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年間1人1000円!ほぼ無料で地元の子どもたちの学びの場を16年間続けている「希望丘スタディ」という存在

ねつせた!では、メンバーの「やりたいこと」から生まれた様々なプロジェクトが動いています。その中で2021年春に「せたEduプロジェクト」が発足。世田谷区にある教育サービス、支援策を広く伝えたい!という想いで、高校1年生のこのんが提案をし、大学生メンバーも加わって活動しています。その中で、世田谷区内で16年に渡り無償で学習支援を行っている希望丘スタディに出会いました。その場所は、世田谷区希望丘小学校。2021年10月2日にねつせた!メンバーが話を聞きに行きました。

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和久井 直美さん(希望丘スタディ 代表)

世田谷区立希望丘小学校の「特色ある教育活動」に位置付けられる無償の学び舎、希望丘スタディ

このん 本日はお忙しい中お時間をいただき、ありがとうございます。私は小さい頃から世界を飛び回っていた祖母から「世界には教育を受けられない子どもがたくさんいる」という話を聞いていて、今SDGsでも問題になっていることの根本的な解決方法は、子どもや若者の教育の充実なのではないかと思うようになりました。若者として何ができるのか?と考えたとき、教育の充実に向けてアクションを起こすことではないかと思い立ち、日本の中にも課題があることを知り、「せたEduプロジェクト」を立ち上げました。
このプロジェクトでは、世田谷区の教育サービスを広くお伝えしたいと思っていて、ねつせた!のメンバーであり、こちらの運営スタッフでもあるわくいさんから、16年にわたり地元で学習支援の活動を行っている希望丘スタディさんのことを教えてもらい、ぜひ取材したいと思いました。よろしくお願いします。

和久井さん そうだったんですね。取材に来ていただいて嬉しいです。

このん では最初に、希望丘スタディのコンセプトや特長について教えてください。

和久井さん 希望丘スタディは、「学習の習慣をつける」「学習の仕方を学ばせる」「挨拶などの生活態度を身につけさせる」を3本柱に地域・保護者・学校が連携して行う学習支援で、世田谷区立希望丘小学校の「特色ある教育活動」に位置づけられています。
魚を与えるのではなく魚の釣り方を教えよ、と言いますが、勉強も同様に答えを教えるのではなく学習の仕方を学んでもらえるようにしています。

りお そういえば、15年間続けてこられた「寺子屋」「新寺子屋」から「希望丘スタディ」に名前を変更されましたよね。その理由は何ですか?

和久井さん 「寺子屋」「新寺子屋」という名前で15年間続けてきましたが、開始以来ずっとリードしてくださった元小学校校長の矢後先生と田中先生が引退することになり、残った人たちで続けていくにはどうしたらよいかをみんなで考えました。この15年間で子どもの教育は変わっているし、方法そのものも変化している…、そのため名前も含めて心機一転スタートしましょうということになりました。立ち上げ当初からのポリシーは引き継ぐけれど、もう少し効率良くできないかな、とかスタッフのみんなの意見を聞きながら模索しながら進めています。

このん そうなのですね。ところで、対象学年が1年生から4年生なのはどうしてですか?

和久井さん 「寺子屋」立ち上げの最初は6年生までやっていました。その時は小学校の児童数が少なかったのと、最初は教育経験者もたくさんいたので全学年受け入れることが可能でした。そのうち、教育経験者が不足したこともあり、学習の土台を作るのに大事な時期である低学年、1年から3年生に絞って支援してきました。4年生にもやって欲しいという保護者のニーズがあったのもありますが、希望者数やスタッフの意見を聞いて柔軟に決めています。

りお 希望丘スタディさんで行われている科目は「国語」と「算数」とのことですが、この2つの科目のみを行う理由は何ですか?

