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不登校問題解決は「気づき」から 子どもの話をどう聴くか

2019年9月16日、札幌市にて開催の「新しい学校選びフェア」(主催:高校生進学支援の会)にて行なわれた北海道情報大学准教授で臨床心理士の五浦哲也氏による特別講演「『今』を大切に生きる」の一部を採録してお届けします。

私は大学で教える傍ら臨床心理士として児童・生徒・学生やその保護者のカウンセリングをしています。前職は小学校教員でした。また2人の息子を持つ親でもあります。本日の講演では、教員時代を振り返って、また親としての自分を振り返って――とくに失敗や後悔の上に立って――いま子どもや親の話を聴くときに私が心がけていることをお話します。

お断りするまでもありませんが、これが絶対の正解というものではありません。100人の子どもがいれば、抱える問題への対処も100通りあります。後ほどたくさんのポイントを挙げることにします。子どもを持つみなさんにとってどれかひとつでも問題解決につながるヒントになればと思います。

この講演を日頃のコミュニケーションのありかたを見直すきっかけにしていただき、親子がお互いの気持ちをよりよく理解できるように役立ててもらえれば幸いです。

「気づき」を促すコミュニケーション

最初に私自身の反省を述べておきます。教員として親として、自分と子どもたちとのコミュニケーションの仕方を振り返った時、私には次のような失敗や誤りが思い出されました。

一つ目。子どもにとって良かれと思うことをしているつもりだったが、本人にとって本当によかったのだろうか。その前に子どもの気持ちをよく聴いて確かめるべきではなかったか。

二つ目。子どもに対して「○○しなければ、□□になるよ」と最悪想定させるメッセージを発することが多かった。その言葉に子どもは駆り立てられて、焦り、緊張し、不安になっただろう。まずは、子どもの「できない」「やりたくない」という気持ちを受け止めるべきではなかったか。

三つ目。子どもの悪い点、至らない点ばかりが目に付いていた。子どもが自分の考える枠組み(フレーム)から外れることばかりを気にして、子どもの良さに気づくゆとりをなくしていたのではないか。

四つ目。子どもの抱える問題、あるいは子どもと親との問題を自分ひとりで抱え込んでいた。だれかに相談したり、頼ったりしてもよかったのではないか。

以上のような自分の反省をもとに、またその後に学んだカウンセリングの実践を通じて、子どもの話をどう聴いたらよいか、子どもにどう話したらよいか、私なりに考えてきました。

問題を抱えた子どもが困難から脱却する道のひとつが本人の「気づき」です。子どもに限らず、私たち大人も、自分で「気づき」がないことには、本当に自分の行動や気持ちを変えることができません。子どもとの会話を、その「気づき」を促す機会としてとらえたとき、親としてどんなことに留意して聴いたらよいか、また話したらよいか――そのポイントを以下に挙げていきましょう。

こんなふうに聴いたら、話したら

1)子ども中心に……
ああしろ、こうしろと親の指示に従わせるのではなく、子どもが適切な行動をとりたいという思いになるよう気づきをうながすようにしてみましょう。

2)気持ちに共感……
子どもは出来事については言えても、自分の気持ちは言えなかったりする。「どう感じた?」「どんな気持ちだった?」(「こんな気持ちだったのか?」)と、せかさずに尋ねて子どもの気持ちにアクセスしてみましょう。

3)共感しても、シンクロしない……
子どもの不安や葛藤を理解しても、親も不安などのネガティブな感情に陥らないようにしてみましょう。

4)まったりと、ユーモアで……
子どもが緊張しすぎないように、できるだけ楽に、落ち着いて話せる空気をつくっていきましょう。

5)肯定返し……
たとえば「やる気がない」という子どもに「しっかりしなさい」と言いたいところを抑えて日常の些細な行動に目を向け「○○している姿はをやる気があることだと思うよ」ただし、子どもが現状を抜け出したいというメッセージを見逃さなかったり、子どもができていないことをできたように言ったりしないようにしてみましょう。

