lynch.配信ライブ「DECIDE THE CASE」で得た2つの確信
9月10〜11日の2日間にわたる、lynch.初の無観客生配信ライブ「DECIDE THE CASE」が無事終了した。
このライブタイトルは、もともと8月の2日間で開催されるはずだった生ライブに付されていたものだ。訳せば、「決断する・決意する」という意味になるだろう。コロナ禍に配慮しつつ、数カ月ぶりの有観客ライブを行おうというバンドの当時の選択を、ストレートに表現したタイトルだったと推測する。
しかし、発表後に感染者数が爆増した状況から、生ライブは中止という結論に至った。かわりに彼らが改めて決断したのが、今回の配信ライブだ。
普段ならフロアには人がひしめき、葉月が「呼んで呼んで!」と言えば大声が上がり、「集まれ〜!」と号令をかければワッと前方に密集地帯ができるようなライブを行なってきたlynch.が、無観客配信に挑むという決断──
その決断は、2つの確信をもたらしてくれたと感じている。
ひとつは、音楽や想いはどこまでも届くということ。
そしてもうひとつは、綺麗事でもなんでもなく、オーディエンスがいなければlynch.のライブは成立し難いということだ。
ライブ自体は、平時と遜色ないすばらしい内容だった。
2日間のライブにはそれぞれ「CASE OF 2013-2020」「CASE OF 2004-2012」というサブタイトルが付いており、リリース年代順に楽曲を振り分けたセットリストは、どちらもファンの期待を巧みに汲んだものになっていたと思う。
生ライブさながらの豪華なセットと特効に加え、コーラスが入るところで画面が2分割されたり、オーディエンスが声を出す部分にテロップが入ったりと、ほどよい映像演出が入っていたのも効果的だった。
また、今回は「#lynch_live」のハッシュタグを付けたツイートが現場に流れるようになっていたそうで、「どんどん送って! 見てるよ」という葉月の煽りに応じて、きっとたくさんの応援ツイートが集まっていただろう。そんな温かい通じ合い、求め合いが、画面のこちらと向こうには確かにあった。
一方で、どうにも拭えなかったのが「隔てられている」という事実からくる違和感だった。
まず、初日のオープニング。久々に聴く『AVANT GARDE』のSEにのってメンバーが登場する姿には否応なく興奮させられたが、そこにフロアからの手拍子やコールはない。代表曲『GALLOWS』、ライブ初披露の『DON'T GIVE UP』など冒頭からガンガン攻め倒しても、演奏が止むとシーンと静まり返る空間(葉月も「あっ、こんな感じなんだ」と驚いたそうで、2日目はスタッフ陣が拍手をするようになっていた)。
この違和感が最も顕著だったのは、悠介が言及していた『pulse_』だろう。lynch.名物ともいえる、「ヤリタイヤリタイ」の大合唱が聴こえない。「この2日間、『pulse_』がクソつまんなかった」という悠介の率直な言葉は、まさにlynch.のライブの本質を言い表していたように思う。オーディエンスという片翼を奪われたライブは、想像以上のもどかしさをともなっていた。
しかし、このもどかしさこそが、lynch.というバンドの本来あるべき場所、あるべき姿を再認識させてくれたと思う。
そのうえ、「新しい生活様式」をだんだん受け入れ始めていた心に「いや、もう一度本来のライブが観たい」と、火をつけ直してくれたようにも思うのだ。
もちろん、今回の配信ライブは非常に有意義なものだった。いつまで続くかわからないこの苦境を乗り越え、未来へバンドをつなぎ留めるために全力を尽くそうという目的は、十分に果たされたと感じる。
そのうえで葉月は、「こういう形でも皆さんとつながれるすばらしさを見つけ出したけれど、やはりライブというものは直接やりたいと思う」と告げた。そしてその場で発表されたのが、10月・日比谷野外音楽堂での有観客ライブ『FACE TO FAITH』だ。
ライブタイトルは、音だけ聞けば「顔を合わせる」、そして文字を見ると「信念に対峙する」といった意味になる。
おそらく、ガイドライン通り収容人数は半分、大声も出せない状況にはなるのだろうが、それでもバンドとオーディエンスが直接向き合えるライブがようやく実現する。
今はまだ、100%とはいえない。しかし、この2日間で生まれた熱と、新たに決まった有観客ライブが、望む未来へ至る力となってくれるだろうと信じている。
葉月が14日のYouTube生配信で、今回の配信ライブについてどのような所感を語るのかにも注目したい。
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