和久井さん 教員経験者がスタッフに多かったときには理科・社会も少しはやっていたのですが、今は基礎力の土台となる国語と算数に絞っています。読み書きが正しくできなければ学習に取り組めないですし、図形のセンスは低学年の時期に養われます。また、算数は積み上げなので丁寧にサポートすることが重要ですから。受け入れ能力とニーズがあれば理科・社会までやりたい気持ちはあります。

りお 確かに国語と算数は、基礎力を身に着けるのに重要な科目ですよね…。そんな希望丘スタディは、土曜日の10:00〜11:30に行われているとのことですが、午前中に行われることで、子どもたちの規則正しい生活に繋がっているように思いました。実際、何か感じることはありますか?

和久井さん ええ、規則正しい生活を身につけてもらいたくて「寺子屋」立ち上げ当初から土曜日の午前中にしています。今は保護者もほとんど共働きで、大抵の親御さんは土曜日も習い事をさせたいと思っていて、その1つとして選ばれるようにもなってきました。こちらとしては毎日のリズムとして考えていますが、別のニーズで活用されている面もありますね。

このん 習い事の一環として、土曜日の午前中を活用されている面もあるんですね。実際、希望丘スタディは、どのような雰囲気なんですか?

和久井さん 今日は初日で、少し変わった雰囲気かもしれません。学習の理解度、集中力は一人ひとり違っているので、できるだけ個別に対応するように心がけています。教育経験者を軸にスタッフを子ども1人か2人に対して1人程度つけて、子どもがわからなかったところを教えてあげています。答えじゃなくて答えの導き方を教えてあげるようにと思うものの、スタッフもそれぞれ価値観が違うので、子どもごとにどう教えてあげたら理解しやすいか、様子を観察しながら個別に指導方針を練っています。新型コロナ対策として三密回避に留意しながらもスタッフと子どもたちが良い関係性を作れるようにと思っています。

りお 子どもたちが楽しむ工夫について、取り組まれていることはありますか?

和久井さん 折り紙や、学校からお借りできる算数教室のブロックなどの副教材を、今後使えるように考えています。

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実際に利用してみてどう?子どもと保護者のリアルな声

りお 保護者、児童の皆さんの反響はどのようなものですか?

和久井さん 一昨年度のアンケート結果しかないのですが、子どもは「勉強が楽しい」「算数が解けるように楽しい」など小さなステップごとの満足感が現れてきていて、保護者は「この1年間で学習習慣が身についた」「ここにいる時間は勉強してくれてよかった」などが毎年多い声ですね。創設者である矢後先生と田中先生は、みなさんが続けて欲しいと言ってくれている限り応えていく、という考え方をされていました。だから、無理のない範囲で続けようと思っています。お2人の先生が引退される際、スタッフのみんなが「次年度も続けていきましょう」とおっしゃったので、学校側もそれならば続けてくださいということで。

このん 学校、地域、保護者が連携して行われているというのも珍しいですよね。子どもたちの視野が広がりとてもよいと思いました。

和久井さん そうですねえ、子どもから見たら私たちはシンプルに「教えてくれる人」なのだと思います。そこで勉強を見てくれた人が別のところでも活動しているということは、いずれわかるもの。人は色々なところで役割を持って生きているのだということを知ってもらえるといいですね。

りお 連携にあたって難しい点、工夫されていることはありますか?

和久井さん 地域との連携はそんなに大変ではないですね。土曜日の小学校はいろんな団体が使っていて、校庭でスポーツ、体育館でオーケストラとか。更に校舎の工事の人が出たり入ったり、いろんな人たちが出入りしています。子どもの安全を心がけるのはもちろんですが、やりたい人が集まって来てくれているので、むしろ同じ立場。

学校へは、児童が喧嘩したとか、怪我したなどは報告しています。ご家庭の事情も様々で配慮した方が良いことについては学校側から事前に教えておいてもらうようにしています。学期の終わりには学校、校長先生と振り返る場を持っていますが、カリキュラムについては、学校と綿密に連携することはしていないんですよ。「特色ある教育活動」として希望丘小学校の取り組みの一つに位置付けられているのですが、学習支援の中身について学校と決めることはなく、教育指導要領に沿うこと、年間の教育計画から逸脱しないこと、学校の授業で教えていない先のことを教えないなどを留意して進めてきました。こちらは4月から一年まるまるやっても20数回、特に今年度は10月からしかスタートできなかったので14回程度なので。
スタッフの担い手が減ってしまった時は悩ましいですね。区報に募集告知を掲載してもらったりもします。無給だからお願いするのは大変ではあります。

無償でボランティアをする人たちってどんな人?

