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バイクライダーインタビュー前編:バイクとの出会い

本記事は、Neoriders Project主催のバイクアート展の展示作品の一つを再構成したものです。本作品では、インタビューアの鈴木さんと、バイクライダーの白鳥さん・嶋さんのバイクに関する対話が広げられます。最後までぜひお楽しみください。


人が好きなものを好きになるとき、それはいったいどんな過程を経るのでしょうか。
言われてみれば、自分がどうやって今好きなものを好きになったのか、あまり思い出せないことも多いような気もします。もともと好きだったものではないけど、なぜかいつのまにか好きになっていく。例えば、憧れからはじまったり、冷やかしではじめてみたり、人付き合いではじめたものがすきになったり。誰かが好きだと語るもので興味を持ってみたり。
バイクを好きになったことのないあなたでも、いつの日かバイクを好きになる日がやってくるのかもしれません。

バイクのある生活は、首都圏で生活しているとイメージしづらいものがあります。最寄りの駅まで歩いて、電車に乗って、目的地の駅に着いて、歩く。それで十分生活できてしまうからです。しかし、いざバイクを愛する二人に話を伺ってみると、話はどうやらそんなもので留まらなそうだということが見えてきました。


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バイクとの出会い:白鳥壱暉


ー(白)僕はもともとバイクに興味なくて。うるさいしくさいし、自分が乗ることになるものとは思っていなかったんですけど。大学一年生で免許を取って、東京に戻って来て、こっちで車に乗る機会がなかったのがもったいないなって思って。車を運転したかったから、少しでも運転というものに慣れるためにピザハットでバイクのデリバリーのバイトをはじめたんですよ、大学一年生の時に。

で、そのときに感動して。本当に原チャリなんですよ。デリバリーバイクだから、40キロぐらいしかでないし。薄いし、目の前にこんな壁もあるし、エンジンのリアクションも悪いし。でも、感動したんです。あのアクセルを捻ったとき。

ー(鈴)アクセルを捻ったとき...。音とかですか?
ー(白)いや、音っていうか加速感です。車に乗って感じたものと全然違くて。景色がバーっと流れていく感じが。

あの加速感。危なさもあるけど、こんなに早く楽に移動できることに純粋に感動しました。自転車は乗ってましたけど、自転車必死に漕いで出るスピードが、アクセルひねるだけですぐに出て。そこにすごく感動しました。当時は純粋にすごいなって思うだけだったけど、思い返すとあの瞬間は自分にとって大きかったなと思ってます。

夜、(店長に)ちょっと乗ってみるか、って言ってもらって、乗させてもらって。すっごい楽しかったんです。

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ー(鈴)そしたら採用した側も、白鳥さんと出会ってよかったと思ったでしょうね笑
ー(白)はい笑。それで、原チャリがほしいなって思いました。こんな便利なもの、乗れたらいいなって。それから、友達の友達がバイク屋をやってて、原付きを3万円ぐらいで買ったんです。
ー(鈴)いい自転車くらいの値段ですね。
ー(白)そう、めちゃくちゃ安いんですよ。3万円ならって言って、スズキのアドレスのv50を買いました。普通の原チャリです。なんのことはない、おばちゃんが乗ってるような。結構早いんですよ。アドレスって速いの。

ミラーも変えたんです。楽しくなって、塗装したり、自分なりにいじったりしたんです。

ー(鈴)最初にいじった記憶のあるバイクでもあるってことですね。
ー(白)所有して、はじめて。で、所有欲を満たしてもらったんです。
ー(鈴)所有欲...!
ー(白)あと所有欲と、自己表現ですよね。「俺はこのバイクなんだ」という表現、自分の個性なんです。自分の存在そのものにさえなってくるんですよ。

こいつが相棒なんです、本当に。どこに行くにもこいつと一緒で、対話ができているような感覚があるんです。2年ぐらい乗りましたけど、大切なバイクです。壊れちゃったときはめちゃくちゃショックでしたけど、あの原付きとの出会いが僕のバイク愛の源流です。

そのあと、バイクに乗る便利さとかっていうものを超えて、ただただバイクが好きになって、ゼファーっていうバイクを買うことにしました。

ー(鈴)ゼファーは、どんなバイクなんですか?
ー(白)今はもう新車はないバイクで、中古で買ったんですけど。乗ってる人はおっさんか、若くてもちょっとヤンキーなやつです。憧れのバイクなんですよ、あと単純に見た目もいいんですよね。性能とかでは新しいものに当然負けてはいるんですけど。でも、とにかくこの精神性、「俺はゼファーに乗ってるんだ」って。


2枚目_キャプションつき


バイクとの出会い:嶋鉄平


ー(嶋)僕は父親がバイクレーサーで。小学校1年生の時に競技用のミニバイクをもらって、走れる場所で運転したんです。「うわあ進む」「エンジン音がでかい」みたいな感想しかなかったんですけど、小さい頃はバイクがあって当たり前の生活で。

それから、中学受験のために小学校の後半は勉強で忙しくて、中学高校も部活漬けで一旦離れていたんです。でも16歳になって免許取れる年齢になると、公道を走りたくなって笑

