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【病理診断総論】切り出し総論

全臓器に共通する切り出しの総論について概説する。

大原則

👉「切り出し」「写真撮影」「肉眼所見記載」は、病理診断の一部!
👉 切り出したものは元には戻せない。切り出し前にしか評価できない事項があることを認識する。わからないことは、その場で相談!
👉 規約などの内容を把握し、基本的な切り出し法を踏まえた上で、病変に応じて応用する。


原則①:肉眼所見の基本

👉 検体は何か。左右などのオリエンテーションはどうなっているか。
(1)何が合併切除されているか。
(2)わからないものが付着しているときは、臨床医に確認が必要。
(3)肉眼所見の要素:大きさ、重量、形状、境界、色調、性状、硬さ・・・
👉 臓器ごとの必要な要素を知る。


原則②:計測

👉 計測は肉眼所見の基本
(1)検体の大きさ
(2)病変の大きさ・広がり
(3)断端までの距離など

👉 3次元的なもの

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👉 2次元的なもの(皮膚、消化管など)

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👉 臓器特有の計測部位を知る

(例)
胃:小弯長、大弯長
子宮摘出:子宮腔長
子宮頸部円錐切除:内周径、外周径
重量:胎盤、前立腺、副腎、副甲状腺など


原則③:切り出し

👉 誰がみても理解可能な切り出しをする。
  (1)組織像と肉眼像と対比可能な切り出し
  (2)「再構築」可能な切り出しをする。
👉 再構築には「切り出し図」が重要。
  (1)番号を順序よく付ける
    ① 割面(スライス)の番号(a, b, c … など)
    ② 標本(ブロック)の番号(1, 2, 3 …)
👉 「追加切り出し」を想定した切り出し(および保存)。

👉 検体をスライス(入割)するときの注意
(1)刃の全長を使って、一刀両断する。
(2)均等な力をかけて刃を滑らせるようにして切る。
  ▶ 力任せに切らない。
  ▶ ジグザグに切らない。
(3)薄くなり過ぎない。
  ▶ 包埋・薄切に支障を生じる。
(4)コンタミネーションに注意する。
  ▶ 刃を適宜、水洗、ガーゼなどで拭く、交換する

特に腫瘍などの脆い組織は刃やボードを介して人工的に “転移” し、脈管侵襲や腫瘍結節のようになることがある(cutting knife metastasis / cutting board metastasis)。刃、ナイフホルダー、ピンセット、ボードなどは汚れたり、切れが悪くなったら交換する。


原則④:写真撮影

👉 いつでも【学会報告できる綺麗な写真】を撮る。
  ▶ あと一歩踏み込んで、【教科書に載せられる写真】を撮る!
  ▶ 余分な水分などは拭き、背景に血液や水滴がないようにする。
  ▶ 光の反射などにも気をつける。

👉 メジャーを必ずセットで撮る。
  ▶ 原則的には写真の最下部に平行に。

👉 表、裏、その他の角度、病変部アップなど。


原則⑤:配置・方向

👉 原則的には、
  ▶ 前 → 後 内 → 外 
  ▶ 下 → 上(CT などにあわせて)(上 → 下も可)
  ▶ 左 → 右 遠位 → 近位 (近位 → 遠位も可)
とするとわかりやすいことが多い。 

👉 病理では特に断りがなければ「左 → 右」が原則。

👉 臓器などによる違い
(1)細かい検索には短軸(EMR/ESD など)。
(2)最大割面を示すには長軸(骨軟部腫瘍、良性腫瘍など)。
(3)盲端・末端があるものは長軸(遠位-近位方向)。

  ▶ 虫垂:盲端部は長軸で(カルチノイドに注意)
  ▶ 骨腫瘍:腸管骨は長軸で
  ▶ 指趾・爪:近位から遠位へ
  ▶ 弁尖:基部から先端部に向かって

(4)消化管は長軸(遠位-近位方向)が好まれる。

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(5)脳・中枢神経は頭側から尾側へ。脳表を含む塊状組織では、
髄質(白質)→皮質(灰白質)の関係がわかるように。

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(6)画像との対比を考慮した方向
  ① CT と対比 → 水平断
  ② X 線と対比 → 前額断 

(7)剖検肺:前→後、内→外へ
  ▶ B9に沿って切り、あとはそれに平行に

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(8)眼瞼:眼瞼近位(付け根)⇒ 眼瞼遠位(先端)

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原則⑥:検索事項を把握する

👉 進行期(pStage: pTNM)
(1)大きさ・範囲 例:GIST(2, 5, 10 cm)、軟部肉腫など
(2)深達度・浸潤の深さ 例:消化管、口腔(5, 10 mm)など
(3)周囲組織浸潤など 例:喉頭、子宮など
👉 断端
(1)水平・粘膜/皮膚・遠位/近位
(2)垂直・深部・剥離面
(3)血管・気管支・尿管など
  → 必要に応じてインクを塗布する


