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ソーシャルVR国勢調査:韓国(2022)

メタバース住民の生活実態調査「ソーシャルVR国勢調査」の「韓国版」を遂に公開します! ゲーム大国であり、近年VRユーザー数が急拡大して注目が集まっている韓国の実態ぜひご覧ください。

はじめに

仮想現実(VR)における人類の新たな生活空間「メタバース」として注目されるソーシャルVRの生活実態を明らかにするため、全世界のユーザー1,200名のデータを分析した大規模調査「ソーシャルVR国勢調査2021」(以下「VR国勢調査」)ですが、日本・北米・ヨーロッパ以外の地域別データに関しては、データ数が少なく行動比較が難しいという課題がありました。アジア圏の中でも特に韓国は、ゲーム大国であり近年ソーシャルVRユーザーの数も急増している事から、その利用実態に興味があるという声をアンケートで多く頂きました。今回、韓国ユーザーの「mamadora」さんの協力により、韓国を対象に追加調査を実施することができました。メタバースの理解と、より良い未来に向けた議論を活性化するため、今回もレポートを無償公開します。改めて地域により大きく異なるメタバースの文化の違いが明らかになり、非常に興味深い結果となりました。韓国ユーザーのみなさん、ご協力ありがとうございました!

Nem x Mila

調査方法

ソーシャルVR国勢調査:韓国(2022)
  • 目的:韓国におけるソーシャルVRのユーザーの生活実態を明らかにするため。恋愛にスポットを当てた質問も含む(基本的に「ソーシャルVR国勢調査2021」と同項目だが「ファントムセンス(VR感覚)」は今回省略した)

  • 対象:VRヘッドマウントディスプレイを用いて、ソーシャルVR (VRChat、Rec Room、Neos VRなど) を直近1年以内に5回以上使ったユーザーで、韓国語話者の方 (デスクトップ・スマホからのみの利用者は今回は対象外) ※「Nem x Milaの商用含む活動にアンケート結果を利用する可能性あり」と承諾済み

  • 方法:2022/4/3-4/8、 Googleフォームによる公開アンケート、韓国のVRコミュニティで情報拡散

  • 言語:韓国語で実施

  • 回答数:231

※以下、考察と共に日本語でレポートをお送りします。他地域(日本・北米・ヨーロッパ)との比較については調査実施時期の違いもあり厳密なものではありませんので、ご了承ください。

結果サマリ

<レポート1:ユーザープロファイル>
・他地域同様にVRChatが最も利用されるソーシャルVRサービスだった。
・年齢は20代の77.1%に次いで10代が14.7%もおり他地域と比べて非常に若い。
・物理男性が93.9%と日本(89%)以上に極端に物理男性に偏っている。
・総プレイ時間は500時間以上の利用者が半数を割っており他地域と比べやや少なめ。
・実名でなく仮名 (キャラクター名) を使うユーザーが97%で日本同様仮名文化が強い。

<レポート2:アバター表現>
・女性アバターの利用率が62.3%と、日本やヨーロッパほど極端に多くなかった。
・逆の性別のアバターを使う理由は「外見が好み」が81%と極端に多く、自己表現やコミュニケーションを理由にしている人は他地域より少なめだった。
・アバターの種別は「人間型」が過半数を超えており、日本やヨーロッパでトップの「亜人間」は26%とかなり少なかった。
・フルトラの利用率も利用意向も他地域と比べかなり少ない。

<レポート3:音声表現>
・音声表現については、「ボイチェン」「両声類」など加工音声を使っている人が他地域と比べ少なく、そのかわり「無言勢」が15.6%と比較的多い。
・加工音声を使う理由も地域では圧倒的一位だった「男声を女声に変換するため」がたったの27.3%と少なく、単に「いつもと違った声を出すため」とカジュアルな理由が多い。

<レポート4:VR恋愛>
・恋愛経験率24.7%、恋人ができた人は21.1%と、他地域と比べて圧倒的に少ない。
・恋をする時「相手の物理的な性別は重要でない」75.4%と、日本や北米とほぼ同等。
・恋人がいる人のうち「複数の恋人がいる」人が46%と他地域より多かった。

レポート1:ユーザープロファイル

利用するソーシャルVR

よく利用するソーシャルVRを「全て」教えて下さい(最低限複数回利用したことがあるものを選んで下さい)

よく利用するソーシャルVR - ソーシャルVR国勢調査:韓国(2022)

(ねむ)VRChatが1番でNeos VRが2番、という傾向は欧米と同じですね。日本のclusterやバーチャルキャストはあまり利用されていないようです。

「最も」よく利用するソーシャルVRを教えて下さい

最も使うソーシャルVR - ソーシャルVR国勢調査:韓国(2022)

