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同人音声のすすめ(主にオタク系ASMR作品)

はじめに

最近、声優の花澤香菜さんが好きな知人に下記の(いわゆるASMRの)動画を紹介したら、いたくお気に召したっぽい様子で。

(今回の文章も例によって前置きが長いので、よろしければまずこれを──可能なら2つ目の方をイヤホンで──お聴きになりつつ、先へ進んでください。)

そして、その彼の反応などを見るに、オタク界隈でも同人音声(ASMRとかバイノーラルとか言われるもの)について、知らない人は全然知らないみたいだなとも思いました。
最近は随分浸透してきているように思っていたのですけどね。

そんなところから内輪向けに書いた紹介文にもうちょっと加筆したのが今回の記事です。

自分は同人音声を作っているサークルさんの事情とかには全然通じていませんから、何か大きな勘違いをしている部分もあるかもしれません……ということを予めお断りしておきます。
(もしよろしければコメント欄などでご指摘ください。)

なお、女性の方はがっかりされるかもしれませんが、本稿は基本的に男性向けの作品を念頭においた内容となっています。女性向けの作品もたくさん出回っているというのは知っておりますが、なにぶんそっち方面には全く詳しくないもので(申し訳ありません)。

それから。本稿で取り扱う作品にはエロティックな内容のもの(いわゆる18禁作品)も当然のように含まれています。
なので、そういうのがお嫌いな方は、どうかこの先には進まれず、他の記事にお移りください(^_^;)。

よろしいですか……?

では参ります。


ASMRという語の意味

本稿ではいわゆる「同人音声」(特にバイノーラル録音の)について語ろうと思っているのですが、今ではそうした作品がASMRと呼ばれることも多いので、まず「ASMR」という言葉の意味から見ていこうと思います。

Wikipediaには
・ASMRとは「Autonomous Sensory Meridian Response」の略で
・聴覚や視覚への刺激によって感じる、心地良い、脳がゾワゾワするといった反応・感覚のこと

……などと書いてありますが、個人的には「軽く背筋を撫でられた時に感ずるような心地よいゾクゾク感を与えてくれる刺激」くらいに解釈しています。

そういうASMRな感覚を与える音としてよく言われるのが耳元へのささやきですが、英語版Wikipediaには
「指が表面を引っ掻いたり叩いたりする音、髪をとかしたり、手で布をこすり合わせたり操作したりする音、卵の殻をつぶす音、紙のような柔軟な素材のクシャクシャとした音、文字を書く音など」(以上、機械翻訳)
……なども挙げられています。

以下に真面目な(?)ASMRの例を一つ掲げておきます。


「同人音声」とは

「同人音声」という語はオタク同士なら解説の必要もないことと思いますが、公開の文ですからザックリ説明を書いておきますと。

趣味人が何人か寄り集まって一つの作品を作ることをオタク界では「同人活動」と呼びます。その「同人」(制作主体)にはいろいろな都合(販売者名が必要であるなど)から通常「サークル名」もつけられます。

……余談ながら、一人ですべてをこなしてしまう人(制作主体)も何らかの「サークル名」を名乗るのが普通で、そういうのを「個人サークル」なんて呼んだりします。
「自分一人で同人活動をやっています。サークル名は○○です」とか言われると、最初は??となってしまうかもしれませんが(「同人」「サークル」ってどういう意味だっけ、なんて聞かないでください)。
また、趣味人と言っても、実際にはプロの副業だったりすることもままありますが……。

話をもとに戻すと、そんな「趣味人」たちが一つの音声作品を作ったら、それが「同人音声」作品です。

ここで私が何となく思い出す昔話としては……かつて「MADテープ」というのがオタクな人たちの間にダビングダビングで流通していたことがあって。これは、各種のアニメなどの音声をうまく継ぎ接ぎして笑いをとるものでした。でも、本稿の扱う同人音声はそういう方向性のものではありません。
また、昔からよくある物語主体の「ドラマCD」的なものもここでは取り扱いません。
(これらももちろん定義的には「同人音声」ですが。)

最近主流の同人音声はリラクゼーションとかちょっとエッチな「くすぐり」を目指した方向性のものであり、今日「同人音声」と言って多くのオタクがイメージするのは──そして私が今回語りたいのも──そういった作品だからです。

【加筆:この文の公開後に「MADテープ」が下のリンク経由で見られることに気づき。上に書いたとおり本題とは全然離れるんですが、あんまり懐かしいので貼っておくことにします。あと、本題離れついでにドラマCDのサンプルも一つ……これは同人作品ではありませんが。】


同人音声制作の諸相?