6)葛藤状況の見極め……
たとえば「ゲームもしたいけれど、勉強もしなきゃ」と子どもは内心では思っている(かもしれない)。子どもの揺れ動く葛藤状態を観察し、自分の良さを認め成長できる一歩踏み出したいという思いが強くなったタイミングを敏感に察知しよう。そして、さりげなく支えるようにしてみましょう。

7)未来を語る……
他人と過去は変えられない。でも自分と現在や現在からの未来は変えられる。これからのことを語り合い、子どもの思いを応援しつつ、今、この時になすべきこと意味への「気づき」に繋げることをめざすようにしてみましょう。

8)小さな成長……
目標を100%実現できなくてもいい。少しの成長を見付け、認めよう。成果がなくても、取り組んでみたこと自体を褒めるようにしてみましょう。

9)自己選択・自己決定・自己責任……
親が何でもお膳立てするのではなく、子どもが自らの意思を持ってものごとに取り組むように促そう。ただし、その結果、失敗することもよくあります。自己責任を強調しすぎることで子どもが自己否定の気持ちを持たないようにしていきましょう。

10)不安・緊張・怒り……
いったん落ち着いた子どもが再び、不安や緊張、怒りを表しても、あまり心配しない。子ども心の状態は変わるもの。感情の起伏が次第に穏やかになり、自己コントロールできることを大切にしてみましょう。

11)近すぎると見えない……
問題点ばかりに焦点を合わせていないか。子どもの日常の姿に問題解決の糸口があることも。一歩、二歩、引いて広く見てみましょう。

12)安心な場で話を聴く……
話の主導権は子どもに。一緒に遊びながら、遊びの中で話を聴くようにしてみましょう。

13)弱みを見せたくなくて……
子どもには親や教員に自分の困っているところを見せたくない、知られたくない気持ちがある。「いつでも頼っていいよ」という親の姿勢を伝えてみましょう。話してくれたら「ありがとう、よく話してくれたね」と言葉にしてみましょう。

14)褒めることもよいが……
「ああ、そうなんだね」「そう思っていたんだね」などと子どもの思いを受け止めることが先。また、できたことやできるようになったことを子どもと同じ目線に立ち、認めることも大切にしてみましょう。

15)話をよく覚えておく……
子どもにとって信頼できる人となるために話をよく聴いて内容を覚えておくようにしてみましょう。

16)失敗、挫折を語れる人に……
なんでもうまくいく人などいない。(子どもが、心を開きたくなるよう)自分の数々の失敗、挫折を率直に話してみよう。

17)努力は必ずしも報われるとは限らない……
それでも努力することの意義をたてまえではなく本音で語ってみましょう。

聴き方を変えて、親も変わろう
いろいろと挙げてみましたが、ご自身で納得された内容をまずは1つか2つを試してみられてはいかがでしょうか。もし上手くいかなくても落胆しないでください。大切なのは他人を変えようとするのではなく、自分が変わることで変化が起こるという思いで、上手くいかなかったことには固執せず、切り替えて新たな挑戦をしてみることではないでしょうか。そんな姿勢で子どもと接する機会を重ねるうちに子どもの姿に少しずつ変化の芽を感じられるようになるでしょう。

子どもに「気づき」を促すには、親のコミュニケーション態度を変えてみる。そうすれば、きっと親自身にも大きな「気づき」があるはずです。それを足がかりとして、親子でよりよい意思疎通ができたり、適切な距離が保てたりできるようになることを願っています。

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五浦哲也氏は北海道情報大学経営情報学部システム情報学科准教授、公認心理士、臨床心理士、臨床発達心理士、学校心理士、認定カウンセラー(日本カウンセリング 学会)、学校カウンセラー(日本学校教育相談 学会)、特別支援教育士、上級教育カウンセラー

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