(ねむ)VRChatが93%と日本(90%)以上に極端な人気を誇っています。

年代・物理性別

年代を教えて下さい

年代 - ソーシャルVR国勢調査:韓国(2022)

(ねむ)20代が77.1%と1番多いのは他の地域と同様ですが、大きく違うのが次点が30代ではなく10代の14.7%なのが特徴的です。韓国はゲーム大国なので、若くてもゲーミングPCを元々持っている人が多く、比較的に気軽にVRを始められることが理由として考えられます。

物理現実世界における性別を教えて下さい(当てはまるものがない場合は「その他」に記入して下さい)

物理性別 - ソーシャルVR国勢調査:韓国(2022)

(ねむ)物理男性が93.9%と、日本(89%)以上に極端に物理男性に偏っている傾向が見られました。無回答が4.3%と多めで、他地域と同様にこれがほとんどトランスジェンダーの方だとすると、北米と同様にトランスジェンダーの方の利用が多い可能性が考えられます。

利用目的

どんな目的でプレイしますか?(最も当てはまるものを選んでください)
※ソーシャルVR国勢調査2021と違い単一選択で聞いています

利用目的 - ソーシャルVR国勢調査:韓国(2022)

(ねむ)「友達との交流」が1番多いのは他の地域と同様です。

総プレイ時間

これまでの全てのソーシャルVRの総プレイ時間のおおよその「合計」を教えて下さい(STEAMでゲームごとのプレイ時間がわかります)

総プレイ時間 - ソーシャルVR国勢調査:韓国(2022)

(ねむ)500時間以上の利用者が半数を割っており、過半数を超えていた他地域と比べると総プレイ時間は少なめ。VRが一般的になったのが他地域と比べて比較的最近だと推測されます。

プレイ頻度

どれくらいの頻度でソーシャルVRを利用しますか

プレイ頻度 - ソーシャルVR国勢調査:韓国(2022)

(ねむ)週に2~3回以上利用するかなりヘビー目なユーザーが過半数で、他の地域と大体同じ傾向でした。

※総プレイ時間別で分析したもの

プレイ頻度(総プレイ時間別) - ソーシャルVR国勢調査:韓国(2022)

(ねむ)総プレイ時間が長いと頻度も大きくなるというわけではなさそう。

1回あたりプレイ時間

1回あたり何時間程度プレイしますか?

1回あたりプレイ時間 - ソーシャルVR国勢調査:韓国(2022)

(ねむ)一日あたり1~3時間以下の利用が1番多く、日本と非常に似た傾向(欧米は3~6時間がトップ)。

※総プレイ時間別で分析したもの

1回あたりプレイ時間(総プレイ時間別) - ソーシャルVR国勢調査:韓国(2022)

(ねむ)総プレイ時間と1回あたりプレイ時間の間には相関がありそうです。500時間超えると「1時間未満」がほとんどいなくなり「3~5時間」の人が多くなります。

利用機器

現在使用中のVR機器を全て入力してください
※ソーシャルVR国勢調査2021では聞かなかった項目

利用VR機器(ブランド) - ソーシャルVR国勢調査:韓国(2022)

※Oculus・VIVEブランド別の利用機種の割合

Oculus・VIVEブランド別の利用機種の割合 - ソーシャルVR国勢調査:韓国(2022)

(ねむ)ゲーミングPCの普及率が高そうな韓国でも、独立型VRのQuest 2が圧倒的1番人気ですね(ほとんどの人はゲーミングPCと繋いでPCVRとして使っていそうですが)。

名前

ソーシャルVRでは、実名を使っていますか? それとも仮名(キャラ名)を使っていますか?

名前 - ソーシャルVR国勢調査:韓国(2022)

(ねむ)日本(98%)とほぼ同じ結果でした。

レポート2:アバター表現

アバターの性別

最もよく使うアバターの外見上の性別を教えて下さい

アバターの性別 - ソーシャルVR国勢調査:韓国(2022)

(ねむ)女性アバターが62.3%と、日本やヨーロッパほど極端に多くはなく、北米(60%)と同じくらいでした。

なぜ逆の性別のアバターを使うのか

物理現実と逆の性別のアバターを使っている場合、その理由を教えて下さい(物理男性だが女性アバターを使っている、など)

なぜ逆の性別のアバターを使うのか - ソーシャルVR国勢調査:韓国(2022)

