【24. お出掛け4、風(仮)】

中華街に着いた2人は、でっかい肉まんや火傷しそうなくらいに熱々のスープが飛び出す小籠包、北京ダックなんかを散々頬張りながら、お昼ご飯をどの店で食べようかと悩んでいた。
端から端に、隅々まで、行ったり来たり。
「どうする?」
「どこで食べるぅ?」
結局、辛党の彼の意向で、可愛らしい名前の四川料理のお店に決定。
そこで担々麺を啜っては
「かっらぁ…」
麻婆豆腐を食べては
「かっら!」
と連呼する彼。
「けど、辛いだけじゃなくって美味しいよ?ちょっと食べてみたら?」
の一言に、一目見ただけで明らかな、赤黒く染まった豆腐を彼女もほんの一片。
「……うっわっ!…かっら~ぃ…」
…ゴクッ…ゴクッ…
とコップの水を空にしてから
「…もういい…私はパス…全部食べていいから…」
即効でギブ。
自分が食べたいと頼んだ手前、彼は汗だくになりながらも辛いのばかりを食べ続ける。
それを尻目に彼女は、
「これも美味しっ」
ニコニコ顔で五目中華のおこげやらフカヒレのいっぱい入った餃子、最後の〆にはスイーツまでも堪能した。
会計を済ませて店を出た彼の額からは、真夏でもないのに汗が溢れ落ち、着ていたロンTは
…ビッショビショ…
「あ~ぁ…着替え持ってくれば良かった…」
「やっぱ、昨日のバチが当たったんじゃない…?」
未だ根に持つ彼女は大爆笑。
彼も釣られて他人事のように笑い出す。
その後、
「けど、美味しかったね?」
と言ったのは彼の痩せ我慢だったのだろうか?
それと彼が
「池袋にも中華料理の美味しいお店があるって言ってたでしょ?今度さぁ、そこ行ってみない?」
と訊いてきたのは、彼の意地悪だったのか?
確かなことは判らないが、その彼の問い掛けに対して、彼女は痩せ我慢して答えたことだけは間違いない。
「うん…行ってみたいなぁ…」

山下公園の遊歩道を潮風を浴びながら少し散歩したあと、
「じゃぁあ~…次は~、あそこ行きたい!」
彼女が指差すのは遊園地…の観覧車。
まず最初に乗り込んだのは、またもや観覧車だった。
「あ、あれ乗りたい!あれもなんか楽しそっ!一緒に乗ろう?」
園内を見下ろしていた彼女は、興味を唆[そそ]られたアトラクションにダブルロックオン。
「うん、いいよ?」
それが何かも聞かずに、彼は適当な返事。
彼が眺めていたのは海上に幾筋も重なる白波の軌跡、昨日渡ったベイブリッジ、横浜の街並み、そして目の前のランドマークタワー。
すると彼女が
「ねぇねぇ?私ね、あのホテル泊まったことあるんだよ?」
自慢気に伝える。
彼へのちょっとした仕返しのつもり。
「へぇ~、凄いね?出張か何かで?」
仕事で泊まるようなビジネスホテルとは格が違う…そんなことは彼もわかっている。
─カレと…?─
本当はそう訊きたかった彼の心を見透かしたように
「違う違う…因みに一緒に泊まったのはカレとじゃないよ?言っとくけど全然別な人…」
そして泊まった人物とその理由を聞いた彼は少し
…ホッ…
としたのか顔の緊張が解れ、やけに納得したように
「へぇ~、そうなんだぁ…」

とりあえず絶叫系のコースターとかホラー系、クレーンゲームとかで遊んだあと、お目当てのアトラクションがあるコーナーへ。
「やっぱ恥ずかしいから俺はいい…」
と駄々を捏ねた彼を何とか説得して、一緒にメリーゴーランドに乗り、続いて海からの風にスカートをチラつかせながら、可愛らしい動物をモチーフにしたモノレール自転車で空中散歩。
一通り遊び疲れたところで横浜を後に。

一般道を経由し、この辺では普通なのであろう渋滞に巻き込まれながら、芝、六本木、原宿、青山、皇居、昨日彼女が彷徨った東京駅…と、あちこち寄り道して見て廻り、彼の部屋へ向かう。
途中、首都高のガード下のとある小さな橋の手前の赤信号で
「あ、あれ日本橋だよ。外灯みたいなの立ってるでしょ?あの辺が日本の道路の基準点なんだって。さっきちょっとだけ通った国道1号線も、青森まで続いてるあの4号線も、ぜーんぶここが起点。あ、あと岩沼までの6号線もだ」
「へぇ~こっからず~っと繋がってるんだぁ…」
埼玉と仙台…
─離れててもず~っと繋がっていたい…─
日本橋を渡りながら、共にそんな想いを胸に抱いていた。

