母との散歩

分単位

起きてから家を出るまで55分。出社までの時間、朝食を含めたルーティンを分単位でこなす。夕方退勤後も「この時間に帰宅したら、この時間にこうやってルーティンをこなしてから寝よう」とイメージしながら家路につき、帰宅後淡々とこなす。そして寝る。仕事中はもちろん、時間に追われてあっという間に夕方となる。

休みの日はオトカツとして地域でやること(たいしたことはやってないけど)を前日からイメージして、当日は朝からひとつづつこなしていく。僕に与えられた財産は時間なのだ、そう思って1分一秒を無駄にすまいと、日々を過ごす。

母との散歩

休みの日にときどき父が外出することがあり、昼食を母と二人ですることがある。肺活量の弱い母は運動する機会が減っているので、天気が良ければ午後、30分ほど家の周りの散歩に出かける。

母は時間を気にしない。いや、体力のこともあって無理はできない。ゆーっくり、のぉんびり歩く。すこし歩いては立ち止まる。

並んで歩いているはずが、早足の僕はすぐに母の前に出てしまう。急かしてしまうと母の呼吸が苦しくなることに気づいて慌てて立ち止まる。はじめはそんなちぐはぐな散歩だった。

今年に入ってからだろうか。やっと母と並んで歩けるようになった。歩幅が違うので気にしている。一歩一歩踏み出すタイミングを遅くして、母に合わせている。慣れない歩き方にはまだまだとまどう。

しかし、ゆっくり歩くと肩が軽くなる。視野が広がる。忘れていたことを思い出す。オーバーな言い方をすれば、なんだか異次元の世界にいるような気にもなる。

今日はここのニャンコ見当たらないねぇ
あら、こんなところにスイセンが咲いているよ
この家の深緑色の車、いい色ねぇ

のぉんびり歩かないと気づかないことを、母は独りごちる。もうちょっとゆっくり生きろ、と僕に話すかのように。

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