もっと食うための現代大食技術論番外編第11回「e(eating)スポーツ」

 侍イーティングチャンネルでガチの早食い大会、「喰王(がおう)」開催。がおうなら「餓王」な気がしますが、そんな細かいことは気にならないくらい激熱な勝負が繰り広げられました。

 大食いでは名実ともに日本一のMAX鈴木氏より圧倒的に早いタイムを叩き出したフードファイターが3名も参加されていることに驚かれた方もいると思います。実はその3名のうち2名の方とは、今年大阪の大食いオフでお会いさせていただきました。1kgカレー早食いで1位(KIYO氏)と2位(山神氏)だった方です。

 もう1名の方(神山氏)は、こちらのお店のメガ盛りカレーうどんセット早食い最速記録保持者。うどんとライスだけで1kg。普通の人なら普通に食べただけで満腹になるこのセットをわずか28秒で完食。まさに神のごとき早技です。

 スタッフの方が悲願とまで話されている早食いの大会。早食いがこれまで日の目を浴びなかったのは、2002年1月15日、愛知県の中学生が給食で友達とパンの早食い競争をした末、喉に詰まらせて死亡する事故が発生。当時TBS系列で放送されていた『フードバトルクラブ(FBC)』、テレビ東京系列で放送された『TVチャンピオン 全国大食い選手権』および『全国早食い選手権』の放送が自粛。3年後に『大食い選手権』は復活するも、番組内でも早食いは慎むように指示された為です。

 しかし今でも毎年4000人ほどの人が、食事を喉に詰まらせる事故で亡くなられています。死亡事故が起こったら番組を自粛しなければならないのであれば、早食いはおろかそもそも各種スポーツ番組は放映できません。当時の背景を振り返るに、そればかりが理由でも無かったのではないかと、自称早食い、大食いエンジョイ勢の私は邪推するのであります。

 大食い番組の草分け的存在と言えば、テレビ東京系列の『TVチャンピオン 全国大食い選手権』の前身、日曜ビッグスペシャルの大食い選手権でしょうか。今から30年も昔の話。2001〜2002年に放送された『フードバトルクラブ』を第二次とするなら、当時は第一次大食い番組ブームであったと言えましょう。

 その流れでテレビ東京以外の他局でも大食いが取り上げられることが少なく無かったのですが、『FBC』以前、第一次大食い番組ブーム期にもTBS系列で大食い選手権が放送されていたことを、果たしてどの程度覚えている人がいるでしょうか。司会渡辺徹、MCルー大柴。第一回は東京〜博多、第二回は東京〜函館で大食い。各ラウンド毎に脱落者が出るだけでなく、トップの記録を出した人が勝ち抜けで決勝進出確定。最後の二人から勝ち抜け者が決定したところで、勝ち抜け者全員がスタジオに集まって決勝戦を行うという独特のルールで行われました。この方式だと早く勝ち抜けてしまうと全国グルメ旅が終わってしまうので、わざと脱落にならない程度に食べて最後まで残ろうとした挑戦者も居たかもしれません。 

 それからはルールが代わり、各ラウンドのトップは「勝ち抜け」の代わりに賞金進呈。最後まで脱落しなかった人がスタジオに集まって決勝戦を行うようになったようですが、この番組に対して今でも残っている最大の謎が、他の局で大食い関連の企画があった場合は、必ずと言ってよいほど「TVチャンピオン」の出場者が参加していたにも関わらず、この番組には誰一人として参加してないということ。そしてこの番組の参加者も、「TVチャンピオン」には誰一人として参加していないのです!

 当時テレビ局の間で、一方の番組に出場した選手はもう一方の番組に出場できないという取り決めがあったのではないか。そう勘繰らざるを得ません。仮にそうだとすると、TVチャンピオンの出場者が多数参加している『FBC』は、約束を一方的に反故にしたことになります。

 『FBC』の初代チャンピオンと言えば、「アメリカで最も有名な日本人」「大食い早食いをスポーツにした男」とも言われる小林尊氏。『TVチャンピオン』で新人ながら当時のチャンピオン達を破って優勝。初代『FBC』でも圧倒的な力を見せつけて優勝。当然次の『TVチャンピオン』でも連覇が期待されていたのですが突然の出場辞退。前回チャンピオンが登場しない異例の事態となりました。

 この理由は、TV東京が小林選手を専属タレントとして契約しようとした為、他のテレビ局の番組や大会などに出演する際にも契約しているテレビ局の許可が必要になり、自由な活動が出来なくなる内容だったために本人が拒否したことによるとされています。このトラブルが原因で小林選手は日本を離れ、アメリカで活動することになったと言われています。

 そうなると、早食い大食い番組休止の真の理由は、TV東京とTBSの間の確執だったのではないかと思えてならないのです。繰り返しになりますが、早食いを原因とする死亡事故は現在でも後を絶ちませんが、それが原因で早食い、大食いを扱った番組が自粛されているわけではありません。「問題が発生したので中止になった」と聞くとつい納得してしまいがちになりますが、「問題らしきものが発生しているにも関わらず中止されないもの」が多々あることを踏まえると、表向き以外の理由を考えざるを得ません。

 小林選手は渡米してからもネイサンズのホットドッグ早食いコンテストで優勝を続け、現チャンピオンのジョーイ・チェスナット氏に破れるまで6連覇を達成しますが、現在はこの大会に参加されていません。理由は契約トラブル。詳細はwikiを参照していただくとして、コンテスト開催中に「逮捕」された事件は当時日本でも大きなニュースとなりました。日本で逮捕と聞けば、悪いことをした加害者のイメージがつきまといますが、経緯を見る限り、小林選手はむしろ被害者だったように思えてなりません。

 外野からは分からない何とも言えない事情があるのかもしれませんが、一大食いエンジョイ勢(ついでに麻雀エンジョイ勢)としては、専属契約を結んだプロが他の大会に参加できないと聞くと、何だかなあという失望感を隠せません。あらゆるジャンルが「スポーツ」になる時代。肉体を使うにしろ頭脳を使うにしろ、競技なら誰でも参加可能で純粋な実力勝負が行われる。そんな時代の到来を切に願うばかりであります。




  

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