話を先取りすると、バイノーラル(後述)の音声作品をただ作るだけなら、シナリオライターと声優、あとはバイノーラル用のマイクがあれば、とりあえずなんとかなります(と言って、私も詳しくは知らないのですが、多分そう)。
シナリオと声優を一人で兼ねれば、完全に一人でこなすことも不可能ではない。
この参入への敷居の低さも、近年、この種の作品が増えている理由であるようです。

クオリティの高い作品を作りたければ、もっと人が欲しいでしょうけれど。特に、美麗なイメージイラストを書いてくれる「絵師」さんは必須かも。
一方で、声優さんは「外注」ということもままあるようです。
(声優さんの知り合いが仲間うちにいる人なんて少数派でしょうし、いたとしてもイメージに合う声とは限らないから、むしろそれが普通なのかな?)

あと、同じ「同人作品」でも、漫画創作とかに比べて音声作品に特徴的かなと私が思うのは、マネタイズを目指している作品の比率の高さです。
漫画だと、売れる売れないではなく、ただ描くのが趣味とか、描きたいから描く的な人が多い気がしますが、音声作品だとそうでもないのは、漫画描きというのが割と一般的な趣味であるのに対し、音声作品作りはそうでもないこと。また、ちゃんとした作品を作ろうとすると、機材がいるとか、あるいは声優さんに外注するとかいった資金的な問題があって、純然たる趣味ベースというより、小規模ビジネス的様相が強くなってくるからかなと。

などと書いていたら、同じ note に興味深い記事を見つけましたので、ご紹介します。


バイノーラル録音とは

ASMRな音声を録音するのに威力を発揮するのがバイノーラルマイク(ダミーヘッドマイク)。
人間の頭部の形を模しており、これで録音したものをヘッドホンで聞くと、実際に耳の周りで喋っているように感じ……

などと言葉で説明するよりも、次の動画を見ていただくのが早いと思います(適当に飛ばし見でどうぞ)。
この項、説明終わり。




ASMRと同人音声とバイノーラル音声

以上見てきたように、ASMRと同人音声は元々異なる概念なのですが。
この頃、特にYoutubeあたりでASMRと言うと単に同人音声(とりわけバイノーラル録音のもの)の意味で使われてることも多いです。

その理由ですが。
今日の同人音声はバイノーラル系、つまり耳かき音や(設定上)美少女の耳元でのささやき、というのをよく用いるようになった関係でASMRとの混同(?)が起こったのではないか、というのが私見です。

そんな次第で本稿も以下ではASMRと同人音声をあまり区別なく使ってまいります……。


同人音声のいろいろ

一口に同人音声と言っても内容は様々で、ひたすら安眠を誘ってくるもの、エッチなシチュエーションで攻めてくるもの、ある種の催眠術にかけて来ようとするものなど、いろいろな種類のものがあります(最後のタイプのはなんだか怖くて、私はあまり聴きません)。

ここまでやたら理屈ばっかり書いてきましたが、Youtubeをここまで出てきた3つの単語「同人音声」「ASMR」「バイノーラル」などで検索すればいろいろな動画が出てくると思います。
(もっとも、中には著作権的に怪しげなのもあるかもしれません……。)
そうやって出てきた中から良さげなものを片っ端から聴いていただければ、それでいいんじゃないかと。
そんな風に済ませたくも思うのですが(笑)。

以下には一応、個人的に好きな作品の例などを書いてみます。
(自分の嗜好が丸わかりになってしまうなぁ……。元々これは内輪の文章だったからそれで良かったのですが^_^;)。

例えば……

これは、話してる女の子のコミュ障な感じが妙にそれっぽくって、それが個人的にツボでした。


注意:15禁。シナリオは出来合いのものということです。全くの同内容を別の人が吹き込んでるのも聴いたことがあります。)


次のところは試聴版がたくさんあって、それを聴いてるだけでも結構楽しめそう。

販売はこっちかな


おすすめの老舗サークル

私が知る限り、この手の作品の一番の老舗にして真打ちはサークル「VOICE LOVER」の「ささやき庵」シリーズです。

販売

あと、こっちも参照。

この他にgoogle playでもお店を出してる様子。

一番古い「双葉」の販売日が2010年12月11日となっているので、もう10年の歴史といいますか、「まだ10年? もっと歴史ある印象だった」といいますか。

で、今日の同人音声の礎を築いたのはこのサークルなのではという気が私はしています。
もちろん、最初に書いたとおり、そっち系の内情には詳しくないので、そんなふうに言っていいのかどうか、本当のところは知りませんが……。

少なくとも同人音声がバイノーラル録音主流になっていったのはこのサークルの影響が大きいんではないかと睨んでいます(「ささやき庵」というタイトルのとおり、ささやき声を重視した、質の高い作品作りに成功したことで)。
また、同人音声作品によく見られるフォーマットを確立したのも、このサークルさんの功績が大きいのではないかと思っています。
(どこか異空間的なところにある「癒やしの家」にやってきた客=リスナーが、不思議な雰囲気の美少女に膝枕してもらい、耳かきしてもらったり。
添い寝しながら、ささやき声でお話してもらったり。
場合によってはなんだかエッチな展開になったり、etc...)

