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【公開記念連載コラム】<『新しい街 ヴィル・ヌーヴ』はどんな作品?>(4)インタビュー:マルコ・ドゥ・ブロワ(シネマテーク・ケベコワ―ズ アニメーション・プログラマー)

ニューディアー配給で9月12日公開予定の『新しい街 ヴィル・ヌーヴ』。公開まで1ヶ月を切った本作について、コラムとして不定期に作品紹介をしています。第四弾は、フェリックス・デュフール=ラペリエール監督が制作の拠点を置くモントリオールのアニメーションシーンと、その歴史における『新しい街 ヴィル・ヌーヴ』の重要性・魅力について、現地のアニメーション文化と歴史を支える「シネマテーク・ケベコワーズ」でアニメーション上映のプログラマーを担当するマルコ・ドゥ・ブロワさんに伺ったインタヴューをお届けします。本作が生まれたその背景にある環境が、よく分かるものになっているのではないかと思います。

過去のコラムはこちら「【公開記念コラム】『新しい街 ヴィル・ヌーヴ』はどんな作品?」

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マルコ・ドゥ・ブロワ氏

1. シネマテーク・ケベコワ―ズでアニメーション映画のプログラマーをされていますね。日本の読者のために、あなたの施設がどのようなものか説明していただけますか? あなたの所属するシネマテークが他のシネマテークと何か違うものを持っているとしたら、それは何でしょう。

シネマテーク・ケベコワーズは、FIAF(国際映画アーカイブ連盟)と呼ばれる世界的な映画アーカイブの組織に加盟しています。東京・京橋の国立映画アーカイブもその一員です。どのメンバーも、映画の保存・修復・上映・展示・文書化・教育などに取り組んでいます。

1963年に設立されたシネマテーク・ケベコワーズは、数ある映画アーカイブの世界で独特の地位を確立しています。ケベック州で製作された視聴覚作品を法に基づいて収蔵していますし、アニメーション映画については国際的なコレクションを持っているからです。

また、アニメーション映画を定期的に上映し、アニメーションフェスティバル 「アニメーション・サミット Sommets du cinéma d'animation」も開催しています。今年の8月27日には、当館が編集したケベックの実験映画に関する本の発売に合わせて、『新しい街 ヴィル・ヌーヴ』を上映します。

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シネマテーク・ケベコワ―ズ (Photo Crédit : marie-michelle marcil)

2.『新しい街 ヴィル・ヌーヴ』を監督したフェリックスとは長い付き合いだと聞いていますが、彼とはどのようにして知り合ったのでしょうか。そして彼は映画監督として、あるいは人間としてどのような人物だと言えますか。

彼は若いシネフィルで、シネマテークにもよく映画を観にきていたので、自然と知り合うようになりました。施設のビストロスタッフの仕事もしており、かなり楽しんでいましたね。ありとあらゆる種類の映画を観ることができる場所でしたから。

フェリックスはとても気さくで、周囲を笑顔にできる人物です。アニメーションが大好きですが、映画全般に対して貪欲です。例えば『新しい街 ヴィル・ヌーヴ』で、アンドレイ・タルコフスキー監督の『アンドレイ・ルブリョフ』をエマとユリスが観に行くシーンがあります。あのシーンは実はシネマテークが舞台になっていて、かつてこの映画を上映したときにはフェリックスも観に来ていたのです。

フェリックスは、2015年の「アニメーション・サミット」のポスターと予告編を作ってくれました。彼はそのとき既に『新しい街 ヴィル・ヌーヴ』を制作中でした。完成した作品を観たとき、ポスターと予告編に使われたカットアウトは、この作品から取られていたのだと気づきました。

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フェリックス・デュフール=ラペリエール監督が手掛けた2015年の「アニメーション・サミット」のポスター

監督が手掛けた「アニメーション・サミット」予告編


3.現在、カナダ(またはケベック)のアニメーション全般の状況はどうなっているのでしょうか?ノーマン・マクラレンを中心にこれまで数多くの短編アニメーション作家を支援し、作品を製作してきたカナダ国立映画製作庁(NFB)の役割も含め、教えてください。

NFBは今でもカナダのアニメーションにとって重要な存在でありつづけています。今年のアヌシー国際アニメーション映画祭でクリスタル賞(グランプリ)を受賞したテオドール・ウシェフの『悲しみの物理学 The Physics of Sorrow』のような作品は、NFBが作家志向でありつつも、しっかりとした製作能力を備えていたからこそ成立した作品です。