けれど、翌日の夜にはまた離れ離れ…。
大宮駅…17両編成の新幹線の先頭車両が停車する位置よりももうちょっと北寄り、ホームの端っこ。
そこで彼の肩より少し幅の広い柱に寄り掛かり、これから帰る仙台の方角を彼女は見詰めていた。
視線の先の彼。
目を瞑ると彼女の唇にそっとKissをする。
そこで2人は新幹線の到着を待ちながら、暫しの別れを惜しんでいた。
新幹線の到着を待つ…と言うよりは、
─幾らでも遅れて来れば…その方がいいのに…─
とさえ願う。
「ちょっと待ってね?」
彼は少し後退り、彼女が背にする柱の向こう、そして天井付近を視線だけで
…キョロキョロ…
と見廻した。
そうしたのは、ホームで新幹線を待つ人の動向とホームを監視するカメラの位置を確認するためだったのだろう。
「いいよ?今、誰もいないから…」
「うん…」
彼女はブラウスの襟元のボタンから順に外し始める。
開[はだ]けた胸元には、真っ白な光沢のあるキャミソールを纏った小さな膨らみ。
「誰にも見られてないかなぁ…?」
「大丈夫…」
そんな保証なんてどこにも無いことなんて解ってる。
けれど彼女は裾を捲り上げ、左胸を
…ポロリ…
「もっとちゃんと…」
右の胸も
…プルン…
肌寒くも感じる風に晒した。
恥ずかしさとは異なる、何かまた別の感情によって微熱を帯びた彼女にとっては心地良い風。
そのせいか、ピンク色に染まった乳首は心無しか勃起していた。
「下は…?」
闘牛の興奮を煽るように、もう片方の手でスカートを
…チラチラッ…
すると、茂みの無い割れ目が見え隠れする。
「もっとちゃんと…。拡げて見せて?」
まだ全然物足りない様子。
“イヤがる”という行動をもうずっと前に忘れてしまった彼女は、彼に言われるがまま。
脚を肩幅くらいに開き、手繰[たく]し上げたスカートをキャミの裾を持ち上げている手に託す。
すっかり丸見えになった真っ白な恥丘の一筋。
その筋に沿って押し付けたピースサインを開いてゆく。
…ピチョッ…
そんな音が聞こえたような気がした。
そうして出来た粘膜の裂け目から、やはりホームを通り抜ける風が体温を奪う。
しかしそれでも足りないくらい、彼女の身体は火照り出していた。
「クリちゃん…触ってみて?」
この指示が出る前に、彼女の指先が勝手に動き始めていたから。
…ピロ~ン♪…
その姿を、彼は携帯の画面越しに見詰めている。
「可愛いよ?」
そう呟くと、何か閃いたような表情を見せてバッグの中を
…モゾモゾ…
し始めた。
─デジカメでも出すの?─
いや、彼が取り出したのは、彼女の予想を裏切るスーパーかどこかのビニール袋。
「何…?それ?」
彼は
…ニヤリ…
として一言。
「これ…」
袋を鷲掴みしたまま、親指を彼女に向けてスライドする。
…ヴーーーー…
指をちょっとだけズラしてもう一回。
すると今度は、また違った音が…。
「え!?持ってきてたの?使えってこと?…ここで?」
「使っても良いよ?」
─え~?マジで!?─
顔を真っ赤にして固まる彼女。
「これさぁ、家に持ってって…って思って持ってきたんだけど…また忘れるといけないから今渡しても良~い?ずっと渡すの忘れてた…」
─な~んだ…─
…ホッ…
とした彼女は
「うん…」
と受け取って、足元に置いたバッグに仕舞う。
「お家でしたくなったら…ちゃんと使ってね?」
「うん…」
バッグのジッパーを閉める。
すると、一瞬強く吹いた風に煽られスカートが捲れ上がる。
と同時に膝の間に挟んでいだ筈のお尻側のプリーツ[※1]が
…パサッ…
と床に落ちた。
蹲んだ状態で彼の前に晒される、無防備な濡れた唇。
「でもやっぱ…今使ってみる?」