原則⑦:肉眼所見記載

👉 記載すべき事項(記載順)
(1)検体:提出された臓器、術式、切開・展開・固定の状態(破綻した卵巣、後壁切開の子宮、小弯切開の胃など)
(2)所見:検体全体や背景の状態、病変の状態
(3)標本作製の概要(標本番号・インデックス)

※ 重要事項・必要事項を押さえつつも、わかりやすく簡潔に、誰が読んでも理解できるように。

👉 切り出し図
(1)誰がみても切り出し過程を客観的に理解できる切り出し。
(2)オーソドックな切り出しを心がける。

  ▶ 奇抜、アクロバティックな切り出しは避ける。
(3)再構築が可能。
(4)コンサルテーションの先方も理解可能。

(5)最小限の写真で端的に表現する(写真自体は多く撮ってもいいが、切り出し図としては少ない枚数で把握できるように)
(6)オリエンテーションなど、切り出し者にしかわからない情報はきちんと記載・記録しておく。


原則⑧:生検体処理(迅速含む)

👉 検体、患者の確認を怠らない。
👉 提出された状態で記録、計測、写真撮影する。
👉 確実にオリエンテーションを把握する。
👉 必要な割を入れて記録、計測、写真撮影する。
👉 固定後に観察したい重要部位は避けて切る
👉 綺麗な写真を撮影する(教科書に載せるつもりで)。
👉 検体が乾燥しないように注意!迅速中は濡れガーゼなどで覆う。水には浸さない(細胞が変性する)。
👉 特に希少例では細胞診標本を作製しておく。
👉 研究用あるいは診断用の新鮮凍結サンプルを採取する際は、診断に影響しない部位から採取する。
👉 正常部位と病変部位を採取するときは、病変組織の正常組織内への混入に注意する:① 先に正常部位を採取してから病変部を採取する、② 器具を変える。
👉 必要に応じてマーキングする(破綻部、癒着剥離部、断端部など)。

👉 10%中性緩衝ホルマリンで固定。ホルマリンは検体の 20 倍以上の量が必要(少なくとも 10 倍以上)。検体全体がホルマリンに十分浸るようにする。変形しないように工夫する。ボードと検体の間にガーゼ、濾紙などを挟む。検体が浮く場合には上からガーゼなどを被せる。


原則⑨:標本番号の付け方

👉 一定の法則性をもって付ける(ランダムに付けない)。
👉 一連のものは連続して付ける。例えば消化管では【肛門側 → 口側】、【上 → 下】が一般的。状況に応じて、口側 → 肛門側、下 → 上などの順番でも問題ないが、1個の検体の中では統一する。

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👉 切り出した組織切片 = ブロック = プレパラートの番号が一致するように、原則として、一つの切片に一つの標本番号を付与する。
👉 ただし、オリエンテーション、順番などを問わない組織はできるだけ1ブロックに入れて、ブロック数を少なくする(施設のルールや技師との相談による)⇒ 虫垂、卵管など。


補足①:肉眼所見の表現例

👉 形状:円形、類円形、卵円形、楕円形、長楕円形、楔状

👉 硬さ:軟らかい、脆い、(弾性軟の)、弾性硬の、硬い、骨様、石様/石様硬、ゴム様 ※「弾性軟」という用語はないという人もいるので注意

👉 色調:暗赤色調、淡緑色調など(絶対色ではなく、~色調で表現)

👉 境界:境界明瞭、境界やや不明瞭、境界不明瞭、辺縁整、辺縁不整、染み出し様

👉 表面:平滑、粗造(正式には粗糙)、顆粒状、絨毛状、乳頭状、結節状、潰瘍、びらん

👉 割面:充実性、嚢胞状(単房性、多房性)、海綿状、粘稠、ゼリー状、糟状、浮腫状、瑞々しい、出血、壊死、混濁、石灰化/骨化、髄様、硬様


補足②:水浸

👉 水浸することで、本来の状態に近い状態が観察できる場合がある。
👉 虚脱したものが膨らんだり、光の乱反射が防げる。

(例)
▶ 微細な肺胞構築
▶ 胞状奇胎の腫大絨毛
▶ 食道の血管パターン
▶ 胃のアレア(粘膜模様)
▶ 大腸のピットパターン

※ 余計な水分・血液などは拭き取るのが基本だが、場合によっては、ある程度全体を均一に濡らしておいた方が表面の性状がわかりやすいこともある。病変に応じて適切な撮影条件を考える。


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