一方でNFB以外の作品(ほとんどが短編)もどんどん作られており、カナダのアニメーションシーンは非常に多様でダイナミックなものになっていると言えるでしょう。アニメーション作家はNFB以外からも支援を受けることができます。例えばカナダ芸術評議会や、各州の支援システムも存在します。ケベック州にはSODECCALQ Arts Councilがあり、その両方でアニメーションは支援対象になっています。また、アーティストが運営する機関(PRIMVidéographeLa bande videoなど)も助けになります。NFBは、ACICFAPという2つのプログラムを通じて、インディペンデントの作家に技術的なサポートを提供しています。

我々が「アニメーション・サミット」というアニメーション・フェスティバルを開催している理由の一つは、アニメーション・コミュニティにネットワーキングの機会を提供し、刺激を与えあえるようにすることです。『新しい街 ヴィル・ヌーヴ』は、モントリオールのアニメーション・コミュニティとの共同作業で作られています。クレア・ブランシェット(フェリックスのアシスタント役)、ジュリー・シャレット、ニコラ・ブロー、マルコム・サザーランド、エヴァ・ツヴァアノヴィッチ、ボグダン・アニフラニなど、様々な著名アニメーターが参加しているのです。

4. カナダ(あるいはケベック)のアニメーションの歴史や現代のシーンの文脈で、『新しい街 ヴィル・ヌーヴ』はどのように位置付けられるのでしょうか? NFBやフレデリック・バックなどのおかげで、カナダは実験的な短編アニメーションが有名ですが、この作品はカナダの長編アニメーションの領域で実験が行われた非常に珍しいケースのように思います。

仰る通り、ケベックやカナダでは、長編アニメーションはまだまだ一般的であるとは言えません。ケベックで制作されている長編アニメのほとんどは、若い観客向けのものです(例えば、『Snowtime!』が国内外で商業的に大きな成功をおさめました)。それらとは対照的に、『新しい街 ヴィル・ヌーヴ』は大人向けの実験的な作品で、Unité Centraleというスタジオが小さな製作チームで作りました。この映画は、フェリックスが決意と献身を持ったアーティストだからこそ完成したものです。

私は彼のことを、ノーマン・マクラレンやピエール・エベールといったアニメーション作家の後継者だと思っています。制作の精神に、明らかな連続性があるからです。一方で、『新しい街 ヴィル・ヌーヴ』は、ケベックの実験映画の歴史とも密接に関係しています。カナダのアニメーション、それは常に実験的なものでありつづけ、その方向性が緩まることはありません。

5. 『新しい街 ヴィル・ヌーヴ』はカナダではどのように評価されましたか?

良い評価を得ました。批評家は、この映画の独創性、トーン、詩的で感動的なストーリーテリング、そしてその内容を称賛しました。オタワ国際アニメーション・フェスティバルモントリオール・ニューシネマ映画祭で先行で公開された後、劇場公開もされています。大ヒットとまではいきませんでしたが、シネフィルたちの注目を集めています。

実は、1995年のケベック州の住民投票の話題が映画の題材になるというのは極めて稀で、その点も『新しい街 ヴィル・ヌーヴ』を非常にユニークなものにしています。ロベール・ラロンド、ジョアンヌ・マリー=トレンブレー、セオドール・ペルランなど、非常に才能ある俳優たちが声を担当しており、それも良かったです。

6. あなたにとってのヴィル・ヌーヴの魅力は?好きなところはどこですか?

本作は、映画館の大画面で観るために作られています。映画館でこそ、この作品の持つペース、陰影に富んだ映像、そして豊かな感情を体験することができます。

私を魅了してやまないのは、その卓越した効率の物語です。この映画で使われている手法はシンプルなので、フェリックスは複雑さを避けています。エンディングが良い例です。壮大で、登場人物も多く、たくさんのアクションが同時展開しているにもかかわらず、私たちの目に入るのは、ほぼ抽象的とも言っていいような単純なビジュアルだけであり、それがシンプルに飛び込んでくるのです。素晴らしい技術だと思います。

アニメーションは通常、空想ばかりを語ります。しかしこの映画は、ドキュメンタリーではないにもかかわらず、近年の歴史の重要な瞬間を扱っています。主人公の個人の運命と人々の運命が、つながりあっていく……この点において、『新しい街 ヴィル・ヌーヴ』は私の心を動かしました。

いかがだったでしょうか。カナダの豊かなアニメーション文化に育まれた、『新しい街 ヴィル・ヌーヴ』は9/12(土)よりシアター・イメージフォーラムを皮切りに、出町座、テアトル梅田、上田映劇、横浜シネマリンほかにて全国順次公開です!

本作の最新情報は、公式ツイッターアカウントをチェック!

https://twitter.com/ND_distribution

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