(ねむ)「単にアバターの外見が好みであるため」が81%と、他地域と比べて極端に多く、かなりビジュアル志向が強いことがわかりました。「より自分を表現しやすい、またはコミュニケーションしやすい」は5%と、他地域よりもかなり少なめでした。また、他地域と同様「心身の性別の不一致」を理由としている人も一定数いました。

アバター種族

最もよく使うアバターの種別を教えて下さい

アバター種族 - ソーシャルVR国勢調査:韓国(2022)
アバター種族の定義 - ソーシャルVR国勢調査2021

(ねむ)日本やヨーロッパでは1番人気の「亜人間」が26%とかなり少ないです。圧倒的に人間型が人気で過半数を超えており、かなり他地域と差がありました。

フルトラ

ソーシャルVRを使う際に、アバターの足の動きを肉体と連動させるフルボディトラッキングの環境はありますか?

フルトラ - ソーシャルVR国勢調査:韓国(2022)

(ねむ)フルトラ利用者は40.3%と他地域と比べて少なめ。「導入予定なし」が21.6%と多く、他地域と比べるとフルトラに対するこだわりはかなり薄いようです。

レポート3:音声表現

ソーシャルVRでは、どんな音声コミュニケーションを行っていますか?

声 - ソーシャルVR国勢調査:韓国(2022)

(ねむ)「ボイチェン」も「両声類(発生技術)」もほとんどいないのが他地域と大きく違って特徴的です。声を変えて喋っている人がぜんぜんいない。一方で「無言勢」が15.6%と、他地域と比べて圧倒的に多いです。

なぜ声を変えるのか

発声技術・ボイスチェンジャー・音声読み上げソフトを使っていると答えた方は、その利用目的を教えて下さい

なぜ声を変えるのか - ソーシャルVR国勢調査:韓国(2022)

(ねむ)他地域では圧倒的一位だった「男声を女声に変換するため」がたったの27.3%と少なく、単に「いつもと違った声を出すため」とカジュアルな理由が多くなっています。

レポート4:VR恋愛

ソーシャルVRで恋をしたことはありますか?

恋 - ソーシャルVR国勢調査:韓国(2022)

(ねむ)恋愛経験率24.7%と、他地域と比べて圧倒的に少ないです。恋愛経験率は総プレイ時間と相関があることがわかっており、まだVRが一般的になって日が浅いことが理由として考えられます。

※総プレイ時間別で分析したもの

恋(総プレイ時間別) - ソーシャルVR国勢調査:韓国(2022)

(ねむ)総プレイ時間別で見ると他地域と大体同じ傾向。今後5000時間以上のプレイヤーが増えてくると、大きく数値が変化しそうです。

VRでの恋のきっかけ

ソーシャルVRで相手に惹かれる時、始めのきっかけになるのはどんな要素ですか?

VRでの恋のきっかけ - ソーシャルVR国勢調査:韓国(2022)

(ねむ)「性格」が圧倒的1位で、「ビジュアル」「声」が続く傾向は他地域と概ね同等です。

生物学的な性別とVRの恋

ソーシャルVRで恋をする時、相手の生物学的な性別は重要ですか?

生物学的な性別とVRの恋 - ソーシャルVR国勢調査:韓国(2022)

(ねむ)恋をする時相手の物理的な性別は「重要でない」75.4%と、日本や北米とほぼ同じ結果になりました。

恋人

ソーシャルVRで出会った相手と恋愛パートナーになったことはありますか?

恋人 - ソーシャルVR国勢調査:韓国(2022)

(ねむ)恋人ができた人は21.1%で他地域と比べるとこちらも少なめですが、恋に落ちたことのある人の7~8割が実際に恋人ができると考えると、概ね他地域と同じ傾向と言えそうです。

物理現実でのVR恋人

恋愛パートナーがいる場合、その相手は物理現実世界でもあなたにとって恋人ですか?

物理現実でのVR恋人 - ソーシャルVR国勢調査:韓国(2022)

(ねむ)VRでの恋人は「物理現実世界では恋人ではない」が69%で、こちらも他の国とほぼ同じ傾向でした。韓国でもVRでの恋愛関係と現実での恋愛関係は一線引いて考える傾向のようです。

VR恋人は何人?

VRでの恋愛パートナーは現在何人いますか?

