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時々刻々|#2 「2019(令和元)年財政検証関連資料」のトリセツ

年金時代編集長

年金財政の健全性とは、負担と給付の均衡が図られているかどうかということですが、2004(平成16)年改正の財政フレームにおいて、負担と給付の均衡が図られるとは、保険料固定方式のもと、その負担の範囲内で給付を賄うことができるようにすることであり、それは、マクロ経済スライドにより給付水準を自動調整していくことで均衡状態にしていこうと目下取り組まれているところです。

一方、年金給付の十分性とは、年金が一定の給付水準を確保しているかどうかということですが、16年改正の財政フレームでは、所得代替率50%を給付の十分性の下限として設定しています。

そこで、財政検証は、年金財政の健全性を検証するために行うということですが、それは、少なくとも5年ごとに、①財政見通しの作成②マクロ経済スライドの開始・終了年度の見通しの作成――を行い、あわせて所得代替率、つまり給付の十分性についての見通しも示しています。

8月27日、2019(令和元)年財政検証結果が示されましたが、このとき、厚生労働省は、財政検証結果とともに、「2019(令和元)年財政検証関連資料」*という資料をいっしょに公表しています。そのなかには「足下(2019年度)の所得代替率を確保するために必要な受給開始時期の選択」「多様な世帯類型における所得代替率」「生年度別に見た年金受給後の年金額の見通し」という資料がありました。

第9回社会保障審議会年金部会2019年8月27日資料4「2019(令和元)年財政検証関連資料」

財政検証はマクロの年金財政の健全性を検証するものですが、財政検証結果といっしょに示されたこの関連資料はある意味、ミクロの「わたしの年金」についての給付の十分性について示したものです。

このたびの財政検証結果では、オプション試算において「受給開始時期の選択」にあるように「選択」ということで、ミクロの「わたしの年金」の十分性を確保するために、ミクロである「わたし」が「選択」という行為を通じて、オプション試算に登場しています。「わたし」の「受給開始時期の繰下げ」という「選択」が、「わたしの年金」の十分性を確保することにつながることが示されています。

財政検証結果からマクロの年金財政の見通しを確認する。そして、マクロの年金制度が財政の健全性と給付の十分性を確保していくため、オプション試算を実施して、制度改正の方向性を見極めていくのですが、マクロにおいて財政の健全性と給付の十分性が確保されたとしても、ミクロにおいて給付の十分性が確保されていなければ、それは絵に描いた餅になってしまいます。そこで、「選択」によって、マクロにおいて描かれた餅を、ミクロにおいて現実の餅にしていく。「関連資料」に取扱説明書(トリセツ)があれば、そのようなことが記されているのではないかと思うのです。

<了>

年金時代編集長(ねんきんじだいへんしゅうちょう)
1991年(株)社会保険研究所入社。『月刊年金時代』編集・記者を担当。2017年4月ウェブサイト『年金時代』を開設、編集長に就任。このほか『年金マニュアルシート』(著者:三宅明彦社労士)などの年金相談ツールの開発・編集・発行に携わる。




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