このん 希望丘スタディは、ボランティアで運営されているというのがすごいと思いました。ボランティアをされている方はどのような方が多いですか?

和久井さん みなさんボランティア活動に関心があり、無給でも良いと言ってくれている人たちですが、様々な方が集まっていると思います。取り組みに共感してくださった人、卒業生で助けになればと手をあげてくれた人、広報紙を見て集まってくれた人など…。昔お世話になったからと卒業生の保護者がボランティアになってくれることもあるんです。

このん ボランティアをするために、学歴や資格、経験などは重要視されていますか?

和久井さん 学歴は重視していませんが、子どもに教えたことがない人よりある人を求めています。「区のおしらせ」やボランティア協会のお知らせを見て来てくれた人の中には教育経験者や塾講師の人もいてありがたいです。大学の教員課程を取る学生さんが「寺子屋」時代から数えて4、5人、体験を積みたいということで来てくれて、現在皆さん教員になられていますが、こうしたボランティア経験は採用試験時に非常に興味を持たれるそうなんです(笑)。

りお 小学生のスタッフもいらっしゃるとか?

和久井さん はい。平成30年度まで「小学生スタッフ」がいました。4・5・6年生の学びを考えているとき、本人の学力定着になるし、子どもの言葉の方が下級生に伝わりやすいのではないかということで、4・5・6年生の小学生スタッフを募集していました。今はコロナ禍で、学年を混ぜる授業はやっていないのと、子ども同士だと密になりやすいので止めてしまいましたが…。今の校長先生は、近隣の船橋希望中学の生徒たちに来てもらえたらいいねというお気持ちがあり、将来的には中学生スタッフの可能性を考え始めています。過去には大東学園の生徒さんたちがボランティアできてくれたこともあるので。ちょっと年上の子だと担当する子の勉強を徐々に責任を持って見てくれるようになるのです。小学生スタッフをやった子も、面倒見が良くなる。子どもによっては学校の先生になりたいとか将来の進路につながることもあって。そういう循環ができることは嬉しい。

このん 希望丘スタディに関わると戻ってきたくなるのかもしれませんね。

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家庭とも学校とも違う、希望丘スタディが担う独自の役割

りお 希望丘スタディの前身「寺子屋」「新寺子屋」は15年間行われてきたとのことですが、印象に残っている出来事はどんなことですか?

和久井さん 学習支援というと、学力の低い子を集めて行うものが主流かもしれませんが、ここはそういうことはせず、来たい人に来てもらっているんです。だからすごく良くできる子とそうでない子がいます。それぞれに対応する大変さ以外にも、家庭環境に心配があるお子さんが来ることがあって。勉強しに来たのか、抱っこされに来たのか、スタッフにずっとおんぶされていたこともあります。学校にも相談しながら、愛情を持って接していくことにしました。部屋に入れなくて廊下でないと勉強しない子もいましたね。そんな時、「家庭とも学校とも違う役割があるのだな」と思いました。発達障害があると分かっているお子さんでも、私たちは療育ができるわけではないので、人のものを取ったりする行動がある時は、どうしたらなくなるのか観察しながらより良い方法を、と試行錯誤をして来ました。そうした経験は印象に残っています。

りお 16年、地域の子どもたちと向き合ってこられて、変わってきているとお感じのことはありますか?