VR恋人は何人? - ソーシャルVR国勢調査:韓国(2022)

(ねむ)一方で恋人がいる人のうち、「恋人が1人」がたったの54%と、支配的(80%以上)であった他全ての地域と全く違う傾向がでました。「複数の恋人がいる」人が46%と半数に迫っており、これは韓国におけるメタバース恋愛の大きな特徴と言えそうです。ただし、現時点で他地域と比べて恋愛経験率自体は低いため、ユーザーの偏りによる影響強く出てしまっている可能性はあります。

調査チームのコメント

ソーシャルVR国勢調査:韓国(2022)

ねむ:韓国ユーザーのプロファイルとしては、VRが一般的になって日が浅いため総プレイ時間がまだ短いこと、ゲーミングPCが一般的なためか他地域よりも若いユーザーが多いことが非常に特徴的でした。同じアジアの国だからか、匿名性へのこだわりなどの特性は、全般的に日本と似た傾向が見られました。一方で他地域(日米欧)と大きく違う結果が出て印象的だったのが、女性アバターの利用のほとんどが単純なファッション目的だったり音声を女性化する人が少なかったりと、メタバースで自由な性別を選ぶ意識がかなり低そうだったことです。「バ美肉」カルチャーの強い日本と比べて低いのは当然として、欧米と比べても低いのは驚きました。また、フルトラへのこだわりが薄いのも特徴でした。改めて、国によってメタバースの文化が大きく異なることがわかり、非常に興味深かったです。

ねむのコメント - ソーシャルVR国勢調査:韓国(2022)

ミラ(※ねむによる和訳、下に原文):これまで私達は大規模なユーザーへの定量調査を実施することでソーシャルVRの基本的な理解を深めてきました。今回、既存のデータと韓国のユーザーを比較することで、アジア、ヨーロッパ、アメリカという異なる社会文化環境における共通点を見出すことができました。既存の「ゲーム」文化によって、若年層(20代、77.1%)がVR機器にアクセスしやすいことがわかりました。また、いわゆる「無言勢」のプレイヤーが多い(15.6%)ことも興味深い点です。人類学者として、既存の社会文化的現象がソーシャルVRへのアクセスや利用にどのような影響を与えるのか、興味深く感じています。今後明らかにしていきたいのは、韓国において代替的な在り方を創造・交渉する上で、一体どのような技術が共通の興味によるコミュニティを生み出す戦略になっているのかということです。

Mila : Having conducted a rather big-scale quantitative survey amongst users allowed us to gain some basic understanding of social VR. This time, by comparing our existing data to that of Korean users we found similarities between different socio-cultural settings within Asia, Europe, and America. We discovered that a younger percentage of the population (in their 20s, 77.1%) has access to VR equipment due to an existing “gaming” culture. Another interesting aspect is the predominance of “mute” players (15.6%). As an anthropologist, I find it fascinating how existing socio-cultural phenomena impact the access to and usage of social VR. From now on we need to uncover how and in what form technology becomes a strategy to form communities around common interests in creating and negotiating alternative ways of being in Korea.

ミラのコメント - ソーシャルVR国勢調査:韓国(2022)

調査チーム : Nem x Mila

VTuber研究ユニット。VTuberやメタバースが人類に与える影響を調査しています。ぜひTwitterのフォローをお願いします!

調査チーム : Nem x Mila

バーチャル美少女ねむ
日本のメタバース文化エバンジェリストにして、世界最古(自称)の個人系VTuber。HTC公式VIVEアンバサダー。VRChat・Neos VR・バーチャルキャスト・cluster等、各種ソーシャルVRのヘビーユーザーでもある。自身の体験とVR国勢調査を元に解説書『メタバース進化論(技術評論社)』を出版。
Twitter : @nemchan_nel YouTube : ねむちゃんねる

ミラ (リュドミラ・ブレディキナ, Liudmila Bredikhina)
スイス・ジュネーブ大学の人類学者 (修士課程終了)。日本のVTuberやバ美肉などの現象が人間のアイデンティティやコミュニケーションに与える可能性について着目し、様々な研究レポートを発表。「バ美肉」に関する論文でジュネーブ大学のジェンダー分野の学術賞「プリ・ジャンル」を受賞
Twitter : @BredikhinaL

特別協力:mamadora (엄마뇽)
韓国のソーシャルVRユーザー。VR国勢調査に興味を持ち韓国版の追加実施を提案。韓国ユーザーへのアンケート回答の呼びかけ・データ集計・グラフ作成に協力した。韓国ユーザー向けに韓国語版のレポートも公開した。
Twitter : @cy_cla_men

※韓国語版レポートはmamadoraさんがこちらで公開中:

参考:ソーシャルVR国勢調査

全世界のユーザーを対象に2021年に実施した本家「ソーシャルVR国勢調査2021」はこちら。地域別では日本・北米・ヨーロッパの地域による違いを分析しました。


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