My favorite things〜私のお気に入り〜SHOWA (12)SF小説・黄金期の思い出〜自分史Part6

 中国人SF作家・劉慈欣(りゅう・じきん)『三体』シリーズが日本でもベストセラーとなっている。欧米、日本のSF小説を差し置いて、今や、SF文学でも中国は世界での覇権を狙っているかにみえる。とはいえ、『三体』シリーズ(3部作で日本では第2部『黒暗森林』までが翻訳された=2020年時点)では、久方ぶりにSFらしいセンス・オブ・ワンダー(驚異の世界)を堪能することが出来た。読後、感じたのは天文学、宇宙工学、未来学、心理学、社会学・・・とあらゆる学問知識を小説にちりばめた点で、これは小松左京の得意とした手法である。作品のテーマ自体も小松SF作品『果しなき流れの果に』『虚無回廊』を彷彿させた。

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 小松SFは『復活の日』が、パンデミックを描き、今日のコロナ禍を予見したものと再評価されている。また、代表作『日本沈没』が『日本沈没2020』としてアニメ化されるなど、2020年の今、ちょっとした小松左京ブームが起きている。いうまでもなく、小松左京は、星新一、筒井康隆と並び、日本SFの黎明期から活動を始めて、その黄金期を築いた立役者だ。その小松左京と星新一にサイン(残念ながら筒井康隆には貰い損ねた)してもらったパンフレットがある。今から半世紀前、1970年に「国際SFシンポジウム」が、小松左京主宰で開催された。同パンフレットには、他にも星新一の本の表紙イラストで著名なイラストレーター真鍋博、海外からのゲスト、作家のブライアン・W・オールディス(『地球の長い午後』)やSF評論家のジュディス・メリルにサインをしていただいた。

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当時、高校生であった私は、年長者のSFファンたちに交じり、ドギマギしながらシンポジムに参加した記憶がある。ようやく、SF小説が世間的にも認知され始めた時期だった。思えば、中学生の時に、購入したSFマガジンをこっそり学校に持ち込み友人らに見せたら「おまえ、そんないやらしい雑誌、読むなよ」と諫められた。1960年代は、まだ「SFマガジン」が「SMマガジン」と混同されていた時代だった。その中学生時代から高校生時代にかけ、SF小説をむさぼるように読んだ。ハインライン、クラーク、アシモフ、そしてブラッドベリと欧米SFを代表する作家たちの名作を手にした。特に、レイ・ブラッドベリは、読み易さ(難しい科学理論は無く)、またその繊細な叙情描写に惹かれて、今なお愛読している。

1968年「世界SF全集」が早川書房から刊行されはじめた。それが高校の図書室に置かれた(司書の先生がSF好きだった)のも、さらに私をSF小説にのめり込ませることとなった。同時に、小松左京、星新一、筒井康隆のSF御三家が、1960年代後半にかけ矢継ぎ早に傑作・名作群を生みだし、日本SFの黄金時代を築いていて、これらの作品群も、先に挙げた「センス・オブ・ワンダー(驚異の世界)」を楽しませてくれた。

やがて、大学に入学し、SFサークルにでも入ろうかと物色した。入学した早稲田大学での当時のSFサークルは「ワセダミステリクラブ」内の一分科会的なものしかなく、サークル活動の拠点である喫茶店を訪れた。とろが、やはりというか、ミステリ小説マニアたちばかりで、正直、さほどミステリは読んでいなかった私は、居場所ではないと思った。余談になるが、同期のワセダミステリクラブには、栗本薫が所属しており、この時に入会していれば知り合いになれた…と後々になって悔やむことになるのだが…しかし「ミステリよりSFが好きです」と、そんな思いを、ミステリクラブの幹事長に伝えると「であるなら、大学とは別にSFファンが集う場所がある」と紹介されたのが、渋谷・道玄坂の喫茶店で定期的に開催されているSF同人誌の会合だった。

渋谷・道元坂の百軒店にあった喫茶店にて「一の日会」という有名な、SFファンたちが、毎月一の日に集う会があった。私が紹介されたのは、その「一の日会」から分かれて独立した「木の日会(毎週木曜日に集まる)」で、場所も「一の日会」の喫茶店「かすみ」から近くにある「ノーブル」という喫茶店に移っていた。そこで「綾の鼓」と言う同人誌を作ろうということになっていて、私も設立メンバーの一人として参加することになった。実は、この同人メンバーに夢枕獏氏もいた。もっとも、獏氏は同人の会合にはあまり顔をみせず、力作を投稿していた。後年、酒席で獏氏と同席した際に、私のことは元より「綾の鼓」のことも「そういえば・・・」と記憶の彼方の出来事であったかのようであった。「綾の鼓」の会合は、渋谷だけでなく、横浜の大桟橋ロビーの喫茶室でも行われるようになり、渋谷の暗い喫茶店の室内より、海を眺めてのSF談議にときめいたことを懐かしく思い出す。

あれから約半世紀、私とはいえば、SF作家とはならず(思い出せば「綾の鼓」でも書評しか寄稿していなかった)文筆業では映画紹介記事やインタビュー、レポなど新聞・雑誌への寄稿・雑文書き、作家としてはホラー短編小説(写真ノベル)「真夏のグランドホテル(光文社文庫)」内「魔夢」=岬直也名義=があるくらいだ。もっとも、本業の映画宣伝で、幾つかのSFアニメ映画(「クラッシャー・ジョウ」「ガンダム」など)と関わったのも、何かの縁だと思っている。それは次章にて。


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