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漫画の魅力を引き立てる、賞味期限。

はじめに(漫画=万国共通の拠り所)

幼少期、家ではもちろん、学校帰り、塾帰りのちょっとした時間でさえ、僕は漫画に夢中だった。こっそり、自分を重ねたあのキャラクター。活字が少なくたって、文学にも匹敵する奥深い世界、そっと背中を押してくれる安心感がそこにある。

昨年、英語を学びにイギリスへ渡った。語学学校で「日本から来ました。」と緊張しながら挨拶をすると、「Hamutaro!!(ハム太郎)」とか「Goku!!(悟空)」とか単語レベルで会話が弾む。そんな立派な髭を生やして、とっとこハム太郎。見た目は厳ついのに、可愛いところあるじゃないの。

いつからか読まなくなってしまった漫画。自分から距離を置いたはずのあの漫画たちが、遠く離れた異国の地で、僕と他者とをさりげなく引き寄せてくれた奇跡。不器用な私に、いつもそっと寄り添ってくれる漫画たちに、礼を言いたい。

前置きが長くなったが、私を構成する5つの漫画を紹介したい。(5つじゃ足りない!)


その①「ダイの大冒険」


・概要
小学生~中学生かけて読んだ作品。小さな勇者ダイが、自信の生い立ちに葛藤しながらも、数多の戦闘と友情を通して成長し、ついに大魔王を打ち倒す、真正面なアドベンチャーもの。(読んだ後、誰もが一度は「アバンストラッシュ」を練習することになる。)

なのだが。

・見どころ
私の考える本作のポイント、主役は、主人公「ダイ」ではない。ダイと冒険を共にする魔法使いのポップ。ポップは、お調子者で怖がり、卑屈で努力嫌いという、典型的な駄目キャラクター。(仲間を置いて逃げてしまうこともしばしば。)

そんな彼が、様々なきっかけを経て、ついには、クールで心強い大魔導士へと成長していく様。壁にぶつかった時、「どうしようもない自分」を奮い立たせてくれるようで、当時、何回も何回も読み返した。

ポップが、幼少期に「死を恐れて眠れない自分」を回想するシーンで、ポップを優しく諭す母親が描かれる。

「人間はいつか死ぬ・・・だから・・・だからみんな一生懸命生きるのよ。」(コミックス第36巻)

大魔王との絶望的な戦力差を前にしても「閃光のように、人の一生は儚いからこそ、一生懸命に生き抜く。」と決意し勇者を奮い立たせる姿。弱さと強さを併せもった真の強さと、人が何よってモチベートされるのかという動機付けの本質が垣間見えたようで、以後の私の価値観、コアコンピタンスにも多大な影響を与えた不朽の名作。


その②「ヒカルの碁」


・概要
中学生の時に読んだ作品。平安時代の囲碁の名手「藤原佐為」が、囲碁に全く興味のない主人公「進藤ヒカル」の身体を借りて、究極の一手(神の一手)を目指して現世で囲碁を打つストーリー。

佐為や他の打ち手との対戦を経て、次第に囲碁の魅力に目覚めていく。その才能にも。佐為は、なぜ素人のヒカルが選ばれたのか、その才能と時間、に嫉妬しながら、自分の役目とは何だったのかを次第に悟っていく。役目を果たし、ついに消えてしまう佐為を後に、ヒカルは少しずつ自分の力で成長していく。

・見どころ
ストーリーもさることながら、設定が妙。囲碁という設定を少年漫画に持ち込む発想が凄すぎる。(当時、「囲碁=お爺さんの趣味」という感じだった。)若い棋士候補のリアルな心情を描くことで、きちんと少年漫画として成立させる巧みさ。1人の人物を通して、1つの戦いを、今・昔遊び・職業と2軸に切り分けていく様は圧巻。

囲碁という取っつきにくいアイテムを、子供の手に取らせてしまう不思議な魅力。当時は、兄とお金を出し合って囲碁盤を買い、「右上隅小目!」等と叫びながら右手の中指と人差し指で碁石を打ち付けていた。懐かしくも、悔しい(全然勝てなかった。)日々が昨日のように蘇る…


その③「金田一少年の事件簿」

・概要
中学生~大学生まで長く読んだ作品。金田一耕助の孫で、天才的なIQを持つ金田一一(はじめ)が数々の難事件に遭遇し、鋭い推理で鮮やかに解き明かしていく。

・見どころ
探偵モノには避けて通れないのだが、主人公の周りでやたらと重大事件が起こる。ネタバレになるので、URLをリンクするに留めるが、主人公が通う不動高校で発生した事件の数々を冷静に客観視するような行為は得策ではない。