チャイムが鳴る。
「17番線に21時…分発の…」
アナウンスが流れる。
「もう来ちゃうね…」
「うん…」
ブラウスの裾を揃え、襟元を直し、柱の陰から現れた2人は何事も無かったかのように新幹線を待つ列の最後へと並ぶ。
そこで
「あの話し…どう…?考えてくれた?」
逢った時にだけ、不意に彼がする質問。
これで3回目か4回目…。
けれど、彼女の答えは
「ごめん…まだもうちょっとだけ考えさせて…」
「…うん、いいよ…」
と苦笑いする彼。
─私のほうが彼をずっと待たせてたんだね…─
と彼女はその時、漸く気付いた…。

彼女を連れ去る新幹線が時間通り到着。
目の前には、我先に…と乗り込もうとする乗客。
振り返ると、大きな荷物を抱えた老夫婦。
順番を譲る。
最後に乗り込んだ彼女は振り返り、2人はいつも通り乗車口をひとつ、占領した。
抱き合いながらKissをしているとチャイムが鳴り、2人が離れると、心の準備も儘ならないうちにドアが閉まる。
そして、彼女の姿が映る窓が段々と小さくなっていった。
彼はさっきまで一緒にいたホームの端まで歩み寄り、緩やかな右カーブで新幹線が視界から消えるまでのその間、ずっと見詰めていた。
─楽しかった分…寂しい…─
そんな時間の始まり。
けれど明日にはきっと、“寂しかった分だけ楽しい一時”を心待ちにする時間がやって来る筈だ。

「そこいいですか?」
「どうぞ…空いてますから」
新幹線の席に座ってすぐ
〈気を付けて帰ってね♥〉
彼女がメールする。
車に戻った彼もそれに気付き
〈気を付けて帰ってね❤〉
と返信。
その携帯を置いた助手席には、こびり付いた彼女の体液が乾き、粉を吹いたようになった大きな染み。
そんな彼女の白い影を乗せたまま、彼は走り出した。


部屋に着いた彼の目に一番最初に飛び込んできたのは、やはり、あの洗濯物。
─ちゃんと忘れずに彼女にお願いして置いてって貰ったし、あれも渡せたし…─
「触っちゃダメだよ?」
と彼女に言われたそれを躊躇なくピンチから外し、顔を埋めた。
そして深呼吸。
─あ、そうだ…─
〈今、部屋着いたよ〉
とメールする。
新幹線の中の彼女はその返事を書きながら、いつの間にか
…ウトウト…
けれど、どの辺を走っていた頃だろう、妙な音で目が覚めた…。
…ヴインヴインヴイン…
音がしてくるのは膝の上に乗せた彼女のバッグから。
控え目に口を広げて覗いてみると、さっきのビニール袋が体を拗ねらせてバッグの中を掻き混ぜている。
慌ててスイッチを切った。
何かの拍子にスイッチが入ってしまったのか…
それとも、
彼がこうなることを狙ってワザとスイッチの切り方を甘くしていたのか…
それは兎も角、
─空いててよかったぁ…─
隣の席にいた男性は、彼女が眠っているうちにどこかの駅で降りたのだろう。


2019/09/10 更新
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【参照】
※1 プリーツ…衣服(スカートなど)・カーテンなどの布の折り目、襞。彼女が穿いていたのは太めのプリーツが入ったスカート。

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【備考】
本文中に登場する、ねおが個人的に難読な文字、知らない人もいると思われる固有名称、またはねおが文中の雰囲気を演出するために使用した造語などに、振り仮名や注釈を付けることにしました。
尚、章によって注釈がない場合があります。

《本文中の表記の仕方》
例 : A[B ※C]

A…漢字/呼称など
B…振り仮名/読み方など(呼称など該当しない場合も有り)
C…数字(最下部の注釈に対応する数字が入る。参照すべき項目が無い場合も有り)

〈表記例〉
大凡[おおよそ]
胴窟[どうくつ※1]
サキュバス[※3]

《注釈の表記の仕方》
例 : ※CA[B]【造】…D

A,B,C…《本文中の表記の仕方》に同じ
D…その意味や解説、参考文など
【造】…ねおが勝手に作った造語であることを意味する(該当のない場合も有り)

〈表記例〉
※1胴窟[どうくつ]【造】…胴体に空いた洞窟のような孔。転じて“膣”のこと

※3サキュバス…SEXを通じ男性を誘惑するために、女性の形で夢の中に現れると言われている空想上の悪魔。女夢魔、女淫魔。

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