恵(ワークセンターかじま
・サタデーワークショップ
ニュートラ展をへて、表現活動をしたいという気持ちが高まってきた利用者さんが出てきた。スタッフも、利用者さんの自主性や創造性、好きや興味を大切にしつつ、彼らと向き合える時間をつくろうと考えた。そうして生まれた新しいプログラム。楽しむのと並行して、お仕事にできることを探っている。

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3. 「和紙という銀河から、届く光 NEW TRADITIONAL展 in鳥取」(2022年1月)

1月末に展示が終わったばかりの鳥取での取組み。パートナーとなってくれたアートスペースからふるからは、外部の人と協働することの魅力や、出会いの場の価値について、経験をもとに話してくれました。

川﨑富美(デザイナー)
展示後、和紙を使った商品作りを本格的にはじめたいとの申し出がからふるよりあり、着手している。素材の提供や、大判の因州和紙漉きに協力してくれた中原寛治さんも、その後すぐ、新たな発表の場を具体化してくれた。中原さんについては、昨年やりとりしていくなかでも、どんどんご本人の視界が広がっていくのを感じた。
アーティストとの制作においては、「できるだけ簡単にする」=自由度を上げる、時間をかけて手を動かせば出来る、という仕組みをデザインすることに力を注いでいた。

▽ 伊奈真弓(アートスペースからふる
障害のある人とすごせる社会づくりについて考えるなかで、「アートを仕事に」をモットーにするからふるの就労支援事業立ち上げに参加することになった。

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福祉の現場で働くスタッフとして、商品開発は悩みの種。ニュートラでうれしかったことは、福祉以外の仕事をしている人とつながりができたり、それを深められたこと。また、商品にすることだけではなくて、自分たちのアートの可能性をたくさん知ることができたこと。障害者福祉のプロになればなるほど自分たちで勝手に「できない」「ありえない」と決めてしまっていたことを、ほぐしてもらったようだ。中原さんのことばで、とても印象的なものがあった。「伝承はただ引き継ぐこと。伝統は、新しいものを取り入れてよいものを作ること」。これは、福祉やからふる、鳥取のものづくりにつながることと感じている。
そもそも川﨑さんと出会ったのは、「福祉をかえる『アート化』セミナーin鳥取」(企画協力:たんぽぽの家)であるが、このような、福祉と他分野の人との媒介となる企画はありがたく、鳥取でも定期的に開催されることを希望する。
会場が一般小売店の中にあるAm’s ギャラリーとからふるの2会場で同時開催できたことも大変良かった。普段からふるだけで展示をしている中でいつも願っている「垣根のない展示」を実現できた。


後半は、本事業にスーパーバイザーとして関わっているデザイナーの原田祐馬さん(UMA/design farm)を招き、3回の取り組みを見てきて感じたことを話していただいたり、𠮷田さん、高橋さん、川﨑さんからさまざまな考えを引き出していただいたりしました。

原田:伝統工芸では、社会状況の変化からか「伝承」の側面が強くなり、「伝統」が少し後回しになっているかもしれません。ものづくりの人たちの知恵を集結したものづくりが「伝統工芸」だとしたら、そこに「福祉」という誰にでも関わる要素が入ることは、つくる、伝える、という視点でも可能性が拡がっていくと思うんです。3回の展覧会のなかでも、鳥取はつくる行為を開くことで、「つくりかた」そのものをデザインした試行錯誤が展示されていて印象的でした。僕もデザイナーとして、ニュートラに関わると視点が変わったらり心が動いたり、ものが輝いて見えたり。みなさんもデザイナーとして、各展示のディレクターをつとめてどう自分が変わったかという質問をさせてください。

𠮷田:デザインするうえで、フレームワークをどう作るかという発想を以前より持っていたが、それがエスカレートしたように思う。

高橋:それまでと180度変わったということはない。だが、「誰のために」がはっきりしてきたと思う。自分の職能や欲求を、障害のある人とか、常滑のために、という気持ち。ワークセンターかじまや土との関係性を今まで以上に掘り下げることで、それを確信した。

川﨑:鳥取にUターンしてからは、自分が環境や社会に与える影響をなるべく小さくして生きていきたいと思っていた。今回、関わった人が鑑賞者も含め皆喜んでくれたことで、これから誰にどう力を貸していこうか、少し見えた気がする

原田さんからの質問への回答に加えて、今後のNEW TRADITIONALにおけるものづくりについて、参加者それぞれからさまざまな着眼点が出てきました。
・(素材調達など)ちょっとやってみればできる、程度のことでできることをする。
・すぐ足元や近所にあるものの価値を見直す
・つくる時の触覚等の気持ちよさ
・(プラスチックごみなど)作るとき、捨てるとき、心地悪さが割合を占める作業が増えているようだ
・学び、気づき、出会いの場を提供する機会づくりがあってもいい。学校のようなもの
・福祉施設は、経済合理性からある意味で切り離されている点や、人が集まることで価値が発揮されるという点で、時間のかかる原料生産の潜在力があるかもしれない
・より身体的に工芸を体験することの可能性。材料を触る心地よさ、季節・風土とのかかわり、制作工程を自分でなぞることなどを捨て置かずにいたい

展覧会は一定期間で終わるものですが、その後も展覧会から離れたところで取り組みが発展していることはうれしいです。また、別々のディレクターによる3つの展覧会をゆるやかにつなぐ「つくるたのしさ」「残し、広げることへの興味」に改めて触れ、次年度以降のNEW TRADITIONALのすすむ先を考えるにあたりたいへん刺激になりました。みなさん、ありがとうございました

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《Vol.02 「わたしのニュートラ」から、ものづくりを考える》
2022年3月11日(金)18:00~20:00
主催:文化庁/一般財団法人たんぽぽの家
令和3年度 文化庁委託事業「障害者等による文化芸術活動推進事業(文化芸術による共生社会の推進を含む)」

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