でもまぁ半可通がいい加減なことをいうのはこの辺にしておきましょう。

ともあれ。このサークルさんの作品は単に歴史があるというのにとどまらず、シナリオの質がとても高いのです。
作品ごとの良し悪しは当然あるけど、全般的な文芸レベルの高さは「何かの文学賞をとってもおかしくないくらいじゃない?」と個人的には思っています。
(だって、ボブ・ディランがノーベル文学賞を取ったりしてるでしょう?)

……とはいえ「ささやき庵」の多くの作品は18禁な内容ありなので、実際にはなかなかそうもいかないでしょうけど。

そうそう、忘れないうちに「ささやき庵」シリーズの大まかな設定を書きますと。上にも書いたとおりなんとなく異空間っぽいところにある感じの「ささやき庵」(和風のリラクゼーションサロンとでもいうのかな)にお客さんが来店するところから、大体話が始まります。
そこであなたを迎える「小町」のお姉さんは皆さん不思議な魅力を持った美女/美少女揃い。そしてこのシリーズに特徴的なこととして、その「小町」たちはあなたの望むような夢(文字通りの)を見せることができるという設定です(例外あり)。
あなたはその「小町」の神秘的な雰囲気と優しい囁きに心身ともに癒やされていく……というのが基本的な内容。
「ささやき庵」は18禁の内容もあるけど、姉妹シリーズ「ささやき庵 添い寝屋本舗」はそういうのがない「全年齢向き」となっています。
(全作品を確認したわけではないけど、たぶんそういう分け方で良いはず)。

この他にも有力な同人音声サークルはいくらでもあると思いますが、詳しくもないので端折ります。

時代は飛んで、今はYoutuber的に即興演奏ならぬ即興ASMRをしている人もたくさん現れています(VTuberさん、で良いのでしょうか)。
もしお気に入りの人が見つかったらフォローするのも良いでしょう。
(前の方に書いた、やりようによって少人数でも可能という特性がこういうところに現われているのでしょう。)。

こっち方面も全然詳しくありませんが、参考になりそうな note 記事があったのでご紹介しておきます。


有名声優さんによる作品

ここまで紹介したいわゆる「同人作品」は、基本的にそこまで制作主体も大きくなく、演じる声優さんも(契約とかの関係でしょうか)、そこまで超メジャーというわけではありませんでした。

どメジャーな声優さんのASMR的なのも、例えば何かのオマケのファンディスク的なので出てたり(ラブプラスとかエロマンガ先生とか)、あるいは(エロゲーと同様に)裏名義で出してたりとかはあったんですが。
最近はこのジャンルがいよいよ知れ渡ってきたせいでしょうか。
メジャーな声優さんの本格的進出の兆しがあるかもしれません。

上で紹介した花澤さんの動画とか、バイノーラル収録風景の紹介動画とかにもそういうことを感じるのですが。

例えば先日は上坂すみれさんの新作が話題になっていました(下で30分も試聴できます。要PC表示かも)。


また、ここでは私でも名を知ってる声優さんたちの作品がいくつか無料だったり。


こちらも有名な声優さんの作品を出してます(なんか、えるたそっぽい!)。

(基本的にこういう表名義の作品ではあまりエッチな展開にはなりませんが、エロマンガ先生の神野めぐみちゃんのは結構攻めてたような気も。)


まとめ?

そんなわけでASMR系音声は今や、老舗サークルのよく練られた作品から(質はともあれ)無料で聴ける即興作品、さらには今後、有名声優さんの出演作品も増えるかもしれず、花盛り(笑)という感じでしょうか。

ちょっと付言するとすれば。

同人音声好きの人の声として──
超有名声優さんの出演する作品よりも──
長く同人音声作品を作っていてノウハウを蓄積しているサークルさん、また、そういう人たちと手を携えてバイノーラル作品作りを多く経験した声優さん(必ずしも一般的に有名でなくても、同人音声作品では定評のある人たち)の作った作品の方が良いという意見も見受けます。
ただ、こういうのはスター声優さんたち(や、その周りのスタッフ)がノウハウを蓄積するまでの一時的な話ということもありえますので、見極めが必要ですね。

あと懸念としては、このジャンルがあまり人気になると粗製乱造が進んで(すでにそういう気配はあるみたい)、いわゆる「アタリショック」的なことが起きる可能性もあるかも。

そうなると、さほど有名でないサークル・声優さんの作品は見向きもされず、超有名声優さんの作品だけが売れる、という感じに流れがシフトしていくこともあり得るかなとは思うんですが。
ただ、先に書いた参入の敷居の低さからして、ニッチなシュミの作品をほそぼそと作る人は、やっぱりなくならないのかな?

とりあえずこんなところです。

補記:トップ画像は文中で紹介した「ささやき庵」シリーズより「華恋」(かれん)です。