本作の魅力は、何といっても緻密で大胆なトリックの数々。関係者も多く、誰が犯人なのか、読み終えるまで絞ることが難しい。中でも私が好きなのは、雪夜叉伝説殺人事件。その地方に伝わる、ある大胆なアイデアで作り出した時間差トリックと、その消失方法には度肝を抜かされる。幽霊客船殺人事件と並ぶ二大好きな事件だ。

事件の動機や複雑な人間模様、解決までの論理的思考。事件を起こすのは、もちろん良いことではないのだが、一次情報に立脚する態度、MECEな思考プロセスは、ビジネスの問題解決にも役立ちそうなハウツーである…気がしなくもない、とにかく名作。


その④「ハンターハンター」


・概要
こちらも、中学生~大学生にかけて長く読んだ作品。言わずと知れた名作。主人公のゴン=フリークスが、世界的なハンターである父ジン=フリークスをとの再会を目指して繰り広げるアドベンチャー。

・見どころ
同い年の少年、キルアの成長は見どころの1つだ。「殺し屋」として育てられたキルアは、ゴンとの出会い、冒険を通じて自分の生きるアイデンティティと葛藤しながら成長していく。友達とは何なのか、自分と関わることで不幸にしてしまわないか。そういう葛藤を通して、人と関わる難しさと、素直な気持ちの大切さに気づかせてくれる。

物語に奥行きをもたせるのが、精緻な設定の数々。6系統の念能力、ヨークシンで未来を暗示する詩、グリードアイランドでのカードのバリエーション。練り上げられたパラメータや伏線が、最後にどう「回収」されていくのか。

コミックス巻数のわりに連載期間が長いことでも有名。私が長く読んでいたのも、そのあたりが原因だろう。「いつ再開するのか」という、作者の執筆頻度とあわせて、目が離せない作品だ。


その⑤「20世紀少年」


・概要
高校生の頃に読んだ作品。浦沢直樹氏の漫画の中でも最も有名なものの1つ。主人公「ケンヂ」達がまだ少年だった頃、原っぱの秘密基地で作成した「よげんの書」。子供の頃の他愛ない妄想。時を経て、それが現実のものとなってゆく。

・見どころ
「ともだち」と呼ばれる謎の人物に、次々とみんなが洗脳されていく過程。未知のウィルスとの闘い。亡き叔父「ケンヂ」の遺志を継ぎ、日本を救うべく奔走する「カンナ」の奮闘と、誰が敵で誰が味方か分からない恐怖、に思わず手に汗握る。あり得ない現実を「あり得てしまうかもしれない」と思わせる詳細な描写に息をのむ。

何気ない発言が、私たちの未来を大きく変えかねてしまいかねない怖さ。言葉を選んでコミュニケーションするようになったのも、あるいは、この辺りのトラウマからきているのかもしれない・・・

当時は、高校生で夜遅くまで部活動をしていたが、公式練習後の約1時間が漫画の時間として定着?していた。更衣室で本作に熱を上げる私たちを、主将はどう思っていたのだろう。その気苦労、今なら慮ることができる。


あとがき(コンテンツ以上に大切なもの)


音楽や恋愛の嗜好が移り変わるように、漫画も、年齢や自分の置かれた状況、精神状態の影響を色濃く受ける。時に、それらは「コンテンツ以上のコンテンツ」足り得る。

「スラムダンク」という誰もがオススメする傑作漫画を、僕は、大学生の時(2009年頃かな?)に、初めて手にとった。(よくある、「え!『スラムダンク』見たことないの?人生、半分損しているよ!」という類のやつだ。)

確かに面白い。胸に来るものもある。けれど、うーん。言うほどかな、と思ってしまった。

これは、作品の質に由来するのではない。作品は面白いのだ。僕にとっての「スラムダンク」の賞味期限が、おそらく中学か高校辺りだった。そういうことなのだろう。自分を構成するほどの漫画との出会いは、偶然にも左右されてしまう。そこが、面白くもあるのだが。

こうした企画を通して、あの感動が、あの時の原体験と共に蘇るのは、何とも嬉しいものだ。今、青春のただ中にいる学生の皆さんにも、私の世代の漫画を、貴方の感性に合うタイミングで知っていただけたのなら。こんなnoteを書いてみた甲斐があったな、と思う。

何かのお役に立ちましたなら幸いです。気が向きましたら、一杯の缶コーヒー代を。(let's nemutai 覚まし…!)