和久井さん 公立小学校ならではかもしれませんが、最近はひとり親のご家庭も増え、学校に子どもをコンスタントに預けられて、勉強を見てくれて便利だなという感覚は増えているかもしれないです。学童クラブは生活の場を補償するけれど、学習を支援する場ではないから。
最初の頃は学校の1年生の在籍児童の6割が申し込む感じで進級するたびに、その6割が残るイメージでした。5年ぐらい前までは、全校児童が増えるにつれて比例するように児童が増えていきました。12年くらい前まで様々な理由で別の小学校を選ぶ人がおり、地域で比較的歴史が浅いこの小学校は敬遠されいたのです。バブル末期に計画され、その後改築された校舎の学校に行かせたがる傾向も児童減少を加速する要因でした。最近はまた、学区域内の公団住宅が子育て世帯を優遇したり、新たに大規模な集合住宅が造られたりしていることから、移住してこられた世帯も増え、児童数が急増しています。

「この良い取り組みを保護者の皆さんに知らせなくちゃ!」と思ったのがきっかけ

りお 無償の学びの場で、和久井さんはボランティアを長く続けられていらっしゃいますが、そもそも関わりはじめるようになったきっかけは何だったんですか?

和久井さん 当時、希望丘小学校卒業生の学力定着のレベルが低いという話が出て、当時の青少年地区委員会の委員長の駒井さんの発案で、希望丘小学校の学習の場所を作って欲しいということで寺子屋が始まりました。
私が関わるようになったのは、次女が4年生の時に寺子屋に入っていたことがきっかけなんです。娘は寺子屋が始まった頃の最初の児童でした。私はその次の年にPTA会長で。その頃はまだ人数も少なかったので、「保護者のみなさんに寺子屋の存在を知らせなくちゃ」と思いました。「一生懸命にやってくださっている人たちのことを取り上げないと!」と思って。その後、数年して「助けてくれないか」と誘われたのです。「お子さんも義務教育終わったでしょ」と。寺子屋には恩義もあったので、教員の免許があるわけじゃないけれどお手伝いすることになりました。そこから11年目になります。今は一番長く関わっている人間となり、今年度から私が代表を引き受けた次第です。

このん 今後、活動拠点を広げる意向はありますか?

和久井さん 希望丘小学校から始まったことなので広げることは考えていませんが、近隣に子ども食堂があって、そこには学習支援を必要としているお子さんたちがいるので、「希望丘スタディの片隅でも良いので勉強させてもらえませんか?」という問い合わせが数年前にありました。学校も学年も違うためお断りすることになったのですが、支援が必要な人たちに支援ができるといいなと思いました。今は夜の時間帯に子ども食堂でも学習支援を行えるようになったようで、こちらで作成している教材だけでも共有することはできるかもしれないなと思っています。将来的にできるようになったら手伝いたい。そのためにもここで子どもたちの学習支援をしっかりできるようにならないと、と思っています。

このん そんなことがあったのですね。若者が主体で活動しているねつせた!として、何かお手伝いできることはありますか?

和久井さん これからボランティアの募集をしていくのですが、できれば1対1でスタッフをつけて学習支援をできるようにしたい。熟練のスタッフも欲しいけれど、若くて思いのある人にも来てもらいたいと思っています。同じ人がずっといらっしゃるのも良いですし、何人か交代でも良いので、みなさんから若い人に呼びかけてもらえたら嬉しいです。まず見学して頂いて、ご自分ができそうかできなさそうかを判断して頂きたいです。

このん わかりました。貴重なお話、ありがとうございました。

<見学>

この日は、国語と算数それぞれ45分の学習支援が行われていました。教室は2つに分かれていて、1つは2年生・3年生・4年生の16名が5名のスタッフのサポートを受けながら学習。もう1つの部屋は1年生8名の児童に4名のスタッフが指導に当たっていました。

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2年生、3年生、4年生はそれぞれ縦の列を作って座り、プリントに取り組みます。できたらスタッフに見てもらいその場で○をつけてもらっていました。それぞれの進度やその日にやりたいことに合わせてプリントを用意されていて、3年生が4年生の単元を学びたいということであればそれも可能だそう。

「『お子さんの意志をしっかり確認してください』と保護者には伝えています」というのは、その日指導に当たっていた先生の言葉。希望丘スタディでは、お子さんたちの意志を尊重していて、そのために今年度は開講前に体験会も行いました。

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希望丘スタディをご見学の際には、事前にメールをお送りください。
ボランティア応募、お問い合わせ
kibougaokastudy@gmail.com


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