原付きの免許をとって、父親にエイプ50っていう原付きを買ってもらいました。

ー(鈴)お父さんも嬉しかっただろうなあ。
ー(嶋)今思えば珍しいもんで、誕生日になったら早く免許取りいけって父親に言われて。普通は独り立ちしてからとか、親は事故ったらどうするんだ、やめとけって言うものなんです。

ちっちゃいバイクなんですけど、乗り始めました。色々忙しくて、結局3年間で2,3000キロしか乗らなくて。今年8月一ヶ月は5,700キロも乗ったので、もう全然乗ってないようなもんなんです。

バイクに乗るのが当たり前の生活でした。バイクに乗って公道に出て、自分の行きたいところにいつでも自由に行ける、っていうのがよくて。

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ー(鈴)この道を行けばいきたいところにいける、っていう感覚ですか?
ー(嶋)それもありますし、この道がどこにつながってるんだろうっていう感覚もあります。
ー(白)たしかに。道路って、未知じゃないですか。子供の頃は道路に出れないし、あの広い場所に自分の身一つで繰り出せるっていう。
ー(鈴)歩道と車道で全然違いますもんね。
ー(白)この道を走ってるんだ、身一つで何にも守られずに、っていう。
ー(鈴)超越感みたいな笑

ー(嶋)競技用バイクに乗ってるときは、限られたコースで早く走るみたいなことしか考えられなかったけど、制限速度の中で公道の中で走るのも違った良さがあって。例えば電車で旅をするなら、決まった場所の間でしか移動できないけど、バイクなら気になった道に入っていけるんです。車なら入れないような、引き返せないかもしれない獣道とか。
高校の時に50ccで関東を一周した時には、それまで横浜から出ない生活だったのが、一気に自分の世界が拡張した感じを得たんです。地図を読んでどこになにがあるかを知る以上に、そこに行ったときの感覚とか、雰囲気や温度感を感じられて、世界の解像度が上がったんですよね。線で移動してる感じが大きくて。

ー(白)バイクは支配感が得られるんですよね、車とは違うところがあるんです。車だと自由じゃないっていうか。
ー(嶋)もちろん、車には車の良さがあるとは思うんです。雨に濡れないとか寒くないとか暑くないとか。でも、逆にバイクは、雨が降ったら濡れるし、暑いときは暑いけど、天気に自分をあわせながら、肌で感じながら楽しめる良さもあって。

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ー(鈴)車だったら濡れなくていいという考えになりがちです
ー(嶋)どこかからどこかまでただ向かうだけなら、車のほうがいいです。でも、どこに何があって、どういう景色があって、どんな旅がしたいかって思うなら、バイクのほうが絶対いいです。
ー(鈴)ここは、乗らなきゃわからないのかもしれないですね。なによりバイクが好きになるには、乗ることなのかもしれないですね。
ー(白)乗ること、あとはバイクの実物をみることだと思いますね。
ー(嶋)エイプ50に乗った後に、やっぱ大きいバイクが乗りたくなって。18歳になって、新車を買いました。250ccですけど、だんだん一緒にバイクで旅に行く感覚が好きになっていって。さっきの(白鳥さんが言っていた)相棒感。どんなところに行っても、バイクにエンジンをかけたらそこにいてくれる感じっていうか。

ー(白)よく言われるのは、身体性の拡張とか言われたりもしますが、相棒っていう表現はしっくりきますよね。
ー(鈴)今日は名言の嵐ですね笑
ー(嶋)もともとオフロードに乗ってたのもあって、公道を走って移動するってだけじゃなくて、場所を選ばずどこにでも行けるバイクに乗りたいなと思ったんです。今乗ってるオフロードのバイクは、手荒に野暮に扱うぐらいがちょうどいいっていうか。

ー(鈴)レースに参加されることもあるともおっしゃってましたが、レース用に買われた、みたいなところもあるんですか?
ー(嶋)もともとそんなことはなくて。アスファルトも、獣道も、高速道路も走れて、遠くに行けて壊れなくて、丈夫なバイクが買いたかったんです。行きたいと思ったところに行ける脚っていうか、相棒として、このバイクを買ってよかったなと思います。

富士山を見に行ったり、北海道まで行きました。青森まで陸路で行ってフェリーで運びました笑。それで5,700キロ。

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僕にとってバイクは相棒でもあるし、道具でもあるんです。旅に行くときは相棒で、レースに参加するときは道具。色んな顔を持っているバイクだなと思っています。

山でやるレースのときは地面に脚をつけながら二輪二足で走って、バイクでいくとこじゃないでしょ、みたいな山道を走るんです。この前参加したレースでは、ブレーキレバーが折れちゃったんですけど、折ってやったぜみたいな感じで写真を取りました笑

ー(白)バイクと言ってもいろいろで笑。
ー(鈴)本当に自己表現って感じですね。
ー(白)端的に自己表現と言っちゃうと、他者に伝える表現の道具として使っているイメージがでてきてしまうところもあると思うんですけど、ただバイクが好きなんですよね。純粋な思いがまずあります。

ー(嶋)僕の友達が車で九州一周してたんですけど、バイクで回ったほうが楽しかっただろうなって言ってました。五感で肌で風を感じて、エンジン音がして、振動を感じて、ガソリンの匂いがして、誰もいない場所をただただまっすぐ走る。これがバイクだなって思います。

寄稿(文・画像):鈴木康之亮


後編に続く



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