ミノタウロスの背中(仮)新作落語

兄「ヘイ、トニー!もうじき夕飯だぜ!うちに帰ろう!」
トニー「兄さん、明後日は、僕がうまれて初めて出場するロデオ大会だぜ。もうちょっと練習してから帰るよ。」
兄「トニー、一人で平気か?まぁリッキーと一緒だったら何の心配もないか。」
トニー「ああ、ありがとう兄さん、大丈夫だよ!」
兄「ああ、でもリッキーとじゃ、なにも練習にもなってないような気がするけどな・・・。じゃあまたあとで。」


ト二ー「なあ、、、リッキー、、、兄さんの言うとおりだぞ。少しは動いてくれよ。どうしてお前ってやつは雄牛なのにそんなにのんびりしているんだい。
僕が乗ったって、暴れるどころか一歩も動かないじゃないか。僕の兄さんはこの町の3つ前のロデオチャンピオンで大会記録保持者だぞ。


弟の僕が結果が散々だったらみんなの笑いものになっちまうんだ。今朝学校でジョセフに言われたんだ。

「お前もロデオ大会に出るんだろ。俺と勝負だ。お前の兄さんはロデオチャンピオン、お前もさぞかしロデオが上手なんだろうな!」ってな。

ああそうだ、お前には絶対に負けないぞって言い返してやったんだ。あんまり嫌な言い方だったんで、そんな風に答えてしまったけど、僕だって本当は自信がないんだよ。だからリッキー、お前の背中に乗ってるのに、いくら踵でお腹を蹴ったって全然動いてくれないじゃないか。それどころか、、お前の背中は、、、広くてあったかくて、、、僕は眠くなってきたしまったよ・・・」



???「トニー…」

トニー「ん?なんだ、僕は誰かにおぶわれているのか。あったかくて広い背中、、、父さん?
なつかしい父さんの背中だ・・・でも父さんは僕が三歳のときに死んじゃったんだ・・・じゃあ、だれ?」
???「わたしですよ。」
トニー「だれ?」
???「わかりませんか?リッキーです。」
トニー「リッキー?だけどこの背中は人間の背中だし、お前どうしてしゃべれるんだい?」
リッキー「ここは夢の中ですから。現実とは違うことが起きても不思議じゃありません。」

ト「そうか、、、どうりで。だって父さん現実では元気で生きてるしな。」
リ「そうです。夢は現実と違うことが平気でおこりますから。」
ト「そうか、なんだって僕こんな夢みてるんだろ。」
リ「トニー、あなたは私の背中の上で寝てしまったんです。あなたとおしゃべりしたくて私はこの夢の中に出てきたんですよ。」
ト「おしゃべりが出来るんだ!トニー!僕はロデオの練習がしたいのに、なんだって動いてくれないんだよ!」
リ「なんでかって?・・・ダルイからですよ。」
ト「ダルイからかぁ・・・。」
リ「それにトニー、人には向き不向きってものがあります。」
ト「向き不向き?」
リ「そう。あなたのお兄さんは熱血漢だし、体格もよくて運動神経も抜群だ。」
ト「うん。」
リ「それにたいしてあなたはチビだし、ガリガリ、気が弱くて神経質。だけどとてもやさしい。でもやさしいだけじゃなくてずるいところもあるし、こわがりで卑怯な部分もある。かと思うと見栄っ張りで目立ちたがり屋。自己顕示欲が強く、自分は特別な人間だと何とか世に知らしめたいと思っている。だけど知力も体力も人望も伴わない。」
ト「・・・リッキー、僕ねむくなってきたよ。。。」
リ「トニー、あなたもうすでに寝ているんですよ。」
ト「夢から現実逃避しようとしてしまった。。。でもほんとにショックだよ、君もみんなと同じだね!兄さんと比べてそこまで僕を馬鹿にするだなんて!」
リ「いえ、違うんですよ。馬鹿になどしていません。私はお兄さんのことをあまり知らないんですよ。」
ト「どうして?」
リ「お兄さんは乗馬やロデオの練習に夢中で、私のところにやってきません。トニーあなただけが僕のところに遊びにきてくれるから。だからあなたのことをよく知っているんですよ。」
ト「そういうことか。。。」
リ「はい、だから別にあなたがロデオで輝かしい成績をおさめなくても、私はあなたが素敵な男の子だってことを知っていますよ。」
ト「リッキー。。。」
リ「だからロデオ大会も結果など気にせずに、自分なりに精一杯楽しめばいいんですよ。それにあなたは自分はつまらない人間だと思っていますが、そんなことはない。ふれあった者を癒やして穏やかにしてしまう不思議な力がある。だからきっとうまくいきますよ。」
ト「リッキーありがとう。ロデオ大会、本当は不安でいっぱいだったけど君とお話できてすごく気が楽になったよ。だけどリッキー、、、」
リ「なんです?」
ト「せっかく夢の中なんだから体だけじゃなくて顔も人間の顔に変えてほしかったな。牛の顔なのに人間の言葉を話すから怖くて話のほとんどが頭に入ってこなかったよ。」
リ「あ!これはこれは失礼いたしました。ではそろそろ目覚めて夕食を食べに帰ったほうがいい。お父さんやお母さん、兄弟たちが心配していますよ。」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
ト「ハッ、、、僕リッキーの背中に乗ったまま寝ていたんだ。だからあんな夢みたんだな。下りるか。よっと、、、(ズルッ)わっ!なんだ?・・・あっ、クソふんじまった!この馬鹿牛!クソたれやがったな!くっせぇ!人が乗ってるときにクソするんじゃねえよ!くっせぇ!きったねぇなぁ!くっせぇクソたれやがって!あーーーくっせぇ!」


(ロデオ大会当日)
兄「トニー、がんばれよ!今日の牛は、暴れ牛だ、ジョセフもたった9秒でふりおとされちまった!無理だけはするなよ!」
ト「わかったよ兄さん、僕なりにがんばってみるよ!」


『では続いて、このまちの最長記録保持者ダニーの弟、トニー!!!史上最悪の暴れ牛を前にどれだけ記録をのばせるか、皆様とくと見守ってください。ではレディ―――・・・スター―ト!!!』

『おっと、、、先ほどまで大暴れしていた雄牛が微動だにしなくなりました。係のものが動かそうと尻を叩いたり、声をだして挑発しますが、いっこうに動きません。さっきまで悪魔のようだった雄牛が、いまは非常におだやかな顔をしています。』


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


兄「お姉さん方、どちらから?ニューヨーク!?遠いところからありがとうございます!あれがロデオの世界記録保持者トニー―!なにをかくそう、私の自慢の弟です!」

ジョセフ「さあさあ、トニークッキーにトニーTシャツ、トニータペストリーもありますよーー!
あれがこの町のスーパースター、トニーくん!!


ロデオ大会で暴れ牛を手なづけてそれからずっと牛から降りることなく
・・・現在1年と9か月目です。」


END



(毎日21時からツイキャスのラジオ配信、にて新作落語を公開しております。現在、数日おやすみをいただいていますが18日から復活予定です。Youtube「ムーンパレスへようこそ」に過去ネタをアップしております。)

新作落語を創って発表しています。サポートいただけると嬉しいです。作品に活かすための資料の購入費などにつかわせてもらいます。ありがとうございます。